第292話 令嬢二人の恋話

「今日もアリムちゃんは可愛かったですね!」

「そうね。あの娘は本当にどうしてあんなに可愛いのかな!」



 アリム邸の同室に泊まっているリロとミュリは布団に包まって話をしていた。



「それはきっと、アリムちゃんだからですね」

「ミュリのいう通り。アリムちゃんだからだね! ところで…『ジアースの二人を愛でる会』なんてあるけど…」

「最初にアリムちゃんのファンになったのは私達なんですよっ」

「「ねー!」」



 この日はめいいっぱい美味しいものをたくさん食べたからか、二人はいつもに増して上機嫌である。



「はぁ…それにしてもアリムちゃんについて話すことは大分少なくなっちゃったね」

「そうですね…。ここ数日、連日連夜アリムちゃんの事について話しまくりましたから…」

「今日はなんの話する?」

「オルゴやルインが居ませんし、恋話でもします?」

「いいねぇー」



 その日、その男達が同じような内容の話をしたとは知らず、二人は恋話をする事になった。

 流行っているのだ。



「じゃあ…どっちから?」

「ここはジャンケンで決めましょう」



 ジャンケンの結果、ミュリが負け、先に誰が好きかを言う羽目になった。

 先述しておくが、二人は互いの好きな相手を知っている上でこの話をしている。



「ミュリは誰が好きなのかなー?」

「アリムちゃん!」

「アリムちゃんはダメ。女の子だよ」

「でもアリムちゃんとミカちゃんは付き合ってるじゃないですか」

「あの子達は特殊! 言い難いなら徐々に質問してくからね」

「は…はい!」



 ミュリはキュッと気持ちを引き締めた。



「まずはね…私の知ってる人?」

「はい」

「同い年くらい?」

「は…はい!」

「イケメン?」

「あ…顔は確かにカッコいいです。爽やか…じゃなくてこう…濃口って感じですけど」

「超イケメン?」

「…ええと…はいっ!」

「わかった、オルゴに『ミュリがオルゴのこと超イケメンだって言ってたよ』って言うね」

「ねえ、リロ。私達ってお互いに好きな人知ってますよね? からかわないで下さいよ! 本当に好きなんですから…」



 ミュリはモジモジとしだした。

 そんなミュリの頭をリロは少し荒めに撫でる。



「わかってるって!」

「ひゃあぅ! ちょっ…」

「面白いなー」

「も…もうーっ! 次は私の番ですからね!」

「うんうん、どんとこい!」



 リロはその豊満すぎる胸を張った。

 ミュリはそれを羨ましそうに見てからリロに質問をする。



「さて…観念して下さいね」

「うん、私の好きな人は髪は男の人にしては長めで綺麗な金色をしていて…優しくてイケメンで、なんとこの国の王子様で次男で____」



 『ちょっと待って下さい』と、ミュリはリルの話を止めた。



「リロ…リロの好きな人がルインだってことは知ってます」

「うん、そうだね」

「……ずるいです。リロは私をからかったんですから、私もリロをからかわせて下さい」

「やーだよーっ」

「………」



 ミュリは数秒黙ったのち、リロの頬まで腕を運び、挟んだ。挟んでからさらにその頬を摘んで伸ばす。



「アリムちゃん程じゃないですが、触り心地は良いです」

「ひゅり! ひゃひゃしひぇー」

「嫌です。私はリロをからかうと決めたんです。からかう内容を考えつくまでこうしてます」

「ひぇー!」



 5分後、何かを思いついたミュリはニヤニヤしながらリロの頬から手を離した。



「ぷへっ」

「ミュリ…」

「な…なによ」

「すいません、思いつきませんでした」

「えーっ…なにそれー」

「言葉ではどうもからかう内容が思いつかないので、態度で私の悔しさを示すことにします」



 そう言ってからミュリは唐突に、リロの片方の胸を鷲掴みにした。

 しかし、片手では掴みきれず有り余ってしまう。


 からかうつもりで揉み始めた胸だったが、それは逆に、ミュリの心に大きな大きな傷を作ることになった。



「んっ…ミュリ。ちょっとヤメ…」

「リロ、これはなんなんですか? 私の物の何倍の大きさは有るんですかね?」

「さ…さあねー…」

「片手では全く足りない大きさ…私なんて拳程あるかないかなのに…」



 リロに文句を言いながら、ミュリは手を動かす。

 ちなみにこの行為は今に始まった事ではない。おおよそ4年前から2~3ヶ月に1~3回、行われているのだ。


 

「でもミュリ。アリムちゃんもミュリと同じくらいじゃない」

「持つ者は持たざる者の気持ちがわかりません。アリムちゃん…すでに私より少し大きいです。ミカちゃんに至ってはハッキリと分かるくらい大きいです。カルア姫様は王妃様譲りですし。あの3人はまだ12、13歳なんですよ? 私は幾つですか?」

「じゅう…はっさいだね」

「ふぇぇ…」



 ミュリはついに泣き出してしまった。

 と言っても本気で泣いている訳ではないが、なんだか泣きたい気持ちになったので泣いた。



「リロぉ…オルゴ、胸が大きい娘の方が好きですかね…?」

「いやぁオルゴはそういうタイプじゃないでしょ。それにアリムちゃんは胸は年相応だけど、男の人から壮絶な人気があるじゃない?」

「そ…それは歳が歳ですし! それに顔です、アリムちゃん達二人は1000年に1度の美少女です! 私は…私は…」



 ミュリは方をワナワナと震わせた。

 自分で悲観的なことを言っていった結果、本当に泣きそうになっていた。

 そんなミュリをリロは慰める。



「ミュリだって可愛いよ。胸が大きくたって肩が痛くなるだけだし、下衆な男の人はジロジロ見てくるしで良いことないよ? もっと元気だして、ミュリ! 貴女は貴女の魅力があるから!」

「ふぇ…リロォ~っ!!」



 ミュリはリロのベットまで移動し、布団に潜り込んで、リロに抱きついた。丁度胸のあたりに顔が来るように。

 そしてなんと、そのまま寝てしまったのだ。



「はぁ…私だって色々と悩みは有るんだけどなぁ…。ルイン…王子様だし…私なんかが…なんてね。ま、いいや。寝よ寝よ」

 

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