▼第二章 『パイレーツ・ニンジャ』 ♯2
ウィンドウ内の拡大されたホログラム〈じんりゅう〉が土星重力圏に突入すると、もう一方のホログラム土星圏内で、〈じんりゅう〉のアイコンがその重力に引かれ加速すると同時に、猛烈に土星に向かって引き寄せられるようにカーブを始める。
しかし、猛烈な慣性速度を有していた〈じんりゅう〉は、そのまま土星圏に墜落することは無く、またその速度で土星圏の外に飛び出してしまうこともなく、土星を支点にカーブを続けていった。
その間、〈じんりゅう〉は一切の噴射を行なう必要は無かった。
いわゆるスイングバイ航法と呼ばれるものの一種であった。
土星の70近くある衛星の中の、再外縁の軌道のさらに外を通過する為、〈じんりゅう〉から見た土星は、思いのほか小さく見えそうだった。
このコースを通るのは、それだけ慣性航行中の〈じんりゅう〉の速度が速い為である。
土星大気で減速し、より小さな弧を描いてカーブする手段もあるにはあったが、そんなグォイドに発見してくれと言わんばかりの手段は、最初から選択肢には入っていなかった。
土星圏のホログラムだけを見れば、〈じんりゅう〉のスイングバイはつつがなく進んだように見えた。
だが……。
「御存知のように〈ケーキ&クレープ〉は〈じんりゅう〉前方にただ浮かんでいるだけです。重力圏突入後は、スイングバイに伴う加減速に追随する機能はありません」
空中のウインドウ内では、シミュの進行に伴い、〈じんりゅう〉前方にあった〈ケーキ&クレープ〉の円盤が、徐々に定位置からそれ始めていった。
「さらに土星重力圏内では、ごく希薄とはいえ、微小デブリの濃度がそれまでよりも増します。〈じんりゅう〉はさておき〈ケーキ&クレープ〉は、それらに衝突した場合は耐えられないでしょう」
サヲリの説明と共に、〈じんりゅう〉前方からそれ始めた〈ケーキ&クレープ〉の円盤に、見えない何かにぶつかり、小さな穴が幾つも空けられていく。
そしてシミュ進行と共に、円盤はクシャクシャにされた包み紙のようになり、やがて〈じんりゅう〉の方へと流されていった。
「〈ケーキ&クレープ〉とは10キロの間隔を空けておいたので、〈ケーキ&クレープ〉が衝突する確立は低く、たとえぶつかりそうになっても回避、あるいはシールドで防ぐことは可能ですが、当然これ以降は〈ケーキ&クレープ〉の加護は受けられません」
〈ケーキ&クレープ〉だった物体は、〈じんりゅう〉の前方から流されていくと、そのまますれ違って〈じんりゅう〉後方へとゆっくりと離れていった。
「どちらにしろ、土星圏から離れる時には前方にある〈ケーキ&クレープ〉はステルスの役にはたたないんでしょ? 気にすることないわ」
ホロシミュレーション映像が停止すると、ユリノはため息と共にそう告げた。
たとえ〈ケーキ&クレープ〉が無事でも、〈じんりゅう〉の後ろ側をカバーできなければ意味が無いからだ。
巨大かつ脆弱極まりないごく薄の円盤である〈ケーキ&クレープ〉は、慣性航法でただ前方に浮かんでいるだけだからこそ形成維持できている代物であり、そう望んだからといって、すぐさま〈じんりゅう〉後方に移動させられる存在ではなかった。
「じゃ逃げる時は、〈じんりゅう〉はやっぱりまる見えなんですね」
「そのとおりですフィニィ少佐。もちろん何かしらの光を発さない限り、
サヲリは入念に確認してくる彼女に答えた。
「テュラ姉のプランでは元々〈ケーキ&クレープ〉などというものは無かったのだ。〈ケーキ&クレープ〉が無くなったって気にすることは無いさ」
「でもカオルコ少佐、万が一グォイドに存在がバレちゃったら……」
「そん時は、推力全開で尻尾巻いて逃げるまでよ!」
事もなげにカオルコが告げても、それでもまだ不安の拭えないフィニィ少佐に、ユリノ艦長が力づけるように言ったが、それでも彼女の顔色は変らなかった。
それが普通の感情であろリアクションだとサヲリは思った。
〈じんりゅう〉は人類の最大にして最強の脅威の中枢へと飛び込んでいくのだから。
「ともかく、土星圏までの往路工程ではほぼ何もできませんが、復路工程まで辿り着くこさえできれば、たとえグォイドに見付かったとしても、オリジナルUVD搭載の〈じんりゅう〉の推力ならば逃げ切ることが可能です」
サヲリは一時停止させたシミュレーション映像を、〈じんりゅう〉が土星圏に再接近した直後に、グォイドに発見されてしまったバージョンで再開させた。
〈じんりゅう〉は当然推力最大で逃走を開始する。
