▼第一章 『旅の途中』 ♯2
テューラ司令が命じたこの土星圏フライバイによるグォイド本拠地偵察計画=サートゥルヌス計画の肝は二点ある。
一つは超高速航行であるということ。
惑星間レールガン級の超高速であれば、敵陣を通過する時間はその分短くて済み、敵に発見される可能性もその分低くなる。
もう一つは慣性航行であるということ。
グォイドとの戦いでの互いの索敵は、基本的に相手の発する加減速噴射炎の光を見つけることで行われる。
逆に言えば、噴射光を発しなければ見つけられることは無い。
その点、この計画は最初から最後まで慣性航行で行われるの為、一切の噴射炎を発する予定は無く、被発見の可能性はかなり低くなる。
テューラ司令は、紆余曲折を経て〈じんりゅう〉が惑星間レールガンの弾体となり、偶然にも慣性によるこの速度で、短時間での土星圏フライバイ偵察が可能になったからこそ、サートゥルヌス計画を進めたのだ。
だが、いくら噴射光を出さなければ被発見率が低いとはいえ、決して発見される可能性がゼロになったわけでは無い。
ましてや〈じんりゅう〉はグォイド本拠地の目と鼻の先を通過するのだ。
そして〈じんりゅう〉は決して自ら光を出さないとはいえ、決して見えなくなったわけでは無い。
ケイジが振り返って見ると、弱々しくなった太陽光に照らされ、10キロ彼方にいる〈じんりゅう〉が星野に浮かぶ小さく微かな影となって、確かにそこに存在しているのが見えた。
ケイジの肉眼でも見えるということは、グォイドにだって見えるはずだ。
……そう考えるのが当然だった。
グォイドからも見れば見付かるのに、まだ見つかっていないのは、それはグォイドが〈じんりゅう〉がここにいることを知らないからに過ぎない……ただそれだけとも考えられる。
宇宙は広大であり、以下に遠くを見据える視力があれども、広大な宇宙のどの方向を見るべきかが分からなければ、目的のモノを発見することは出来ないのだ。
そしてまだ〈じんりゅう〉が見付かっていないのは、たまたまグォイドが〈じんりゅう〉がいる方向を、グォイドが目を凝らして見ようと思っていなかっただけ……なのかもしれない。
その幸運が、〈じんりゅう〉が土星圏に最接近し、通過して無事その勢力圏から脱出するまで続くと思うわけには行かなかった。
なんとかしてグォイドの目をくらます手段を講じねばならない……少なくともノォバ・チーフはそう思ったようだ。
当然ながら、超高速慣性航行中の〈じんりゅう〉には、もう後から補給物資を送り届ける術は無い。
送ることができるのは、データ送信できる電子的な情報のみだ。
それもジャミングエリアたるメインベルトに突入する前に送信し、受け取らせることができないと手遅れになる。
メインベルトの外でなら再びデータ通信も可能にはなるが、内太陽系から何かデータを〈じんりゅう〉に向け送信することは、〈じんりゅう〉の存在をグォイドに知らせてしまう危険があるからだ。
だからノォバ・チーフ率いる彼のチームは、現在〈じんりゅう〉に積まれている物資と、搭載された工作機器の全てを洗い出し、現状の〈じんりゅう〉で出来うる手段を大急ぎで考え、その実現方法をメインべルト突入前にデータで送って来たのだ。
それが約一週間前の出来事である。
そして今の〈じんりゅう〉クルーの中で、ノォバ・チーフらから送られてきた作業計画書の意味を最も理解し、実行できうる人間は、専門分野的にケイジをおいて他にいなかった。
『ブリッジよりケイジ三曹、そちらの進捗状況はいかがですか?』
「こちらは特に問題無しです。間も無く起動準備完了します副長」
〈じんりゅう〉より、命綱を兼ねた通信ケーブルを通じて届いたサヲリ副長の声に、ケイジはタブレットから顔を上げて答えた。
〈じんりゅう〉前方10キロの位置まで来たケイジの眼前には、今、サティによって運ばれた太く短い円柱状、あるいは分厚い円盤状の機械が浮かんでいた。
