第276話 目 (叶・桜)

「えっ…あ、そ、そうなの!」


 

 もしかしたら自分の回復魔法で目は治せるんじゃ無いかという考えがよぎったサクラはバツが悪そうな顔をした。

 顔が赤く元気そうでは無い顔をしているサクラを、カナタは心配する。



「どうしたの? 桜…あんまり嬉しそうに見えないけど…熱があるとか…」

「な…ない、ないよ! 大丈夫!」

「えー…本当?」



 カナタはサクラに近づき、片方の手でサクラの額を触れた。もう片方の手で自分の額をヒタリと触った。



「ち…ちょっと…叶…」

「熱は無いみたいだね。でも本当に大丈夫? どこか痛いとか?」

「無いわよ…。それにどこか悪かったら回復魔法のスキルで自分のでなんとかするし」

「あー、そっか」



 カナタはサクラの額から手を離した。

 


「あ、あのね、叶…。そのとっても言いにくいんだけど…でも聞いてくれる?」

「なに? どしたの?」

「わ…私ね、自分で目を治せるかもしれないの…魔法で」



 サクラはそう、至極申し訳なさそうにカナタに言った。

 しかし、カナタは明るい声で返えした。



「あー! スキルの効果もあるもんね。確かにこんなに不思議な世界だもん、治せるかも。いやスッカリ忘れてたよ。じゃあ念のために自分に魔力の補助魔法をかけてから癒術か解異常術術をしてみたら?」

「う…うん。あの…叶」

「なに?」

「怒ってないの?」

「なんで?」



 カナタにはサクラのそう訊いた意図が全くわからなかった。ただただ、めでたいとしか考えていない。



「だって…頑張って叶さ、120万ベル貯めたんじゃん。私のために…。なのにその努力が無駄になるような…今頃…」

「目に使わなくていいんならこの120万ベルは別のことに使えば良いだけだし、そんなに深く考えなくていいよ。サクラの目が治ることが最優先なんだから、治るんだったらそれでいいじゃない。ね?」



 カナタはサクラの隣、ベットに座ってそう、優しく言った。

 サクラはカナタに抱きつきそうになったがそれを理性でグッとこらえる。もしもう一言、カナタがサクラを心配する言葉があったなら、堪えてはいなかっただろう。



「そ…そう、ありがと。でで…でも、結局どうするの? 120万ベル」

「…家でも買う?」

「家なんて買ってどうすんのよ…」

「えーっと…住む?」

「叶だけで?」

「いや桜も…」

「な…なによ、それっ! 夫婦みたいじゃないっ。まだ私達結婚もしてないのに、いきなり家って_____」



 サクラは慌てて口を噤んだ。

 自分が何かおかしいことを言ったということに、気がついたのだ。

 結婚もしてないのにという文句に対し、付き合ってはいるのか、という質問が起こりそうなものである。



「えっ、あの…叶、今のは違うからね! えっと、私と叶は親友以上夫婦未満…いやいや、じゃなくて…親友以上恋人未満なんだからって意味で違うの!」

「ん…? えっと…ごめん。うーんと、よくわからないんないんだけど…なんて?」

「そ、そう! なら問題ないの! は、はやく魔法を試してみましょう」

「ああ、そうだね」



 サクラはカナタの提案通りに自分に補助魔法をかけたのち、回復魔法と状態異常回復魔法を思いっきりかけてみた。

 しかし、体の疲れやその他諸々以外は回復することは無かった。



「ダメみたい…」

「じゃあ仕方な……いや、合成があるじゃん!  桜、スキル合成をしてみよう、何か強力な回復魔法が得られるかもしれない…それが目も治せるかも。魔核も沢山あるんだしさ」

「うん…じゃあ…わかった。それもやってみる。まずはどう合成すればいい?」



 カナタはしばらく考えた後、思いついた合成する組み合わせの候補を桜に伝えた。


 まずは癒術+解異常術。

 この組み合わせからは『身状回復術の極み』というAランクのスキルができるようだった。

 エブリングリーメのおかげか、必要な魔核はDランクの魔核4個であり、それを合成し、午前のレベル上げで得たSKPでMAXまで振った。


 

「じゃあ、やってみて」

「うん」



 結果は失敗に終わった。

 この魔法は回復と状態異常解除を同時にできるだけの魔法だったのだ。


 次にカナタはサクラに癒術と強化術を合成させた。

 この組み合わせからは『補助回復術の極み』というAランクのスキルができ、これの効果は『一定時間、魔法をかけた対象は少しずつ回復し続ける』というものだった。


 

「なかなかダメだね…」

「うーん…やっぱり魔法じゃ腕を生やしたりとか身体的に大きなことはできないのかな…? なら、さっきの二つとエブリングリーメを足してみれば…」

「やってみる?」

「うん、やってみて」



 サクラは『身状回復の極み』と『補助回復の極み』とエブリングリーメを合成し始めた。

 なお、『補助回復の極み』もSKPをMAXにしておいた。(両方必要なSKPは420)


 その結果、Aランクの魔核1個とBランクの魔核2個、Cランクの魔核2個を消費して『完全回復絶対魔法の秘術』というSランクのスキルを入手。


 先に振ってあった合成元の二つのSKPが繰り越され、割り振るSKPは140で済み、サクラはそのSランクのスキルを完全に習得した。



「これは期待できそうじゃない、桜!」

「う、うん! やってみる。叶、私の目の前に立っててくれる? …立った?」

「立ったよ」

「じ…じゃあ_____」



 サクラは目をつぶりながら自分に得たばかりの魔法をかけた。

 身体中から痛みや痒み、疲れなど全てが消え、暖かく優しい感覚に包まれた。


 そしてそっと目を開けてみる_____



「どう、桜……みえる?」



 サクラの目の中には、目線に合うように腰を屈め、小さめに自分に向かって手を振っている、一見すると美少女のような美少年…幼馴染の叶が映っていた。

 毎日、当たり前のように見ていた、実に見慣れた顔だった。

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