これに対し、土星圏の各グォイド拠点からは、実体弾を中心とした攻撃が放たれるが、そのどれもが〈じんりゅう〉に届くことは無かった。
〈じんりゅう〉が速すぎたからだ。
近づいて来る時ならばいざ知らず、木星からで打ちだされた際に、惑星間実体弾としての速さを得た〈じんりゅう〉が、さらにスラスター全開で遠ざかって行くのに、後方から追いつきダメージを与えることができる攻撃手段など無い。
故に、土星圏最接近時まで発見されなければ、〈じんりゅう〉はほぼ確実に脱出が可能なはずであった。
逆に言えば、土星圏接近時に万が一〈じんりゅう〉が発見された場合、〈じんりゅう〉の惑星間実体弾としての速度は、そのまま〈じんりゅう〉を傷つける仇となりかねない。
どんなに低威力の実体弾、UV弾頭ミサイル、あるいはUVキャノンであっても、〈じんりゅう〉との相対速度差により、一撃で〈じんりゅう〉を沈める程の破壊力を持ちかねないからだ。
「なんにせよ、人事を尽くしたならば、あとはなるようになるしかないわね」
ユリノ艦長がが締めくくった。
これらのシミュレーションは、最新の観測データをもとに日々アップデートされてはいるが、大筋においてはサートゥルヌス計画当初とは何も変ってはいない。
出来ることは僅かであり、クルー個人個人でできることは、基本的に覚悟だけだった。
そして同時に、何事も無く平穏にこの任務が終わることを祈りつつも、そうはならないであろうことを予感していた。
〈じんりゅう〉はつい最近、木星の底で人類でもグォイドでも無い存在が、太陽系創世記に作りあげ使っていたという、超巨大惑星間レールガンと遭遇したばかりなのだ。
土星にヒトの想像を超えた何かが待っていたとしても、不思議では無いと思えていた。
「万が一、土星最接近の前にグォイドに発見されてしまった場合は、分かってるわね?」
「
「万が一敵に気づかれた時に、そのプロトコルを実行できる余裕があれば良いのだが……」
ユリノ艦長が残り3人に確認するかのように訊くと、フィニィ少佐とカオルコが答えた。
カオルコの懸念はもっともだとサヲリも思った。
最接近前にグォイドに気づかれた場合に〈じんりゅう〉に出来る事は、【ANESYS】で寿命を数分間伸ばすくらいがせいぜいな気がする。
だが、それでもΩプロトコルの実行に努める義務が彼女らにはあった。
Ωプロトコル――それはVS艦隊テューラ司令からでは無く、その上のSSDF最高司令部から命じられた最重要指令であった。
「なんにせよ、この四人の中の一人でもブリッジにいて、Ωプロトコルが実行可能な状況ならば、即座に実行してください。一瞬の迷いが人類の破滅につながりかねません」
サヲリは副長の義務として、皆にそう告げた。
[ア~コホンコホン、デハ諸君、ソロソロ次ノ議題ニ移ラセテモラッテモ良イダロウカ]
「う……何よ」
エクスプリカの持って回った言い方に、ユリノ艦長が警戒しながら訊き返した。
[モチロンきるすてぃ・ぷろとこるニツイテダ]
「……」
エクスプリカの答えに、ユリノ艦長は沈黙した。
サヲリとカオルコ、フィニィ少佐も同様であった。
このブリーフィングにおいて、おそらく四人全員ができることなら避けて通りたかった議題が、ついにやってきてしまったのだ。
[ウ~ム……ソンナニ嫌ガルトハ……]
「いや、別に嫌だってわけじゃないのよ…………ただ……ちょっと恥ずかしいというか……こんな風に、皆で大真面目に話し合うような話題じゃ無いというか……そのやっぱりそれも話し合わなきゃダメ?」
[大丈夫ダ、俺ハ機械ダカラナ、何モ恥スカシガルコトハ無イゾ]
呆れるエクスプリカに、ユリノ艦長が手をワタワタとさせながら言い訳がましく言ったが、エクスプリカには通じなかった。
[きるすてぃ・ぷろとこるハてゅーら司令ノ承認モア得テイル正式ナ指令ダ。アキラメロ]
「Oh……」
エクスプリカの言葉にユリノ艦長は何も言い返せず、いったん頭を抱えれそっくり返ったのちに、肩を落として渋々頷くしか無かった。
[デハ、コイツヲ見テモラオウカ]
ユリノ艦長が諦める……というより覚悟を決めたのを確認すると、エクスプリカはホロ会議室内に、ケイジの似顔絵アイコンのついた円を中心に、女子クルー9人分の同似顔絵アイコン付きで9分割された巨大な立体円グラフをホロ投影させた。
まるで巨大なワンホールのケーキのようであったが、一切れ一切れが歪な形をしており、真円には程遠かった。
[見レバ分カル通リ、ゆりの、さをり、ふぃにぃ、オ前達ノ【ぱいれーつ・にんじゃ指数】ガ低イ、努力ノ必要性ヲ認ムルゾ!]
