第273話 企み
「さて、あの二人がここを出て行き、1日が経った訳だが…」
カナタとサクラが城を飛び出してから1日が過ぎようとしていた現在、玉座の間にはローキスとデイスが居た。
その玉座の横には、大きな槍が一本置いてある。
「ほー、様子はどうですかな?」
「うむ。やはりカナタは切れ者だな」
「と、言いますと?」
「……僕が仕掛けた監視に気が付いた」
「なんと…ほほほ」
ローキスはニヤリと笑う。
二人共、監視に気が付かれたというのにどこか嬉しそうである。
ローキスはカナタ達が普段着けていた防具に、エンチャントで盗聴や監視を仕掛けていた。
行動を見張るためだった。
しかし、カナタはそれに気が付き、防具は部屋に置いて活動をしているのだ。
どうしてカナタがそれに気がついたのかは二人には全く不明であった。
「ああ、いい! 素晴らしい! あの賢者が賢く、強ければ強い程良いっ! 彼にとって守るべき存在が近くに居るというのも素晴らしいっ……! 彼は理想だ。僕達にとって理想の存在そのものだ!」
「ほー、そうでございますの! しかし…」
先ほどまでローキスと共に広角を大きく上げ、笑っていたデイスだったが、途端に真顔となる。
「メフィラド王国を彼らの敵にすることは不可能でしたな」
「おおよそ…こちらが何かしらを吹き込もうとしている事にも、カナタは気がついたのであろう。それを含めての城外自己鍛錬だろうな。勉学の時間を増やすと向こうから言った時は小躍りしそうになったが……。まあ…だが…然程問題なはい。なにせカナタにはサクラという守るべき存在が居るのだからな」
ローキスは組んでいる手を何度もなんども組み替える。
それは何かが待ちきれない、子供のようであった。
「なあデイスよ。再度確認だ。もしお前がカナタだとして…幼馴染兼恋仲であるサクラの、殺されたり…男共に何度も嬲られている姿を見たらどうだ?」
依然として笑みを浮かべているローキス。
話している内容は恐ろしい事だが、彼らにとっては一人の少女に酷な目に合わせるのも、計画の一つなのである。
慈悲などという文字は、頭の中にはない。
「どうですかのー! しかし…彼ならまず、憤怒するでしょうな。そして助けようとする」
「だよな! そうだよな! それが僕らの罠だとわかっていたとしても、絶対に助けようとするだろうな! それが、僕から買ったポーションによって、サクラの目を治したばかりだと…尚更に!」
ローキスは興奮のあまりに、立ち上がり、手は拳を握って力み長い爪を手に食い込ませていた。そこから血が滴る。
それに気がついたローキスは、ペロリと自分の手の血を舐めとってから、ゆっくりと玉座に座り直した。
「ああカナタは早く、僕からポーションを買ってサクラの目を治さないだろうか? 目があれば感覚は違う。視覚というものは恐怖を直に感じさせるのだ……!! あの齢の少女が大きな恐怖を目の当たりにすれば……?」
「泣き喚きますのぉ…」
デイスはローキスの気分が盛り上がるように考えてそう発言した。
「そうであろう! その様子をカナタがみれば…?」
「怒り、サクラを助けようとしますの」
ローキスはふたたびニヤリと笑う。
「それが…サクラの絶叫・恐怖が大きければ大きい程…!」
「カナタの怒りは増しますな」
興奮状態にあるローキスの声はすでに、城の外に聞こえそうなほど大きくなっていた。
玉座の間には現在防音が施されているため、その心配はない。
「カナタの怒りが増せば……!!」
ローキスは勢いよく、槍…彼らがグングニルと呼んでいる槍の方をバッと向いた。まるで話しけるように。
_____事実、その槍はローキスの問いに答えた。
『オレ様が取り憑きやすくなる……ダロぉっ!? 国王様ってのも、えげつないと考んねェーっ!』
その声はどこか不安を掻き立てるようだった。
地の底から届いているような、そんな声だ。
普通の人が聞けば不気味で不気味で仕方ないだろうが、二人には全く無問題だった。
「そうだ、その通りだ! 魔神よ。その狭き槍から出してやれる日も近いぞ」
『ヒャハッァッ! そうかい、ソイツは嬉しいねェ…』
「ホッホッホ! スルトル様…出たらまず、何をされたいんですかの?」
魔神…またはスルトルと呼ばれたその槍に封じ込められた者は、そのデイスの問いに一間を置いて、答えた。
『強い奴と闘いテェ……血湧き肉踊るような闘い_____それこそ、興奮で身体が燃え尽きてしまそうな闘いヲッ! 嗚呼、無ェ筈の身体が疼いて疼いて仕方がねェヨォッ……』
「…ならば、この国には二人の強者が居る。そいつらと戦えば良い…。ただ、約束は守ってくれるよな? 魔神」
『あったりまえだロオォォォオ! お前の約束を守れば、強い奴と戦えそうだしなァッ!?』
その後、玉座の間には二人と一本の高笑いが響き渡った。もっとも、それは外に漏れることは無かったが。
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