▼第七章『ケイジとドラゴン』 ♯4
キルスティちゃんは、S
どうも映像でしゃべっていたボクは、他にも色々メモリーデバイスにデータを残していたようです。
彼女の後ろから、背中越しに見るS
そして呪いの人形じみた雰囲気で、キリキリキリキリとボクの方をゆっくりと振り返りました。
「ま…………まぁ…………まぁぁ……!」
まったく身に覚えは無いのですが、どうやらボクは相当キルスティちゃんを憤らせてしまったようです。
「ま~ったくアナタって人はぁ~っ!」
キルスティちゃんは魂の底からっぽい叫びと共に、いきなり両手でボクの頬を包むと、思いっきりムニュムニュしまくりました。
ボクは必死で「おひふいへ(落ち着いて)……いっはんおひふいへ(一旦落ち着いて)!」と訴えることしかできませんでした。
その一方でキルスティちゃんは、何故かボクの頬から下へ下へとまさぐる手を降ろしてくと「え、なにこれ? ウソ! 信じらんない! どうなってるの!?」と驚いていました。
ちんまいキルスティちゃんよりも、ボクの体の方が発育が良いことにショックを受けたのかと思いましたが、それだけではないようです。
ボクは悲鳴も上げられない程固まる一方で、さっき見たS
あの中でボクの姿をした人物は『男である俺が個人で【ANESYS】のデバイスを使ってこの仮想現実に来ている……』とかなんとか言っていた気がします。
つまりキルスティちゃんが驚いていた理由とは…………。
「ゑ…………」
うすうす感づいてはいましたが、キルスティちゃんがボクに訊きたいことが沢山あるように、ボクもキルスティちゃんに訊くべきことが沢山あるようです。
「うぇ~ゴホン! あ~お前たちよ、ワシんとこに来るように言っとったはずだったんじゃがな…………」
突然響いた声に、ボク達は揃ってビクリと飛び挙がりました。
いつの間にか、寺浦課長がすぐ背後に立っていたからです。
「ごめんさい! すいません! ゴメンナサイ! すっかり忘れてマシタ~!」
良く分かりませんが、キルスティちゃんは謎の潔さを発揮して敬礼しながら寺浦課長に平謝りしました。
どうもキルスティちゃんは、ボクに寺浦課長のとこへ行くよう言われていたのを、スコンと忘れていたようです。
「ま、実はもしやと思って引き返してみたら、モーキャプ・スタジオから飛び出てくお前たちを見かけて、つけてきただけなんだがの……。
こうして結果的にお前たちと三人で話せるのはラッキーだったかもしれん…………」
誰もいない部屋=【第一艦橋】の隅のボクの席にどっかと腰かけながら、寺浦課長はぼやくように言いました。
その言葉に、僕は何か引っかかるものを感じたのですが、キルスティちゃんも同じだったようです。
「あの……寺浦課長、ひょっとして……わたしがモーキャプ・スタジオでまくし立ててたの……聞いてました?」
寺浦課長はとても不満そうに、腕組みしながら目を瞑って頷きました。
「ひょっとして……その内容について何かご存知だったりなんかしてたりしますか?」
「…………」
寺浦課長は答える代わりにとても大きな溜息をついた。
それはYESと答えたも同然でした。
『あ………………これはヤバイかも』
IDN達が異常にざわつく最中、最初に異常に気付いたのはアストリッド艦長でした。
彼女のその呟きの意味をワタクシ達が理解するのには、さして時間はいりませんでした。
一列縦隊となったワタクシ達は、【ジグラッツ】が海水を吸い上げる力に、自分達の有する推進力を上乗せすることで、周囲の海水を下へ下へと蹴り続けながら、吸い上げられる海水内をさらなる速度で上昇し続けていました。
正直かなりラクチンでした……このままいけば、最短で一時間ほどで【ジグラッツ】上端まで行ける程でした……それまでは。
【ジグラッツ】内には約百キロ間隔で、海水を吸い上げる為の人造UVDを動力源としたUVエネルギーを用いた一種のタービン状機構が存在し、海水を圧力を使って吸い上げるというより、上方に向かって
