第186話 故郷 09

 平和が好きだった。


 今まで平和を捨て去ってジャスティスを破壊し尽すべく行動していたクロードが何を言っているんだ――とは自分自身でも思っていた。

 だが彼の根幹は――復讐の根幹は――平和を破壊されたことだ。

 自分自身が何もしなければもっと破壊される。

 ただ、唐突に力を持ったから、それを破壊されることを防いだ。

 その最も近い矛先が『ジャスティス』だった。

 だからジャスティスを破壊することを決めた。

 それがだった。


「単純だよな、俺……」


 クロードは自虐的に笑おうとする。

 でも笑えない。

 それは否定の意を、無意識に身体が行っているだけなのかもしれない。

 だが、ここで気が付いたことは無駄ではない。

 今、座っている椅子のように――支えているものがあった。

 間違っていたことは間違っていたと認めよう。

 いっそ今ここで――


 


 目先の正義は破壊しよう。

 ジャスティスを破壊するだけではない。


 クロードは決意した。

 色々な言い訳をして、考えようとしなかったことを。

 ――実は頭の片隅で思っていたことを。


 そんな新たな自分の『正義』を実行することを。

 そして――



 と、その時だった。


「……音?」


 静かなこの場所に向かって、何やら鉄が擦れるような音が聞こえてくる。

 聞き覚えのある音だった。

 トラウマにもなりかねない音。

 

 ただあの時とは違うことが幾つかある。


 木々を薙ぎ倒す音が無いということ。

 クロードが自分に異能の力があることを知っているということ。

 加えて――


『ここにいたのですか、クロードさん』


 現れた黒色のボディの二足歩行型ロボット。

 正義の名を冠するロボット――ジャスティス。


 それに搭乗しているパイロットが自分の味方であった、ということだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る