第395話 6人の朝食

 黒魔神スルトルを消滅させ、叶と桜ちゃんと翔と再会し、翔の彼女だっていうリルちゃんも合わせてこの家に連れて帰ってきたその翌日。


 今は朝の8時。

 何してるかっていうと、食堂で、朝ご飯ができたから、みんなをメッセージで起こしつつ呼んで、待機してるとこ。

 本当だったら今日は、今でも何気にお世話になってるメディアル商人組会から仕事が入ってたんだけど、それを明日の昼に延期にして欲しいって頼んでおいたから、1日、叶達のために動ける。



「…おはよう! 兄ちゃん、美花姉!」

「おはよぅー、お姉ちゃん、あゆ兄」

「うん、おはよ!」



 弟と義妹が仲良く起きてきた。

 ……叶の顔がちょっと赤らめられてる。

 やっぱり、ミカの話は本当だったか。



「おう! おはよう!」

「わふ……っ…わふ! お、おはようございます!」



 翔は朝が強い方だからかなり元気に。

 一方でリルちゃんは眠たそうに目をこすりながら食堂に入ってきた。

 それにしても、翔の白い髪は1日経っても治らなかったか。やっぱりあいつが望めば黒髪に戻してあげよう。



「んー、全員揃ったね!」

「うん。兄ちゃん達と再会できたこと、夢だと思ってたんだけど…やっぱり現実だった」

「あはは、まあ、そう考えるのもしかたないよ」



 そう言う叶の意見も十分わかるからな。

 俺だって、こんな非現実的な世界の事柄じゃなかったら、信じてなかったさ。



「ん、じゃあ話は色々とあると思いますが…。まずは朝ごはん食べよっ!」



 俺は手をパンと叩き、そう言った。

 今朝のメニューは……リルちゃん以外は日・本・食!

 真っ白いご飯に、ネバネバ納豆、お味噌汁。

 卵焼きに鮭の切り身。

 日本人はとくに白いジャポニカ米をしばらく摂取しないと中毒症状を起こしちゃうからね。



「うわ…うわああああっ! お米だっ! お米だ!」

「ほんとだっ…! 何ヶ月ぶりだろー!」


 

 叶と桜ちゃんのはしゃぐ声。



「サンキュー、まじサンキューな、有…」

【こっちではボクは女の子!】

「コホン、とにかくサンキューな、アリム!」



 俺の呼び方を間違えたものの、涙目でよろこぶ翔。

 こんなに喜んでくれるなら、今夜の夕飯はお寿司にでもしようかな。



「ん? 私だけちがう…」

「ああ、ごめんね。リルちゃんはこっちの世界の人だから…こっちの慣れてる食事の方が良いかなーって思って」

「わ、わふ!」



 やっぱり、リルちゃんだけ違うメニューは良くなかったかな?



「なんなら、翔と同じに変えてあげよっか? スキルの力で数秒で同じものにできるけど」

「こ、これは、その…ショーが言っていた故郷の料理なの?」

「ええ、そうよ」



 リルちゃんは試しにと、鼻をすんすんと、ショーのご飯のウチ、よりにもよって納豆に近づけた。……リルちゃんは狼族。狼は_______



「わふぅ!?」



 鼻がいい。

 驚きすぎて、耳がピーンと立ってるね。

 一瞬、意識を失ったかのように無言になったリルちゃんはすぐに目をパチクリ。首をブンブンと振る。

 いちいち、行動が犬っぽいなぁ。



「な、何これ…」

「ははは、そりゃ納豆だぜ。リルにはキツイだろ」

「わふぅ……あ、あの、厚かましいかもだけど…これ以外、同じもの食べてみたい」

「いいよー」



 俺はリルちゃんの料理を一瞬で取り替えた。

 箸で食べるのは無理だろうから、一応、スプーンとフォークも用意してある。

 ちなみに食べられなかった料理はリサイクルされるから問題ない。何にリサイクルされてるから俺も知らないけど、この家が勝手にしてくれる。



「じゃあ、食べよっか」



 『いただきます』という言葉とともに、みんなは食べ始める。多分、めちゃくちゃ美味しいだろう朝ごはん。

 一品一品が伝説的に美味しいはず。



「うめぇぇ……っ」



 そう、つぶやく声が漏れる。翔の口から。カッと目を見開いて。

 ふふふ、ミカも俺の料理を最初に食べた時は美味しさのあまり目を覚ましたからね。アイテムマスターはやっぱりすごいねぇ。


 

「ふぁ……美味しいよぅ…」

「にいちゃ……姉ちゃんのご飯、昨日からすごすぎ…。新料理のスキル以上だね」



 そう言ってうっとりとした顔で納豆ご飯を頬張る叶と桜ちゃん。

 ………俺の卵焼きをミカが一つ奪っていったけど、気にしないことにする。

 ………叶もそれをみていた桜ちゃんに卵焼きを奪われたけれど、気にしないみたいだ。

 リルちゃんの初日本食の反応はどうだろうか?



「わふ! わふ! これがショー達の郷土料理…」



 何かを口にするたびに、カルチャーショックでも受けたような顔で目を見開く。

 そうだ。リルちゃんってば、俺らからしたら外国人だ、皮膚や髪の色とか。

 外国から来た人が初めて日本文化に触れる瞬間に近しいものを感じてしまうのは、当たり前のことだろう。



「ふふふ、喜んでくれてよかったよ! 大事なお話とかは、ご飯が食べ終わったら、お茶でも飲みながらしようね」



 そう、みんなに一言かけて、俺は食べることに集中。

 数分後、全員、朝食は完食した。

 

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