第68話 Event2:私はサラ、笑いも取れる女武闘家!
結論から言って。
イノシシを抱いた姫君は、本物ではなかった。だってそれに触ったとき、天井からモンスターが落ちてきたもん。「カンフーネズミ」とかいう、曰く言い難いのが。しかもコマンド戦闘じゃない。
戦闘開始、だった。なんか三人揃っての戦闘は久しぶりなような!? だって私出稼ぎに出てたんだもんねぇ……はともかく、カンフーネズミはかなりすばやかった。私の一撃もノアの123ファイアーも、外れてしまった。
しかもシロウが急所に大打撃を受けちゃって、腹を押さえて膝をついた。続けて攻撃しようとするも、シロウの攻撃も失敗。
「つ、強くない!?」
「私、次は風の魔法で足止めするから! サラは薬草でシロウを回復してあげて!」
ノアが杖を構え直す。
そして私は、もちろん薬草を使おうと思ったの……でも、間違ったものを手にしてしまった。気づかずにそれを「使って」しまった。慌てるとろくなことがない。
しかもそれは………
「笑いのるつぼの時間だよーーーー!!!」
身体が。身体が勝手に動く。右手を高く差し上げて、私はアイテム名を叫んだ。シロウとノアがぎょっとして凍りつく。モンスターも同様だった。
ツボ、笑いのるつぼなんてもの私買っちゃってたんだよ……! しかもこのタイミングで……使っちゃったよ!!
ものすごい芸人口調で喋ってしまう。
「こんにちはー、今日も来てくれて有り難う! 私のためにー、世界はあるのー☆なんて照れちゃうなぁ、みんなの冷たい視線で、凍え死にそうな今日この頃、みなさんいかがお過ごしですか!?」
「サラちゃん、サラちゃーん」
「おっと、ハチのサルサコバッチョの登場だよ! みんなー、この子の名前はバッチョ、もう忘れてくれて構わないけど、私の相方なわけだよ!」
「ごんぬずわー」
「ごんぬずわー! さぁて! 今日も一笑いしていただこっかなーというわけで!
今日のトキメキひょっとこネタ大放出! さーーーーーて、どんどこどん!
バッチョ、『ほこら』をつかってひとつギャグをかましてみて?」
「ほ……」
「がんばれ!」
「ほ……」
「もう少しだヨッ」
「ほこら……ないでェ」
ブフー! と私は吹き出した。
「おっととと、怒らないでとほこらないでをかけたスィーティなギャグ! もう、私あなたのギャグに魂吸い込まれそうだよ! ほら、みんなも……凍りついてる!!」
「いや照れるナー☆」
「もうこのこのー! それでは、笑いのるつぼの時間でしたー!! ありがとうありがとう!!」
「来週もまたこの時間にー!」
「来週ないっちゅーねん!」
私は笑顔でバッチョを床に叩きつけた。
ところでアイテムの効果が切れた。
敵は凍りついている。
サラの攻撃!
敵は凍りついている。
ノアの攻撃!
敵は凍りついている。
シロウの攻撃!
敵は凍りついている。
「ま、まだ凍りついてるわけーー!?」
振り返っても仲間たちは口をきいてくれなかった。というか、必死で魔法をとなえようとし、震える手で剣を握っていた。
カンフーネズミは復活したときにシロウの一撃で倒れることになった。
「……………」
「…………」
「笑えよ」
一言で。二人は、ブフー!! と爆笑を始めた。ノアもシロウも腹を抱え、絨毯を拳でばんばん叩いて、笑い転げる。とめようとしているんだけど、私の顔をみるとまた笑い出す。
「わ、わ、わらいのるつ……ぶはぁっ」
「ごめん、ごめんよ……我慢できない!!」
笑いの時間は長く続いた。
* * * * * * *
そして、続いてクローバーのやつを手に取った。
「大丈夫かな、笑いのるつぼを補充しに行った方が良いんじゃないかしら」
なんてノアが言うからまたシロウが涙を流し出す。
でも、それが正しい選択だった。像をとってもモンスターは現れず、私たちは無事アリーゼの像を手に入れることができた。
「真ん中の部屋に行くためにはー、また廊下回さないと……まず鼻を? 目つぶし? あれ……どうだっけ」
行きたい部屋に合わせて廊下を動かさないといけないのは面倒だった。何度も何度も蹴りを入れたり指をつっこんだりして気分が悪くなった頃、ようやく中央への扉が開いた。
するとそこは、様子が一変していた。
イバラが……成長している。庭園中にうぞうぞと気味悪く蠢くイバラが浸食していて、すごく気味が悪い。
アリーゼの身体はすっかり包み込まれていて、そしてジャンネズミがとらわれていた。彼は宙づりになっている。ぱたぱた足を動かしているが、逃げられないらしい。
「…………」
「……だいじょうぶー?」
なんかあまり悲壮感がない……というかつられたネズミってなんか……可愛い、みたいな。
「君たちは……アリーゼの像を手に入れたのか。俺のことはいい、その像でアリーゼを助けてやってくれ」
シリアスに言われても足ぱたぱたいわせてるわけで。そこはおいておかないとやはり可哀想かしら。
「どうやって助けるのーー?」
「像に閉じこめられた魂を解放する……それを、たたき壊してくれ!」
* * * * * * *
像を床に叩きつけた。
壊すのは任せて欲しい。見事にこなごなに砕け散った。そして、金色の光が中から飛び出した。それはアリーゼの魂、魂は身体めがけて飛んでいく。
「あ……!?」
でも、イバラがそれを邪魔した。魂が近づいてくるのをイバラは拒否したのだ。
私たちは目をこすった。
天井から幾筋も垂れ下がり、壁みたいになったイバラ、そこに女の人のおおきな顔がまぼろしになって浮かび上がったのだ。亡霊みたいに。憎々しげな視線をした恐ろしい女の顔。
「クラリーネ夫人……」
ジャンが呟いた。
ああ、これは母親の妄執なんだ。なんとしても娘を守ろうとしている母の心が、イバラになってるんだ。
そのわりに娘の魂が戻ろうとするのも拒否ってるけど……。
アリーゼの魂は迷いながら宙をさまよった。そして、ノアの荷物の中からヴィクトリアが飛び出した。
「アリーゼアリーゼ! どうかお願いだよ、消えてしまわないで!
ぼくの身体を使って!!」
叫びに、魂の揺らぎが止まる。そのまま光はまっすぐに白い猫に飛んでいき、ヴィクトリアはニャー! と一声高く鳴いた。
そしてそのまま床に転がる。
「………ヴィクトリア……?」
白かったはずの身体は、金色に変わっていた。ヴィクトリアはよろよろと立ち上がり、私たちをみつめる。それは、ヴィクトリアではなかった。
「はじめまして、私、アリーゼと申します」
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