第226話 翌日 (桜・叶)

 桜は目が覚めた。と、同時に激しく動揺した。


 自分の腕がカナタの背中まで回され、思いっきり抱きつき、さらに身体を擦り付けていること。

 自分の脚をカナタの脚に複雑に絡ませていること。

 そして顔にカナタの吐息がかかっていること…。


 サクラは慌ててカナタから離れた。

 すんなりと離れたことに、自分から抱きついたのだと気づく。彼女の顔はもうまるで、熱湯に浸かったかのように真っ赤だった。


 昨夜、カナタなら大丈夫だろうと一緒に寝ようと誘った結果、自分が抱きついていたのだから驚くほかはない。


 サクラは現実が受け入れられなくなり、思わず後ずさりをする。

 そして、そのままベットから落ちてしまった。

 ドンという痛みがこもった音が部屋に響く。



「あ………ファァァ」


 

 すると、カナタが起きた。

 そして半身だけ起き上がり、周りをキョロキョロと見渡すと突然彼も、後ずさりをしてベットから落っこちてしまった。



「うわぁぁぁ!?」



 カナタは完全に覚醒した。

 サクラは声を震わせつつ、カナタに語りかける。



「おおおおお、おはおは…おほよふ!」

「お…おはよ……」



 おはよう、その一言を幼馴染に言うだけなのに二人ともかなり動揺していた。

 床から立ち上がろうとして、カナタがベットに手をかけた時である。



【お二人とも起きてくださいませ! 朝ですよ。朝ごはんの準備ができてます! 着替えるのは食後にして、食堂まで来てください!】



 そう、メイドからメッセージが届いた。



「……………………どうする? 桜。行く?」



 おずおずと、カナタはサクラに尋ねる。



「う…うん。いいい行こっ…ねっ…」

「うん……それじゃあ行こうか」



 カナタはサクラの元まで駆け寄り、手を引っ張って起こした。

 起こすとすぐに手を引っ込める。



「きっ……今日は……なんか…その、部屋が暑いね?」

「そ…そうかしら? た、確かにそんな気がしなくないよね」

「あ、でも時間が勿体無いから早く、食堂に行こっか!」

「そ、そうね! うん、そうね!」



 カナタは恥ずかしがりながらも、サクラの手を取り自分の腕につかませた。

 本来はすごく恥ずかしかったが、メガネなしの生活に慣れていないサクラは、移動できないのだから仕方ない。


 すこし躊躇してからサクラもカナタの腕を掴んだ。

 二人の頭の中は抱きついた、或いは抱きつかれたことでいっぱいである。


 そうでもなんとか部屋から出て、食堂へと着いた。



「おはようございます。カナタ様、サクラ様。昨夜はよくお眠りになられましたか?」

「そそそそ、そうですね、はい!」

「……あまり寝付けなかったです」



 サクラは慌てて、カナタは眠い目をして答えた。

 メイドは二人の様子が昨日と違うのに気がついた。



「あら、お二人共、お顔が真っ赤ですよ? まさか…昨夜さっそく……」

 


 その言葉を聞いたサクラは、慌ててカナタの腕からはなれ、そして思いっきり突き飛ばした。



「なんもしてません! ただ…その…そう、私の着替えを見られたんです。セクハラです!」



 カナタはそれに反論せずにこう答えた。



「ええ…まあ…事故だったのですが、その通りでして」

「おや? でもお二人共お付き合いしていらっしゃるのでしよう? そんなにドギマギしなくても……」



 メイドのその問いにサクラは言葉を詰まらせたが、カナタは平然と答えた……かのようにサクラには思えた。



「いえ、実はかなり健全な付き合いでして。俺たちの世界では俺たちみたいな年齢の子供が不健全な行為をすると周りからとやかく言われるのですよ」

「おや、そうでしたか。確かに私達の世界でも12歳以下の子供がそういう行為をすると、周りから凄い目で見られますよね…」



 サクラはカナタがうまくごまかしてくれたことに心底ホッとした。

 一方カナタは、本当にこれで良かったのか悩んでいた。



「あ、とにかく、朝食が冷めますわ! お二人とも食べてください」

「は、はい」

「そうします」



 二人はメイドに言われた通りに席に着く。



「では、私は別の仕事がありますので……食べ終わりましたら、玉座の間へ向かってください。国王様が今日のご予定をお話しなさいます」

「は、はい」

「わかりました」

「ありがとうございます。では」



 メイドは二人が情報を取得し、朝食を食べ始めたのを確認すると、食堂から出て行った。


 

「ね……叶」

「なに……桜?」

「あれ…さ、私から抱きついたの? 正直に答えて」

「…………そうだよ」



 カナタの答えを聞き、サクラは両手で顔をおさえる。



「私……もう、お嫁にいけないっ……」

「……しかし、我が妻にはなれるのではないか?」



 カナタは思わずそう言った。本心から言うつもりはなかったが、昨夜のサクラよろしく、ポロっと言葉が出てしまったのだ。



「………は?」

「あ…いや、これはその……」

「こういう時に冗談はだめだよ?」

「……そうですね」



 その後、二人は無言で黙々と朝食を摂り、玉座の間へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます