第155話 悪魔非ざる者ら

 ルシフエイルという悪魔は、サマイエイルが去った後、他者がいない静かな場所で一人、歯を食いしばり拳を握っていた。



「……ついにサマイエイルが復活してしまった」



 彼は誰に言うでもなくそう呟いた。

 だが、その独り言を聞いていた者が一体…いや、一人居た。

 メフィストファレスだ。



「おやぁおやおやぁ? 何を言ってるんですかねぇ? ルシフエイル…さん?」

「! …居たのか、メフィストファレス」



 ルシフエイルはおもいきりメフィストファレスを睨みつけた。



「嫌だなぁ…そんなに怖い顔、しないでくださいよ」

「盗み聴きする奴なんぞ、睨まれて当たり前だろ」

「はっはっはっ! それはそうですねぇ」



 メフィストファレスはわざとらしく、腹を抱えて笑っている。

 ただ、目は笑ってない。



「…で、あなた。俺との契約…忘れた訳じゃないですよね? サマイエイル様を裏切るような真似でもしてみなさい」



 メフィストファレスは唐突に、懐から一枚の紙を取り出した。

 それには"ヘレル・ベンサハル"とサインがしてある。

 かなり古い紙のようで詳しい文字は霞んで読めないが、そのサインと『契約違反をした者は死ぬ』という文字だけはハッキリと浮かび上がっていた。



「……わかっている。この外道めが」

「はっはっはっ! 外道ですって、これは手厳しいですねぇ…貴方も俺も、道を踏み外したのは同じじゃないですかー、やだー!」



 メフィストファレスはニタニタと笑いながら、ルシフエイルの周りを意味もなくぐるぐると回っている。



「ねぇ、ルシフエイルさん? 300年も頑張ってきたんですからぁ~………サマイエイル様が御復活なさった事、喜んでも良いんじゃないですか? 貴方の望みも叶うのですよ?」

「300年か……実際活動したのは、ここ十年程だけ。それまでの間は眠っていただろ、俺もお前も……悪魔共も」



 この場はこの二人の会話以外はほぼ無音である。

 故に、ルシフエイルの憎しみがこもったような"悪魔"という単語はメフィストファレスの耳にはよく聞こえた。



「悪魔という言葉を俺達と別にしないでくださいよー! 今は悪魔ですよ…俺も貴方もね」

「今は悪魔…か…」

「ええ、人間の敵、"悪魔"ですとも。今回の戦争で人をたぁーくさん、殺して貰いますからね?」

「くっ………」



 ルシフエイルは唇を噛み締めた。

 暗い表情に不健康そうな身体の色に反し、彼の羽根は彼を皮肉っているかのように、光り輝いている。



「……そうだ、前から訊きたかったのだが…一つ良いか?」



 ルシフエイルは思い出したように、メフィストファレスに問いかけた。



「まぁ、答えられることなら、どうぞ」

「お前の目的はなんだ? サマイエイルの復活が最終的な目標ではないのだろ?」



 そう、ルシフエイルが問うがメフィストファレスはニタニタと笑っているばかりで答えようとしない。



「…何か言ったらどうだ」

「ま、一つ言えることはお答えできません、という事ですかね。貴方には関係ありませんから」

「…………そうか」

 


 ルシフエイルはチラッとメフィストファレスの顔を見た。

 口はニタニタと笑っているが、目の表情はどことなく悲しそうであり、また、その眼は此処ではなく、どこか遠くを見ているようだった。



「おぉーい、お二人共……探しましたわい」



 バサバサと羽音を出し、アモンが二体の元に飛んできた。



「おぉ! これはこれはアモンさん。どうかしましたか?」

「我主が幹部全員を収集しておるでの、来なされ」

「了解でぇーす」

「………わかった」



 メフィストファレスとルシフエイルは頭に生えている翼で飛んでいるアモンの後ろをついていく。

 少し進んだ時、不意にアモンは話し出した。



「…そういえばメフィストファレス殿。今朝貴方を予言した結果、『目的は全てうまくいく』と出ましたが……それはサマイエイル様復活の事で?」



 その話を聞いたメフィストファレスはとても嬉しそうに笑った。

 それこそ、今度は目も笑っている。



「え…ええ、そうですよぉ! やはり、貴方の予言の的中は100%! 本当、凄い力ですよ」

「ホー! 褒められるとは、この『予言と言葉の悪魔』アモン。嬉しい限りじゃのぉ」



 それを聞いていたルシフエイルはすぐに、アモンはメフィストファレスの他の計画の方が上手くいくことを言っているのではないかと考えた。


 アモンの予言は今まで外れた事がない。

 それこそ百発百中であった。



「あ、そういえばアモンさん、ルシフエイルさんはどうでしたか?」

「あぁ、ルシフエイル殿かの? 一昨日予言した結果、『途中で大いなる難関はあるが、最終的には願いが叶う』と出たんじゃよ。 そういえばルシフエイル殿は生き返らせたい人間が居るんじゃったか? 良かったのぉ…多分生き返るぞ」

「そ…う…か」



 ルシフエイルは唇を強く噛み、悔しげな表情をして居る。

 彼の願いが叶うということは、今回戦う人間は悪魔の手によって滅ぼされるということ。

 それは彼にとって解せなかった。


 しかし、それでも、ルシフエイルは愛しかった者を生き返らせる方が最優先なのだ。

 今現存する者達を根絶やしにしてでも。


 3体は暫くして、サマイエイルがいる所にまでついた。


 

「おぉ、来たか…遅かったではないか。……まぁ良い。これから人間共を滅ぼす為の策を練るぞ。メフィストファレス、頼む」

「はぁい! 私にお任せあれ」



 そう言ってメフィストファレスはお辞儀をした。

 

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