第165話 VS.叡智の悪魔

____西口



 パラスナは周りに隠していた秘密を何故か初見であるはずの悪魔に暴かれ、非常に困惑していた。



「『何故…わかったのか?』……そのような顔をしているな。貴様が獣人ということは…我の知識から憶測したまで」

「……!」



 さらに心の中を読まれパラスナは驚く。

 確かに、この世界には相手の心を読む魔法はある。

 だがしかし、相手であるベアルからはその魔法を使った様子が見られなかった。



「なんなのよ…あなた…」

「我か? さっきも言ったはずだ。我は大悪魔、ベアルだ。言っておくが貴様以外の者と話すつもりはないからな…我の声は貴様にしか聞こえぬぞ」

「訊きたいことはそういうことじゃなくて…」



 パラスナがそう、言いかけた時、再度、アリムによるバリアが辺り一面に貼られた。



「結界が復活したか……また、壊さねばならん」



 そう言って、ベアルはバリアの方へと歩を進めようとした。

 しかしそれは魔法陣によって防がれた。



「……やはり止めるか、獣人の魔法使いよ」

「当たり前じゃないのよ」

「それもそうだが……しかし、我に魔法で対抗するなど、無意味なこと」



 ベアルはパラスナの魔法陣の中心に織り込むように別の魔法陣を被せ、その魔法陣でパラスナの魔法陣をへし折ってしまった。


 

「嘘っ…!」

「我の叡智の集合の活用により…魔法陣などは無効するもの、容易い……」



 魔法陣をへし折ったベアルだったが、パラスナの予想とは裏腹に、自ら歩を止めた。



「……予定変更だ。まずは獣人の魔法使いの娘、貴様を殺す方が先だな。魔法陣を壊せたから良しとはいえ、魔力は桁違いだ。SSSランカー……やはり放ってはおけぬか」

「やれるものなら……やってみなさいよ」



 パラスナは巨大な魔法陣をベアルを中心として作り出した。



「どう? 壊せるかしら、この大きさ」

「問題ない、余裕」



 それをさっきと同じ方法で簡単に真ん中からへし折ってしまうベアル。

 しかし、やはり魔力の大きさではパラスナの方が上のようだ。



「やはり、強力だな……人族でも魔族でもない獣人が…魔法をここまで扱うとは……」

「……なによ、私が魔法をつかっちゃ、可笑しいっていうの?」

「いや、そういうわけではない。我はただ、驚いているだけだ。……ところで貴様の攻撃はもう終わりか? では次は我だな」



 そういうと、ベアルの周りには数多の魔法陣が浮かび上がった。

 数にして66枚。

 それもすべて高威力の魔法であり、標的としてパラスナにちょうどくるようにも調整されている。



「流石にこれは耐えられぬだろう?」



 ベアルは持っていた杖を地面にトンっと押し付けるとともに、すべての魔法陣から魔法が放たれた。

 パラスナはそれらを回避しようとせず、ただ見ているだけである。

 その理由は誰もがすぐに理解することになった。

 いや、もともと人間は知っている。

 今、初めて理解したの悪魔とベアルだけだ。


 ____彼女に当たったはずの魔法は全て消え去っていた。

 


「これは…面白い。まさか貴様には魔法が効かないのか?」

「そうよ。私には魔法が効かないの……貴方みたいに、魔法を折るなんていう、わざわざ面倒くさいことしなくても良いのよ」



 パラスナは先程より打って変わり、自分が優勢になったと実感している。

 彼女はまだ、敵に何かあるのではないかと勘ぐっていた。

 自分に対して知識があり、それに秘密まで暴いたから。

 しかし、今の攻撃でパラスナ全て悟ったのだ。

 自分のほうが、魔法に関しては格上だと。



「そうか……まさか互いに魔法が効かないとはな。やはり、知識以上のことが起こるのは面白い」

「お互い……? それは違うわよ」

「ふん…?」



 パラスナは脚をすこし大きく開き、杖を両手で横に持つ。

 そして彼女の紅い目はさらに赤く光った。

 これはパラスナが本領を発揮するときの構え。


 その構えを取ってからすぐに彼女から膨大な魔力が溢れ出る。

 その魔力はヘタをしたら、周囲に害を及ぼすほどである。



「今から…1000枚の最高魔法の魔法陣を作り出すわ。貴方には全部、壊せるかしら?」

「なんだとっ!?」



 その宣言通り、ベアルを無数の魔法陣が取り囲んだ。

 魔法陣が重なりあっているせいか、ベアルの姿が見えないほどである。



「さぁ、覚悟しなさい!」

「ははははは! 面白い、これは面白い! 森羅万象の大魔法使いの実力がここまでとは思わなかった! 1000枚は無理だ! これはまさに我の誤算! ……だが」



 誰からも見えていないがベアルはニタッと何かを企んでいるかのように笑った。



「我は他者の魔力に反応し、自爆ができる。ここにいる人間を…せめてこの魔法陣と同じ数だけ滅ぼそうぞ。さぁ、魔法を撃て! そしたら貴様らを道連れにする!」



 そういうや否や、ベアルの身体は膨らみ始めた。

 魔法陣で中の様子がわからずとも、ベアルから溢れる魔力で皆は敵がしようとしていることを察知していた。


 無論、パラスナも…である。

 パラスナは魔法陣を消した。


 

「良い選択だ、だが、こんなに魔力を使ったのだ、しばらくは動けまい。我の知的勝利だ!」

「……いいえ、違うわよ」

「なに? ………なんだその格好は」



 いつの間にかパラスナは握っていた杖をそこらへんに放り投げ、地面を手につき、今にも走り出しそうな体制をとっていた。



「魔法は…そうね、ただの脅しね……そしてこっちが本当の狙いよ。だって、貴方、魔法だと爆発するんでしょ?」



 唐突に皆の目の前かパラスナが消えた。

 いや、消えたのではなく、目で追えなかったのだ。

 彼女の跳び蹴りがあまりにも早い故に。


 まるで矢のように飛んでいったパラスナの跳び蹴りは、バアルのカエルの頭を撃ち抜いた。

 常人では考えられない脚力である。

 


「ぐぼぉっ……がばっ……やはりっ…獣人っ……魔法で肉体強化をしているとはいえ……この脚力は…兎族かっ………がはっ……見事」



 それがベアル最後の言葉であった。

 パラスナはさっきの衝撃が嘘であるかのように、ふわりと地面に降り立った。



「ま、最大魔法の魔法陣千枚なんて、朝飯前なんだけどね」



 一人の少女がパラスナに近づく。



「ひぃ…パラスナさん、体術もできたんですねぇ、驚きました」

「まぁね…昔とった杵柄ってやつかしら?」





















「なぁ、パラスナさんが降り立った時よぉ…一瞬、見えたよな?」

「あぁ、黒だったな」

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