第355話 魔神の攻撃 (翔)

「クルーセルさんっ!」



 吹っ飛ばされた隊長に向かって、再び叶君は叫ぶ。

 それをみた桜ちゃんはそこから回復魔法をかけようとしたのか、わからないが、すぐに残念そうな顔をした。

 ああ、まあ、賢者は使えないもんな、魔法。


 と、なると…



【リル、あの人に回復魔法頼む】

【わかった】


 

 リルは回復魔法を使える。

 ついでに、と、使えるようにしてもらっておいて良かった。

 それにいくら攻撃や素早さに比べてステータスが低いと言っても、転生しておらずSTPを魔力に全振りしたレベル255の人よりも魔力があるんだ。 



「まあ、やッぱ回復するよなァ」



 わかってた、とでも言いたげに魔神は腕を組み、こちらを見下ろしている。

 そんな中、桜ちゃんが剣を抜いた。


 まさか、今度は桜ちゃんが魔神に突入していくっつーんじゃねーだろうな?

 そうだったら、叶君が止める筈だが…そんなそぶりをあの子は見せない。



「おォ、今度は賢者サクラちゃんが来るのカ? 魔法が使えねェのに健気、な……ッ!!」



 喚いていた魔神…もとい国王の腕をためらいなく切り落とす。それは桜ちゃんの剣が自立して行った。


 つーか、勝手に飛んでったんだけど…! なにあれ!

 あれも伝説級の魔剣とかなのか? ああ、ダンジョンで見つけたんだな。

 


「ごめんなさい、キリアンさん! 後でローキスさんの腕はくっ付けます!」

「え…? あ、ああっ!?」



 そう断る桜ちゃん。

 こっちにくるまでは虫も殺せないような子だったのに、今じゃ、状況によれば人を斬れる程になったか。

 環境は人を変えるのな…。


 その桜ちゃんの行動を合図に、叶君は動き出した。 

 黒く緑色に光る槍を握り、疾風のように駆け始めたかと思ったら、瞬間移動ができない筈なのに、すでに魔神の後ろにいた。



「はァ?」

「……スルトル、己の両脚を見てみるがよい」



 叶君の言う通りに、魔神は自分の両脚を見た。

 穴が開いている。見るからに痛そうだとしか言いようがない…。



「いつの間に…魔法は使えねェはずだが…」



 両脚をやられた魔神の身体は沈む。

 立ってるのが無理みてーだな。あんな事になったら無論、俺でも立ってるのは無理だがな。


 しかし、本人は全く痛くなさそうだ。

 痛覚は共通していないと考えた方がいいかもな。



「……そろそろ終わらそうか、魔神よ」



 そうカッコつけながら叶君は何かを取り出した。

 なにを取り出したかは見えない。



「くんのか!! こいよッ…血湧き肉…ッ!」



 気づけば、魔神に乗っ取られた国王の身体は、一本のミスリルの槍によって貫かれ、後ろの玉座に貼り付けられていた。



「リルさんっ! 氷魔法!」

「わふっ! 今だね!」



 いつの間に叶君と打ち合わせしてたのか、リルがそう言うとともに、氷魔法を放ち始める。



「くかかッ…なァるほどなァ…いいんじャねーの、ククッ…く…く…」



 以前、余裕そうな表情でリルの魔法によって、国王の身体ごと凍らされてしまう魔神スルトル。

 しばらくして、リルの魔法によって、身動き取れないほど、まるで氷の塊の中に入るような感じになってしまう。



「……とりあえず、無効化はこれでいい…だろうか?」


 

 ……案外呆気なかったと言うのが俺の本音だわ。

 いや、こんなので終わるはずがねーんだろうけれど、ひとまずは無効化に成功したっつー事でいいのか?

 結局、俺もキリアンって人も、何もしなかったが…。



「叶君、これからどうするんだ? 槍がねーと封印でねーんだろ?」

「はい。槍は折られてしまいましたし……」



 いつの間に回収しておいたのか、叶君の手元には折られたグングニルが握られていた。

 桜ちゃんの手元には、きちんと剣が戻ってきてるしな。


 叶君はキリアンって人の方を向き、こう言いだした。



「キリアンさん」

「か…カナタ、賢者ショーの言う通りだ。これからどうすればいい?」

「とりあえず、ローキスさんから魔神をひっぺがすために魔神を封印しなければなりません。色々とやる事があるので、ひとまずは、この城で働いている人全員に、この騒動を知らせてください」



 おおっと、それはもう俺が、宰相だって言う人たちに知らせてくれるように頼んだから、言う必要はねーんだ。



「それは別にいいぜ。既に逃げた人の数人に、魔神が出できたから伝えるように頼んでおいた」

「あ、すいません。…なのでキリアンさんは…クルーセルをとりあえず医務室へ」

「わ、わかった!」



 キリアンさんって人はクルーセルって人を片手で抱えおぶさり、この玉座の間を出て行った。

 

 ……俺はリルの元に近づく。



「リル、とりあえず頑張ったな」



 そう言いながら、頭を撫でてみる。



「わふふ、わふわふ」



 目を細めて、リルは嬉しそうにした。

 

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