先頭を行く〈ナガラジャ〉は、その機構をUV弾頭ミサイルと〈UVリーマー〉で次々とブチ壊しつつ上昇を続けていました……わけなのですが…………。
『ふぁぁああああ! だから……だから言ったじゃないですか~っ!』
アストリッド艦長に少し遅れて、ことの重大さに気づいたアイシュワリア艦長が喚きあそばされました。
程度の差はあれど、ワタクシもアイシュワリア艦長の気持ちは理解できました。
思えば予想していた事態の一つではあったからです。
それは最初は微かな違和感でしたが、やがて【ジグラッツ】内部を上昇するワタクシ達に、急激かつ明確な上昇を阻む抵抗として否応も無く感じることができるようになりました。
ワタクシ達の上方で【ジグラッツ】が海水を吸い上げるの止めたのか、ワタクシ達の上方から襲い掛かる海水の抵抗が、急速に増大していったのです。
もしもワタクシがグォイドの立場で、【ジグラッツ】の中に敵意ある何者かが入ったならば、きっと同じことをします。
海水を吸い上げるのを止めて、それ以上侵入者が【ジグラッツ】の上方
そうでなくとも、ワタクシ達によって、【ジグラッツ】下部の海水吸い上げ機構が破壊されているのです。
【ジグラッツ】下部での海水吸い上げができなくなったのならば、上部の吸い上げ機構を動かし続ける意味もあまりありませんしね……。
かといって、ワタクシ達は海水吸い上げ機構を破壊しなければ【ジグラッツ】内を通過できなかったわけですから、この事態は不可避だったとも言えます。
ですが自体は深刻でした。
たかが海水と侮ってはいられません。
【ジグラッツ】が吸い込んだ【インナーオーシャン】の何百何千万トンという量の海水が、【ジグラッツ】の垂直回廊内から漏れることもなく、集中してワタクシ達にのしかかってきたのです。
『うぉっりゃぁあああああああ! 負けるかぁあああ!』
先頭を行く〈ナガラジャ〉内で、アイシュワリア艦長が気合と共に艦首〈UVリーマー〉の出力を上げ、襲い来る海水を押しのけて上昇の続行を試みます。
ですが、いかに主機をオリジナルUVDを代えた〈ナガラジャ〉であっても、船体やスラスター部には限界があります。
徐々にですが【ジグラッツ】に対する〈じんりゅう〉一行の相対的上昇速度が落ちていき、やがて完全にゼロになると、〈じんりゅう〉級一行は最初はゆっくりと、ですが加速度的に今しがた飛び立ったばかりの【インナーオーシャン】の海面へと降下……いえ落下をはじめていきました。
当然ですが、【ジグラッツ】内部にいる限り、ワタクシ達に逃げ場所はありませんでした。
「はは~ん、そういうことだったんですかぁ……」
寺浦課長の話を聞き、一人納得するキルスティちゃんに対し、ボクと寺浦課長は『ちゃっちゃとちゃんと説明せい!』という視線を送りました。
寺浦課長によれば、今から3カ月半程前、ここ【第一艦橋】広報にて、監督以下のスタッフが所属する広報部部8課2係による広報アニメの制作が始まったその日にも、今朝キルスティちゃんがまくし立て、1カ月半前にボクが喚き散らしたのと似たような内容のことを、階下のモーキャプ・スタジオにいる監督以下のスタッフが突然言い出し、寺浦課長に訴えてきたことがあったようです。
つまり寺浦課長は今日含めて都合三度、部下が突然〈太陽系の
ボクは寺浦課長に対し、なんとも大変申し訳ない気持ちで一杯になりました。
課長にとってはボク達は、さぞや心配事の種の塊だったことでしょう。
突然、近しい未来でのSSDFとグォイドとの最終決戦がどうたらこうたら言い出したあげく、しばらくしたらそれを一切合切忘れて何も無かったかのように振舞いだすのですから……。
「まぁ、広報部は宇宙のSSDFと違って、直接人命にゃ関わらんセクションだし、ワシとしてはアニメ制作させちゃんとやってくれたら文句は無かったからの…………」
寺浦課長はどこか言い訳がましさをふくめつつ、これまで自分が遭遇してきたスタッフの奇妙な言動についてと、また何故それを放置していたのかを語りました。
監督たちの最初の一回だけならば、ちょっと心を病んだか、謎の未来人ごっこブームが巻き起こったか、今後のアニメの物語展開に紛糾し過ぎたのかと思えたかもしれませんが、都合三度も続けば寺浦課長とて無視も出来なくなろうというものです。
寺浦課長はキルスティちゃんがモーキャプ・スタジオでボクらを叩き起こすなり、これまでの二回と同じ様なことを言い出したのを盗み聞きして、今こうして、
そしてキルスティちゃんはキルスティちゃんで、今の寺浦課長の説明を聞いた結果、自分の置かれた状況を改めて理解したようでした。
「つまり、キルスティちゃんも、ほっときゃボクみたいにさっき言ってたことを忘れちゃうってこと?」
「そうなりますね」
「なんじゃぁそりゃぁ…………」
再確認するボクにキルスティちゃんが頷くと、寺浦課長がウンザリした顔でぼやきました。
寺浦課長からしてみれば、三度も普通は起き得ない現象に遭遇したわけのですが…………だからといって、当然ながらすぐに納得できる話ではありませんでした。
「あ~何度も繰り返すようで悪いが、今から8年? ……後の未来では、宇宙のSSDFは外宇宙から来たグォイドの親玉【
「いや~面白い妄想ですよね~!」
「今さら頭がおかしいフリされたって信じられませんよ!」
寺浦課長の再確認に、キルスティちゃんがこの期におよんですっとぼけようとしたので、ボクは思わず声が裏返りました。
ついでに言えば、ボクは本来はケイジ一曹とかいうエンジニアの少年が、何故か男性にもかかわらず【ANESYS】を利用してここへやってきた結果の姿なのだそうです。
何故その少年だったボクが、性別反転して立川あみADなる美少女になっているのかは謎ですが……単にキルスティちゃんが教えてくれないだけな気もします。
そのケイジ少年が、少年であるにも関わらず【ANESYS】でここに来たものだから、いつか限界が来るみたいなことも言っていました…………。
まったく……面白いことを言うちんまい新人スタッフです。
「私が自覚している真実をここで正直に言ったところで、頭がおかしいと思われるだけな気もするんですけどね…………」
キルスティちゃんは溜め息混じりにそうぼやきましたが、すでに監督達、ボク、キルスティちゃんと三回にわたって同じことを訴える人々が現れ、そして謎の記憶喪失がおきたことで、ボク達が訴えたことには若干の信ぴょう性が生まれてしまいました。
いまさら個人の妄想でした……などとは納得などできません。
少なくとも三度も変なことを語り出す人間が現れた説明がつきません。
それにボクやキルスティちゃんの話した設定の場合、仮想現実内のキャラが、そこが仮想現実だとは自力で自覚などできるはずもなく、その仮想現実がオリジナルUVDを生み出すほどの文明の産物ならば…………大変遺憾ながら、その設定ならば何でありえる……ということになってしまうのです。
「ここが仮想現実などという話は、あくまで私やケイジ一曹やユリノ艦長らにとっての話であり、他の誰かに信じて欲しいとかそういうつもりはありません。
証明も確認も不可能な話ですから、悩むだけムダです。
それよりも私が望むのは一つだけです!」
「なんじゃい?」
しばし熟考した末に、えらく割り切った結論を出したキルスティちゃんに、寺浦課長が凄く面倒くさそうに訊き返しました。
「ケイジ一曹の残したメッセージの言う通り、私やケイジ一曹、ユリノ艦長達に与えられた身分やシチュエーションから、〈太陽系の
だから…………動機はさておき、利害は寺浦課長や8課2係と最初から一致してるんです。
要は今日のアニメのイベント上映を成功させてみれば良いんですよ!」
キルスティちゃんは両の拳を固めながら力説しました。
難しいことは脇に置いて、互いに一致した目標の達成を優先しようということらしいです。
そう言われてみれば、ボクには異論などありませんでした。
