第63話 Event2:とうとうその名にたどり着いたのね
さて……。
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どうかこれを読んだ方は、私を助けてください。私のことは、白猫のヴィクトリアにきいてください。とても賢い子です。
………アリーゼ
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という手紙を抱えてた猫とおしゃべりをしちゃうために、今までの旅があったわけだけど……。
そうだよ、この子がそもそも喋ってたら今までの課程はいらなかった……わけないか。色々、うん、知ったしね。
「猫語の教科書、誰が使う?」
「私使いたい……」
ノアが使うことになった。
本と言っても読むわけじゃない、アイテムとして使うのだ。
私たちはノアがそれを使い、ヴィクトリアに話しかけるのを、固唾をのんで見守っていた。
使われたアイテムは消えてしまった。へろへろの赤表紙のノートだった。
……手書きっぽい字で「猫ちゃんとお喋りするにゃあ☆」なんて書いてあるノート、消えてしまえばいい。うん。
すると、私たち三人とも淡い光に包まれた。
あ、ノアだけじゃなくて全員分かるようになったんだ。そりゃそうか、一人しか分からなかったら不便だもんね。
そしてノアはヴィクトリアに語りかける。
「……こんにちは?」
「ニャ! ニャニャニャ! 君たちおいらの言葉が分かるニャ?」
ヴィクトリアは耳をぴんとたてて目をくるくるさせた。白い美猫で完璧な美人さんなんだけど実はオスで、しかも言葉遣いはあまり美形ぽくなかった。いいけど。
「うん、アリーゼはおいらの飼い主ニャ。彼女がくれるミルクがおいら大好きさ。単にアリーゼが牛乳嫌いだからくれるんだけどニャ。
ニャ、アリーゼが今どこにいるか……それは難しい質問ニャ。
なんであの子がこんな目にあったか? それを今、説明するニャ」
そしてヴィクトリアは語りだした。
アリーゼのことを語るのに切り離せない人物がいる。それは、クラリーネ夫人。彼女は穏やかなトルデッテ伯爵とは全く正反対の、勝ち気で我が儘な性格をしているらしい。権力が大好きで、そしてお金も大好き。
そういうはっきりした生き様っていいと思うニャ、なんて付け加えつつ。
そしてある日持ち上がったのが、アリーゼのお見合い話。相手はなんと、北国ニーデルラント王国の大臣ボルタスってひと。(てきいても有り難さとか、「え、そうなの!?」感がイマイチなのだけど、有名な人らしい)だけど伯爵はあまりいい顔をしなかった。この国に生まれた者として、他国に嫁ぐのは王家もあまりいい顔をしないだろうと言うことで。そこらへんの政治的な立ち回りが肝要なんだろうけど、貴族社会。
で、その見合い話は流れてしまった。
けれどクラリーネ夫人は、そのまま終わらせる気はなかった。
「なんでも北国から贈り物をもらってたらしいニャ。素敵なダイヤモンドとか」
「へぇ。じゃダイヤのためにも娘を嫁入りさせたかったと」
権力を何より愛する夫人のことだから、権力を得れば幸せになれるという確固とした哲学があるわけで、だから自分がうまく立ち回って娘を嫁入りさせることができたら、それは何よりアリーゼのためになるという、思いがあったらしい。
そうヴィクトリアに語ったアリーゼは悲しげに微笑んだそうだ。
お母様は自分のためではなく、わたしのためだと言ってくださる。そう信じていらっしゃるのよ、と。
「微妙な言い回しだわぁ。母の下心見抜いてるわね、娘」
「それでも母親を立ててるように聞こえる言葉遣い、見事としか言えないわね」
「君たち……」
ぷるぷるしてるシロウはさておき。
で、夫人はトルデッテ伯爵の監視をぬけてアリーゼを連れ出すために、とある冒険者たちに依頼をしたそうだ。
「泣きぼくろが色っぽい綺麗な女の人と、筋肉だけが自慢っぽいバカそうな兄弟と、イノシシみたいな顔をしたマントの男が来たんだよ。その男の名前は、ジャンっていって、で、アリーゼは……ううんおいらの口からは言い難いなぁ。ねぇ、ここからはアリーゼの友達にきいてよ。おいら、ちょっとのどが渇いたから水飲んでくるよ!」
ぴょい、とノアの腕から飛び降りてヴィクトリアは走っていってしまった。
おいおいおいおい。
* * * * * * *
「そう……とうとうその名にたどり着いたのね」
ビビは憂いたっぷりに私たちを眺めた。ノアはカジノの様子興味深そうに眺めている。
「そうよ、アリーゼは母親の計画に巻き込まれて泣いていたの。父親は決して見合いなんて許さなかったし、母親は絶対結婚させようとしていたの。両親の間にはさまれて……たまったもんじゃないわよね。
でも、アリーゼの不幸はそこで終わらなかったのよ。だって、あの魔術師ジャン、あの身の程知らずのイノシシ男が彼女にほれてしまうなんて!」
ほれる!?
