第173話 メフィラド王国王都周辺の惨状

 急いで拠点へと、俺は戻ってきた。

 あちこちに魔核や魔物の残骸が散らばっている。

 生きている悪魔や魔物の姿はどこにもなかった。


 また、俺が再度設置した像によるバリアは健在だった。

 しかし、いつの間にか黒い雲は晴れ、ミカの雨を降らせていた魔法陣はなくなっている。

 普通ならその魔法陣はミカが解除するか、期間が過ぎるかじゃないとなくならないかったと思う。たしか。


 バリアの中に入ると、人が皆、倒れていた。

 生物が活動してるような音は一切ない。無音。

 それに、あんなに巨大で、遠目から見てもわかるベヘモットの姿もどこにもない。


 俺は1番近くに倒れていた人の様子を見てみることにした。

 


「大丈夫ですか? ここで何が____」



 そう言いかけた時に気付いた。

 この人、息をしていない。

 肌に色味もなく、脈を測ってみたけれど、案の定宮はなし。

 死んでるんだ…。


 でも外傷や抵抗した跡、もがいた跡が一切見当たらない。

 寝てるだけのようにも見える。

 一体…何があったんだろう?

 サマイエイルが何かをしたことはたしかだ。


 この人を生き返らせるのはとりあえず後にして、俺はミカの元へと急いだ。

 想像したくもないが…ミカの魔法陣が消えていたり、連絡が一切ないことから、ミカもサマイエイルの技によって………。


 俺が最初に居た、国王様やミカがいる北口前へとたどり着いた。


 国王様は倒れている。

 大臣さんも、大司教さんも。

 騎士団長さんの姿は見えないけれど、あの人はバリアから出て前線で戦ってたから、しょうがない。


 国王様から人一人分離れたところで、ミカがうつ伏せになって倒れていた。

 魔力は一切感じない。



「ミカ……!」



 俺は駆け寄り、ミカを抱きかかえる。

 

 いつも抱きしめているミカとは違った。

 人の温もりを感じず、血の気がない顔をしてる。

 ミカが気分が悪い時でも、こんな顔色は見たことない。


 それに重い。

 死んだ人間の遺体は本来より重くなると聞いたことがあるけれど、まさにその通りなのだろう。

 また、ミカの首は重力に抵抗することなくグラグラとしている。


 ミカは青白い顔で、目をつむり、口を閉じ、眠っているようだが…さっきの兵士と同じように息をしていない。

 抱きしめようが、声をかけようが、肩をゆすろうが、何の反応もない。



 ふふふ………生き残ったのが俺でよかった。

 俺なら……ミカも、ここにいる人も全員生き返らせれる。

 仮に王都の中の住民もみんな死んでいたとしても、何の問題もない。


 サマイエイルの奴も馬鹿だ……彼奴は何を抱えていたかは知らないけれど、どうせみんな生き返る。

 結局、ほとんど人間側の無被害完全勝利なんだ。

 壊されたものも、俺が最初に作った5つの像のバリアだけだし。


 でも…この感覚は二度と味わいたくないな。

 生き返る、そうわかっていたとしても冷たくなったミカを見るのは心に来るものがある。


 正直、一生のトラウマもの。 

 

 ミカ、向こうでこんな気持ちだったのかな?

 俺が死んだ2週間。

 いや、そもそも地球で人が生き返ることなんて無い。

 もっと絶望した気持ちだったに違い無い。

 通りで、ヤケにこの世界にきてからのミカは、俺と居たがるわけだ。


 ……って、こんな考察なんてどうでもいいから、さっさとミカや皆を生き返らせて、日常に戻らないとね。

 カルアちゃんやルインさん達とも修行の約束してるしさ。

 ミカと一緒にやりたいことも、まだ沢山ある。


 俺はマジックポーチからアムリタポーションを取り出し、ミカに飲ませようとした。


 その時である。

 俺の周りに煙が漂う。


 そういえばメフィストファレスをまだ倒してなかったね。

 


「………みなさん……死んでしまいましたね?」



 メフィストファレスは俺に、そう、声をかけてくる。



「そうだね…でも生き返るよ?」



 そう言い返すと、メフィストファレスのピエロの顔が、可哀想な者を見る目や哀れに思う気持ちが合わさったような顔をした。

 いつものニタニタ笑いより、こっちの方が自然なのでは無いかと思えるくらい。人間らしい。



「アリムさん…残念ながら、一度死んだ人間は生き返りませんよ?」



 何を言っている?

 仮に、アムリタポーションのことを知らなかったとしても、レジェンドポーションも人を生き返らせられる。

 そのことを知らないのかな?



「いやいや、そんなこと無いよ? 死んだ人間は生き返らせられる。レジェンドポーションってのが有ってね」

「…………サマイエイル様…いや、あの悪の魔神の力は"絶対死"…。レジェンドポーションの効果は…意味無いのですよ」



 そうなのか、ゆくゆく恐ろしいな。

 でも、アムリタなら関係無い。

 俺のアイテムマスターから得た感覚が、そう言ってる。



「そう……なんだ」

「はい、ですがこれは貴方が導いたこと…あの悪の魔神を本気にさせるのが悪いのですよ? 普通に封印するだけなら、こんなことにはならなかった」



 そんなこと言われてもね。

 っていうか、その考察もたぶん違う。

 どうやら、サマイエイルの目的はメフィラド家の人達を根絶やしにすることだったっぽいし。

 どさくさに紛れて殺ったんだろ。



「ふぅん……」

「……貴方には話したいことが沢山あります。こんな状況ですが……すこし、付き合ってもらえませんか?」



 そう言いながら、メフィストファレスは白いハンカチを一枚取り出して、俺に差し出してきた。



「なんで……ハンカチ?」

「いえ……その、涙でもお拭きになられたら如何かと。目も真っ赤ですし」



 そうか、俺はいつの間にか泣いてたか。

 気づかなかった。


 俺は恐る恐るそれを受け取る。

 とくに罠も何も無いようだ。



「で…? 何を話しに来たの?」



 俺は一旦涙を拭い、メフィストファレスに言い放つ。



「お願いがあるのですよ……1つね」

 

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