「まったく……もう!」
「オ~マ~イ…………」
「……ニェット」
円グラフによって突きつけられた真実に、ユリノ、フィニィ、サヲリはそれぞれにリアクションした。
【キルスティ
簡潔に言えば、サートゥルヌス計画中の〈じんりゅう〉において、ケイジ三層と適度に接触し、交友を深めつつ、なおかつ過ごす時間とその密度を、九人のクルーで平均化するよう努めるべし……という指令だ。
当然のことながら、その名が示す通り、木星圏に置き去りにしてきてしまった〈じんりゅう〉正機関長のキルスティが立案し、テューラ司令の承認を得て命じられたプロトコルである。
――サートゥルヌス計画、経過8日後――――。
『いいですか皆さん! これはけっして冗談で言っているわけでは無いんです!』
彼女は高速移動中故に通信条件の限定された〈じんりゅう〉に、わざわざ映像メッセージでこのプロトコルを伝えて来た。
物凄く真剣な眼差しで、そう拳を固めて力説するキルスティの映像に、人払い……というかケイジ払いをして集まり見ていたクルーは、どうリアクションしたら良いのか分からないまま、話を聞くにつれて顔を赤くし、それから青ざめていった。
『皆さんがケイジ技術三曹に抱いている気持ちは、今さら説明いただかなくともよぉ~く承知しています。
そしてその皆さんの気持ちが、先のケレスや木星や水星での戦闘で【ANESYS】の統合率を上げ、奇跡と言える程の勝利を勝ち取ったということもよく理解しているつもりです……ひょっとしたら皆さんが自覚している以上かもしれません……。
ともかく先の勝利は、皆さんがケイジ三曹と再び〈じんりゅう〉で出会い、共に戦えたことの喜びが【ANESYS】の統合率を上げ、導いたもの……とも言えるのです。
問題は……そんな彼と一つ屋根の下で暮らし、なおかつグォイド本拠地に向かっている時に、再びまた奇跡的ともいえる【ANESYS】の統合をなせるか? ということです。
なぜ、どうやってその奇跡を成し遂げたかが無自覚のまま、かの地にてまた奇跡を起こせるなどと考えるのは、あまりにも危険です。
なんの規範も準備も覚悟なく、なんとなくでグォイド本拠地に向い、万が一の事態に遭遇してしまったならば、起こせる奇跡も越せないでしょう。
…………ですから皆さんは、私の考えたプロトコルに従い、節度を持ってケイジ三曹と接触し、適度に、節度をもって、あくまでVS艦隊のクルーとしての自覚を持ち、許される範囲内での交友を深めてください!
もちろんケイジ三曹にはこの指令の存在がバレないようにです!』
そこまで聞いた一同は「はぃぃ!?」と思わず素っ頓狂な声を上げた。
どう考えても航宙士が正式に命じられる指令とは思えない。
しかも恐ろしく難易度が高い。
というか専門外だ。
だが、キルスティのその剣幕の前に、クルー達は彼女が本気であることを認めざるをえなかった。
『もちろん、皆さんこんなことを急に言われて困惑していることでしょう……』
まるで〈じんりゅう〉クルーとリアルタイムで話しているかのごとく、キルスティは一同のリアクションを予期しながら続けた。
『…………ですが私は本気です。
どうかこの指令を守る守らないが、〈じんりゅう〉の生き死にに……ひいては人類の存亡に関わると考えて下さい』
そんな馬鹿な……などとは言えない雰囲気でキルスティは続けた。
むしろ守らねば絶対に死ぬ! 人類は滅ぶ!くらいの勢いでキルスティはまくしたてた。
『そして………………ここからが大事なのですが、その交友を深めるレベルは、皆さん一人一人の内、誰か一人だけが突出したり、またその逆であったりするような事態は……絶対に……………………ずぇ~ったいに避けて下さい!
