第211話 理由 (叶・桜)
「まず…お前ら向こうからこの世界に呼んだのはこの僕だ」
神様がメッセージで言っていた、呼び出した者。それがこのローキスだった。
もっとも、カナタはなんとなくそんな予感はしていた。
「何故呼び出したか、だが……」
「そ……その前にちょっと良…いですか?」
ローキスがその先を説明しようとした時、サクラが質問をした。
「なんだ?」
「あの…お母さんとか…その…私達の世界でどうしてるのでしょうか? 突然、私と叶が居なくなって……」
「ああ、その事か。この世界にいる間はお前らは、向こうでは元から居なかったことになる」
「そっ………そうですか…」
サクラとカナタは悲しく思ったが、それと同時に少しホッとした。もし、そのまま行方不明となって居るならば、心底心配するはずだからだ。
サクラの質問に乗じて、カナタも質問をする。
「あの…もう1人、俺達とこの世界に来た人が居るのですが…その人が居ないか、一度、見に行っても……」
もう1人とは無論、翔のことだが、ローキスから帰って来た答えは意外なものだった。
「何を言っている? 僕がお前らが居た世界から呼び出したのは二人だけだぞ? つまり、お前らだけだ。見間違いだろ」
「えっ……」
見間違いではない。それは確かだったが、この人を説得して翔さんを探しに行くのは今は無理そうだと、カナタは感じた。
二人が黙ったのをみて、ローキスは再び話し始めた。
「それで、本題の何故呼び出したか…だが…。理由は単純だ。お前らに倒してもらいたい者が居るからだ。どうしても我々の力では無理なのだ」
サクラはその発言に疑問をもった。
「どうして私達なら倒せるんですか?」
「僕の王家は代々、世界と世界を紡ぐ力を持っていてな。他の世界から呼び出した者は、特殊な力を得るのだ。その力に頼ろうというわけだ。ちなみに…他の世界から呼び出した者を、賢者と呼んでいる」
「では、他の世界の人なら誰でも良かったと?」
「…無礼だと発言思うが…そうなるな」
カナタとサクラは、すぐに自分のスキルと称号のことを思い浮かべた。
呼び出された理由が無差別だということは腑に落ちなかったが。
「それで…倒す相手は?」
「今は知らなくて良い」
まるで、そのことについては触れられたくないように、ローキスはそう言った。
「それで、城に着いたらまずは内部を案内しよう。突然のことばかりで困惑しているだろうから、今日は休み……明日からは特訓を____________」
「ちょっと待ってください」
ローキスの言葉を、カナタは遮った。
驚いたように、ローキスは一瞬目を丸くする。
「………なんだ?」
「俺達は……この世界に来るまで、葬式をしてました。サクラの…姉の葬式です」
「……ぅ」
「ほう、それは悪い間に呼んでしまったな。すまない。…で?」
ローキスはソファにもたれながら、もともと細めだった目をさらに細め、カナタを睨んだ。
カナタは唾を飲みながら、話を続ける。
「……つまり言いたいのは……どうして俺達が貴方方に協力することが前提で話が進んでいるのか…です」
「ほう? 何故そう思う?」
カナタは目の奥には怒りを込めつつ、頭の中ではローキスの発する謎の恐怖と戦いながら、言葉を発した。
「だってそうじゃないですか。俺達は葬式をしていた、そこに無理矢理呼び出され、敵を倒せと言われる。おかしいでしょう? 恨む理由はあっても、協力する理由はありません」
「確かにその通りだ…だが…」
ローキスは懐に刺していた剣を抜き、カナタではなく、サクラに刃を向けた。
「お前は……その娘を何やら気にかけているようだ……協力しないと言うのなら、見せしめにここでサクラを縛り、拷問する様を貴様に見せつけてやっても良いのだ」
「っ!?」
カナタは咄嗟に立ち上がり、サクラの前に庇うように立つ。しかし、その脚は震えていた。
サクラはサクラで、恐怖により震えている。
「はっはっはっ…見ていて中々に熱いな、お前は。そんなにその娘が大事か。……なら、言うことをきくのだな。素直にきくのなら、二人共手厚くもてなすし、用が終われば元の世界に帰してやる。………やってくれるな?」
「ちょっと……相談させて下さい」
「よかろう」
カナタは力がなくなったかのようにソファに座り込む。
そして、話を聞いていて恐怖で震えているサクラの手を握り、耳打ちをする。
普段ならばサクラはカナタの手を避け、バカ、と一言言うのだが、そんな気力は今はない。
「(サクラ…その…向こうの話を受けるしかないみたい…)」
「(……そう…ね。仕方ないよね)」
「(ゴメンな? 俺に本当に混沌なる闇の力があれば…)」
「(こんな時に何言ってるのよ、バカじゃないの?)」
「(それはともかく、ローキスとかいう人に協力するよ)」
「(うん)」
カナタは耳打ちを止め、ローキスの方を見た。
「話は決まったか?」
「はい、俺達は貴方に協力します」
「そう、それで良いのだ。……あと2時間ほどで城に着く。それまで、そこでのんびりしてろ」
ローキスは馬車内のどこかへ行ってしまった。
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