▼第五章  『トゥルーパーズ イン スターシップ』 ♯1


 エクスプリカはようやく【ANESYS】のアヴィティラ化身から、直接データでのコンタクトが来たことに、機械なりに安堵すると同時に、彼女がよこしてきた未来予想と、それに対する行動指示に機械なりに絶望した。

 アヴィティラ化身によれば、墜落までの時間を少しでも稼ぐ為、〈じんりゅう〉は間も無く180度回頭し、アウター外側ウォールの潮流に乗るべく加速を開始するのだという。


 ――ヤハリソッチヲ選ンダノカ……あヴぃてぃら化身ヨ……。


 エクスプリカは【ANESYS】に抱いていた淡い期待が、脆くも砕けてしまったことを認めざるをえなかった。

 【ANESYS】の選択はつまり、〈じんりゅう〉がこれまで有していた慣性速度を完全に捨てさり、来た道をほぼ引き返えそうと試みるものであった。

 仮にアウター外側ウォールへの墜落を回避でき、来た道を戻るかのようにして、再び敵勢力圏からの脱出を試みたとしても、その達成には相当な加速時間が必要になるわけであり、それはそれだけ土星圏に居座る時間も伸びるということでもあった。

 当然、それだけ敵が攻撃を行なえる時間も延びるのだ。

 この時点で、サートゥルヌス計画は失敗し、〈じんりゅう〉は敗北したも同然であった。

 このマニューバをとれば、仮に〈じんりゅう〉が【ザ・ウォール】内で無事にいられたとしても、盛大にUVエネルギーの光を発し、存在をアピールしてしまった今、敵の本拠地から来る迎撃部隊や、各迎撃拠点からの実体弾砲撃によって、袋叩きにあう可能性が極めて高い。

 それを抜きにしても、インナー《内側》ウォールの壁面に現れた新種のトータス・グォイドに対し、アヴィティラ化身はかなり苦戦を強いられているらしい。

 未知のグォイドに対し、撃破されてしまう可能性だってあった。

 良いニュースは【ANESYS】を持ってしても来たりはしなかったのだ。

 エクスプリカは【ANESYS】のアヴィティラ化身が、すでに最悪の結末の中でも最良の選択を目指すべく行動していることを知った。

 そして直接送られてくるデータによって、彼女からとても面倒な役割を押し付けられたことに、機械なり暗澹たる気持ちとなった。


[かおるこトけいじハ武装ノ上、艦尾側ニアルはっちニひゅーぼヲ率イテ急行! とぅるーぱー超小型・ぐぉいどノ侵入ニ備エロ!]


 エクスプリカはアヴィティラ化身が打ち出したプランを伝達しながら、本来か弱き人間を守るべき存在たる自分が、危険な任務を人間に任せるのに気が引けた。


[るじーなハ艦内ニ侵入シタ敵ノ位置情報ヲ元ニ、ひゅーぼヲこんとろーるシロ! さてぃハ遊撃要員トシテ苦戦シテイル場所ノ応援ニ向カエ! 〈じんりゅう〉ハオ前達ノ移動ガ完了次第、回頭スル!]


 エクスプリカが指示を伝えた途端、ケイジ達から質問の嵐がやって来た。


[【ANESYS】ノ思考統合可能時間ハ、〈じんりゅう〉回頭直後ニ終了ノ予定ダ。ソレ以降、オ前達ハあヴぃてぃら化身ノ残シタ行動要項ニ従イ、さばいばるニ専心セヨ……トノコトダ]


 エクスプリカはケイジ達の問いを無視して告げた。









 基本的に人類は……というよりSSDFは、グォイドとの戦いにおいて、航宙艦に白兵戦用の備えが必要になるとは想定していなかった。

 何故なら、グォイドとの遭遇以来、戦闘は艦と艦とで行われるものであり、人とグォイドとが直接戦うような、いわゆる白兵戦という状況には行きあたったことが無いからだ。

 当然といえば当然であり、また搭載物は可能な限り軽量コンパクトを旨とする航宙艦においては、デッドウェイトとなる装備は乗せないに越したことは無かった。

 しかし、だからといって白兵戦用装備がまったく搭載されていないわけでは無い。

 対テロ装備という名目で、僅かだが銃器が各航宙艦内のガンロッカーに保管されている。

 同じ人によるSSDFの艦への犯罪行為が、ごく少ない例だが近年も発生しており、それに対する備えとして積まれていたのだ。

 【ANESYS】はケイジ達が武装完了するまでの間、該当箇所の人工重力による慣性相殺システムの効きを良くしておいてくれたのか、ケイジは主機関室からスムーズに〈じんりゅう〉中央艦尾側の備品庫奥にあるガンロッカーまでたどり着けた。


「少佐! カオルコ少佐!」


 装甲宇宙服ハードスーツ姿となったカオルコ少佐が先に到着していたのを目にすると、ケイジは手を振りながら駆け寄った。

 彼女はケイジに気づくと微かに汗を浮かべた顔で、無言で頷くだけだった。

 ケイジはカオルコ少佐のかつて無いシリアスな表情に、事態の深刻さを実感した。


「ケイジよ、コイツの撃ち方は知っているな?」


 認証コードでロックを外し、ロッカーの中から一丁のブルパップ式アサルトライフルを取り出すなり、ケイジに突き出しながら彼女は尋ねた。

 ケイジは両手でそれを受け取りながらカクカクと頷いたが、カオルコ少佐が言う「撃てる」と自分の

「撃ったことがある」には大きな隔たりがある気がしてならなかった。

 確かにケイジは一度だけ、渡されたのと同じSSDF制式航宙艦用・全環境適応型アサルトライフルを撃ったことがある。

 もちろん訓練での話であり、まだ宇宙に上がる前、地球重力化の屋内訓練施設での話だ。

 ケイジにはもうはるか遠い昔の記憶に思えた。

 SSDFへの入隊志願者は、志願すれども航宙士に適さないとみなされ、航宙艦には乗らない地上のSSDF基地保安要員などになる場合にそなえ、まず一通りのごく初歩的な対人戦闘訓練が行われる。

 少なくともケイジの場合はそうであった。

 本当に対人戦闘をさせるつもりの訓練というよりも、SSDFの一員として、歯車となる覚悟を確認する為の訓練だったのでは? というケイジの印象ではあったが、ともかくその時にこの型のアサルトライフルは撃った。

 撃ったといっても動かない的を、射撃場でマガジン一個分撃っただけだ。

 軽量・小サイズを旨とする航宙艦の備品として、トリガーグリップの後ろ側にマガジン弾倉がつくブルパップ方式であり、マガジン自体を一つの薬莢に見立てることで、薬莢を必要としないケースレス弾薬を使用するこのライフルは、セイフティを解除し、コッキングレバーを引いて初弾を薬室に装填すれば、あとはトリガーを引くだけで弾は発射されるはずだ。

 反動も少なく、動かない標的にであれば、ケイジでも充分弾を命中させることができた。

 ケイジはこういった銃器が活躍する昔の映画は大好きだったが、自分が撃ちたいとは、あまり思ったことは無かった。

 銃を撃つ状況に陥るということは、撃たれる可能性も同時に考えねばならなくなりそうだからだ。

 ケイジは今持っているライフルなどで撃たれたくはない。

 だが、グォイドにはもっと殺されたくは無かった、自分も他のクルーの誰かも。

 対人用ライフル弾がグォイドにどれくらい通用するのかがそもそも怪しかったが、ケイジは覚悟を決めると、ライフルのレバーを引き初弾を装填した。


「少なくとも【ANESYS】が終わるまでは、わたし達で事にあたらねばならない。なんとかその時まで持ちこたえてくれ。無理無茶はしなくて良いからな、まずはヒューボに任せるんだ」


 カオルコ少佐が装甲宇宙服ハードスーツに予備弾薬を付けながら告げた。

 ケイジも彼女の行動を見て慌てて装甲宇宙服ハードスーツに予備弾薬を装着していく。

 忘れがちだが、サヲリ副長に次ぐ〈じんりゅう〉三番目の指揮官であるカオルコ少佐は、艦の保安責任者でもあり、本格的な銃器の取り扱い訓練を受けている身分であった。

 この状況下で、たまたまカオルコ少佐が【ANESYS】に参加していなかったのは、ひょっとしたらかなりラッキーだったのかもしれない……カオルコ少佐のテキパキとした準備を見ながらケイジはそう思うことにした。


「時間が無い、装備が済んだらまずは所定の配置に着くことを急ごう! 

 わたしは右舷側に、お前は左舷側にスタンバイだ。

 質問は移動しながらにでも訊いてくれ! とりあえずライフルの銃口は上に向けておけば良い、お前が撃つのは最後の手段だからな。

 あとどうしても撃つ時はスーツのヘルメットをかぶることを忘れるな、発砲のうるささで鼓膜をやられるぞ」


 カオルコ少佐はブルパップを背中に背負い、もう一丁ブルパップとは別の長く大きな銃を構えて全ての装備を終えるとそう言い残し、踵を返して出発しようとして「あっ!」と立ち止まり、振りかえった。


「忘れ物だ!」


 カオルコ少佐はとても堂々とそう言うと、呆然と見送っていたケイジにずずいと歩み寄り、熱い抱擁をしてきた。

 といっても装甲宇宙服ハードスーツ同士であったが。


「…………!」

「…………こういうのもフラグになるのかな?」


 フリーズしたケイジの耳元に、カオルコ少佐は囁くように訊いた。

 もちろんケイジは返答どころでは無かった。

 何故いまこのタイミングで、互いに分厚い装甲宇宙服ハードスーツを着ていなくてならなかったのかについての考察で頭が一杯だった。

 だが彼女のしっとりとした頬と自分の頬が触れ合った感触だけは、忘れないように強く心に刻んでおいた。


「…………これくらいならば抜け駆けにはなるまい!」


 カオルコ少佐はケイジを突き飛ばすようにして離れながら、そう大きな一人ごとを言うと、「ではな!」と手を振って今度こそ駆け出して行ってしまった。

 ケイジが再起動するまでには、若干のタイムラグを必要とした。








『ワタシはジリジリとケイジ達がショテイのイチに着くのを待った。

 トゥルーパー超小型・グォイド雲は、まるで〈ジンリュウ〉をワシヅカまんとする巨大なテノヒラのような形となって、今や〈ジンリュウ〉のハイゴ数キロにまで迫っていた。

 あと数秒で、連中がその気になれば〈ジンリュウ〉に届くキョリとなるだろう。

 せめてもの救いは、敵が火器を持っていないらしいということであった。

 キョウイ的な速度とキドウ性を持ってはいるが、小型すぎてUVキャノンをつめないのだろう。

 お陰でまだ〈じんりゅう〉には敵の攻撃によるダメージは無い。

 しかし、艦にあのムスウの黒ムシめいたグォイドが取り着いてきてしまったならば……ワタシは地球に生息してるという象をもたおすグンタイアリが、エモノに群がるところを想像した。

 もちろんそんな目にはあいたくは無い。

 だが、避けることはできそうに無かった。

 ワタシはこれからどうあってもハンテン回頭し、アウター外側ウォールの潮流に乗らねばならなかった。

 それを行なうということは、同時にコウホウに迫るトゥルーパー超小型・グォイド雲に、一瞬ではあるが突っこむということでもある。

 もちろんカノウなかぎり近よせないつもりではあるが、全てはさけきれないだろう…………。

 なんとかトゥルーパー超小型・グォイドをブンセキし、対抗シュダンをかんがえたいのだが、今の不カンゼンなワタシにはむずかしかった。

 今のワタシには、あのグォイドにタイコウする力は無い。

 だから、せめてワタシは、いま一度彼女からのメッセージに思いをはせた。

 彼女はワタシに“ある場所”へむかえと言ってきた。

 それが唯一のキボウであり、また必ずそういうことになると…………。

 それじゃまるで“予言”じゃないか! ……とワタシの話を聞いたエクスプリカは言った。

 まったくそのとおりだとワタシも思う。

 けれどワタシは、彼女のコトバをしんじることに決めたのであった。

 他にセンタクシはなく、少なくとも“ある場所”は元から向かおうケツダンしていたアウター外側ウォール後方にあるからだ。

 ワタシが彼女達にかえったあと、ジッサイに彼女達がそこまで〈ジンリュウ〉でたどり着けるかはあやしい。

 だが、今はしんじるしかなかった。

 いったい彼女がいうばしょにはなにがあるというのだろうか?