直径3.5メートル、厚み2メートル程のそれは、機械の細々としたディティールを除けば、二枚の比較的薄い円盤で真ん中の分厚い円盤を挟んだ三層構造をしており、丸い底面をケイジらと〈じんりゅう〉に向け、完全に静止していた。
ケイジとサティの最初の仕事は、この物体を〈じんりゅう〉前方10キロの位置まで運び、適切な位置で完全に静止させることであった。
円盤にもガス噴射式姿勢制御スラスターは付いているが、燃料式なので、後々の節約の為にまだ使うわけにはいかなかった。
面倒なのは完全に静止させるという部分で、真空無重力の宇宙空間ではこれがなかなか難しかったのだが、サティという便利極まりない協力者のお陰で、思ったよりも早く達成できた。
サティが身体を細く伸ばすことで、ここまでこの円盤状機械……通称〈ケーキ&クレープ〉を運んだ後、下手なモーメントが加わらないようにそっと離してくれたのだ。
ケイジは事実上タブレットを用いた円盤機械の各種チェックと、位置、そして角度の正確さを再確認するだけで良かった。
この一週間はノォバ・チーフからの指示に従い、艦内で入手した材料と工作機器でひたすらこの〈ケーキ&クレープ〉の製作にあたっていたわけだが、それもノォバ・チーフの完璧に近い作業指示書と、艦内に余る程搭載されたヒューボのお陰で、大変だったという程の苦労は無かった。
なにしろ〈ケーキ&クレープ〉使用前日にサティとSFドラマを梯子する余裕があった程なのだ。
むしろ苦労した気がしない故に、不安になってきたくらいであった。
「ケイジよりブリッジ、〈ケーキ〉の静止と角度の確認完了。いつでも起動できます」
『こちら〈じんりゅう〉よりケイジ君、ホントに大丈夫? そこにいて危険は無いの?』
ケイジが覚悟を決めてブリッジに連絡を入れると、返って来たのはサヲリ副長では無くユリノ艦長の声だった。
「大丈夫です艦長。危険はありません。ですが〈ケーキ&クレープ〉に不測の事態があった時の為に、俺はここにいるべきだと考えます」
ケイジはすでに何度も説明したことを彼女に繰り返した。
どうも艦長は、自分に対して少し心配症な気がする。
まぁ〈ケーキ&クレープ〉云々ではなく、この場所が危険と隣合わせなことは変り無いし、それについて心配しているのだろうとケイジは納得しておいた。
わざわざ〈じんりゅう〉から10キロも離れた位置にいる理由の一つは、万が一〈ケーキ&クレープ〉が爆発したり急減速するなどのトラブルが発生した時に、〈じんりゅう〉に被害を及ぼさない為、安全マージンを稼ぐ為であった。
10キロ離れていても気休めにしかならないが、〈じんりゅう〉の目の前で行うよりかは遥かに安全である。
万が一が起きた時はケイジだけが犠牲になるわけだが、他にここでの作業の適任者はなく、ケイジにとってはとっくに覚悟していたことだった。
艦長の心配はありがたいが、どのみちノォバ・チーフの指示においてもこの位置、この環境、このタイミングでなければ、この作業は出来ない。
『…………分かったわ。じゃ気を付けて起動させてね。サティは何かあったらケイジ君連れてすぐに艦に戻って来ること!』
「了解しました」
『は~い』
しばしの逡巡の後に届いた艦長の声に、ケイジはサティと共に答えると、タブレットで〈ケーキ&クレープ〉に起動命令を送った。
「で……サティ? 実はなんだって?」
『はい、なんでしょう?』
「さっき何かいいかけてたじゃん、ミユミちゃん達がが寝ぼけてフィニィ少佐の部屋で寝てた話の続きで……」
ケイジは起動命令を送った〈ケーキ〉が、ゆっくりと目覚めるのを待つ間にサティに尋ねた。
『あ……あ~そのことですか! 実は……という程のこともないのですが……カオルコさん、ミユミさん、おシズさんが寝ぼけてフィニィさんの部屋で寝てたのと同じような出来事が、他にも最近ちょくちょく起きてるんですよ~って――――』
『あ~! ゴホンゴホン!』
ケイジに答えるサティの声は、極めて明確なユリノ艦長らしき咳払いによって遮られた。