目的は誰かがケイジ三曹と両想いになることではありません。
必ず皆さんが一律同レベルでケイジ三曹と仲良くなって下さい!
御存知のように、過去の【ANESYS】適正者やVS艦隊クルーの色恋沙汰が、【ANESYS】統合率に影響し、いかな悲劇が引き起こされたかを考えれば、理由はもう説明の必要は無いと思います。
このプロトコルの実行にあたっては、ケイジ三曹との接触時間と密度を総合的に分析、算出する専用の計測アルゴリズムを送信しましたので、それにしたがって導き出された指数を元に、皆さんは行動を微調整し、ケイジ三曹との交友を深めつつ平均化に努めて下さい』
キルスティの説明と共に、〈じんりゅう〉艦内の(私室や浴場等を除く)パブリックエリア各所にある監視カメラや艦内通信で得た情報を元に、キルスティから送られてきたアルゴリズムによって、指令の実行具合が導きだされる様子がシミュレーション映像でプレゼンされた。
『便宜上、このアルゴリズムで導き出された数値を【パイレーツ・ニンジャ指数】と呼ぶことにします。
どうか皆さん、難しいとは思いますが、この指数が全員5
キルスティは唐突に物凄く気になるワードを告げながらも、まったくそのことには触れずに、ワンホールケーキ状の円グラフを投影しながら説明を続けた。
そして恐ろしいこと、この指令は正式なものであり、彼女達には従い努力する義務があることを告げたのであった。
メッセージ映像が終わっても、クルーらはしばらくの間、何も言葉が出てこなかった。
【パイレーツ・ニンジャ指数】とは、9人のクルー達一人一人が、ケイジ三層と接触していた時間とその密度を表す指数だが、何故そのような名前がついたのか? キルスティからのメッセージでは語られてはいなかった。
外部に漏れた場合の秘匿性と、既存の指数で他に適当なものが無かったが為にこんな名前を考えたのだと思われるが、誰がこんな名前を考えたかまでは分かっていない。
が、おそらくキルスティかテューラ指令か、ノォバ・チーフの誰か……あるいは事情を知っている〈ナガラジャ〉の誰かが思いついたのではないかと〈じんりゅう〉クルーは睨んでいた。
――〈じんりゅう〉ホロ会議室内――。
[逆ニくぃんてぃるらヤふぉむふぉむ、かおるこハ、チトぱいれーつ・にんじゃ指数ガ高過ギルナ]
「ええ!? それも駄目なのか?」
巨大ワンホールケーキのような円グラフを前に、指数が低い方で名前を呼ばれず,安心していたらしいカオルコが驚いて訊き返した。
[ソコソコノ指数デ平均化サレテイルコトガ大事ダカラナ。理想ヲ言エバ、全くるーノ平均ぱいれーつ・にんじゃ指数ガ5PNニナッテイルノガ望マシイ。オ前サンハ突出シスギダ]
「そんなの! ……そんなのそうそう上手く微調整できるわけないじゃないぃ~」
何故かカオルコではなくユリノ艦長が弱々しい声でそう抗議したが、エクスプリカは素知らぬ顔であった。
「あの……カオルコ少佐……」
「なんだフィニィ」
おずおずと挙手して質問したフィニィ少佐に、どこか誇らしげなカオルコが振り返った。
「あ……あの……カオルコ少佐はどうやってケイジ君とその……交友を深めたんですか?」
「あ~それならばだな……」
サヲリはカオルコが口を開いた瞬間、何か嫌な予感がしたが、カオルコの口は止められなかった。
「ケイジがよく食堂でやっている昔の映画やらアニメの上映会に出たり……」
「ああ、あれね……」
カオルコの言葉にユリノ艦長がうんうん頷いた。
ケイジ三曹がよく食堂で開かれる映像作品の上映会に出ているのはサヲリも知っていた。一応そこに出席したこともある。
が、そこではルジーナやおシズのコアな会話に入り込めず、ただ会話を聞いていただけだった。
「それから………………それから、え~っと……」
「それからなによカオルコ」
そこまで言ってから声が小さくなったカオルコに、ユリノ艦長が詰め寄った。
「ええええ~っとアレだな……ほら、ケイジってEVA要員でもあるし、割と真面目に身体鍛えているではないか? だから艦内のジムもよく利用しているんだ。そこでぇ……わたしやクィンティルラやフォムフォムと一緒になることもあるんだな……」
「…………」
カオルコはユリノ艦長らの視線が鋭くなってきたのを感じ、一端大きく唾を飲み込んだ。