 さいごの時を使ってワタシはひっしに考え――


[オイあヴぃてぃら化身! けいじ達ガスタンバイ位置ニ着イタゾ! ]


 あせるエクスプリカの声に、ワタシのシコウはゲンジツにひきもどされた。

 すぐにエクスプリカを通じて、〈ジンリュウ〉ハンテン回頭のカウントダウンをケイジ達につたえる…………。


[回頭5秒前……4……3……2……1……]


 ワタシはクルー達がちゃんと何かにつかまっていることを祈りながら、〈ジンリュウ〉カンシュベクタードど各シセイセイギョスラスターをクシし、カンをピッチアップ180°させるとドウジにロールさせ、イッキ反転させると、カンビのメインとサブのスラスターゼンカイでカソクさせた。

 トーゼン、さっきまでコウホウだったカンシュ方向には、ワタシをにぎりつぶさんと迫るトゥルーパー超小型・グォイド雲がおおきくひろがっている。

 ワタシはカイトウしながらも、〈ジンリュウ〉の全シュホウ、全レーザー砲をうちまくりつづけ、黒雲その中へとつっこんでいった。

 今うてるありったけの火力でトゥルーパー超小型・グォイド雲にカイロウをもうけ、そこをツウカせんとこころみる。

 …………しかし、ムスウの黒ムシどもをいっぴきも近よせずに、黒ムシでできたカイロウをツウカすることなどかなわなかった……。

 数十ピキのトゥルーパー超小型・グォイドが、ワタシがテンカイしているUVシールドの見えないカベにはり着く…………。

 ワタシがワタシでいられるジカンは、そこでゲンカイだった。

 サイゴのイッシュン、うすれゆくイシキのナカで、ワタシはカノウなカギリのジョウホウをカノジョたちへのこし―――――』







「!!」


 猛烈な危機感を覚えながらユリノは【ANESYS】より覚醒した。

 少ないメンツでの無理矢理な【ANESYS】の代償は、猛烈な疲労感と靄がかかったような思考となって現れた。

 さらに【ANESYS】中の記憶は、ごく表層的なもので終わるはずであったのだが、震える程の恐怖が、記憶の曖昧さなど打ち消した。

 あるいはアヴィティラ化身が、目覚めた瞬間に覚えておくべきことを恐怖という形で心に刻んでおいたのかもしれない。


 ――ヤバイ! 凄くヤバイ!


 その研ぎ澄まされた認識がフルスピードで思考を駆け巡った。


 ――いったいどこへ向かえですって!?


 ユリノは一番強く刻まれているアヴィティラ化身からのメッセージを反芻した。

 何がどうなって、そこに行くことが最後の希望となるのか皆目わからない。

 しかも、〈じんりゅう〉はそこに辿り着こうが着くまいが墜落するのだという。

 “墜落”とは“沈む”という意味なのか? この〈じんりゅう〉が……ここで。

 ユリノは自分の一部が出した結論でありながら、もっと親切に教えて欲しいと思わずにはいられなかった。

 だが詳しい情報の伝達があろうとなかろうと、〈じんりゅう〉が刻一刻とアウター外側ウォールに向かって降下していることには変わり無かった。

 そのままいけば、今すぐではなくとも〈じんりゅう〉は墜落する。

 そんな状況下で、アヴィティラ化身は今〈じんりゅう〉が向かっている前方の彼方にある“何か”に向かうことが、現状での最善策であると結論したらしい。

 だからわざわざ反転し、トゥルーパー超小型・グォイドの黒雲内を突っ切って逆方向へと舵をきったのだ。

 しかもその判断には、明滅しだしたオリジナルUVDからのメッセージが絡んでいるらしい。

 いくらそれが〈じんりゅう〉がアウター外側ウォールに墜落するのを先延ばしにするのに、もっとも有効な選択肢であったとしても、すぐに納得することなど無理だった。

 ユリノは〈じんりゅう〉が回頭することで、新たに目指し始めた方向に目を凝らして見た。

 メインビュワーに映る景色は、艦を回頭させたはずなのにもかかわらず、【ANESYS】前とほぼ変わらぬ上方にインナー《内側》ウォール、下方にアウター外側ウォールの半透明な薄灰色の壁に挟まれた光景だけだった。

