第375話 vs.黒魔神スルトル -4-
1万個の黄色い球が次々にスルトルにぶつかって行く。
ふつうならその姿は閃光で見えなくなってしまうから、俺は特殊なメガネをかけて、集中砲火を受けるスルトルの様子を見た。
「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
いくらか被弾しながらも、スルトルはレーヴァテインとかいうありきたりな名前の剣で確実にサンダーボールを斬り落としていっていた。
……あの剣はどうなってるんだろう?
本来なら、電気が体の方に回って痺れてもいいのに…ううん、仮に魔神はボスだから状態異常は効かないものだとしても、俺の大剣がファイヤーボールで溶かされちゃったみたいに、あの剣が爆ぜてもいいものだけど。
気になって、剣を鑑定してみた。
なるほど、スキルで作り出した剣と融合できるんだ、通りで。
つまり、スルトルと翔の…桜ちゃんから教えてもらった…そう、『炎神』。
その二つが相乗して作り出された炎の剣(これも多分SSランクスキルだよね)を、レーヴァテインに融合してるんだね。
そのせいで、いや、これは予想だけど…レーヴァテインはこの神の剣の初級程度…もしかしたらそれ以上まで強化されてると考えていい。
「兄ちゃん…! 助太刀を…」
叶達もスルトルがこのボールの群を簡単に最小被害に留められてることに気付けたみたいに。
だけど俺は片手を上げ、別に良いと、合図した。
「なんで…?」
「あはは、まだ本気出してないからね」
叶の問いに、俺はそう答える。
実際そうなんだもの。
……でも、もしかしたら勝てないかもしれない。そんな予感がよぎったり…よぎらなかったり…よぎらなかったり。
兎にも角にも、過去最高の強敵と戦えてることには変わりはないけど。
なんだろ、ちょっと…ワクワクしてきたかも。
そう、戦いに関してこんな感情を抱くのは……サマイエイル以来?
ううん、サマイエイル自体は簡単に行っちゃったから、もっと前。
まだ無力だった頃…ダンジョンの虹帝犬との戦い。
あれ以来かもしれない。
「あーあーあー! 余裕だった…ゼェ?」
あれだけあったサンダーボールのうち、おそらく3%ほどしか被弾しなかったスルトルは、傷だらけの翔の身体をいたむこともなく、レーヴァテインを肩に乗せてそう言った。
回復魔法を唱えたのか、瞬きした瞬間に傷は全部なくなってるし。
「……やっぱりダメだったか」
「ああ。でもかなりのもんだったぜ? 流れ的に次はオレだろ?」
そう、スルトルは気持ち悪くでなく、翔がゲームを楽しんでる時みたいに、豪傑な爽やかな笑顔で微笑んだ。
スルトルが片手を前に出すと、赤黒い魔法陣が現れる。
「このままエミッションの掛け合いに持ッてッても良かったんだがな……。テメェもオレも、まだまだ余裕なようだからな。本番だぜ? 全力の小競り合いは終わりだ。全力の破壊仕合、第二ラウンドとして……ナァ」
魔法は大きくなる。
発光。
そして発射。
魔法陣と同じように赤黒い炎の咆哮が俺達…ちがう、俺だけを狙って迫り来る。
ふふふふ、それにしても…スルトルが憑依した相手が翔で良かったと思える点がたった一つだけある。
それは、このシュチュエーションができたこと。
俺の好きだったゲーム_____今後はミカが優先だし、もう半年近くやってないけれど、『ドラグナーストーリー』これの3作目。実質俺が最後にプレイしたドラグナーストーリーシリーズの作品。
そのラスボスが主人公の過去の親友…に取り憑いてたヤツ。
まさにそれと同じ状況…!
スルトルみたいに、血湧き肉躍る戦いを望むなんて言わないさ。
だけれども…翔が相手で良かったと、口には出せないけど、言えるんだ。
俺はその黒い炎を、大量の盾を作り出して順々に防御させて行く。
炎耐性+魔法吸収+魔法威力減少。これが合わさった伝説級の盾を燃やし尽くし、少しだけ威力を弱めながらもこちらに向かってくる。
規模や派手さはさっきのボール合戦の方が上だよ。
でも、この魔法の威力は半端じゃなかった。
まさに、全てを破壊し無に帰す一撃。
これを受けて立っていられるのは、身体が炎で出来ているスルトル自身だけだろう。
国の2つ3つ、余裕滅ぼせるだろうね。
「あっ!?」
ミカはそう叫んだ。
最後の1枚…500枚目くらいの盾が破られたからね。流石のミカも叫ぶのは仕方ない。
【大丈夫だよ、マイハニー】
なんて、冗談を飛ばす。
確かに当たってたらまずいことになってたかもしれないけど、俺はその魔法を_____
「ヒャハハハハハハハハハハ、全力の魔法の仕掛けあい、いいじゃネェェェェェェカァアァァァァッ!」
サンダーエミッションで打ち消した。
スルトルはまた、気持ち悪い笑みでニヤニヤと笑っているけれど。
本当に楽しそうだという感想を、俺はその顔に抱く。
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