寺浦課長もいろいろ心中複雑なようでしたが、ボクと同じ意見なようです。
ですが……………
「キルスティADの意見にはワシもまぁ……反対はせん。
今さら出来ることがどれくらいあるか? って~話な気もするがな。
お前たちの謎の仮想現実云々問題に関係なく、今日のイベント上映を成功させる気になってくれたなら大いに結構じゃ……じゃが……」
「…………なにか問題でもあるパターンですか?」
ボクは寺浦課長の口ぶりに、嫌な予感を覚えました。
「あみADよ……やっぱり忘れているらしいな……。
だからそもそも、わしゃぁキルスティADにお前をワシんとこに来るよう呼びつけたんだがなぁ……」
「……忘れてる……何をですか?」
「お前さんがここに配属になった直後、つまりまだその~ケイジ一曹? ……であることをお前が覚えていた時期のことだな。
お前さんが製作中のこのアニメを、基地祭でイベント上映しましょうと言い出して、そのアイディアが基地上層部で受け入れられた結果、今日に至ったわけじゃが……お前さんがワシに具申したアイディアはそれだけじゃ無かったんだだな…………」
「何をケイジ一曹は提案したんですか?」
言葉が出てこないボクに代わり、キルスティちゃんが寺浦課長に尋ねました。
「お前さんは……いや別の人格だったお前は、もう一個割と重大なアイディアを具申したのだ…………ワシャそのお前のアイディアは到底実現なんぞしやしないと思ってはいたが、一応ダメもとで上層部に提案するだけしてみたんじゃ…………その結果……今日になってそのアイディアが実現することになったぞ……とワシャお前に伝えたかったのだが…………」
寺浦課長は恐ろしくもったいぶりながら言いました。
そのような言い方をしたのは、ボクがそのもう一つのアイディアが何かを、思い出すことを期待してのことらしかったのですが、ボクは欠片程も自分が言ったらしいそのアイディアについて思い出すことはできませんでした。
『外殻を破壊して、【ジグラッツ】から脱出する!』
『そうしましょ! すぐしましょ!』
アストリッド艦長の決断に、アイシュワリア艦長がすぐに同意しました。
何もしなかったら、ワタクシ達は【ジグラッツ】の下端に激突するうえに、上方から降り注ぐ膨大な量の海水によってペシャンコになってしまうでしょう。
だからアストリッド艦長達はもっともシンプルな対処を試みました。
【ジグラッツ】の内壁を破壊して、外に出るのです。
〈じんりゅう〉級三隻は、今しがた通過したばかりの垂直回廊の下方、内壁の一部にUV弾頭ミサイルを撃ち込み、破孔を設けて脱出を試みようとなさいました
ですが、水流に押し流されながら、壁に〈じんりゅう〉級が通れるだけの穴を開け、そこを通過するのは、存外に難儀でした。
何よりも【ジグラッツ】内壁が予想外に強靭だったのです。
目標に対して垂直にUV弾頭ミサイルを当てられたならば、破壊も可能だったのでしょうが、海水に押し流されながらでは、発射されたUV弾頭ミサイルは真横にある壁に向かって弾頭部を向けてぶつかることができず、破壊のエネルギーは海水と共に【ジグラッツ】の下方へと押し流されてしまったのです。
それは〈ファブニル〉の実体弾投射砲でも〈ナガラジャ〉の〈UVリーマー〉でも同じでした。
艦首に搭載された両艦の必殺武器は、艦首を目標に向けねば使えず、今の状況は、それを行うのは非常に困難かつ危険だったのです。
それでも、諦めるわけにはいきません。
アストリッド艦長とアイシュワリア艦長は、危険を百も承知で一列縦隊の〈じんりゅう〉級三隻とワタクシとIDN達のポジションを入れ替え、〈ナガラジャ〉を一番下にした上で、さらに艦首を真下に向け、【ジグラッツ】下端に穴を開けた時のように、〈ファブニル〉が実体弾投射砲を内壁に向かって放ち、それで開けた細長い穴に〈ナガラジャ〉の〈UVリーマー〉の先端を引っ掛けて、穴を広げて脱出しようと試みました。
