♯4

 ――宇宙ステーション〈斗南となみ〉南端・SSDF大型航宙艦ドック――の上部。


 シャワーを浴びるついでにソフティ・スーツから常装服に着替えていると、思いの他時間を食ってしまった。だがソフティ・スーツ姿で、公共の場にほいほい出ていくような勇気はユリノには無かったので仕方ない。

 ユリノが早足で大型航宙艦ドックを見下ろす展望ラウンジ内のカフェに入ると、すでにテューラ司令とエクスプリカ、それとSSDF作業用ツナギを来た中年男性が、窓際にある洒落た丸テーブルを囲んで座っていた。


「なかなか来ないから、先に済まさせてもらったぞユリノ」

「すみません、お待たせしました」


 ユリノはテューラに答えると、丸テーブル上にあった二つの空の長グラスを素早く確認して店員に同じものを注文し、無言で眼下の開放型ドック内に見える〈じんりゅう〉の姿を見つめながら自分も席へと着いた。

 ドック内の上下にはしる四本の全長600メートルのレールに挟まれることにより、前後移動可能な直系300メートルのガントリーリング4基、そのリングの中で〈じんりゅう〉は次の船出の時を静かに待っていた。

 こうして見ている間も、〈じんりゅう〉を囲むその巨大リングは、忙しなく前後に動いては回転し、輪の内側に搭載された巨大マニュピュレーターで〈じんりゅう〉に何かしらの作業を続けている。

 全四基の補助エンジン、全六基の主砲搭、艦首ベクタードを含む艦首部ブロック、艦尾メインスラスターノズル、全放熱翼、艦中央上下のセンサーセイルモジュール等々……ケレス沖会戦までに受けたダメージ箇所が全て取り外され、今は事実上中央船体だけの姿だ。


「まったく凄い姿になったもんだよなぁ。これ本当に抜秒までに修理は全部終わるのか?」


 ユリノの視線の先に気づいたテューラ司令が、ユリノが思ったことをそのまま口にした。

 ほぼ丸裸の〈じんりゅう〉の姿を見れば、当然のことかもしれない。


「だ、大丈夫です! この手の作業は最終組み立ての前に、いかに入念に準備しておくかが大事なんですっ、くっつけちゃってから慌てても遅いんですから!」

 ユリノは自分の心配を打ち消すように力説した。

「ほ~」

「……って言ってましたお義兄さん……じゃなかったノォバ・チーフが……ね!?」


 何故か話を聞くテューラの視線に、からかいの感情がこもっている気がして、ユリノは慌てて付けたすと、はす向かいに座る中年男性、SSDF技術大佐にして〈じんりゅう〉開発整備責任者チーフのノォバ・ジュウシローに同意を求めた。

 やや前髪が後退し始めた中肉中背のSSDF技術士官は、そんなユリノに対し、グラスの底に残ったアイスをつつきながら「まあな」と素っ気なく答えると続けた。


「交換用パーツはだいたい準備ができたから、明日から組み付けに入るよ。ほれ〈じんりゅう〉の艦首のそばに、あたらしいフィギュアヘッドも届いてるのが見えるだろ」


 そうノォバ・チーフが指し示す先を見ると、確かにV字に両手を広げた女神像がドック内に浮かんでいるのが見えた。

 それを見てユリノは微かに顔を赤らめた。

 背中の翼と髪の毛が一体になった裸の女神像、〈じんりゅう〉艦首用に作られたそのフィギュアヘッドのモデルは姉のレイカであり、近年、自分がその姉に似てきたとよく言われているからだ。


「ああ、やっぱりあれ着けなくちゃ駄目なんですか?」

「縁起ものだからなぁ……。改修に関してだが、どっちかというと、組み付け後の調整の方に時間が欲しいんだが、それはまあ抜描後でも間に合う」

「まぁ、ノォバ・チーフがそう言ってるなら心配はいらないか…………っていうかさっきのセリフ、ホントにノォバ・チーフの受け売りだけか? ユリノ」

「どういう意味ですか?」

「いや、『最終組み立ての前に、いかに入念に準備しておくかが大事』だなんて、お前にしちゃやけに技術的な事を言うものだからな、他の誰かを思い出して言っているような気がしてな、なんとなく」

「はぁ?」


 一瞬、ユリノはテューラ司令の言っている意味が分からなかった。……が、たっぷり数秒間考えてから、彼女の言わんとしていることに思いあたった。

 許された時間を精一杯有効に使い、入念な下準備を心掛ける……そんな人物に、ユリノはもう一人心当たりがあった。


「ち……ちちfんぢそfさ@、違います違います!」


 両手をぶんぶん左右に振りながら、自分でもわけがわからないくらい慌てて否定するユリノであったが、その脳裏には、確かにあの少年エンジニアの顔が浮かんでいた。


「……図星だったのか、冗談のつもりだったのだが……」

「ひ、ひどい……」

「言いたくはないが、事態は結構深刻なんじゃないのか? お前達の【ANESYS】持続時間が短くなっているのは、やはりそれが原因なのだろう?」

「……」


 ユリノに言い返せる言葉など無かった。

 〈じんりゅう〉帰還後、始めて【ANESYS】をシミュレーションしてみてから今まで、〈じんりゅう〉クルーの【ANESYS】持続時間は6分に届くことは無かった。

 全盛期に比して、平均で約30秒、〈じんりゅう〉クルーの【ANESYS】持続時間は短くなっていた。

 たった30秒とはいえ、宇宙の戦場では充分に致命的なことが起こりうる時間だ。

 問題なのは、それがキルスティがクルーに加わる前のシミュレーションから、その持続時間短縮現象が起きていたということだ。

 キルスティが【ANESYS】持続時間短縮の原因なのでは無い。二代目〈じんりゅう〉の9人のオリジナルクルーの方が、ケレス沖会戦以後で変わってしまったのだ。


「キルスティちゃんには悪い事をしてしまいました……」


 ユリノは運ばれてきた〈斗南〉名物の天然フルーツパフェをつつきながら、そう零した。


「【ANESYS】の総合時間が短いのは、彼女のせいでは無いのに……」

「まったく、新しい機関長がいるというから、せっかくまだ任官もしていない若造を私が引き抜いて来たというのに……彼女、すでにナガラジャの姫とデボォザ副長が目をつけてて、それを無理を言ってこっちに来てもらったんだぞ」

「え、それ本当ですか? う~わぁ~それは後がうるさそうですね…………っていうか、さっきのシミュレーションッッ!」

「どうしたユリノ?」

「さっきのシミュレーションの最後に出てきた大質量高速実体弾投射艦……司令の仕業ですよね?」

「……」


 言葉で聞くまでも無く、テューラの表情はユリノの疑念に答えていた。


「このタイミングで不可避死テストをしかけますかねぇ……」

「いや……あれはだな……多少ハードルが高い方がクルーも奮起するかと思ってだな……」


 ユリノのその剣幕に、さしものテューラも珍しくすまなそうに答えた。

 〈不可避死テスト〉――それはいかなる手段をとろうともバッドエンドを避けることができない『勝ち目』の無いシミュレーションシナリオの総称だ。

 いわば一種の心理テストであり、勝敗や合否の判定は無い。ただ被験者が死を目の当たりにした時にいかなリアクションをとるのかを知る為のテストであった。

 今回の大質量高速実体弾投射艦の登場は、厳密には不可避死テストではないが、ユリノにしてみれば、それとなんら変わりなかった。


「……にしたってあのタイミングであの場所に高速実体弾投射艦だなんて……」

「まぁ深く気にするなユリノよ。死を目の当たりにしたお前達クルーの態度も見事だったぞ」

「それはここ最近、散々シミュレーションで死んでますからねぇ……それがやっと任務失敗とはいえ生きてシミュレーションを終われそうだったのに……」

「それはそれで……ちと低い目標なような気がするのだが……」


 テューラは呆れると同時に、〈じんりゅう〉クルーのシミュレーション結果の惨憺たる有様を思い出したらしく、大きく溜息をついた。


「はあ……私がこっちに戻って来る頃には、お前達クルーの【ANESYS】持続時間も戻っていると思っていたんだがな。私が木星圏で野良グォイド処理の指揮をしている間に、多少なりとも休暇もとれたんだろう?」

「はい。地球に実家があるフィニィやミユミちゃんは帰省しましたし、クィンティルラとフォムフォムはヨセミテ公園に山登りに、他のクルーは地球に観光に行って来たようです」


 〈じんりゅう〉が〈斗南〉に帰還し、一カ月程続いた〈じんりゅう〉祝勝フィーバーがようやく治まると、〈じんりゅう〉クルーにも僅かばかりだが休暇が許可された。

 グォイドとの戦闘の心配が無いだけでも、彼女達にとっては充分な休息であったとも言えるが、若いクルー達にとってはまたとない羽を伸ばす機会だったようだ。


「で、お前はどうしたんだ?」

「私はここでユイちゃんと毎日会ってました!」

「……ああ……そう」


 姪のことになるとパッと輝かせるユリノに、テューラはやや辟易しながら答えた。


「テュラ姉もここにいる間に会ってやって下さい。五歳なのにもう読み書きできるんですよ」「まぁ、一度くらいには会いに行こうとは思っているよ。迷惑じゃ無ければだがな……」


 テューラはそう答えると、向かいに座るノォバ・チーフをチラリと見た。


「とても無口な子で時々不安になりますけど、ずっと見ていると確かに姉の子だってことが良くわかります。不思議ですね! 血の繋がりって!」

「ああ、うん。……まぁユイのことは置いておいてだ。とりあえず、お前達に休養が足りないことが原因では無いのだとすると、やはり……つまり……」


 テューラは逸れかけた話題を戻した。


 困ったことに、ユリノ達オリジナルクルーの【ANESYS】適正値には低下は見られなかった。故に、【ANESYS】の持続時間短縮は二代目〈じんりゅう〉オリジナルクルーの方に原因があるのは間違いないが、その原因はクルー達の【ANESYS】適正値の低下によるものではない。

 こうなってくると、従来考えられている論理的な理由では、【ANESYS】持続時間の短縮は説明が付かなかった。

 だが心あたりが無いわけでもない。


「やっぱり……例のアレが原因なのか?」

「……………………おそらく」


 テューラの問いに、ユリノはしばし言葉に悩みつつもなんとか答えた。

 他に理由は考えられない。

 今回、この三人でカフェに集まったのは、それについて相談する為であった。


「はぁ~まったく困ったもんだなぁ~そんな悩み、私の専門外だぞ」


 テューラ司令はそうぼやくとテーブルに突っ伏した。他のクルーがいる時であったなら絶対に見せたりしないしぐさであった。

 【ANESYS】の持続時間短縮にもし理由があるとしたら、それはケレス沖会戦を勝利に導いた原因たる、例のあの少年のことしか考えられない。

 ケレス沖会戦で満身創痍の〈じんりゅう〉が、何故シードピラー相手に勝利できたのか? この場にいるテューラ司令とノォバ・チーフはその顛末について、ユリノが正直に話した数少ない人物であった。

 そもそもテューラ司令とノォバ・チーフは隠そうとして隠し通せるような立場の人物では無かったし、世間に広まることを阻止したいのであれば、逆に逆に二人に積極的に告白して、味方につけたほうが得策だろうというユリノの判断であった。

 自身もケレス沖会戦の最後に駆けつけたテューラ司令は、レイカの残したオリジナルUVDの件にも驚いたが、たった一人の三等宙曹の少年が、彼女達の心に与えた影響については、ただただ驚き呆れると同時に、直ちに緘口令を引き、スキャンダル発覚の阻止に努めた。

 恋愛厳禁であるVS艦隊の少女クルーが、一人の少年に惚れたことで強敵を倒せた……などと世間に発表できるわけが無いからだ。

 それがただの刹那的感情ならばさておき、今回のこの恋心らしきものは、グォイドとの戦闘でありえない程の戦果をもたらしてしまっているのだ。その可能性の芽を摘むことは出来なかったという理由もあった。


「……まぁ、その手の悩み事に振り回されるのは、これが初めてってわけじゃないけどな」


 テューラ司令は困ってはいたが、自身の決断を後悔してはいないようであった。


「お前の姉の時に、この手の苦労はもう散々体験してきた。腹は括ってるよ」

「感謝します司令……いえテュラ姉」

「見返りは請求するがな!」

「お手柔らかにお願いします」


 ユリノはペコリと頭を下げた。そして秘密を打ち明けたもう一人の人物の方を向き直った。チーフに打ち明けたのは、〈じんりゅう〉の航宙レコーダーを調べられたら隠しようが無いという事情もあったが、それよりも何よりも、彼が、今は亡き姉レイカが見初め伴侶とし、一児を設けるに至らせた張本人だからだ。

 この〈斗南〉宇宙ステーションでユイと暮らしながら〈じんりゅう〉開発整備責任者チーフを務めているノォバ・ジュウシローは、今は亡きユリノの姉レイカの夫にして、ユイの父親なのだ。

 かつてのスキャンダルの当事者になら、秘密を明かした上で助言をもらえるかもしれないとユリノは考えたのだった。


「お義兄さん……エンジニアリング的なアプローチでは、どうにかなりませんか?」

「え、俺ぇ? 俺は確かにレイカの旦那になれたし、ユイも設けたが、若い女の子達の色恋沙汰やらそっち方面についちゃ専門外だぜぇ」


 チーフは顎の無精ひげを撫でながら答えた。

 ユリノは彼と顔を合わせる度に、このホビットとドワーフの中間みたいなおっさんのどこに姉は惚れたのか分からなくなるのだが、彼が初代〈じんりゅう〉及びそれに続く〈じんりゅう〉級航宙艦の設計と建造の責任者をこなしてきていることを考えれば、一応の納得はできた。

 彼は〈じんりゅう〉級を世に出したことを考えれば、人類の救世主と言ってもいいくらいの人物なのだ。……ヴィジュアル的にはまったく冴えないが。


「う~ん、そうだなぁ、問題の解決はさておき、問題の解明の手助けくらいなら……エクスプリカ、お前は何か意見は無いか?」


 ノォバ・チーフははす向かいの椅子の上に佇む四足獣型ヒューボットに、ユリノからの質問の答を投げた。


[ヴ~ム]


 ノォバ・チーフの問いに、彼の元でのオーバーホールから戻ったばかりのエクスプリカは、ヴーンと言う電子音を鳴らしたまま、しばらく何も言わなかった。どうもその電子音が彼の呻き声らしい。


[機械デアル俺ニ、コノ手ノ問題ニツイテ正確ニ語レルカドウカハ怪シイノダガ、マズソノ前ニゆりのヨ、意見ヲ述べベル前ニ、はっきりサセテオキタイ事ガアル]

「なに? エクスプリカ」

[『ケレス沖会戦』デ〈じんりゅう〉ガ勝利デキタノハ、ゆりの達くるー全員ガ、アノ三鷹けいじトイウ少年ニ惚レタノガ原因ダトイウ結論デ良イノカ?]

「な! ……」


 エクスプリカのストレートな問いに、ユリノは思わず耳まで真っ赤になり固まった。


「え、え~っとそれは何ていうか……私個人では答えるのが忍ばれると言いますか……そもそも恋心の定義については曖昧な部分がありますという……!」


 なにかモニョモニョと釈然としない言いわけをはじめていると、テューラとノォバ・チーフに肱で小突かれ脛を蹴られ、なんとかユリノは「そうだよそうです! そうですが何か!」と言葉を絞り出した。


[フム、ナラバ我々ガトリウル選択肢ハ、現実的ニ考エテ大キク二ツニ限ラレテクルト思ウ]

「……ほう」


 思いの他、積極的な答が返ってきとことに、その場にいた三人の人間は驚いた。

 エクスプリカは[コレヲ見テクレ]というと、単眼カメラの様な頭部から、丸テーブル上に立体グラフをホロ投影させた。


[コレハ今マデノしみゅれーしょん時ノ【ANESYS】統合率ヲ平均化シテぐらふニシタモノダ]


 艦長を表す円柱状の棒グラフを中心に、天版が扇形の各クルーを現した四角柱グラフが囲い、全体としては切れ目を入れたワンホールのケーキのような形をしている。

 良く見れば、そのケーキから一切れだけ、円柱の外周からはみ出しているクルーのグラフがあることが見てとれた。

 そのグラフの天辺にはキルスティと表示されていた。


[コノぐらふヲ見タ限リデハ、オ前達ノ【ANESYS】時ノ意識統合ハ、俺ガ『ケレス沖会戦』デ彼女・・を見タ時トハ程遠イモノノ、充分ナ統合密度ニ達シテイル。9人ノ統合密度ガアリスギテきるすてぃガ今一統合ニ参画デキテイナイ程ニダ]


 エクスプリカは、キルスティが【ANESYS】の統合の足を引っ張っていると思っている理由を説明した。


[五分半トイウ【ANESYS】統合可能時間ニハ、不満モアルダロウガ、ソレヲ受ケ入レテ、ソノ時間ヲ前提ニ戦術ヲ練リぐぉいどト戦ウコトニスル。コレガ俺ノ考エル一ツメの選択肢ダ]

「確かに、さっきのシミュレーションでは、【ANESYS】が解けるまでは〈じんりゅう〉は普通に戦えていたがな……」

「もう一つの選択肢は?」

 チューラが相槌をうち、ユリノが尋ねた。

[ココカラ先ノ選択肢ニハりすくガ伴ウ。……イヤ、りすくトイウヨリ未知ノ事態ヲ招ク危険ガアルト言ウベキカ……トモアレ大博打ニハ違イ無イ]


 エクスプリカは悩むようにしばし間を置いてから続けた。


[シカシ博打ヲ打タズニぐぉいどに勝テルトハ俺ニハ思エナイノデ言ウトシヨウ。てゅーらヨ、改修後ノ〈ジンリュウ〉ノ任務先ハ、確カめいんべるとデノ野良ぐぉいど捜索ダッタナ?]

「ああ、そうだが、それがどうかしたのか?」

[ソノ任地ヘ向カウ途中デ寄ッテ欲シイ処ガアル……モシりすくヲ恐レナイノナラバダガ]


 そう前置きすると、どこに何故〈じんりゅう〉は寄り道する必要があるのか、エクスプリカは己がプランを話しはじめた。


 






 テューラ、ノォバ・チーフ、エクスプリカを伴い、ユリノが展望ラウンジのカフェからブリーフィングルームへと戻ると、すでに9人のクルーは揃っていた。

 ユリノはキルスティがちゃんと戻っていることにほっとした。

 その白い肌の顔の目元と鼻が、泣きはらした為か赤くなっていたが、表情自体はどこかにほへっとしていて幸せそうだ。


 ――そんなにミユミホールドが良かったの? ――


 ユリノは一瞬思ったが、ブリーフィングルームの端に、カートに乗せられた九個の空の長グラスを見て納得した。

 どうやら彼女達もまた、カフェから出前で〈斗南〉名物の天然フルーツパフェを頼んだらしい。やっぱり甘い物の力は偉大だと、ユリノは思わず頬笑みを漏らした。

 〈じんりゅう〉が発進したら、もう地球産フルーツのパフェなんて、おいそれとは食せなくなるのだ。食べれるうちに食べておきたくなる気持ちはよく理解できた。

 全員が集まったところで、テューラ司令より、まずかねてから決まっていたフィニィの少佐への昇進と、ミユミの少尉への昇進が発表され、続いて〈じんりゅう〉再就役後の任務についての詳細が発表された。

 大方の予想通り、メインベルトでの野良グォイド捜索が主任務であったが、その前にある場所へのVSクルーによる慰問イベントが指し込まれることになった。

 この手の慰問イベントは、今の〈じんりゅう〉クルーには引く手数多なので、別段不思議なことではなかった。帰還直後にも散々行われてきたことだ。

 それから改修後〈じんりゅう〉の発進式までの二週間、〈じんりゅう〉クルーは時間が許す限りのシミュレーション訓練を続けた。

 そしてそのシミュレーションでは、まだ全盛期よりも10秒程短く、彼女・・こそ現れないものの、テューラの新任務発表の前では考えられなかった程の【ANESYS】持続時間を弾きだするようになっていた……。


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