第147話 勇者宣言 前夜

 カルアちゃんの部屋から5人が去り、俺、ミカ、カルアちゃんが残った。



「アリムちゃん、今、メッセージでお父様から許可を頂きました! この戦いが終わったら是非、特訓を御一緒させてくださいね」



 そう、彼女は満面の笑みで言った。

 良かった、許可が取れたんだね。



「良かったね、カルアちゃん! ほら、アリム。こうなったら戦争なんか早く終わらせて、みんなで修行しよう」

「うん、そだね」



 俺はにっこりと笑って頷いた。



「…と、その前にアリム、明日の着る服を決めなきゃね」

「ふぇ…なんで? いつもの服で良くないかな。ボクの服、高級だよ? 高級」



 「はぁ」と、ミカは一つ大きく溜息をつく。

 服なんて別にいい気がするんだけどなぁ…今着てるような、清楚系セレブな雰囲気の服で十分だって。



「確かに…普段の服でもアリムは良いかもしれない。だけどさ、ほら、勇者だよ? 勇者! なんかすごくない? だからいっその事、伝説級の服でも着たらどうかなって。だって歴史に残るかもしれないんでしょ?」

「そうですね! ミカちゃん、それが良いかもしれません」



 というわけで、俺、ミカ、カルアちゃんの3人でダークマターを駆使し、明日着るための服や装飾品一式を揃えた。すべて伝説級。

 そのまま戦いに出ていけるようなエンチャントもつけまくってる。主にステータス倍増系のやつ。


 あぁ、あとあれだ。

 あのピエロの強制契約ね、あれも無効化する効果をスカートにつけといた。

 とりあえず、『装備者に対する精神的異常を無効化する』っていう効果だけどね。


 やっぱり、3人いれば様々な意見が取り入れられるからか、過去最高に俺に似合う、良いデザインだ。


 

「明日、化粧とかした方が良いかな?」



 俺がそう尋ねると、二人はほぼ同時に首を横に振った。

 


「いらない、いらない、このままで十分」

「そうですね、化粧はしない方が良いですよ」



 二人共がそう言うもんだから、化粧はしない事になった。

 こういう場合って化粧必要なものじゃ無いの?

 今まで化粧なんてしたこと無いからわかんないや。

 

 その後、勇者としての発言の仕方や振る舞いの練習を少しだけした。

 結論を言うと、勇者として公衆の面前に立つ時も普段のように振る舞う事になった。


 勇ましさとかは必要無いらしい。


 カルアちゃん曰く、可愛らしい勇者も有りなのでは無いか、とのこと。

 

 勇者としての振る舞い練習を終わったら既に11時。

 明日は朝の6時には起きた方が良いだろう。


 というわけで、寝巻きに着替え、カルアちゃんの大きなベットに3人で寝た。

 前に来た時のように、俺が真ん中。

 寝づらいとか、そういうことは別に感じてない。

 まぁ、俺も女の子だしね。

 

 ベットに包まってから大体15分程経ったくらい。

 唐突にカルアちゃんが俺にメッセージを送ってきた。

 この状況でメッセージを送ってくるという事は、何か二人だけで話したい内容なんだろう。

 


【どうしたの?】

【私…不安なんです、アリムちゃんとミカちゃんが他の人とは比べ物にならないぐらい強いって言っても……】



 …そうか、不安を無くさせるためにステータスを見せたのに、それでも不安は残ってるんだね。



【大丈夫! ほら、仮に死にそうになったとしてもポーションは一瞬で作れるしさ、ボクとミカがやられちゃうような事は無いって!】

【そうですね。やっぱりアリムちゃんは頼もしい…そして強いです】

【うん、戦いなら……】

【違いますよ、精神的な方です】

 


 精神的な方が強い? 

