湖畔の戦闘

互いの事情を、ティアと話し合った。


ユファレートがサンの家から離れた後、襲撃があったという。


そこへ、デリフィスとルーアがやってきた。


ユファレートたちが警察に追われる立場となったことを知って、捜していたらしい。


撃退することはできたが、サンは捕まり、サンの母親であるエミリアという女性は負傷。


ティアとデリフィスはサンの救出のためにサイラスを追跡。


ちょうどアジトのビルに突入するところを、ズィニアを追跡していたユファレートとテラントは、見掛けることになった。


ティアが左腕を負傷した。

しばらくは、まともに動かせないだろう。


それでも、サンを救出することには成功した。


ルーアとシーパルは、エミリアの治療のためにサンの家に残っているという。


まずは、彼らと合流することを目指すべきだろう。


途中で、大破した馬車の残骸に座り込んでいた、スキンヘッドの大男と出会った。


警官の制服を着ていたのでユファレートは緊張したが、デリフィスの知り合いらしい。

元傭兵仲間だと、紹介された。


サン救出のための追跡に、協力してくれていたようだ。

名前は、ダネットという。


傷の手当てを、当人とデリフィスに頼まれた。


よくわからないが、女の魔法使いの治療じゃなければ嫌らしい。


治療の間、ダネットは笑っていた。


街を出歩いている時に、声を掛けてくる男たちと、似たような笑み。


下心が見える笑い方。

だが、少しだけ違うか。


わざと道化の様に振る舞っていると、ユファレートには感じられた。


ダネットも加わり、六人でサンが暮らすアパートの近くまで戻った。


通報があったのだろう。

警官たちが、現場検証をしていた。

あまり近付けない。


テラントが双眼鏡で様子を観察したが、ルーアやシーパル、エミリアの姿は見当たらないという。


警察に捕まったのか、保護されたのか。


危険を察して、移動したのかもしれない。


行き先に心当たりがある、とサンが言った。


ここからしばらく歩いた所に、エミリアが所有している別荘があるという。


有事の時のために、事前に準備していたらしい。


夜となっている。

暗がりの中、月明かりと魔法の明かりを頼りに進んだ。


雑木林を抜けると、湖の畔へと出た。


何軒か、ぽつぽつと家が建っている。


一軒の館を、サンは指差した。


「あそこです」


館には、明かりが点されていた。

サンの予想通り、ルーアたちがいるのだろうか。


まだ距離がある。


湖の近くなためか、少し靄が出ていた。


それと夜の闇のため、視界が悪く、館の大きさがわかりにくい。


遮る男たちの姿があった。


中央にいるサイラスを認め、デリフィスが小さく笑って前に出た。


テラントは魔法道具を抜き、注意深く周囲に眼をやっている。


「……五人だと?」


サイラス、顎の尖った魔法使い、兵士が三人。


魔法使いは、ティアたちの話にあったエランという男だろう。


たった五人だった。

潜む者がいないかとテラントが疑うのも、当然である。


「五人だ。儂らだけで、お前たちの相手をさせてもらう」


サイラスが、槍の穂先を向けて構えた。


なぜ、彼らはここにいるのか。


疑問が湧いた。


追跡していたのか。

だが、事前に行き先を知っていなければ、先回りをして待ち伏せなどできなくはないか。


気にはなったが、まずはこの五人を追い散らす方が先決だろう。


こちらは六人。

だが、実質三人と考えた方がいい。


ティアとダネットは負傷して治療を受けたばかり。

サンは戦えない。


「下がってて」


三人に言って、ユファレートはその前で杖を握り締めた。


さらに前には、テラントとデリフィスがいる。


サイラスの姿に逸っているのか、デリフィスの方が一歩前に出ていた。


サイラスが踏み出す。

それに合わせるように、デリフィスもさらに一歩前に出た。


