第70話 Event2:トルデッテ城の戦い!


 私たちは城に向かって走った。


 にわか門番がいやしないか一瞬ものすごく心配したけど、いなかった。いや、もちろんシャーリーのそばにいるんだろう。戦闘……になるんだろうか。

「ねぇ、宝玉、もし取られたらどうなるんだろ!?」

「アリーゼがちゃんと目覚めることができないとか。ジャンが言ってたじゃない。夢を奪われて死んだも同然になる、とか」

「ううう、それはここまできて絶っっ対許されない~~っっ!!」


 走った。息が上がっても全速力で。


「何事です!」

 執事のイシューさんが出てきて、私たちを見て目を丸くした。もめごとは……と叫ぼうとした彼をおさえたのは、クラリーネ夫人の一喝だった。

「イシュー、準備なさい。……戦争です! オパール団を、壊滅させますよ!!」

 執事はぽかんとした。そして、満面に笑みを浮かべて胸に手を当て静かな一礼を返す。

「承知いたしました、奥様」


 城は三階まで。中央階段をのぼっていこうとすると、上にシャーリーが立っていた。

「ほほほほ、ここまで来たの、諦めの悪い子供たちね!」

 シャーリーは右手のオパールをひらめかせた。


「地獄のそこの釜よ開きてその臓物をぶちまけよ!! よみがえれ死人ども!!」


 どっわあぁぁぁ! と悲鳴を上げたのはシロウだけ。廊下からぽこぽことゾンビが生えてきたのはどーゆーシステムかとはげ上がるほど問いつめたいけど、廊下が動くんだもの、ゾンビも生えるわさ。そう考えたい。

「破邪!」

 そしてすかさずセーラさんが僧侶の法力を発揮した。神々の加護により、まがまがしいものたちが消えていく!

「わぁ、素晴らしいな神って!」

なんて喜んでるシロウ君には思い切りつっこみたい。

 お前悪神信仰だろ、と。




* * * * * * *




 ウィンドウが立ち上がった。

 180、と数字。1ずつ減っていく。そうか、0になるまでにアリーゼのお父さんのところにたどり着かないとゲームオーバーってわけね! ……オーバーなって、どこまで話が戻るのか……そもそもこのイベント自体失敗、ということになるのか……後ろ向きなことは考えない、いつだって前を向いてゾンビを撃破! そんな生き様でゴーだ!


「た、ぁぁぁぁ!!」

「ファイアー!」


 ところどころ要所で強いモンスターが現れる。一度は牛頭人身のミノタウロスが現れた。よだれを撒き散らす、ものすごい気持ち悪い敵。なんというか嫌い。一目で大嫌いになった。

 レベル違いすぎるよな、と考えたときだった。

「お行きなさい」

と、イシューさんが後ろから飛び出た。そのままミノタウロスに襲いかかっていく。

 ……戦闘執事だ。

 ものすごい強さであることはその動きで分かった。鮮やか、そして華麗。前のイベントで、すごく強いゾンビと会ったけど……あまり差が感じられない。残って一緒に戦う必要はまるでなかった。かえって邪魔になる。


 私たちは彼をおいて階段を上っていく。

 そして三階中央、豪華な扉を開いて向こうに行こうとするシャーリーと門番二人を見つけた。


「待てぇぇ!」


 追いすがり、叫ぶ。するとシャーリーは床に蛇を叩きつけた。そこから沼が広がってく。

「毒の沼よ、止まりなさい!」

 セーラさんが叫んだ。

「一歩でも進むと体力を奪われるわ。二歩進むと死ぬわね」

「…………どうすれば?」


 セーラさんは杖を構えた。

「ここで、ずっと回復魔法を唱え続けるわ。体力が減ってもそのたびに回復する」

 教会でやってた、あれね。

「でもそうすると私はここから動けなくなります。あなたたち、戦闘は大丈夫ね? もしかしたらこの、リンリンベルを必要としているかしら……?」

 懐から出されたのは、見覚えのあるベル。

 アレは……ゴースト屋敷で、エチゴヤたちを呼び出した鐘だ。司祭とか商人とかを呼び出せて、アイテムも買える。でも、料金は割高。ふと見ると床に体力回復の円陣がある。

 そうだよね。うん、そうだよね。でもこんなときに興をそぐなぁ、なんて思いつつもこれは大事だよね。でもとりあえず……


「今のところ困ってないよね」

「うん。薬草……あるし。さっきの戦闘でお金入ったけど、でもねぇ」

「武器買う?」

「足りないと思う。んじゃ……とりあえず今回はお助けベル使うのはやめとこうか」

「あ、そういうことになりましたんで」


とお願いするとセーラさんは杖を構え、目を閉じた。クラリーネ夫人はその隣に立つ。

「ありがとう、冒険者たち。これは使ってください」

とアイテムをくれた。それも「ハッスル剤」×3。アリーゼはノアがもっていた。


「行くよー!」

 私たちは沼を踏んだ。

 相談してたせいで数字が180から21まで減っていた。やばいやばい……




* * * * * * *




 そして、私たちは部屋に飛び込んでいった。

 今まさに伯爵の手を開こうとしている三人組!!


「待ちなさい!」

「そこまでよ!」

「………動くな!」

 私たちは指を突きつけて叫んだ。(シロウがやや台詞に悩んでたけど)


 シャーリーが髪をかきあげながら私たちの前に立ちはだかる。

「私たち邪のオパール団……止められると思うなら止めてごらんなさい、その力で!!」


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