第242話 初仕事 (翔)

 俺はリルが寝てるかも知れねーから、そっと、鍵を開け、部屋に入った。

 案の定、部屋はカーテンを閉め、ベットには1人誰かが横たわってるのがわかる。

 良かった、ちゃんと寝ていてくれたんだな。


 つーか、俺、昼飯食う気満々でいたけどまだ10時になるかならないかぐらいなんだな。

 …まだ、リルを寝かせててもいいか。

 だったら、昼時までなにすっかな……また、仕事に行くのもいいかもな、いや、そうすっかな。


 俺はそう考え、戸をゆっくりと閉めようとした時だ。



「……わふぅ……ふぁぁ…御主人?」



 リルが起きてしまった。しまった、起こしてしまったか。すまねーことしたな。



「悪い、そっと出てこうとしたがな、起こしちまったみてーで」

「ふふ、狼族は鼻と耳が良いんだよ? 普通に気をつけてても、今見たいな軽い睡眠だと起きちゃうのさ。御主人は悪くないし、そもそも御主人に起こされても私はなにも文句は言えないよ」



 そう、目をリルは擦り、立ち上がりながらカーテンを開けた。

 うーむ、やっぱり、この世界の服は露出度だけーよな…。確かに服は俺が選んだが、逆にアレしかなかったもんな。受付の女の人も、街を歩いてる人達もそうだがよ。

 リルは寝起きで服が崩れてて、なんか…健全な男子高校生の俺としてはかなりの目の毒だ。なるべく顔をそらそう。



「あー…あ、あーそうか、いや、でもすまなかったな」

「御主人は謝らなくていいのに……。ところで、冒険者には成れたのかい?」

「ん、まあな。成れたぜ」

「じゃあこれから仕事?」

「いや、仕事もひと段落したぜ」

「早いじゃないか、すごいね。どう? 御主人だけでも生活していけそう?」

「いや……それが、もうそれなりに収入があってな…」



 そう言うと、リルは目を丸くする。



「それはすごいね…!?」

「はは、そうか? 因みにいきなりDランクにもなったぜ」

「わふぅっ!? すごい、すごいね御主人!」



 つい調子に乗って昇進のことまで話しちまった。リルは相当驚いてるのか、スカートの中で尻尾をブンブンと振り回してるのが見てわかるくらい服が揺れ、目をまん丸にし、耳をピーンと立てている。なんというか……可愛い…か?



「ああ、だから、安心してあと2日は休んでろよ。…もし、収入が安定するようになったら借家でもするかな」

「借家か……いいね」

「ふふ、そうか」



 よく考えたら、同年代の女子と一つ屋根の下とか、風紀的に相当ヤバいけど気にしないことにする。ん? 今も状況的にはそんなに変わらない……? いや、気持ちの問題だ。



「っと、リルはまた寝てろよ。俺、昼時まで街見てたり、仕事をもう一仕事したりするからよ」

「…本当に、私が御主人に今、できることはないのかい? なんでもするよ?」

「…大丈夫だぜ。 ああそうだ、何か食いたいもんあるか」



 そう言うと、リルは少し考えているように動きを止めた。お、何か食べたいものでもあるのか? それはいい傾向だ。



「本当に、私がリクエストしても良いのかな?」

「ああ、いいぜ。好きなもん言ってくれよ」

「じ…じゃあ、その…寝付こうとしている間に、外で話してるのをチラッと耳に入れちゃった話なんだけどね? 巷でサンドイッチっていうものが流行ってるらしいんだ。美味しいらしくてね……。今まで、食欲なんて皆無だったけれど、御主人のお陰か、数年ぶりに何かを食べたいって思えたんだ」



