第164話 VS.蝿王の悪魔

____東口




 ラストマンは正義を執行する、そう決めゼリフを言ったものの内心は、唐突に腕が腐り落ちたことにとても驚いていた。


 それはバルゼブブも同じ。

 彼もラストマンから生えてきた手を見て驚愕している。



「うわぁ…お前、手が勝手に生えてくるのかよ…本当に人間か? いや、見た目からして人間じゃねぇか……」



 蝿の口が忙しなく動き、人の言葉を話している様は、虫が嫌いな者にとっては洒落にならないだろう。



「どっちにしろ、お前を殺さなきゃいけねぇんだよ……いくら再生できるからと言って、頭を腐らせちまえば、死ぬだろ?」



 そう言い放つと共に、バルゼブブはラストマンに突撃をした。

 その速さは、流石は蝿と言うべきか、常人では目視することもできないはずの相当なスピードであったが、ラストマンは難なくその突撃を片手でいなして捌き、回避した。

 しかし、その捌く際にバルゼブブの身体に触れた手が、再びまるで長年放っておいた生肉のように腐ってしまった。



「へぇ……かわせるのか。それも何時まで続くのか」

「フン…ソノ程度ノ速サ、私ハ経験済ミダ」



 そうは言ったものの、ラストマンは非常に困惑し、思考を張り巡らせていた。

 この場で、恐らくはバルゼブブのスピードに対応できるのは自分だけ。

 それに、能力を見る限りでは触れたものを腐らせる能力。

 今は自分一人に標的が定まっているから大きな被害は出てないが、もし仮に自分がやられてしまったら莫大な被害が出る。

 それこそ、対応できるのはギルマーズさん位になってしまうだろう。

 なら、迅速に奴を倒さなければならない。


 そう、ラストマンは考えていた。


 再度、彼は皆に呼びかける。



「スマナイガ…ソロソロ本気ヲ出ス。皆、危険ダカラ、モット離レテイテクレ、頼ム」

「あ、あぁ」



 ラストマンの呼びかけ通りに他の者達はラストマンとバルゼブブから距離をとった。



「へぇ…どんな技を使うんだ? 言っとくが、俺は魔法も武器も腐らせる……さぁ、どうするんだ?」

「コウスルノダ」



 ラストマンの姿は一瞬でドラゴンとなった。

 これも彼の能力の1つである。

 ドラゴンに変化してすぐに、口から炎の火球をバルゼブブに向かって吐き出した。



「ふぁっ!? ヤベェな、お前っ! おもしれぇーよ」



 バルゼブブは火球を難なく超スピードでかわしてしまった。

 


「はっはー! 残念だったなぁ…」



 蝿の悪魔は火球を交わした後の身体を翻し、再度、ラストマンに向かって突撃をした。



「それに、ドラゴンに化けたのは悪手だったと思うぜ? なんせ、巨体になったテメーは俺の攻撃をかわせないからだ!」



 バルゼブブの言う通りである。

 ラストマンはドラゴンという巨体に変化してしまったためか、その突撃をかわすことができなかった。

 故に、彼はドラゴンの頭部にその突撃をくらってしまったのだ。


 ラストマンのドラゴンの頭部は腐ってしまった。

 そして、だんだんと身体の方も動きを止める。



「はぁっは…俺の勝ちか…案外弱かった………だがなんだ? なんか腑に落ちねぇ」



 バルゼブブは確かな手ごたえを感じたが、違和感も同時に感じていた。

 それは周りの者も同じだ。



「なぁ…今、ラストマン、自分からあいつに頭を向けたよな?」

「あ、あぁ…」



 そう、ラストマンはバルゼブブの突撃に対し、自ら当たりにいったのだ。

 その理由は誰もわからない。


 ……そう、本人以外は。

 ラストマンにとって、相手に触れること、それ自体がバルゼブブを倒す準備なのだ。


 ラストマンが化けたドラゴンの背中に突然に切れ目ができた。

 そしてそこから、まるでバルゼブブに触れられたかのようにドラゴンの身体が腐り始める。

 しばらくして、ドラゴンの遺体の中からラストマンが出現した。



「ヤット…準備ハ終ワッタ。バルゼブブ、オマエヲタオス!」

「……生きてる…か……どうなってやがる?」

「私ハ皆カラ、不死身のヒーロー…ト、呼バレテイル。的ヲ得テイルダロウ?」



 ラストマンは動き始めた…と誰もが考えた次の瞬間にはすでに、空を飛んでいるバルゼブブの背後に来ていた。



「!?」

「速イダロウ? コレハSSランク……韋駄猫トイウ魔物ノ、素早サヲ模シタノダ。韋駄猫ノ速サニ比ベタラ、オマエノ方ガ遅カッタヨウダナ」



 ラストマンの脚をよく見ると、それは特殊な構造をしていた。

 それが、その脚の構造こそが韋駄猫の速さの特徴である。


 バルゼブブの背後に来たラストマンはバルゼブブの腕を左手で掴んだ。

 しかし、その左手は腐ることはない。


 バルゼブブは何故、この異形の男が自分の腕を掴めているかを理解できなかった。



「どっ……どういうことだ!?」

「………知リタイカ?」



 離れようとバルゼブブはもがくが、異常な握力により逃れられない。

 その上、ラストマンの身体中からは、いつの間にか大きな黒い羽と、無数の触手のようなものが生えてきており、その触手の全てがバルゼブブを絡め取ろうとしている。

 それらはすべてバルゼブブの身体に触れても腐ることはなかった。



「離せっ…離せ、この化け物っ!」

「…………オマエハ言ワレタクナイノダガ……」



 空中に飛んだまま、バルゼブブの身体を触手が包んでいく。



「冥土ノ土産ダ、何故…私ガオマエニ触レテ有大丈夫カ教エテヤロウ」



 触手がバルゼブブの頭以外を残し、全て包み込んでしまった時、ラストマンはバルゼブブにそう、問いかけた。

 その声はあまりにも小さく、間近に居るバルゼブブにしか聞こえていないようである。



「この俺のSK2…クリーチャーマスターの能力は2つある。1つは自分の身体を自由にできること。すぐに身体が癒えたりするのはそのためさ」



 触手はバルゼブブを強く締め付ける。

 さらには、何やら酸のようなもので身体を溶かしているようだ。



「もう1つは身体構造の把握とコピー。何度か触れた相手の身体上の構造を模倣することができる……さっきのドラゴンだってそうだし、今、バルゼブブに触れていられるのもそう。君の身体を模倣して、腐食の耐性をつけたんだ…………って、もう聞いてないね」



 説明をし終えたラストマンは触手を身体から切り離した。

 触手の中ではバルゼブブが触手から分泌された捕食のための酸により、身体を溶かされ絶命していた。

 この亡骸はこれから触手の一部となり、その後触手は地面に還るのだ。

 

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