突然、兵士三人がデリフィスへと突っ込んでいった。


そして、デリフィスと兵士三人を迂回するようにサイラスが横に移動した。


その眼光は、しっかりとサンを捉えている。


彼らの目的は、ユファレートたちを倒すことではなく、サンを捕まえることにあるのだ。


ユファレートは、杖を槍遣いの老人へと向けた。


魔法の爆音が警官を呼ぶ恐れがあるが、手加減してどうにかできる相手ではない。


間に、テラントが割り込んできた。

サイラスの突進を受け止める。


「デリフィス!」


サイラスの突きを弾きながら、怒鳴る。


「てめえがやりたいんだろがっ! とっとと代われ!」


「わかってる!」


言うが、デリフィスは動けないようだ。


兵士にしては、動きが良かった。

槍を持つ者が二人。

深くは踏み込んでこない。


もう一人は、離れた所から短剣を投げ付けている。


倒すよりも、標的の足止めが狙いという戦い方。


「ファイアー・ボール!」


サイラスとは逆の方向へと動いていたエランが、火球を放ってきた。


加減をされているのがわかる。

魔力障壁で、簡単に防げた。


「いいねえ!」


腰のベルトから、短剣を抜き取るエラン。


「ユファレート・パーター! あのドラウ・パーターの孫娘か! 全力を出しても良さそうだ!」


(ティアの話だと、シーパルに押されてたらしいけど……)


それは、サンがいたからだろう。

彼を巻き込むことを考え、全力を奮えなかった。


「ユファ!」


「もう少し下がって!」


ティアに告げて、意識をエランへと集中させる。

その腕が、一閃された。


短剣の投擲。

あまり鋭くはないようだが、杖で叩き落とすような技術はユファレートにはない。


身を翻しかわすくらいはできそうだが、背後には怪我人とサンがいる。


「エア・ブリッド!」


風の塊が、短剣を弾き飛ばす。


直後、エランが掌を向けてきた。


「フォトン・ブレイザー!」


「っ!? ルーン・シールド!」


なんとか光線を魔力障壁で受け止めるが、ユファレートはたたらを踏んだ。


エランは、また短剣を投げ付けてくる。


(そういう戦い方ね……!)


防ぎながら、ユファレートは歯噛みした。


エランが一回魔法を使う間に、こちらは二回の発動。


もしくは、投擲と魔法の二種類の攻撃を、一度の魔力障壁で防がなくてはならない状態。


短剣は問題なく防げても、その後の魔法で押される。


いずれは、こちらが先に息切れを起こし、押し切られる。


横目で、他の戦況を見遣った。


テラントとサイラスは、延々と一騎打ちを続けている。


デリフィスは、ようやく槍を遣う兵士二人を倒したようだ。


まだ短剣使いの兵士に手こずっているが、時間の問題だろう。


もう少し耐えれば、デリフィスが助けに来てくれる。


ティアたちに、先に館へ向かってもらってもいいかもしれない。

きっと、ルーアやシーパルがいる。


彼らなら、戦闘に気付いてそろそろ向かってきてくれるかもしれない。


(でも、それじゃ駄目なのよっ!)


人を当てにばかりしている。

みんな、戦って、傷付いているのに。


「わたしはっ……!」


何度目かの魔法を受け止めた時、声が漏れた。


きっと、無意識のうちに手加減していた。


相手は、動く死人である兵士ではなく、れっきとした生きている人間なのだから。


殺したくはない。

だが、手加減していたら負ける。


(相手が同じ魔法使いなのに、負けるわけにはいかないのよ!)


毎日毎日、ドラウ・パーターの訓練を受けてきたのだ。


いつも、隣のハウザードを見ていたのだ。


ユファレートは、魔力障壁を解除した。


使うのは、より強力な魔法。

エランの投擲も魔法を弾き散らし、彼を倒せる魔法。


ユファレートが攻撃に移る気でいることを察したか、させじとエランが短剣を投げ付けてくる。


ほとんど同時に、火球も放っていた。


(あなたにわかる?)


