第345話 もう一柱の魔神

「現れた魔神は黒魔神スルトルいうらしい」



 曖昧な表現でそう言った。

 まあ、確かに俺も魔神は三柱居るってことしか知らないし、曖昧なのも仕方ない。



「その魔神が現れた場所は、ユグドラシル神樹国だ」



 俺は耳を疑った。

 ユグドラシル神樹国ってアレじゃん、この国に戦争を仕掛けようとしてきていた国じゃない。

 戦争を仕掛ける前に魔神が現れちゃったと、言うわけなのかな?



「ユグドラシル神樹国って、この前話してた、この国に戦争を仕掛けようと策略してる国ですよね?」

「ああ、そうだ」



 その国のせいで、俺達はカルアちゃんやルインさんと一緒にレベル上げの特訓ができなくなっちゃったんだよね。

 国王様は椅子にもたれかかりながら、話を続ける。



「……この数日間、ワシは向こうに送っている隠者にあの国の戦争の準備具合などを調べて貰っていた」



 隠者…スパイだね。


 この国には居ないらしい。

 なんでも、ティールさんやカルナさんのステータスを見る力で、他の国に支えている者が居ないかどうかを確認してるんだってさ。


 それ以前に人事は完璧に管理してるから隠者とかはありえないんだって、前に騎士団長さんだったかな? 大臣さんだったかな? どちらかが食事中に俺に、自慢気に教えてくれた。

 ああ、大臣さんだったかな。


 俺のアムリタに関することや、魔神と戦争したという情報を友好国から敵対国へ一切漏れないようにしたり、友好国が戦争に大量に駆けつけたりしたことから、この国の人間的関係の管理はものすごくしっかりしてるのかもね。


 俺は政治のことなんてぜーんぜんわかんないけど。

 女の子になってアイドルやるのが俺の仕事だしさ。

 あれ、違う?


 …まあいいや。とにかく国王様の話を聞かなきゃ。



「しかしだな、戦争を仕掛けようとしているという情報が入ってきた割には、あの国は何も準備をしておらず、また、国民も国がそのようなことをしようとしているとは知らなかったらしいのだ」

「それじゃあ、その情報が嘘だったり、間違っていたとかなんじゃ?」



 ミカのその考えに、国王様は首を横に振った。



「あの国は…いや、あの国の王族であるセッグライ家はまた、別のことを準備していた。……単独で国を滅せるような存在を呼び出すことをな」



 なるほど、これで話が繋がった。つまりは_____



「スルトルって魔神を兵器として使おうとしていると」

「そういうことだ。残念ながら、それがついさっき入った情報でな。……すでに魔神は復活してしまったようだ。以前ならこのような情報はすぐに手に入ったのだが、ここ数年、突然、格段に国に関わる情報が入手しにくくなってな…それが仇となった」



 うわぁ…。つまり、俺とミカでそのスルトルを退治しなきゃいけないんだよね。それも今すぐに。

 この国を狙ってくるわけだし、その魔神を討伐するのが嫌ってわけじゃないけど…めんどくさい、正直。



「わかりました…。では今から急いで討伐に…」

「ああ____あ、いや、ちょっと待て?」



 国王様は目を瞑る。

 メッセージに集中したいときにするやつだ。



「…今入った情報だ。どうやら、黒魔神がいうことを聞かないらしい。黒魔神スルトルに跡形もなく国王が殺された…と」



 ま…まじかよ。

 これっていわゆる自業自得ってやつなんじゃ…。

 じゃあもう、ユグドラシル神樹国はしばらくしたら滅びちゃうのかな?

 あれでも、向こうの国にも俺や元勇者のヘレルさんのように、勇者的なものが居るんじゃないかな。



「ど、どうなるんですか?」

「今は、あの国でいうこちらの勇者、賢者というらしいが、その者らが黒魔神スルトルを別の場所に移動させて対応しているらしい」



 やっぱり居るんじゃない。

 それなら、俺達は要らないんじゃないかしらん?



「ならばボク達は…どうすれば?」

「うむ、もう帰って良いと言いたいところだが、なにやら嫌な予感がするのだ。……アリムがアムリタを所持していたから助かったとはいえ、我々が全滅させられたような力を黒魔神も持っている可能性がある……。仮に賢者らが破れ、こちらに来たら大変だ」



 確かにそうだ。

 案外簡単にことは済んだとはいえ、一度、みんな殺されてる。ミカも含めて。

 あんなとんでもない力を黒魔神スルトルとやらが持っている力を持っている可能性はとても大きいよね。



「わかりました。行く?」

「うん。私達はその賢者の援護に行きます」



 その言葉を聞いて、国王様の緊張していたような顔は少し緩んだ。



「すまぬな。またアリムとミカに大きな大きな借りができてしまう。礼は必ずしよう。他のSSSランカーも同行させたいところだが_________」

「いえ、大丈夫ですよ」

「そうか? うむ、確かに前の戦争はアリムとミカだけでも終わらせることができただろうしな」



 そう言いながら、国王様は立ち上がった。



「それでは行け、勇者よ」

「はい!」

「はい! ……あ、一ついいですか?」

「なんだ?」



 ミカが国王様に質問し始めた。

 何か不明なことでもあったのかな?



「とりあえず、協力する相手としてその賢者の実力…は難しいかもですから、名前……あと、その魔神が封印されていた元のモノくらいは知りたいなーって」



 なるほど、忘れてた。

 特に魔神の封印してたモノは重要だよね。


 そんな、当たり前のことを何気なく訊いたミカの問いだったけれど、国王様から教えられたのは衝撃の事実だった。



「ああ、黒魔神を封印していたのはグングニルという槍だ。向こうに行ったらその槍が描かれた書を見せてもらい、以前のように再現してくれ。それで、賢者らの名だがカナタとサクラ、そしてショーというらしい。なんでも異世界から_________」

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