第233話 1日目の終わり (翔)

「そろそろ風呂でも入ろうと思うんだが…どうする、先入るか?」



 俺はリルにそう訊いた。

 


「いや、私は後でいい」

「そうか、なら俺が先に…」

「ね、ねえ。背中流そうか?」

「えっ?」



 まさかそんなこと言われると思って見なかった。

 そういうことは、俺は求めていない。



「別にいいよ」

「そうなのかい? 奴隷の仕事の一つに、そういうのもあるらしいんだが」

「いや、いいよ」

「……そうか」



 ちょっと落ち込んでるような気がする。断りすぎたか?

 

 俺は脱衣所経由で風呂に入ったが……この世界、風呂もわりと日本に近いな。

 俺はしっかりとは洗うが、風呂は短い方だ。烏の行水とかいうやつか。

 いつもすぐに出ちまう。


 つーわけで、俺はこの世界でも変わらず、早く出た。



「次、いいぞ」

「ずいぶんと早いんだね」

「まあ、そういうタイプなんだ」

「そうかい」

「俺に構わずゆっくり入れよ」

「……そうさせてもらうよ」

 


 リルが風呂に入っている間に、ステータスのSTPの割り振りを考える事にする。

 今あるポイントは1150だな。

 そして、割振れるのは全部で7箇所か。


 こういうのって、ほんと悩むんだよな。

 それぞれのステータスに100ずつバランスよく振ってもいいし、575をMPと魔力(W)にそれぞれあててもいい。


 んー…こーいう時、有夢は…いや、あいつはこういうの苦手だったな。なら、叶君は……。

 ああ、叶君ならきっと、50ずつにそれぞれ割り振った後に、残ったのを全部一点に振るってやり方をするんじゃねーか? それで一旦様子をみて、次のレベルアップからは必要だと感じたところに降っていく。


 よし、なら……全部にとりあえず50ずつ振って、残り半分ずつをWとMPに入れよう。



--------------------------------------------


-ステータス-


name:ショー


Level : 13


EXP:2500


HP :230/230 (50)

MP :1035/1035 (450+5)


A(攻撃力):115 (50)

C(器用度):115 (50)

D(防御力):115 (50)

W(魔法力):515 (450)

S(素早さ):115 (50)


STP:10



--------------------------------------------



 なんだか、MPが目立ってたけーな。

 まあ、とりあえずのところはこれでいいか。武器とか買う必要がねーもんな、魔法だと。


 うむ…そのうち素早さとかが必要になるんだろうか?



「あっ…あ、あがったよ…」



 リルがあがってきた。

 いつの間にか30分くらい悩んでたみてーだ。



「おう、じゃあそろそろ寝……」


 

 そう言いながらリルの方を向いたが、俺は絶句さぜるをえなかった。

 そしてすぐに目をつむり、顔を背ける。

 この子、マジで何やってんの?


 ……リルは、真っ裸で前も隠さずに、なぜか突っ立てっていた。

 どういうことだこれは。

 この世界には、風呂上がりは裸でなければいけない、そういう風習でもあるのかっ? いや、よく考えたら声も震えてたし、本人も恥ずかしいんじゃねーのか?

 だとしたらなんでだ…下着を脱衣所に置き忘れた…ってことはねーだろ、持ってくところを俺は見た。


 それにしても……チラッとしか…チラッとしか見てねーけど、身体中、傷や火傷跡だらけだったな…。

 前であれなら後ろは……。

 ……チラッとしか見てないんだぜ? 本当だぞ?



「な、なぁ…リル…。ちゃんと下着持ってったろ」

「ああ…も、持ってったよ」

「じゃあなんでなんもつけてないんだ」

「……それは……」


  

 言葉を詰まらせている。

 何かワケでもあるのか? 



「言い辛いことか?」

「いや…その…違うんだ。えーっと…そのだね。私はどうすれば良いのかな?」

「とりあえず、下着を着れば良いんじゃないのか?」



 む、と唸る声が聞こえた。

 一体、この子は何を俺に伝えたいんだ? 飯が足りなかったのか?

 そう考えていたんだが、リルは驚きの言葉を発した。



「私…御主人に何かしたいんだ。でも、私は渡せるものも、できることも何もない」

「いや、無理に何かしようとしなくてもいいぜ? 俺は見返りとかは求めてないんだ」

「で…でも、私は御主人の奴隷になって、そろそろ5時間は経つ。何もできてない…それどころか、ずっと治らなかった病気を看てもらった。……このままじゃ、いけないんだ」



 だからって、それが裸のまま風呂から出てくるのとは話がちげーよな。うん。

 だって、まだ何も着てないみてーだし。

 ……見たんじゃないぞ? 物音で判断したんだぞ?



「そっか、だが____」



 俺が言い切る前に、リルは言葉を放つ。



「だから、私を使ってくれ。その…裸なのは、そういう……わけで…。今できること、これしか思いつかなかったから…」

「はぁっ!?」



 何を言い出すんだこの子は。健全な男子高校生の前で何を。まて、こういう時こそ冷静になれ。

 きっとリルは今、暴走してるんだ。精神的にさっきまで弱ってたわけだしな。

 


「私は…身体が傷だらけで…耳も尾も欠けてて…醜くはあるが…その、灯りを消せばなんとか……」



 俺が答えないからか、勝手に話し始めている。

 このままほっといたらいきなり抱きついてくるとかないよな? それをしかねないから怖いんだが。

 つーか、早く断らねーと。



「いや、いい」

「で…でも…」



 断ってるんだが…リルめ、中々に粘り強いな。…俺も。

 ちょっと説教的な感じの一言でも入れてみるかな。



「リル、そういうのはな、本当に好きな人とするものだぜ?」

「えっ!? わ、私はごしゅ…………ああ、そういうことか。……ごめんなさい」



 あれ、別に思いっきり叱ったわけじゃないんだけど、シュンとなった感じがする。

 んー? 今の一言に何か問題あったのか?



「とりあえず服着ろよ。もし、俺に恩返しとかがしてーんなら、そのうち言うから」

「……わかった」



 そう言うと、脱衣所に戻り、下着と服を着てきたようだ。俺は恐る恐るリルの方を向いたが、ちゃんと着ていた。でも、しばらく顔は見れねーな。

 …そろそろ寝よう。



「それと、リルはベットで俺は敷布団で寝るからな」

「いや、そ、それは流石に…」

「俺は、こっちの方が良いんだ」



 これは半分本当だ。俺は普段、布団で寝るからな。

 それにリルはまだ激しく動かせたりしないほうが良い。

 ベットが良いだろう。



「じぁよ、おやすみ」

「あ…ああ。おや…すみ…なさい」



 こうして、この不思議な世界での1日が終わった。

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