 サンドイッチも最近、こっちに入ってきたのか。やっぱりこの世界は俺らの世界よりも遅れてんだな。…たく、田舎者とか心外だぜ。

 それにしてもサンドイッチなぁ…。パンに野菜やらハムやら挟むだけじゃねーか。

 ……パン屋さんになら売ってるだろうか。



「わかった、買ってくるぜ」

「ありがとう…御主人!」

「いや、良いってことよ」



 俺はまた外に出た。

 さてと、どうするかな……。2時間。

 仕事、つってもDランクから上の仕事は1日や下手したら1週間、中には1年かけるのもあるらしいしな。

 Dランクの依頼は今、受けられねーだろ。


 とりあえず、Eランクかな。


 俺はギルドに行き、依頼を選んでみる。掲示板見たいのに貼られてたり、受付のお姉さんに訊いたりして選ぶらしいが……。

 俺は、良い仕事を見つけた。


 ゴブリンの複数駆除討伐だ。意外にもDランクの依頼だった。無論、倒したゴブリンの死体はその冒険者のもの。

 この仕事もギルドっつーか、常時出されてる国からの依頼らしい。

 俺はそれを選んだ。



____

___

__



 特に何もなく仕事は終わる。だいたい2時間半だったか。なかなか見つからなくてな、ゴブリン7匹が。

 貰った金は、死体売却値と魔核売却値を含め5000ストン。ファイヤーボールで倒したからか、死体の状態は良くなかったらしい。


 俺は少し道に迷いながらもパン屋でサンドイッチを買い、また、宿へと戻った。



「ただいま」



 と、言ってみる。部屋はカーテンはそのまま開かれており、リルはベットで横になっていたようだが、寝てはいなかった。

 目でこちらを見ている。



「おかえりなさい、御主人」



 うーん…こうしてみると、仕事中ずっと寝かせているというのも暇かもしれない。

 今度、本でも買ってこなくちゃな。



「なあ、リル。……暇じゃないか?」

「………ん…まあ、ちょっとね。でも我儘は言えないよ」

「そうか? 遠慮なく言えよ。何か欲しいとか…」

「……考えておくよ」



 俺はマジックバックからサンドイッチを2つ取り出し、一方をリルに渡した。



「昼飯だ」

「ありがとう。…あれだね、サンドイッチなんて聞いたことない名前だなぁ…って思ったら、パンに野菜とかを挟んだものなんだね」

「ああ、そうだぞ」



 リルはゆっくりとサンドイッチを口まで近づけ、齧った。噛みしめるように咀嚼をし、ひとつかえあったものの、なんとか飲み込んだようだ。



「面白いね、これ」

「ん? そうか?」

「挟んだだけなのに、ちゃんと料理になってるんだ」

「あー、それな。確かに」



 それにしても、やっぱりリルの回復が早い。もっと引きずる物かと思ったが…。人間とはまた違う、獣人だからか? 専門家じゃねーからわかんねーけど。


 俺は5分くらいで、リルは30分くらいかけ、サンドイッチを食べ終わった。



「わふぅ…ごちそうさま。また、仕事に行くのかい? 御主人」

「いや…今日はもう十二分に金は得たし…仕事は終わりだ。リル、何か話でもするか?」

「私の昔話…と言っても、奴隷になる前までの話でも…。あ、待ってやっぱりダメだ。御主人のこの、のんびりしたムードを崩しちゃうし、それに_____」



 リルは少し震え始める。そうとう思い出したくないんだろう。



「いい、いい。辛いことは思い出すな」

「ご、ごめんなさい」

「なんで謝るんだ?」

「えっ…あ、いや…その…はは、なんでだろうね」



 とは言ったものの…サンドイッチ、リバーシがこの世界で出来たばかりということを考えると、こっちの世界の人間が、地球のことを知らないのは当たり前だよな。

 だから、俺の話をしても、この世界じゃファンタジーでしかないわけだ。

 新幹線とかも十分、ありえないものだろしな。


 ……何を話せばいいんだ? これからこの子と、少なくとも数日間は過ごすわけだ。だのに俺は目のやり場に困りつつ、かつ、他愛のない会話というやつもあまりできないとなると、コミュニケーションのコの字もできないだろ。


 困ったな。よく考えたら、美花と桜ちゃんと…部活の後輩、あとクラスの女子数人くらいとしか喋んねーからな…俺は。



「何をそんなにむつかしい顔をしてるんだい?」

「あ、いや…別に。今の時間から寝るまで何しよっかなーって、考えてただけだぜ」

「そうかい? なら外に出た方が暇潰しになるんじゃないかい?」

「それだと、リルは暇だろ」

「確かにそうだけど……」



 さて、どうしたものかね……。

 

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