 そうかな…俺自身そうは思わない。

 精神力…つまりMPを使いすぎて今日も倒れかけちゃったし、もし仮にミカ…それとカルアちゃん達が戦争で傷つきでもすると思うと、すごく胸が苦しくなる。



【強くないよ、精神は】

【そうですか? では何故それ程落ち着き払っているんですか?】



 あ、そうか。

 俺が落ち着いてるのを見て、精神が強いと判断したんだね。

 でも、これは慣れというか何というか…。

 

 俺は地球に居た頃、RPGのゲームでは大抵ラスボス前にレベルMAXにしたりしてたお陰か、ラスボスにはまったく緊張しないんだ。

 悪魔神サマイエイルも…人に聞いたり、文献を見る限り、言うなればラスボスの様なもの。


 それに加え、例の如く俺はレベル255を181回経験している。

 こうなったら緊張感なんて皆無なんだよね。



【ん…まぁ、自信があるから…かな?】



 俺は、そう、答えた。

 カルアちゃんは俺の目をじっと、暗闇の中でもわかるほどに見つめている。



【そうですか。やっぱりアリムちゃんは強いです! 私も…さっきまで怖かったんですが…何だかアリムちゃんのお陰で勇気が湧いてきました。なぜでしょう?】

【そうなの? 良かったね】

【はい! では…明日、早く起きなければならないのでもう寝ますね。御休みなさい】

【うん、御休み】



 カルアちゃんは目を閉じた。

 そうか、カルアちゃんは不安だったのか。

 でもそれは今、晴らすことに成功したみたいだ。

 じゃあミカはどうなんだろう?


 因みに、ミカも寝付けてないみたい。

 ミカが完全に寝付いたら、近くにある物に抱きつくはずなんだ。


 これはこの世界に来てから知ったこと。

 地球でも多分、俺が渡した熊の人形にでも抱きついて寝てたんだろうね。

 

 マイホームでは添い寝してる時、よく俺の腕にしがみつく。

 でも今はしない。

 人前だから…という事はないだろう、前にカルアちゃんの部屋で3人で寝た時は腕にしがみついてきてたから。

 

 というわけで、起きてると判断し、ミカにメッセージを送ってみる。



【ミカ…起きてる?】

【ん】



 そう送ってくるなり、ミカは向こうに向けていた顔と身体をこちらに翻した。

 カルアちゃんの時もそうだったけど、ほとんど0距離だから顔が真近くにある。



【…ミカさ…明日は起きるなりすぐに瞑想するんだよね?】

【うん、する】



 ミカは首を縦に振った。



【あ、そうだ。アリムが勇者として公に宣言する時、映像として残してくれる? 戦争が終わったら見るから】



 ミカが変なこと頼んできた。

 なんだよ、そんなの見て何になるんだ?

 


【そんなの見てどうするの?】

【……なんとなく? 見たいの、ダメ?】

【そう? うーんまぁ、撮っておくけどさ】

【えへへ、ありがと】



 そうメッセージで御礼を言いつつ、ミカは布団のなかで俺の手を握った。



【ねぇ、アリム、もう一度言うけれど……本当に本当に、無茶しないでね? 私、またアリムが倒れちゃったりするとこなんて見たくないもん】

【しないよ、ミカこそ無理しないでね。ミカが倒れたりするとこなんて、俺…見たくないからさ】

【努力する 】



 思わず一人称がアリムのまま"俺"に戻ってしまった。

 なんでだろう。こんなこと、滅多に無いのに。

 もしかして。


 やっぱり俺も不安なんだろうか。

 カルアちゃんには大丈夫だと言っておいて、

サマイエイルと戦うのが…。

 


【アリム、私、もう寝るね】

【うん、御休み】



 そう言うや否や、不意にミカは俺に一瞬キスをした。完全に不意打ちだ。



【ふえ!?】

【ふふ、実は思い詰めてるでしょ?】

【なんでわかったの? なんでキスしたの?】

【何年一緒に居ると思ってるの? それと…後者は気にしないで】



 俺の気持ちが見透かされてるなんて。

 …なんか、ミカには将来、そのうち言葉ではかなわなくなる気がする…。


 それにキスを気にしないでとか若干無理があるな。

 けれど、なんだか落ち着いたような気がする。



【ま、とにかく。今度こそ御休み】

【うん、御休み】



 ミカはさっきのように、向こうに身体と顔を向けた。

 俺は唇にさっきの感触を残したまま眠りについた。

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