彼女も自分が言おうとしていることに、多少の後ろめたさは感じているらしい。
「…………で、そこでストレッチとかの手伝いをしてもらっ…………あの、開脚の時とかに背中を押してもらったりとかだけだゾ! 少なくともわ――――」
「接触ってのは物理的な意味のことじゃな~い!!」
カオルコが最後まで言う前に、ユリノ艦長のどなり声が遮った。
ユリノ艦長がいかな事を想像して、声を張り上げているのかは、サヲリはそれ以上考えないでおくことにした。
「どうせそんなことだろうと思ったわ!」
「分かっていひゅ! 分かっていひゅってユリノよ、たまたま! たまたまだったのひゃ! それに、それいひゃいヒェイジとはジムでは会ってはいないから!」
カオルコの両の頬を両手でムニムニしはじめたユリノ艦長に、彼女は必死で説明した。
サヲリはなんとなく、ケイジ三曹とカオルコ達がジムでその後出会わなくなったのは、ケイジ三曹の方がジムに行くタイミングをずらしているからな気がした。
そしてクィンティルラとフォムフォムは、ケイジ三曹と何をしたのだろう? と思った。
「…………カオルコ少佐やフォムフォム……どんな格好でジム行ったんだろう……?」
フィニィ少佐がボソリと呟いた。
ともあれ、キルスティの指令は、あくまでパイレーツ・ニンジャ指数の適度な数値での平均化であった。
誰かのパイレーツ・ニンジャ指数が突出していても、またしていなくても、それは目標達成たりえないのである。
[トモカク! コノ指令ヘノ不満ハ後デきるすてぃニ言ッテクレ。ドウヤッテ指数ヲ上ゲヨウト、俺ハカマワン]
「……そそそそ、そんなこと言われたってさっ……」
「……その手段のところにボクらは悩んでるんじゃないぃ~!」
大雑把なことを言うエクスプリカに、ユリノ艦長とフィニィ少佐が両の人差し指をツンツン合わせながらブツブツと抗議した。
適度に接触し、交友を深めろとは言うが、キルスティはそれをどうやって行なうかまでは、一切語ってはくれなかった。
カオルコのような手段は、指数を上げるのに有効かはしれないが、全クルーに出来る手段では無いし、おそらくケイジ三曹の身がもたない。
カオルコやクィンティルラは意図的にスル―したが、そもそも肉体的な意味での接触では無いと、キルスティもメッセージ映像内で言及している。
仮にクルー全員がカオルコ的手段で平均的に彼にコンタクトした結果、彼に嫌われたりしても当然よろしくない。
「あの……エクスプリカ、ワタシからもこの円グラフの集計結果について質問があります]
[ナンダ?]
「ワタシはキルスティ
サヲリはシフト調整できる立場であり、日に一度は彼と食事の席を共にしている。
また船体の維持管理も担当していることから、ケイジの船体整備作業時には、常に会話している。
その接触、会話時間は、パイレーツ・ニンジャ指数の目標値に充分達しているはずであった。
がしかし――
[さをりハノ場合ハ、タダ任務上ノ会話シテイルダケダカラナ、食事ヲ一緒ニシテルトイッテモ世間話モシヤシナイシ]
「…………ニェット」
サヲリは小さく呟いた。
どうやらパイレーツ・ニンジャ指数を上げる為には、ただケイジ三曹と接触しているだけでは駄目らしい。
サヲリは己の考えの甘さに拳を握りしめた。
キルスティがこの指令を立案し強く進言したのは、〈じんりゅう〉の無事を祈ってのことなのだろうが、ユリノ艦長やサヲリやフィニィ少佐は、このかつて無い指令に大苦戦を強いられていた。
カオルコの作戦でも、サヲリのやり方でも駄目なら、どうすれば良いというのか?
[人間ノ女子ノソコイラヘンノ機微ハ、俺ニハ分カラン。マァマダ時間ハアルカラ、イロイロ試シテミタライイサ。俺ハオ前達ニ現状認識ガデキテサエイレバソレデ良イ]
エクスプリカが他人事のように告げた。
[ソレニ……ぱいれーつ・にんじゃ指数モ問題ダガ、ソレトハ別ニ、ココデ話アッテオクベキ事ハ他ニモアル]
「他ってなにさ?」
自分でふっておいてほったらかしを決めたエクスプリカに、ユリノ艦長が訊いた。
[さてぃノ問題トカダ]
エクスプリカは答えた。
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