第148話 当日-1-
俺はこの城の使用人さん達がカチャカチャと慌ただしく動いている音で目覚めた。
カルアちゃんはまだ寝ている。
ミカは既に起きていて、寝巻きから着替え、座禅のようなものを組み、椅子の上で動かないでいた。
ミカの周りに魔力が渦巻いてるのがわかる。
瞑想は成功してるようだ。
ミカに昨日のお返しとして今のうちにキスをしようと思ったが、それは流石にやめておいた。
邪魔になるだろう。
俺は昨日選んだ服に着替え、カルアちゃんの部屋から出た。
そして、とりあえず大臣さんにメッセージで、起きたことを伝えると、食堂で朝食を摂った後、玉座の間に来るように言われた。
指示通り、食堂にてパンとスープを、食べ始めたと同時にカルアちゃんも食堂に来たので、一緒に朝ごはんを食べた後、二人で玉座の間に来た。
既に玉座の間には大臣さん、騎士団長さん、大司教さん、国王様が居た。
それとティールさん、ルインさん、オルゴさん、リロさん、ミュリさん。
さらには、ウルトさん(ラストマン)、パラスナさん、ギルマーズさん。
その上、メディアル商人組会会長のマネさんが居た。
バッカスさんも居る。
ただ、SSランクの冒険者は彼しか見当たらないから、おそらく酒造屋さんとして居るんだろうね。
その他にも俺の知らない偉そうな……いや、権力や実力などがありそうな人達やその護衛のような人が大勢いる。
「バゥっ!? 君がアリムかね?」
俺に気づいた杖をついた犬耳の老人がそう、声をかけてきた。
その声は老人とは思えないほど大きく、この場にいるみんなの耳には十分届いたみたいで、俺に一気に視線が向けられた。
カルアちゃんは俺から2歩ほど後ろに下がり、距離をとった。
目立つのが嫌だったのか…?
いや、俺をわかりやすくするため、空気を読んで下がったんだろう。
俺はより、視線を浴びることとなった。
なんだか恥ずかしいような、緊張するような。
とりあえず、さっきの犬のお爺ちゃんに返答をした。
「はい、そうです」
そう答えるや否や、俺の前にゾロゾロと人が何人か寄ってきた。
中には握手を求めてくる人もいて、それに一人一人対応している。
さっきは気づかなかったけど、思ったより見知った顔も多い。
「はぁーーい! アリム・ナリウェイ選手…もといアリムちゃん! オレ、わかるかな?」
そう、声をかなりハイテンションめでかけてきた人がいた。
誰だ、この人。見たことあるぞ…えっーと、武闘大会の時の……?
そうそう、司会の人だ。
俺を【天の魔剣少女】って名付けた人。
それによくよく見るとこの人、誰かが勝手に作ってるって噂で聞いた、俺の顔がプリント(模写)してある装備品をしてるではないか。
それもそこそこの数。
いくら俺が周りに愛想を振りまいてるとしても、流石にそれは恥ずかしいんだけど。
あれだな、この人。
地球だったらアイドルの痛車とか作るタイプの人だな。
「えっと、武闘大会の時に司会をしていた……」
「そうでぇーす! カイム・スピーチャーでぇーす!」
そうそう、カイムさんね。
とりあえず、そのアリムグッズをはずしてもらうように頼んでみる。
「あの、カイムさん……」
「うぉぉい! あのアリムちゃんに名前を呼んでもらったぞっ! 会員の皆に自慢できる! ……それで?」
「その……ボクの顔が描いてあるハンケチとか、サングラスとか、外してもらって良いですか? 恥ずかしいのですが……」
するとカイムさんは一瞬、不機嫌そうな悲しそうな、驚いたような顔をした。
「恥ずかしい!? オレはアリムちゃんに恥ずかしい思いをさせてたのか! なんて失態だ、オレは"アリムちゃんを愛でる会"会長失格だぜ……」
あ…アリムちゃん愛でる会の会長だ……と……。
この人が会長だったのかよ。
「いや…あの…ボクを愛でる会って…最近噂の」
「そうだぜ! オレが創設した、アリムちゃん好きがアリムちゃん好きに送るアリムちゃんとアリムちゃんファンのためのアリムちゃんファンが集まった会だぜ! ちなみに会員は既に7000人居る! 他国の会員とかも合わせてな」
「な…7000人!?」
マジで驚いた。
7000人ってなんだよ。たった1~2ヶ月でなんで俺のファンがそんなに居るんだよ…。
それに他国って…俺はいつの間にかメフィラド王国以外にも浸透してたのかよ。
いや、だからって俺のグッズを勝手に作って良いわけじゃないだろうに。
「は、はぁ…それは…えっーと、応援してくださってありがとうございます…かな? でもその顔が描かれてるグッズはやめてほしいです。カイムさんだけじゃなくて…会員さん全員に」
「くそぅ……わかったぜ! 嫌なら仕方ない。次の会合でそう言っとく! あ、もうこれ以上アリムちゃんに時間取らせるわけにはいかないぜ! じゃあな」
そう言って彼はトボトボと俺に手を振りながら人ごみの中へと戻っていった。
そんなにアリムグッズを身に付けたいのか?