ドラウ・パーターの孫娘であることが、弟子であることが、魔法使いにとってどれだけ重い看板であるか。


どれだけ誇り高く思えるか。


強力な魔法を、より早く発動させる。


重要なのは、才能ではなく、質の高い訓練を受けてきたかどうかである。


コンマ一秒早く発動させるために、気の遠くなるほどの反復練習を繰り返してきた。


短剣が掌に突き刺さる寸前で、ユファレートの魔法は発動した。


「バルムス・ウィンド!」


暴風が、短剣を吹き飛ばし、火球を破壊して炎を散らす。


地面を捲り上げる、荒れ狂う爆風。


エランの体が持ち上がる。

乱暴に何度も大地に叩き付けて、暴風は収まった。


エランが、咄嗟に魔力障壁を発生させていたのは視えていた。


直撃はしていない。

それでも、ただでは済まないはず。


エランが、頭部から流血しながらも立ち上がる。

だがすぐに、仰向けに倒れた。


(……死んだ?)


いや、微かに胸が上下しているように見える。


倒した、死なせてはいない、二つの意味で、ユファレートは胸を撫で下ろした。


(……みんなは?)


テラントとサイラスの互角の勝負は続いている。


デリフィスは、直に短剣遣いの兵士を倒すだろう。


ティアが、歓声のようなものを上げた。


飛行の魔法で向かって来る、ルーアとシーパルの姿が見える。


サイラスという老人が、とてつもない使い手だとはわかる。


だが、さすがにこの状況では、どうしようもないはずだ。


サンを守りきれた。

ユファレートは、ほとんど確信を持ってそう思った。


気を緩めてしまったのかもしれない。


倒したつもりで意識から外していたエランが、機敏に立ち上がる。


そして、魔法を発動させる声が響き渡った。


「ディレイト・フォッグ!」


エランを中心に、濃霧が拡がっていく。


あっという間に、視界が靄に覆われた。


「またぁ!?」


ティアの声。

どちらから聞こえてきたか。


ユファレートは、方向感覚を奪われていた。


テラントとサイラスが奏でていた、金属がぶつかり合う音も聞こえなくなっている。


解除の魔法を発動させるが、ほとんど霧を消せない。


(得意な魔法ってわけね……!)


混乱に乗じて敵が狙うのは、やはりサンだろう。


ティアたちは、どうしているのか。


風が切れる音。

ユファレートは、咄嗟に身を屈めた。


肩があった位置を、なにかが通り過ぎていく。


(短剣!?)


だとしたら、エランだろうか。


短剣が飛んできたと思われる大まかな方向に、杖を向ける。


だが、下手に魔法を放てない。

味方に当たる可能性がある。


「リウ・デリート!」


シーパルの声。

解除の魔法。


幾分薄れた霧の中、短剣遣いの兵士が見えた。


「ライトニング・ボール!」


光球でその胸を撃ち抜き、ユファレートは適当な方向に走り出した。


どこに誰がいるかもわからない状況で走り回るのも危険かもしれないが、濃霧の中にいつまでもいるのは、もっと危険な気がする。


運良く、すぐに霧を抜けられた。

視界が開ける。


すでに濃霧から脱出していた、ティア、ダネット、そしてサンの姿。


三人に向かって、短剣が投げ付けられる。


澄んだ金属の音。

濃霧から飛び出して弾いたのは、テラントだった。


短剣を投げ付けたのは、エランか。


濃霧の中、その姿が微かに見えた。


そして、斬り掛かるデリフィス。


エランは身を翻しかわして、濃霧の奥へと姿を消した。


同じ魔法を発動させる声。

さらに霧が厚くなった。


サンたちが戦線から離れるよう、テラントが先導している。


武器が擦れ合う音がした。

髪を振り乱し霧から転がり出たのは、ルーアだった。


長い赤毛のため、全身に火が点いているようにも見える。


ルーアを突き飛ばしたのは、サイラスか。


槍を手に濃霧から飛び出すと、ルーア目掛けて突進をかける。


また地面を転がりかわすルーア。

彼はその勢いで、霧の中へと飛び込んだ。


サイラスは、追わない。


一拍後、ルーアが剣を振り上げ霧から飛び出してきた。


普通ならば不意を衝かれそうなものだが、サイラスは読んでいたのだろう。


どっしりと構え、待ち受けていた。

槍が、ルーアの胴体を貫く。


「ルー……!?」


だがその姿が、宙に溶けて消えた。


幻影の魔法か。


そして、サイラスの横に回り込むように飛び出すルーア。


魔法使いとの戦闘経験も豊富なのだろう。

サイラスは、幻影を掴まされても、全く戸惑うことがなかった。


迅速に、そして的確にルーアの方へと体の向きを変え。


「フラッシュ!」


「ぬぅ!?」


ルーアの掌から閃光が煌めき、網膜を灼かれたサイラスが小さく呻く。


(上手い!)


