第393話 夢であると (翔)
「…………わふぅ」
これから寝ようとしてるとき、リルは困ったような、しかし、嬉しそうな声を出していた。
もっとも、それは俺がこうして_______
「ショー…」
「なんだ?」
「いつまでこうしてるの? とても嬉しいんだけど、眠らないと。どうせなら、寝ながら抱きしめてよ」
「いや、もうちょっとこうさせてくれ」
俺は、リルに抱きついていた。
強く強く。
自分の胸元に頭を持って来させ、撫でながら、もう離さないと、そういう意志を込めて。
「わふぅ。えへへ」
「……ああ」
俺は照れるリルを抱きしめ、撫でながら、今日できた起きごとを考えていた。
スルトルの復活のこと。
それ以前に、リルが殺されたこと。
俺が今、リルにこうしてしつこく抱きついてるのはそれからだ。
んで、もう一つ。
有夢と美花がこの世界で生きてたこと。
なんで気づかなかったんだろう。よくよく見たら、二人の顔は黒髪黒目になおせば、中学生の時まんまだった…と思う。髪の色とかのせいで、有夢はより、女の子っぽくなってた……いや、顔立ちも有夢は少し変わってるか。そもそも完全に女になったらしいし。
しかし、そんなに多くは変わってないわけで……街でよく見かけるポスターとかを見た時点で、どうしてきがつけなかったんだろうかと、少し反省している。
ああ、それがいちばんの驚きだ。
死んだはずの親友達に会えた。
それだけで嬉しいのに、リルが…生きている。
この腕の中に、暖かい、細っこくて、可愛くて、彼女が、俺を心から慕ってくれる彼女が……居る。
「ショー……泣いてるの?」
気付けば涙が出ていた。
……いつの間に? なんで…なんて、理由はいくらでもあるから考えねーけど。
「わふ…。ショー、話…一ついいかな?」
「なんだ?」
リルは俺に抱きしめられながら、申し訳なさそうに何かを語り始めた。
「……アリムちゃんが言ってたよね、帰れるって。……ショー、もうちょっとで帰るんでしょ?」
ああ、そうだ、忘れてた。
スルトルを倒した、でも、あの暴虐な王はいない。
でも、アリムが帰る方法を知っている。
帰らなきゃ、お母さんとお父さんが……………。
でも、帰ったら、有夢…美花…それにリルと二度と会えなくなる可能性がかなり高い。
俺が黙っているからか、リルは話を続けた。
「ショー、今日はアリムちゃんの家にいるから、エッチはしない。でも帰る前に、私のお腹に子供を残して行ってよ。お願いだから」
リルはまえからそうやって俺にお願いをしていた。
いい機会だ。なんで俺との子をそこまでして欲しがるのか聞こう。
しかし、どっちみち、リルと子供なんて残したら…俺は帰らないだろうけどな。
「なぜだ?」
「わふ?」
「なんで、そんなに俺との子供が欲しい? 血がいい子を産みたいからってのは前に聞いた。それが一番の理由か?」
俺の腕の中で、リルは首を振る。
「………御主人が……ショーが、私の側に居たという形が欲しいからさ。モノじゃだめだよ。モノだけ渡されても、私はいつか、ショーと過ごした日々を夢だと思っちゃう」
リルはより深く、俺の胸に顔を埋める。
俺の腕に、ひとしずく、何か落ちた気がする。
「私は……今、この瞬間ですら夢なんじゃないかって、常に疑ってるんだ。目を覚ましたら、大勢の男の人の性処理の道具に使われてるだけなんじゃないかって。でも、子供ができたらそうはいかないだろう? これが夢だなんて、変なことは思わなくなる。育児って忙しいらしいし…ね」
………そういうことか。
リルは…そんなことを思って、俺と居たという証が欲しいから、俺との子供を求めてるのか。
「そっか……。でもな、リル。自分で言うのもなんだが、俺は義理堅い人間だ。リルに子供を作らせたら、帰らないことを選ぶ」
「………わふ。一番の理想はショーと一緒にいることだよ」
顔を上げる、リルの目は赤い。
耳はしょんぼりした様子で、倒れている。
「でもね、私にとってショーが最優先だから。ショーに無理させることはできないんだ。……そうだね、私がショーの子を身籠もることによって、ショーが帰れなくなるとしたら……」
しばらく考えるように唸ったあと、リルは答えをひねり出した。
「私は、それも我慢することにするよ。……残りの時間、たくさん、一緒に居てくれたら嬉しいなっ」
無理に笑ったような顔をして、目は悲しそうなのに。
リルはまた、俺の腕に顔を埋めてきた。
………どうするべきだろう。
せめて、せめて、親と連絡をしたい。
1時間でいいから顔を合わせて話をしたい。
そして、ぶん殴られてもいいから、親友が居る、俺が人生で一番大切にしたいと思ったこの女の子が居る、こんな世界に残りたい。
親不孝だって、言われてもいい。
何度だって土下座する。
俺が向こうに残した心残りは……美花の葬式……それは、美花が生きてたし。
あとは本当に両親だけになったから。
どうか………できないかな? アリムなら。
「……リル、ありがとう。寝よう」
思いたった俺は、リルを抱いたまま横になる。
「おやすみ」
「わふ、おやすみ」
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