第189話 報酬と感謝
国王様の部屋の前に着いた俺は、ドアをノックした。
「ん? 誰だ」
「アリムとミカです」
「おおっ! 入りなさい」
俺とミカは言われるまま、国王様の部屋に入った。
ミカはキョロキョロと部屋の内装を見ている。
まぁ、来るの初めてだし。
「そこにかけるとよい」
「はい」
俺は前に座ったことがある椅子に座った。
この象の模様…ベヘモットだったんだよね。
「お話とはなんでしょうか? メフィストファレスとヘレルさんの事ですか……?」
「いや、あやつらの判決はまだだ。しかし、色々と要件があってな」
ミカは国王様に、そうたずねた。
ミカから言うなんてめずらしいじゃん。
国王様は続ける。
「うむ…まずはお主ら二人共をSSSランカーに昇格させるということじゃな」
まぁ、それはそうだろう。
俺は悪魔神サマイエイルを封印どころか完全に消滅させた。まあ、それは愛長さんが強制契約の代償に使ったからでもあるけれど。
ミカは一気に数万の敵を一人で倒したからだね。それを国王様達は直で見ていたし。
「ありがとうございます! 国王様」
「ありがとうございます」
「うむ、これは公衆の面前でも発表するからな。……さて次だな」
国王様は指をパチリと鳴らした。
すると、滑車付きの大きな台を持った使用人が4人、この部屋に入ってくる。
台の上には白い布が被せられていた。
その台は国王様の前で止まり、使用人達はこの部屋から出て行った。
「国王様、これは?」
「おお、ミカよ。お主ら二人への…御礼と報酬だ」
国王様は立ち上がり、白い布をバサリと取る。
そこには何枚もの大金貨が積まれていた。
この数の大金貨……圧巻だ。
「す…すごい量ですね」
「ああ、これは3万枚ある」
「ふへっ!?」
だ…大金貨……3000枚!?
およそ3億ベル…日本円にして30億円!
「さ…3億ベルですか?」
驚いたミカが、国王様にたずねる。
「そうだ…しかし、ここにあるのはほんの一部。今は戦利品の精算ができておらぬからこれ程しか渡せぬが……全ての精算が終われば、残り197億ベルを渡せるだろう」
「……ぅゎ……」
計200億ベル……!?
つまり、2兆円か。
ドルに直したらおおよそ20億$。
ミカも俺も、開いた口がふさがなくなっている。
「えっ…あの…その…それ…あの…これ…」
「アリムよ、言葉が言葉になっとらんぞ。驚くのも無理はないが…少し落ち着け」
落ち着いてられるかよ。2兆円だぞ!? 2兆円。
一緒働かずに生きていけるとかそういうレベルじゃねぇ。
日本なら…人生で……諸説はあるけど、結婚込み、所帯込み、子供の養育費込みで、老後もゆとりがある、そんな生活に必要な賃金が仮に2億5000万だとして……人生を8000回はおくれる。
やべ、心臓がばくばくいってる。
昨日と同じくらい。
ミカも震えてるように見える。
「ぽ…ふぉんとぅに…ふぉくたちのお金なんれすか?」
「そうだ。ミカの倒した敵の数や、アリムの活躍を数字として算出し、それでこの額だ」
「ふぇぇぇぇ………」
俺とミカは顔を見合わせた。
変な汗も出てくる。
「二人共…一旦深呼吸したらどうだ?」
「ふぉぁい、しょーしまひゅ」
「ふぇぇぇぇ………」
俺とミカは言われた通り深呼吸をする。
それもぎこちないが、少しは心が落ち着いた。
「落ち着いたか?」
「はい、いくらかは」
「ぇ…ごめんなさい…」
「まぁ、よい。…最初は御礼を何にするか悩んだんだぞ? アリムは自分でアイテムを作り出せるからな。アイテムなんぞは要らぬだろう」
確かにそうだ。
今更アイテムなんか貰っても意味がない。
「それと…爵位、あるいは一定の地位を与えようと思ったが、それは勇者という地位と、SSSランカーという地位がすでに確立されている」
確かにそうだ。
あの他国から来た人達の俺に対する対応を見ると、勇者という地位はかなりのものだとわかる。
それにSSSランカーだ。
確かに地位もいらないだろう。
「と、いうわけで金…ということになった。すまないな、本来ならばアリムは十分な資産を持っている。金も不要だったろう。しかし、できる礼がこれしかないのだ、許せ」
いや…お礼をちゃんとしてくれただけでも十分だよ。
でも…俺ら二人に200億ベルなんて渡して大丈夫なのだろうか?
「ボク達二人だけに200億という大金、渡しても良かったのですか? 例えば参加してくれた冒険者や国に払うお金、被害修復とか」
「それは問題ない」
すこし、ニヤリと嬉しそうな顔をしながら王様は言った。
なるほど、何か儲けでもあったのかな?
「と、いうのは?」
「まず、この戦争により多大な儲けが出た。敵が人間ではなく、悪魔や魔物だったからな。そ奴らから魔核や素材が手に入る」
「はぁ…で、どのくらいの?」
「魔物と悪魔は総勢…52万2280体おったそうだぞ? 測定器によればな」
52万2280!?
おいおい、なんだその数字……。
おかしいだろ…それにだ。この世界はEランクの魔物ですら一匹から、解体がうまくいけば数千ベルは稼げる。それに敵はCランク以上が多かった気がする。
確かに、これだけでも200億ベルの心配はいらないだろう。
「これで、この戦争にかかった費用の方は問題ないとわかったか?」
「ええ、で、被害の方は?」
「お主のおかげで全くの無被害だ。敵はこの王都にのみ集中しておったから、近辺の村などにもない。……正直、どこかの屋敷に放火でもあった方が被害があっただろうな。はっはっは!」
そうだったのか…。
確かに死んだ人は全員生き返らせたし、壊れた物は一切ない。無被害だ。
結果だけ見れば圧勝じゃないか。
「というわけだ………本当によくやった。二人共」
国王様は俺とミカの手を握る。
「それともういくつか、言わせてくれ」
いつになく、真剣でなおかつ感情が溢れそうな表情をしている。
国王様は俺らから手を離し、椅子から立ち、王冠を外し、そして…深く頭を下げた。
「……被害を抑えてくれてありがとう! 民を、俺達を……カルナを蘇らせてくれてありがとう! 娘の友でいてくれてありがとう! 俺は……お前達に感謝してもしきれない! 本当に、本当にありがとうっ!」
いつも割と余裕があったり、冷静だったりする国王様が、俺達二人だけのだけでこんなに頭を下げている姿を見せた。
「あ、頭を上げてくださいよ」
「そうですよ、私達はただやるべきことをやっただけで……」
「それでもだ……一人の人間として、感謝させてくれ」
国王様はそのまま数分、頭を下げたままだった。
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