「魔術師ジャン。アリーゼは、私に彼から来た恋文を見せてくれたのよ。なんだか意味のよく分からない変な詩だったけど。でもホント、ろくでもない話よね! 私だったらあんな男、絶対に絶対にお断り! だいたいアリーゼを誘拐しようっていう一味の一員なのよ!? なにをとちくるって、ハッ、恋文なんて書けるのかしらね」
「んで、アリーゼは結局どうなったの? 誘拐されたの、されてないの!?」
「えっと、その……うーん……彼女が今どこにいるか、私は知らないわ。アリーゼはジャンと話をしたのよ。でも誘拐はされてないはず。だってそれなら、未だに町にオパール団がいるの、おかしいわよね? だから……その、誘拐は、されてない。むしろこの町の中にいるんじゃないかしら……」
すごく言いにくそうな様子。奥歯にもののはさまったような。
アリーゼはその敵の一味となにか話をしたんだろうか? それで、彼女が失踪したというなら、それはやっぱり誘拐……じゃないの? 誘拐じゃなくて、単に消えるって、そんな神隠しじゃあるまいし。
オパール団員は見かけたけれど、その魔術師ジャンはまだ会ってないな。
これから探さないといけないんだろうか……。
「クラリーネ夫人はどうなってるのかなぁ?」
きくとビビは首を振った。知らない、と。
「あちこちで筋肉だるま兄弟を見たって話をきくんだけど」
ああ確かにあいつらあちこちで見かけるわ。
「彼ら、探してるみたいなのよ。クラリーネ夫人を」
「それって、どういう……」
ビビは首を振った。
「私には、これ以上は分からないわ。どうかあなたたち、アリーゼを助けてあげて。お願いよ」
* * * * * * *
うーーん……。
そもそもの発端は、アリーゼの見合い事件で。そして、困り果てているアリーゼを好きになってしまった敵方の男と、消えてしまった彼女。
それと、母親の失踪はどう結びつくんだろう?
いや、つかないのか……イシューさん、言ってたもんね……、関係ないって。いや、あるって。ああもうややこしい!! 考えるだけ損する気がする!
「話きいた?」
ひょろりと街角から姿を現したのは、ヴィクトリアだった。
町はまた夜になっている。なっている、というのも変な話だけど。そういや二人にシャーリーと門番兄弟の会話をきいてもらうのも良いかと思って、かぼちゃ屋敷に向かうことにした。
選択肢を選んで、三人を追い払う。その会話をきいてノアは、
「シスターセーラを城に入れてはいけないって、どういうこと? だったら連れてきたらいいのかしら」
と提案した。なるほどー! てことで教会に行ったけれど、シスターセーラは仕事が忙しすぎてろくに相手すらしてもらえなかった。
残念だったけど、タイミングがあるのかもしれない。
「イシューさんの話をきいてみようか?」
「でも、彼はシャーリーに脅されてるって話じゃなかったっけ……」
「あはははは、イシューのやつ脅されてんだね! いい気味だぁ。あいつ、前においらをブラッシングしようとしたんだよ。やな奴なんだ!」
ヴィクトリアはノアの腕の中で笑った。うーん、親切じゃないか、イシューさん。猫には通用しない親切なようだけど。
屋敷に入ると、ライナーさんに出会った。あ、こっちですよと案内してもらえた。
イシューさんに会うのは二回目、今度も質問は三つしか許されなかった。
なにを訊けばいいだろう、とノアを見た。
「あなたが答えられない質問は、なんですか」
ノアは、そう尋ねた。いい質問です!
イシューさんはぱちぱちとまばたきした。
「この家の方々に関する質問は、ほとんど答えられません」
「じゃあ、魔術師ジャンがどこにいるか、教えてください。次に、邪のオパール団は何をしようとしているかを教えてください」
おお、とシロウが感嘆の声を上げた。なるほどー、そうきたか。
イシューさんはしばらく考え込んでいたけれど、
「オパール団は……、彼らは、『泡沫の宝玉』を求めている、とききました。おそらく奥様に近づいたのも、その目的のためでしょう。なんでもその宝玉は、『姫君が見る夢の中に現れる結晶』だそうですから」
泡沫の宝玉。
シャーリーの話の中に、あったわね! 姫君の見る夢……てことは、アリーゼが必要だったということで、そもそもクラリーネ夫人の言うとおり見合いにつれていく気はさらさらなかったということだろうか。
あのシャーリーって女がなにをたくらんでいるのか。
「魔術師ジャンの館……それは、私ではなくそのヴィクトリアに訊いた方が早いでしょう。この子は、そもそもアリーゼ様とあの魔術師の恋文を運ぶ使者だったのですから」
「えっ……」
ヴィクトリアはノアの腕の中であくびをしていた。
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