最初は角度の問題から実体弾投射砲自体が弾かれましたが、何回かの挑戦の後に、〈ファブニル〉は艦首〈UVリーマー〉先端を実体弾投射砲が開けた小さな穴……というより傷に引っ掛け、それを降下しながら裂くようにして広げていきました。
アイシュワリア艦長が『どぉりゃぁぁ!』と気合と共に叫びながら、〈UVリーマー〉を押し込み続け、【ジグラッツ】の外殻まで貫通する穴を開けようとします。
ですが、その試みは叶いませんでした。
【ジグラッツ】全体が、外側から強靭なUVシールドで覆われていたからです。
〈UVリーマー〉の先端は、【ジグラッツ】外殻まで貫通はしましたが、そこから先へは進めなかったのです。
そのUVシールドは、ワタクシ達がここまで昇って来る段階で破壊した海水吸い上げ機構用の人造UVDとは異なった動力で展開されていました。
『あわわ……どうしましょう?』
思わずワタクシは誰ともなく尋ねてしまいました。
もちろん、ワタクシやIDN達にも【ジグラッツ】の内壁に穴をあける力などありませんでした。
ワタクシはいざという時は、たとえ無駄でも【ジグラッツ】下端で落ちてきた〈じんりゅう〉級三隻のクッションとなる覚悟でしたが、IDNの方々はそれに付き合う必要あありません。
IDNの方々だけでもなんとかこの危機から脱出できるならなさって欲しい、とテレパシーで伝えようと思ったのですが、IDNの方々はこの期に及んでも、ケイジさん達の向かった仮想現実の行く末に夢中になっているようでした。
なんでも上映会がついに始まった! とかなんとか騒いでいます。
さすがに今はそれどころではないと、ワタクシはIDNの方々に言おうと思ったのですが…………どうもIDNの方々は、今の状況を気にしていないのではなく、心配の必要がないと分かっていらっしゃるようでした。
もちろんワタクシはその理由が気になりましたが、その疑問の答えは訊くまでもなくすぐに現実となりました。
ワタクシ達の入っていた【ジグラッツ】が、猛烈な振動を始めたかと思うと、唐突にワタクシ達の遥か下で千切れたのです。
『何事だぁ!?』
アストリッド艦長の驚きと疑問がもっともです。
ですがとにかくワタクシ達は、否応も無く、突然千切れた【ジグラッツ】の垂直回廊の断面から、【インナーオーシャン】の上空へと放り出されました。
そしてその状態になって、ワタクシ達はなぜ【ジグラッツ】が千切れたのかを知ることができました。
無数の流星のような燃える炎の尾を引いた塊が、【
ワタクシ達は【
「私…………もう一つ気になることがあるんですけど…………ケイジ……じゃなかったあみADにゃ分からないですよね?」
寺浦課長とのブリーフィングを終え、モーキャプ・スタジオに戻る途中、ふと足を止めたキルスティちゃんが呟くように言いました。
「なんです?
言ってくれなきゃ分かるもんも分からないですよ?」
「…………そうなんだけど」
そう訊き返すしかないボクに、キルスティちゃんは答えを言い淀みました。
ボクは若干失敬な娘だなぁ……と思ったことは否めません。
しかし、実際彼女の答えを聞いて分かりました。
ボクにはキルスティちゃんの疑問の答えはサッパリ分からない……と。
「時間のズレがあるんです。
私がここへ来たのは、〈じんりゅう〉が消息を絶ってから約三か月後、ユリノ艦長達がここへ来たのが三カ月半前でしたっけ? であなたが1っカ月半前…………いくら【ANESYS】の最中は時間間隔が変化するとは言え……腑に落ちません……。
それに…………」
「それになんです?」
「私が地球圏にいる〈ウィーウィルメック〉から、ここへと来た直後には、メインベルトのSSDFが超長距離・大質量加減速移送艦〈ヴァジュランダ〉とその姉妹艦の〈アラドヴァル〉を使って放っておいた実体弾代わりの【
「…………」
「今【
やはりボクには、キルスティちゃんの言ったことに何も答えられませんでした。
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