第374話 vs.黒魔神スルトル -3-

 大剣が真ん中から溶けたんだ。

 スルトル本人だけじゃなく、魔法ですら伝説級を溶かせる威力。……やっぱり、あまり甘く見ないほうが良いみたい。


 

「オオッ! ソリャあスゲェ剣だったなァ。オレ様の前では無力だったわけだが」



 そう、余裕そうに言う。

 実際、ファイヤーボールでこれなんだから、余裕になるのもわかる。

 こんなの転生しまくってなきゃ、一矢報いることもできないじゃんね。



「うん…そう…だ、ねっ!」



 物理攻撃が効かないなら、魔法攻撃。

 俺は新しく覚えたばかりのスキル、無双神雷…ではなく、『雷電の神』と腕や首や足に装飾品として雷技の威力を高めるアイテムを作り出し、装備。

 そして、スルトルと同じようにサンダーボールを放った。

 多分、さっきのファイヤーボールと威力も範囲も同じだと思う。

 ふふ、初めて試したけれど案外できるもんなのね。

 こんな規模できたら、ゴールドローズクイーンドラゴンですら、一撃突破できる。


 それにしても、こっちはいくらでも盾が用意できるけど、向こうは…? どう防ぐんだろ。



「ヒャハハハハハハハハハハッ! イイねェ…!」



 そう言うや否や、スルトルの前方に現れる先程と同じくらいのファイヤーボール。

 それがサンダーボールと衝突。

 結果、ただの初級魔法、ボールであると言うのに、まるでSSランクの冒険者の全力の攻撃が互いにぶつかったかのような規模の爆発と衝撃が巻き起こった。

 

 巻き上げられる砂埃。

 すぐにそういった視界を妨げるものを晴らしたけれど、やっぱりと言うべきか。良くなった視界の先にはニヤニヤとしかキモい笑顔をやめない、真っ黒な翔の顔が浮かび上がる。



「ンジャア……これは?」



 完全に視界が晴れる頃。

 スルトルが行なった次の攻撃はまた、ファイヤーボール。ただ、その数は200…いや、500はあるかもしれない。

 わからない。

 こんなの、力がない人から見れば絶望しかないんじゃないかな。


 一つ一つが星かと見間違うような、そんな火球が四方八方上下左右に500個。



「…な、なんなの…これ…」



 叶はそう呟いた。

 とすると、叶はボールではこのレベルに到達できないのか。ふふん、俺と…多分ミカはできるもんね!

 お兄ちゃんの方が優秀ですねぇ!



「クカカカカカッ! どうする、さあ、どうすんだ、サマイエイルをぶちのめした勇者様ヨォ。対処しろヨォ! ヒャハハハ」

「大丈夫」



 俺は空に向かって駆けた。

 音も空気も置き去りにしたように、止まっている感じだ。そう、俺はゾーンを展開して素早く動いてる状態ってわけ。

 これで一つ一つ、ファイヤーボールを吸収させていったんだ。


 叶と桜ちゃんは勿論、ミカも、スルトルも俺の動きは見えてないはずだ。

 俺はすべてのファイヤーボールを消し終えると、元の場所に着地し直し、平然とした表情を作る。

 ゾーン解除。



「ハハハハハ…ハァ…?」

「ね、大丈夫だったでしょ?」



 スルトルは俺をじっと見つめてくる。それもかなり真剣な表情で。その時に翔らしい顔を見た。

 やはり、取り憑かれてるのは翔なんだよな。早く助けなきゃ。そろそろ、ミカとキスもしたくなってきたし、

 


「カナタくんと同じスキル…じゃねェ…? ああ、そうか、早く動いたんだな?」



 あっという間に解析されるタネ。

 よもや、あいつ、叶より頭良いんじゃ…! 



「見えてたぞ?」



 なんだ、見えてたのか。

 がっかりだ。翔の頭が化け物になったかと思ったんだけど、そんなことはなかったんだね。

 じゃなくて、逆だよ。逆。

 俺の動きが一瞬でも見えたって事だよね。

 それもやっぱりやばい。



「ヘぇ、見えたんだ」

「あんなに速く動けるもんなんだな、生き物ってのは…。さァすが魔神をすでに倒したことがあるアリムちゃん…だぜ! ナハハハハハハハハッッ!」



 アリムちゃんって言う時に、なんか見透かされてるような気がしたのは気のせいかしらん?

 男だってわかってるとか、ないよね?

 一応、前世でも今世でも、男の時であろうが女の子…いえ、美少女なんですが。


 いや、そんなことより、次の攻撃をどうしようか。

 わざわざ防御したってことは、少しだったとしても魔法は効くってこと。やはり魔法主体に戦った方がいいかもしれない。



「さて…次だよ」



 俺はめっちゃ維持を張ることにした。

 500個も出されたっていうことに負けたくない。

 だからサンダーボールをたっくさん出した。

 たっくさん、大体、1万個くらい。



「えっ…!?」

「ちょっ…兄ちゃん!?」



 桜ちゃんと叶は驚いてるみたい。

 空が真っ黄色だもんね、仕方ないね。



「いいぜ…さいこうだぜ…こいよ…」

「うん」



 俺はすぐさまに、その小さな星達をスルトルにのみめがけて乱射した。

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