第167話 過去の英雄
ルシフエイルこと、ヘレル・ベンサハルはメフィラド王国にて幼少のころから『ブレイブ』のスキルを持つ者……勇者として国に育て、鍛え上げられてきた。
本来の勇者ならば親元をすぐさま離れさせられ、一生をメフィラド城を中心に暮らしていくはずだったのだが、彼は元々、国に古く先祖代々つかえてきた騎士の出身であったため、親元を離れて寂しい思い……というのは全くなかった。
それに剣技は父親や祖父から、魔法は母親から教わってきていた。
彼の実力は、齢が18を超える頃には、SSランカー並の実力の持ち主となっていた。
これは『ブレイブ』のおかげというのは大きかったが、両親らの教え方がうまかった為でもある。
また、彼には幼い頃からの友が居た。
それは当時のメフィラド王国国王の娘、エルである。
歳が1つしか違わなかったということもあってか、この二人はとても仲良くなった。
もっとも、互いに他に友達はいなかったのだが……。
歳を重ねるたびに二人は互いを意識するようになっていき、いつしか恋仲になっていた。
それに反対する者は誰もおらず、当時の国王などは大手を振って賛成していた。
二人は幸せだった。
それに当時、150年間は悪魔神が復活していなかったため、自分らの世代でも奴らが復活することはないだろうと、高を括っていた。
ヘレルが18歳の誕生日を3ヶ月過ぎた日。
その日はエルの誕生日であり、また、互いが結婚の式を挙げると決めた日でもあった。
そんな大事な日に………悪魔はやってきた。
襲ってきたのは式が始まり、新郎新婦が入場する時のこと。
ひとたび、メフィラド王国全体を黒雲が包んだかと思いきや、そこから雨のように降り注ぐ悪魔の大群。
悪魔達は一瞬でヘレルやその場にいた者達が抵抗する暇もなく、エルを連れ去ってしまったのだ。
それは過去の悪魔らの行動からみれば、大きく奇怪であった。
なぜなら……その当時まで過去全て、悪魔が生贄目的でメフィラド家の人間を襲う際、極少数精鋭で襲ってくるからだ。
その理由は今でもわからない。
ただともかく、エルは悪魔に攫われた。
メフィラド王国の人間が悪魔に攫われる理由は悪魔神の身体となる為だ。
彼女らが悪魔神の身体となる…いや、成れる理由……それは昔からメフィラド王国には『他者のステータスを見れる』という特殊な力があった…と、同時に魔物や悪魔の魂を受け入れる体質でもあったのだ。
何故メフィラド家の一族がそのような不思議な力を持つかはわからない。
____エルが誘拐されたその日のうちにヘレルはエルの救出を開始した。
まずは勇者の剣がなければサマイエイルを封印し直すことができない。
その為に勇者の剣を探す旅に出た。
というのも、サマイエイルは普段、実体のない霊体であり、それは勇者の剣に封印されている。
その霊体が勇者の剣の効力が弱まった頃に勇者の剣から這い出てくるのだ。
そしてその後、メフィラドの血筋の者に入り込んで身体を得るのだ。
そして数ヶ月かけて意識を奪う。
もっとも、サマイエイルがメフィラド家の人間を狙う理由はそれだけではないようだけれども。
勇者の剣は前の勇者の剣の効力が弱まるのと共に、新しい物がどこからともなく出現する。
一説では神が用意しているのだとか。
場所はメフィラド王国国内のどこかだ。
ヘレルや国内の兵士達、軍用奴隷などが総出で国内をくまなく探した。
『ブレイブ』の称号があれば自ずと勇者が剣に導かれるのだが、その時はいかんせん、ヘレルと剣自体の距離が遠かったようで、勇者の剣をヘレルが手に入れるのには2週間もかかった。
勇者の剣が見つかった時点では、誰もが、すでにエルは生贄として殺されているだろうと諦めていた。ヘレルを除いては。
因みに、人間達は乗り移られてもその人物がしばらく生きていることは知らない。
勇者として、サマイエイルを見つけだし封印しなければならなかったこともあったのだが、第一に愛しいのエルを救うために、ヘレルはその後も何週間、何ヶ月もかけ悪魔神を探した。
そしてついに悪魔達の幹部3体と大幹部2体を倒し、サマイエイルを見つけ出した。
ヘルの森という、森の中で。
見つけだしたのは良かったのだが、すでにサマイエイルはエルのその身体を乗っ取っていたのだ。
ヘレルは酷く落胆した。
しかし、例え敵の姿が愛しい者だったとしてもサマイエイルは確実に封印しなければならない。
なぜなら、人に仇なす悪魔神であり……勇者以外にはどうすることもできない能力を持っているから。
道中、多くの悪魔や魔物を倒したヘレルは経験値が貯まりSSSランカーと同等の力を有していた。
それでもサマイエイルと勇者の戦いは丸1日続いたが、ついにはヘレルはエルの姿をしたサマイエイルの腹に勇者の剣を深く刺したことによって封印をすることができたのだ。
悪魔神は勇者の剣に吸い込まれ、意識のない死体だけが残る。
メフィラド王国の国民はこれによって救うことができた。
しかし、エルは救うことができなかったのだと……ヘレルは声が枯れるまで泣いた。
泣いて泣いて泣き明かしたその時に、道化のような男が紙切れを一枚持って現れた。
「ねぇ……貴方、愛しい人を生き返らせたくはありませんかぁ……?」
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