 その眼下から緩やかに湾曲して頭上に消えていくアウター外側ウォールの表面に、目標地点はあるらしい。

 が、少なくとも前方には、まだ目に言える目標たりえるものは確認できなかった。

 代わりに艦尾ビュワーに目を移せば、【ANESYS】前には見なかったはずのおぞましい光景が広がっていた。

 黒雲となって迫る無数のトゥルーパー超小型・グォイドの群が、画面を覆っていたのだ。

 トゥルーパー超小型・グォイドの群は、〈じんりゅう〉に突き抜けられた後も、〈じんりゅう〉の追跡を諦めなどしなかったのだ。

 すれ違ったことで一端は引き離されたはずなのだが、逆進して再び〈じんりゅう〉に追いつかんとしている。

 いったいどんな手品を使えば、そんな急激な反転加速ができるのかも大きな謎だ。

 黒雲に対し、アヴィティラ化身が【ANESYS】時に構築しておいたと思しきFCSプログラムにより、〈じんりゅう〉は【ANESYS】が終わった直後であっても、変わらずに艦尾方向の主砲UVキャノンと対宙レーザーを放ち続けていたが、いくら撃てども、蠢く黒雲には焼け石に水程度の効果しか無いように見えた。

 時折、後方カメラのすぐ前を、黒光りする刃物を組み合わせてできた甲殻生物のようなものが通り過ぎるのに気づき、ユリノは戦慄した。

 それこそがトゥルーパー超小型・グォイドなのだろう。

 そんなものに艦内に侵入されてしまったら……ユリノは考えるだけで恐ろしくなった。


 ――【ANESYS】よりの覚醒から約2秒後――。


 ユリノが状況を確認したのとほぼ同時に、バトルブリッジにかつて聞いたことが無いようなガツンガツンという音が、主砲やレーザーの発射合成音に混じって響いた。

 それは真空無音の宇宙で、クルーに状況を感覚的に伝える為にコンピュータが作った音などではない。

 実際に〈じんりゅう〉の船体に、ガツンガツンと何かが衝突し、船体を振動させバトルブリッジまで響かせている音なのだ。

 強いて言えばデブリが衝突した音に似ていたが、この音はデブリの衝突音と違って、音色音程の一つ一つが不気味なほどに揃っていた。


トゥルーパー超小型・グォイド約20匹が艦尾UVシールドに接触! うち数匹がシールドを貫徹して右舷船体装甲に直に取り着きました! 現在、艦尾装甲を移動しながら進入路を模索している模様!」


 ユリノが想像していた通りのことを、ほぼそのままサヲリが報告した。

 やはり反転直後にトゥルーパー超小型・グォイドの黒雲内に突入・通過した際に、何十体かのトゥルーパー超小型・グォイドに船体に取りつかれたのだ。

 それは【ANESYS】の最後に、彼女アヴィティラが予測した通りに事態が進行していることを示していた。

 もちろん悪い方向にだ。

 しかし事態は、アヴィティラ化身の予測をも超えていた。


「わわッ!」


 ユリノは艦が急減速したことを示す突然のGによって、激しく前につんのめり他のクルーらと共に悲鳴を上げた。

 艦長席のコンソールから瞬時にエアバックが展開し、辛うじて頭部の怪我から守られた。

「フィニィどうしたの!?」

「…………艦が…………艦が何かに引っ張られてるよ艦長!」

 必死に頭を上げたユリノの問いに、〈じんりゅう〉操舵士が減速Gに耐えながら辛うじてそう返答した。

 これまでのグォイドとの戦いではあり得なかった現象だった。

 この状況下で、一体何が〈じんりゅう〉を引っ張るというのか?

 それがどういう方法によってかはユリノにはまだ分からなかったが“何者”かについてはすぐに心当たりが見付かった。

 ……というより、消去法で他に犯人など考えられなかった。

 トゥルーパー超小型・グォイドが犯人だ。

 トゥルーパー超小型・グォイドが〈じんりゅう〉を叩き落とそうと、船体を何がしかの方法と引っ張っているのだ。

 ユリノは反射的に艦尾ビュワーを睨んだ。

 画面下方に艦尾上部格納庫が僅かに見える。

 その画面左下から上方に向かって――つまり〈じんりゅう〉右舷から艦尾上方に向かって、なにか黒い歪な紐のようなものが伸びているのが見えた。

 一瞬信じられなかったが、紐の正体は明らかだった。

 無数のトゥルーパー超小型・グォイドが、その身体を繋ぎ合わせることで巨大なロープ、あるいは鎖となって、艦尾方向のはるか上方のインナー内側ウォールにはり着いているトータス・グォイドと〈じんりゅう〉の間を結び、思い切り引っ張っているのだ。

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