『作業班は私語は程々に抑えて下さい』
続けて届くサヲリ副長からのやや慌てた声に、ケイジは即「すいません!」と謝っておいた。
この〈じんりゅう〉での生活が始まって以来、常にそう心掛けてきたことであった。
なんだかそれは少し卑屈すぎる気もするのだが、まだ16歳の少年には他にやりようも思いつかなかった。
ケイジはサティの話に、艦長や副長が微かに慌てているような気が一瞬しないでも無かったが、素直に目の前の任務に戻ることにした。
『あ……あのケイジさん、それよりも〈ケーキ&クレープ〉の様子が……』
サティの声に、タブレットから前方に浮かぶ〈ケーキ&クレープ〉に視線を移すと、三層の内、真ん中の円盤とそれを挟む二枚の円盤が、それぞれ逆方向に回転を始め、その加速に伴い〈ケーキ&クレープ〉がうねるような、震えるような動きを見せ始めていた。
製作工程上、どうしても発生してしまう三つの円盤の内部構造の僅かな重心のズレが、回転を開始したことで〈ケーキ&クレープ〉に不規則なモーメントを与えているのだ。
『あの、大丈夫なんでしょうかぁ?』
「大丈夫! 想定の範囲内だから」
ケイジは中で獣が暴れてるかのような動きを見せ始めた〈ケーキ&クレープ〉に、内心で焦りながらもサティに答えた。
せっかく完全静止するまで待ったのが、こう暴れられてはまるで意味が無くなってしまったかのようであった。
しかし、ケイジの言葉通り、大暴れするかに見えた〈ケーキ&クレープ〉の挙動は、その手前で納まると、回転速度を増して行きながらも元の静止していた位置へと戻って行った。
「ノォバ・チーフがあらかじめ送ってきてくれたプログラムが効いて来たみたいだな」
『プログラムですかぁ?』
「ああ、どうせ完璧に重心位置が中心からずれて無いものは、物理的に絶対作れないだろうから、起動させて見て重心位置のずれを検知してから、静止した位置に戻るよう自動的に回転を補正する制御プログラムが、中のコンピュータに入っとるんだ」
ケイジはやや得意げになって説明してみたが、サティからのリアクションは特に無かった。
〈ケーキ&クレープ〉の三重の円盤型ボディは、それ自体がリアクションホイール(能動的姿勢制御用はずみ車)であり、さらに内臓された上下軸と左右軸の小型リアクションホイールにより、スラスター噴射などを用いずとも、能動的に己の姿勢を一定に維持できるのだ。
「こほん、起動第1段階の成功を確認。第2段階へ移行させる」
ケイジは気を取り直してタブレットを操作した。
もちろん、〈ケー&クレープキ〉はここでただ回転させる為だけの機械では無い。
ケイジの指示が届くと、回転中の〈ケーキ&クレープ〉の中段の円盤の外周が僅かに前後に割れ、そこから銀色の液体が溢れるように出て来ると、回転の遠心力に合わせ、ゆっくりと薄い円盤状に広がり始めた。
〈ケーキ&クレープ〉の三段の円盤の回転は、この膜を遠心力で真円状に展開させる為のものだったのだ。
前後の円盤が逆方向に回転しているのは、銀の液体を展開中の中断の円盤の回転モーメントを相殺させる為のものなのである。
『わお、なんかすご~い』
銀色の薄い円盤がみるみる広がり、それまで眼前に広がっていた〈じんりゅう〉前方の景色を覆ってゆく中、サティが水色の触椀でペチペチと拍手しながら歓声を上げた。
『上手くいってるみたいね……よかった』
〈じんりゅう〉からユリノ艦長の声が届いた。
ケイジも視界を覆い始めた銀の円盤の姿に、ようやく長い溜息をつくことを自分に許した。
円盤は〈じんりゅう〉の装甲内に納められている充填剤と、各種マイクロマシーン、それと緊急排熱フィンに使われている液状金属を混ぜて作った一種の流体金属である。
それは最終的には直径30キロ程にまで展開する予定だ。
ケイジはノォバ・チーフが送って来たシミュレーション映像から、何となく鉄板の上でクレープを焼く時を連想していたのだが、実際に見てみるのと想像してたのとでは大違いだった。
とりあえずデカすぎる!
「第2段階の正常進行を確認。続いて第3段階へ、〈じんりゅう〉、後方映像データを送って下さい」
『こちら〈じんりゅう〉、了解。〈じんりゅう〉後方の映像データ送信中』
手筈通りのケイジの通信に、サヲリ副長の声が返って来た。
〈ケーキ&クレープ〉の起動第3段階は、ケイジには上手く行ったかは確認できない事象だった。
だが、幸いにもここにはサティがいた。
「ほいじゃサティ、ちょっと確認を頼むよ」
『は~い』
サティは快くケイジの頼みに答えると、不定形な身体を〈じんりゅう〉から繋がるロープのように細くして、その端を展開途中の円盤の裏側、〈じんりゅう〉の進行方向である土星圏側へと届かせた。
『すごーい、何か映ってますよぉ』
円盤の裏側を見たサティが、のんびりとした声音で告げた。
『何かってなにがサティ?』
『え~と……なんと言いますか宇宙が映ってます。ユリノ艦長、そっちでも見れるんじゃないんですかぁ?』
サティが艦長に答える中、ケイジはタブレットの画面に集中していた。
タブレットにはサティに持たせたカメラからの映像が送られてきていた。
展開途中の円盤の裏側を下端から見た映像であるため、円盤は楕円形となって映り、近過ぎるし角度も急過ぎて何が映っているか言いあぐねるサティの感想はもっともであった。
そこに映っているものを言葉にするならば、サティの言う通り宇宙であった。
黒い……というより広すぎて暗い宇宙の漆黒を背景に、光る砂をばら撒いたように星が散らばっている。
この円盤が銀色であることを考えれば、鏡のように〈じんりゅう〉の進行方向にある宇宙の星々が反射して映っているかのように見えた。
だがそれは違った。
真下から見上げた円盤の中央に、進路前方には有るはずの無い輝きを放つ光点が映っていたからだ。
『こちらシズより作業班、今サティからの映像を補正したものを送るのです』
〈じんりゅう〉の幼き技術大尉の声が届くと同時に、タブレットに映るサティからの映像が切り替わった。
サティが下から見た楕円形となった円盤裏側の映像を、おシズ大尉がコンピュータで補正し、真円に修正して見せてくれたのだ。
真円となった円盤裏側には、やはり鏡であったならば映るはずの無い眩い光点が、その中心部で輝いていた。
もちろん、この計画の中心となって作業を行って来たケイジは、この光点の正体を把握していた。
それはケイジとその後方10キロにある〈じんりゅう〉を、背後から弱々しく照らしている太陽の輝きだ。
〈じんりゅう〉の後方センサーで捉えた映像を、銀の円盤に送信・投影しているのだから当たり前であった。
ケイジはその当たり前を確認したかったのだ。
『これで上手くいっているんですかぁ?』
「ああ、上手くいってるよサティ、ノォバ・チーフの目論み通りに」
微かに疑わしげばサティにケイジは答えた。
『映像解像度に問題無いのです。これでグォイド本拠地側からは、光学的に〈じんりゅう〉の捕捉は困難となったはずなのです』
『〈ケーキ&クレープ〉前方センサーよりの前方映像も、問題無く〈じんりゅう〉に届いています』
『そうなら良いのですが……』
おシズ大尉とサヲリ副長が説明しても、サティは不安……というか納得ができていなようであった。
木星の深深度ガス大気内で生まれ育ったサティは、広大な宇宙空間でのグォイドとの戦いの作法というものが、まだよく馴染んでいないせいかもしれない。
「ま、なんてこはない。こいつは〈じんりゅう〉用のステルス膜だってことさえ理解できてれば、それで良いのさ」
ケイジは言いきった。
今、銀の円盤の反対側に映つされている映像には、〈じんりゅう〉の姿は映されてはいない。
〈じんりゅう〉の後方カメラがとらえた映像なのだから当然である。
そのことが大事なのだ。
『でも、ケイジさ~ん……やっぱり……』
「やっぱりなにさ?」
『……やっぱりこのくらいのお仕事でしたら、ワタクシが体を平たくして行ってもあまり変りなかったんじゃ……』
「う……」
ケイジはそのことについて、すぐに返す言葉は無かった。
ノォバ・チーフが考え出した〈じんりゅう〉の被発見率低下の手段とは、グォイドがSSDFに発見されずに、先の戦いで木星にまで接近して来た手段を模倣することであった。
先の木星での闘いでは、グォイドは慣性航行を用いつつ、ごく薄いシャボン玉のような卵状のステルス膜で艦を覆い、光学的に己の姿を遮蔽することでSSDFの目を欺いて来た。
そのステルス膜は、UV弾頭ミサイルの爆発による衝撃破だけで容易く破壊できるほど極めて脆弱なものであり、慣性航行であるからこそ維持できるものであった。
ならば、現在慣性航行中の〈じんりゅう〉でも、理屈の上では使用可能なはずである。
とはいえ、もちろん、すぐさまグォイドと同等のものを模倣することは技術的にはできなかった。
初めて観測されてから、まだ一カ月も経っていないのだ。
そして仮に完全な模倣手段が確立されたとしても、そのステルス膜発生デヴァイスを、今の〈じんりゅう〉に届ける術は無い。
そこでノォバ・チーフはステルス膜で艦全体を覆うのはあきらめ、艦の進行方向のみに展開し、土星のグォイドからの観測を欺くことのみに特化したクレープ的円盤状ステルス膜にすることで、技術的ハードルを下げ、なお且つレシピさえ伝えれば〈じんりゅう〉内の材料と工作機器で作れるようにしたのだ。
〈じんりゅう〉の前方10キロの位置に、土星を隠すようにして展開された直径30キロの巨大な銀のクレープは、巨大な高解像度映像投影スクリーンであり、そこに〈じんりゅう〉の映っていない〈じんりゅう〉艦尾からとらえた後方映像を投影することで、土星圏方向からの光学的捕捉を避ける……これがノォバ・チーフが考え、伝えてきた〈ケーキ&クレープ〉計画であった。
サティの言う通り、この程度であればサティに頼んでも可能な行いかも……という説は確かにあった。
が、あと一カ月近く〈じんりゅう〉の前で円盤状に固まっていてもらうのは、恩人である彼女を危険に晒してしまうという意味でも、退屈が苦手な彼女の性格的に厳しかろうという意味でも却下されたのである。
ケイジ達は、この計画の名前以外はおおむね賛成であった。
『なあケイジぃ~』
「ん、クィンティルラ大尉? なにか御用ですか?」
〈ケーキ&クレープ〉の完全展開を見守っていたケイジは、ふいに〈じんりゅう〉艦載機パイロットに呼ばれ、軽く驚いた。
クィンティルラ大尉はあまりこういうのに興味が無いと思っていた。
彼女もブリッジで作業を見守っていたのだろうか?
『なぁケイジよ、明日の三時のおやつなんだけどさ……』
「はぁ」
ケイジはそこまで聞いた段階で、彼女が次に何を言い出すか、もう分かるような気がした。
『クレープにしよう! 生クリームとかフルーツ特盛りのヤツ!』
「…………」
ケイジが自分の予想がまんま当たり過ぎて絶句していると、繋がったままの通信マイクから、ミユミやカオルコ少佐やルジ氏やフォムフォムにフィニィイ少佐が……つまり〈じんりゅう〉全クルーが「いいですねぇそれ!」「クィンティルラ、ナイス!」「フォムフォム……」「アイスも入れてほしいなぁ」などと言う声が聞こえてきた。
どうやら全クルーがブリッジでこの作業を見守っていてらしい。
ケイジはほんの少しだけ。〈じんりゅう〉に戻るのが怖くなった。
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