だがさせない。これでそんな恥ずかしい物を身につける人は減るだろうね。
俺の熱狂的ファンのカイムさんが去ったすぐに、俺は肩を杖で叩かれたような感触がした。
そちらを振り返ると、ピピー村の村長であるジーゼフさんが居た。
「ふぉっふぉっふぉっ……アリムちゃんを愛でる会か……アリムや、災難じゃの」
「ジーゼフさん!」
ジーゼフさん、元気そうだ。
「ふぉっふぉっふぉっ! お主の活躍は聞いておるて」
「ありがとうございます。村の皆さんは元気ですか?」
「あぁ、元気じゃぞ。いつも村でお前さんの活躍と瓦版を楽しみにしとるぞ、皆。そうそう…ついにはあの、勇者になるんじゃろう? まさかあの時の少女がこんな短期間でこんな事になろうとは、誰が想像できたか」
良かった、村の皆は元気なんだね。
だいぶお喜びの様子で、ジーゼフさんはそう言った。
それはそうと、なんで俺が勇者になる事を知ってるんだろう?
まだ公表はしてないはずなんだけれど…。
いや、まさか。
「ところでジーゼフさん、まだ公表はしてないはずなんだけれど、なんでボクが勇者になる事をご存知で?」
「なに? 知らんのか。昨日の夕方に瓦版の号外が村でも、どうやらこの街でもばら撒かれてたぞ」
やっぱりね。
いつも思うけれど瓦版、情報早すぎでしょ。
まるでインターネットのニュースのようだ。
つーか、どっから情報漏れてんだよ。
この城の中に潜んでるとかか?
記者すげーな。
「瓦版…情報早いですね…」
「まぁ、瓦版はそんなもんじゃよ。ふぉっふぉっふぉっ……それはそうとアリムや」
「はい」
ジーゼフさんは笑うのをやめ、真剣な表情になった。
あの日、俺に人生を楽しめと言った時の顔と全く同じ顔だ。真面目な顔なんだけれど優しさに溢れてる。
「正直、お前さんが勇者になると聞いた時は耳を疑った。お前さんはまだ幼いからな……心配じゃった。だがな、いまはそんな心配はしとらんのだ。長年の勘がこう言っておる…『アリムは心配ない』とな」
「っ…はいっ!」
俺は強く頷いた。
「うむ、伝えたかったことは伝えた。じゃあの、アリム」
満足気にジーゼフさんは去っていった。
俺が去っていくジーゼフさんを目で追っていると、肩をトントンと後ろから叩かれた。
俺は顔をそちらに向ける。
その時、ほっぺに指がささった。
「噂通り、アリムちゃんのほっぺは触り心地が良いわね」
そこには、尖った耳に整った顔、まるで品定めでもするような手つきで俺のほっぺをつつく、マネさんが居た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます