第106話 Event3:ダンジョン捜索~あやしげな隙間

「うーん、あれだね。とりあえずはダンジョンの中を調べつつ、モンスター倒して、お金と経験値稼ごうか!」

 提案すると、他の二人がおー、と拳を上げた。


 元の道に戻った。


 バッチョが私の頭の周りをぶーんと飛んでいる。

「今までのことだけど」

「うん?」

「ボクは全く役に立たないナビだったよね」

 ……いきなりなに言おうとしてるんだろう、これ。

 なんかしっとりした笑みをたたえ、私を見つめている。


「でも、実はナビには特性があってね。

 こんなダンジョンでこそ役に立つ……そんなナビも、いるんだ」


「ええ!? じゃあ、もしかしてあんた、いま、ここでこそ輝くナビになれちゃう存在だったということ!?」


 そしてバッチョは。


「ううん」


と首と尻を振った。


「ちょっと言ってみたかっただ・け」

 ガッ、と私の手が光速でハチをつかんだ。なんというか、我ながらスリの帝王みたいな反射速度だったと思う。

「オ前ヲ人工甘味料ニシテヤル……」

「ぐひゃゃゃゃゃあああああううおおお!? 意味は分からないけどとても怖い!! ぼ、ぼかあとんでもない者を育ててしまったああ!?」

 骨の髄まで絞り出してやろうかと思ったけど、いつものとおりノアとシロウに止められた。私は悪くないけど見ていて忍びないらしい。でも! でもさ! どうすればいいのこいつ!


「待ってくれ」


と声をかけてきたのは、シロウの肩にいるモンタだった。

「その……腹が立つのも分かるんだが、一応……嘘を言ってるわけではない」

「…………へえ?」

 私が疑っているのがアリアリだったのだろう。モンタは両手をぷるぷるさせた。可愛い。

「ナビには特性がある。種族によって、得意なことが違うんだ。

たとえば、ウサギは初心者向け。フィールドの説明が得意だったり」

「じゃあ、ハチは?」

 もちろん聞き返した。するとモンタは。

「言えない。

 言えないんだが……これだけは確かだ」

 私もシロウもノアも、モンタに注目する。

「なに……?」


「役にたたなさでは、全ナビでもトップクラスだ」


 がっ、とモンタを掴んだ。シロウがひぃぃと声を上げる。そのシロウの顔面に、ハチをつきつけた。


「交換、ね」


 もちろんそんなのが通用するわけなかった。シロウは取り返したモンタが青白い顔でぐんにゃりしているので、必死に呼びかけている。ノアが私の肩にぽんと手を乗せる。泣きそうな顔で見つめると、うんうんうなずいてくれた。


 ……まあいいや。うん。まあいい。すーはーすーはー。

 こいつが役に立たないことは、今までの旅でそりゃもう芯までとっくりと学んだことじゃないか。今さらその役立たずっぷりを指摘したところでなんの救いになるだろう。なりはしない!

 だから、とりあえず。


「コウモリに怒りをぶつけてやるうううううう!!!」


 ボ、ボクにもものすごいぶつかってきたけど……なんて床で痙攣しているハチは踏みつけておくことにして。




「いち、に、さん、ファイアー!」


 ノアの魔法が洞窟を照らし出す。

 ゲームをしてるときって、画面に出てるダンジョンはだいたい上からの視点よね。それはなんだか紙の上で迷路を解いていく作業に似ている。


 でもリンダリングのゲーム内では、私たちダンジョンの中にいるわけで。隆起した道を越えたり、足を取られそうな岩に注意していると上から飛んできたモンスターに襲われたりと、リアルきわまりない。いろんな方面を気にしないといけないわけだ。


 あと、暗くて深くて狭いってことは、

「二度とここから出られなかったらどうしよう?」

という気持ちを生む。前から水攻めになったら……とか、でっかい岩が転がってきたり……とか。

 まあそんなことにはならないけど。たぶん。でもいつだって一抹の不安がある。

 全滅したらクールデルタの町に逆戻りかあ。そのときは容赦なくイベントが進んで……私たちは誘拐犯。ユリアさんにとっつかまって、お城に連れて行かれて。王様の前で縛り上げられて、正座したまま有罪宣告。

 牢屋に入るもそこを脱獄。逃げに逃げてたどり着いたは北国。雪の中で狼たちに囲まれ……ううううむ。






*******





 シロウの背後の姫様をちらりと見る。姫様は

「風流じゃのう」

なんて、のんびりと洞窟を眺めていらっしゃる。


「この暗闇。しめった空気。なんとものう、ものぐるおしい心地になるものじゃ、ダンジョンというものは」

「姫様はダンジョンは初めてなのかい?」

とシロウが問いかけている。


「わらわは城育ちじゃぞ。こんな野蛮な場所にわざわざ連れてきてくれよう、なんて輩がいるはずもない。お前たちの他には。……なかなかに、楽しいな。冒険というものは」

「ユリアさんに頼んだらお城の外見物くらい連れてってくれそうなのに」


「あれには色々な任務を頼んでおるからなあ。適材適所というものじゃ。ふふふ、まあそなたたちもきっちりと竜の卵を手に入れてもらうぞよ。目的を忘れてはおるまいな?

 お前たちの仕事は、あのミュンヒハウゼンと名乗る輩を打倒することではなく、

 このダンジョンの竜を倒すことでもなく、

 わらわを満足させることなのじゃ。そうでなければ、お前たちがユリアにどんな目に遭わされるか……哀れすぎて、わらわは考えたくもないほどじゃなあ」


 にんまり笑う姫様は、なんていうかデコピンしたくなるほどにお可愛らしい。うん。やったらなんかリンダポイントがたんまり上がりそうな気がするからやらないけどさ。




「あれ、こっち行き止まり……」


 天井からたくさんとがった鍾乳石が垂れ下がってて、道をふさいでいる。いや、これは最初から行くことができない道なのかなあ。私たちはその地面まで垂れ下がってる鍾乳石の間から(のれんみたいな状態になってるんだ)、向こう側をのぞいてみた。


 すると。そこは、

 壁と言わず床と言わず天井と言わずコウモリがびっしりと丸まって、止まっていた。寝てる? ここ、コウモリの巣? でもこれ何百匹いるの?!

 私たちはぐっと息を止めて身体の動きを止めた。


 これはやばい。でもこの鍾乳石がある限り、近づけない。あちらもこちらに来れない。戦闘にはならないのだ。


「こっちから炎しかけてみようか?」

「なっ、なに言ってるのノア。あの量だよ!」

「でも魔法なら一気にいけるんじゃない?」

「う……でもこれ300匹いるとして、コウモリ×300で1グループになってたらいいけどさ、もしもコウモリ×1で300グループになってたら……? 私たち続けざまにコウモリに襲われて、死んじゃうよ?」

「そうねー……」

 ノアにはあ、言われて気づいたという様子はなかったから、もちろん分かっていただろう。


 一応周囲を調べてみたけど、鍾乳石が動くような仕掛けはなかった。


「うわ……」


 だけど、シロウがそれに気づいた。

「どうしたの?」

「あの、コウモリたちが集まってる、あそこ」

「ん……?」


 言われて目を細め、集中してのぞきに行く。

 すると、シロウの指の先に、赤い光があった。コウモリたちが守っている? それは、赤い明滅を繰り返す……なにか、生き物のような……


「まさかあれ、竜の卵とかいわないわよね?」

「……卵はちかちか光らないでしょ」

「だよね! だよね!」


 近寄るなー、と警告されたような気分。

 うううう。もう少し、ダンジョンについて調べてみないと。

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