ユファレートは、内心で感嘆していた。


サイラスの経験、勘の良さ、反応の早さを逆手に取った眼眩まし。


これで一時的に、サイラスはまともに物が見えないはず。


ルーアが、剣を低く構えた。


視界を奪われたサイラスでは、どうしようもない。


だが。


「ふッ!」


短い息吹。

サイラスが槍を正確に、ルーアの頭部へと振り下ろす。


横に跳躍して、かろうじて避けるルーア。


遮二無二振り回した剣が、サイラスの右膝の上を浅く裂いていた。


あと半歩踏み込めていたら、かなりの深手を負わせられていただろう。


だが引き換えに、きっとルーアは死んでいた。


ユファレートは唾を呑み込んだ。


槍が、地面に深い穴を穿っている。


直撃していたら、ルーアの頭は潰れていた。


サイラスが突き掛かる。


剣の腹で受け止めたルーアは、大きく後退した。


足を負傷したはずなのに、勢いが陰る気配はない。

そして、正確な攻撃だった。


(眼眩ましを、受けなかった? ……ううん)


肌が粟立った。

サイラスの瞼は、堅く閉ざされている。


ルーアは少し体勢を崩していたが、サイラスは追撃をかけなかった。


好機だからといって安易に仕掛けると、思わぬ陥穽に引っ掛かる。


それを、経験で知っているのだろう。


じりじりと間合いを詰めていく。


援護をしたいところだが、ユファレートは躊躇した。


ルーアとサイラスの距離が近すぎる。


魔法を放てば、ルーアの行動も制限してしまうことにならないか。


それは、非常に危険なことに思えた。


ルーアが、なにか魔法を使おうとした。


それが、ユファレートにはわかった。


だが、魔法が発動する前にまた槍で突き飛ばされる。


やはり、魔法使いとの戦闘経験も豊富なのだろう。


魔法が発動する直前と直後。

魔法使いに、もっとも隙ができる瞬間である。


刹那的なその時を、サイラスは狙っている。


ルーアが、普段から鋭い眼付きを、さらに鋭くした。


視力が回復したか、薄く瞼を開くサイラス。


いきなり身を翻した。

濃霧の中へと駆け込んでいく。


デリフィスとシーパルが、入れ替わるように駆け寄ってきた。


誰も、サイラスを追わない。

それがどれだけ危険か、みんなわかるのだろう。


ルーアが唾を吐き捨てた。

少し唇を切っているようだ。


ユファレートも、ルーアへと駆け寄った。


「大丈夫?」


「ちょっとぶつけただけだ。……にしても、やなジジイだな」


ティアたちも向かってきていた。

みんな、無事なようだ。


「俺、ああいうのが一番苦手だ。どんだけ掻き回しても、身体能力と突破力で、強引に自分の戦いに引き込んできやがる」


「でも、怪我を負わせてたわ」


「偶然、かすっただけだ」


ティアたちも集まり、全員が揃った。


「みんな無事だ。良かったぁ……」


ティアが、緊張感が解けたのか、溜息をつく。


その左の二の腕を、眼を見開きルーアが掴んだ。


「痛っ……!」


「……オースター、お前、怪我してんじゃねえか」


「……もう大丈夫だよ。ユファに治してもらったし、かすり傷だったし」


「かすり傷で、こんなに血が出るか」


(へぇ……)


跡がまだ残っているが、傷口は塞がっていた。

血も、拭ってある。


衣服の袖口や胸、脇腹の辺りに、血が数滴こびりついている。


ルーアはそれで気付いたのだろうが。


光源は、魔法で生み出した明かりくらいなものである。


戦闘の間に、光量はかなり落ちていた。

辺りはかなり暗い。


それなのに、視力の良いシーパルよりも早く気付いたのか。


(よく見てるじゃない。なんだかんだ言って、ティアのこと気にしてるのね)


声に出すとややこしいことになりそうだから、胸中だけでユファレートは呟いた。


サンが、ティアの腕からルーアの手を引きはがす。


「乱暴なことするなよ。痛がってるじゃないか」


「……あぁ?」


ルーアが表情を歪ませる。

小さく舌打ちが聞こえた。


「……てめえのせいだろうが、このヘタレ王子め」


「なっ……!?」


「そうだろうがよ。てめえを助けるために、こいつは無理して怪我したんだろ?」


「……」


痛いところを突かれたか、サンが言葉を失う。


「てかなんだよ攫われるって。王子じゃなくてお姫様か。しかも妹同然の女に助けられて、よく恥ずかしくないな?」


なかなかの毒舌っぷりである。


「……でもさ、ルーアも、わたしやティアに助けられたこと、あったよね」


背後でぽそっと呟くと、ルーアは腕を横に振った。


「そんな昔のことは忘れた!」


いや、そんな昔と言うほど昔ではないような。


「とにかく……」


「まあ、いいじゃない、ルーア。みんな無事なんだし」


ルーアとサンの間に割り込んだのは、ティアだった。


(……おやぁ?)


サンのことを悪く言われているのだから、腹を立てそうなものだが、妙ににこにことしていた。


機嫌がいい。

このところ、ルーアに対してだけは素っ気なかったのに。


(……ああ、そういうこと。……かな?)


多分、ティア本人は無自覚だろう。


気付いているのならば、もっと複雑な表情をするはずだ。


本能的に感じ取っているのではないか。


ルーアに、気に掛けられている。

だから、小さな負傷でもすぐに気付いてもらえた。


今、ルーアがサンに対して苛立っているのはなぜか。


(べつに、余計な口出しとかする必要なかったわね……)


この二人は、成るようになるだろう。


なおも言い募ろうとするルーアを、宥めるティア。

それにシーパルも加わり。


少し離れた場所で、魔力の波動を感じた。

同時に、炸裂音。


「……この魔力……エランって人の」


「ルーア! エミリアさんが!」


シーパルが、建物の一つを指す。

ユファレートたちが向かっていた、そして、ルーアたちがやって来た別荘。


「そうきたか……!」


ルーアが、飛行の魔法を発動させる。


ユファレートとシーパルも続いた。


三人で、館を目指す。


エミリアがいるのだろう。

そして、館に一人残してきたのか。


迂闊な気もするが、サンを必ず守らないといけないという意識があったからなのだろうか。


もしかしたら、サンを助けるようエミリアに懇願されて、背中を押されたのかもしれない。


確かなのは、エミリアという女性が危険だということ。


あるいは、もう手遅れかもしれない。


それほどの距離ではない。

魔力の消耗が激しい飛行の魔法で向かっても、問題ないほどの距離。


館の入り口から、エランが出てくるのが見えた。

単独である。


「野郎……!」


「ルーア、今は!」


そのまま逃げ出すエランを、追い掛けるように進路を変えかけたルーアに、ユファレートは声を掛けた。


「……ああ」


エランは一人である。

エミリアはまだ、館の中か。


飛行の魔法を解除して、三人で館の前に着陸した。


「エミリアさん!」


シーパルを先頭に、館へと駆け込む。


破壊された扉。ひしゃげた床。

エミリアがいた。


そして、その前に立ちはだかる、こちらへと掌を向けた男。


「新手か!?」


鋭く問い掛けてくる。


顎に髭を蓄えた、魔法使い風の男だった。


厳しく、そしてどこか暗い眼で睨みつけていた。


「マコルさん、この人たちは……」


エランに攻撃されたからか、震えながらエミリアが声を発する。


「わたしを助けてくれた方々です……」


「……味方と考えても、宜しいので?」


「はい……」


そして、ショックからかエミリアはへたり込んだ。


マコルとやらが、構えを崩す。


「これは失礼しました。私はラシィ。ラシィ・マコル。この家を、管理している者です」


「わたしを、ずっと守ってくださっている方です」


エミリアが補足する。


ラシィは、友好的な微笑みを見せた。

眼にあった暗さは、消えていた。

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