第45話 Level 2:薬草買うならレアラの店ね


「うーん、ここの店、薬草中心に取り扱ってるみたいねぇ」

 三人だけになってしまってから店の様子を眺める。ドライフラワーみたいな乾燥した草に、

「げっ。これ三百ゴールドもするよ!!」

「毒が消えて体力も中くらい回復するアイテムだってさ。スーパーれあら草って名前がついてる……ほ、欲しくないな」

 シロウは薬草を眺めだした。

 スーパーれあら草。なんと罪深い名前なの。

「ミラクルれあら草とかトリプルれあら草とかあったりして!」

「悪かったわね」


 突然背後に錬金術師が現れて、バッチョが飛んで行くほどびっくりした。


「おかえりなさい……」

て、留守番してたわけじゃないんだけど、レアラはそんな細かいことは気にせずカウンターの向こうの椅子にどっかりと座り込んだ。


「ああんもう、逃げられちゃったわよ。くやしいったらないわ、でも彼ってステキよねぇ~! そう思わない!?」



 えっと。

 レアラが素敵だって言うのはもちろんあのラガートではなく騎士様の方だろう。

「ええ、素敵だと思います」

 応じたのがシロウだったのでレアラは少し戸惑ったようだった。が、気にしないことにしたらしい。

「彼はね、御前試合で準優勝したこともあるのよ。至高の騎士チャンピオンシップで五位になったこともあるわ!」

「………うーん、びみょーな結果ですな」

 バッチョはホバリングしながら口を挟んだ。

 レアラは瞬時に顔つきを変えた。そして懐から瓶みたいなのを取り出したと思うと、すかさず中身を振りまいた。

 直撃を受けたバッチョはカウンターの上にぼとっと落ちて、ふにゃふにゃになった。「ういーん」とか口走りながらとろけるように転がっている。

 な、なんだ。ハチが、酔っぱらってるみたい?

「すご! えー、なんですかそれ!!」

「レアラ特製薬草爆弾よ! 粉末にした特殊効果のある薬草が、敵をしとめるの。結構使えるわよー、フィールドの敵とか一網打尽! てわけにはいかないけど、足止めには十分なるわよ」

「それ、いくらなんですか」

「一瓶20ゴールドよ、今のだったら」

 なんとなくひとつだけ買ってしまった。

 だってハチの様子を見ていると買わずにおれませんでした。すごい効き目なんだもんさ!




■ ■ ■ ■




「えっと、この薬草はどういう効き目があるんですか?」

「これはぴりぴりレアラ草。電撃でぴりぴりして動けなくなったりするのに効くのよ~。開発するの大変だったんだから。まずはブラックオクトパスを百匹集めて……あら、説明聞かないの。ま、ぴりぴりしてくるのはだいたい海の敵だから、あんたたちにはまだまだ関係なさそうね」

「なんで?」

「海ってレベルの高い敵ばかりなのよ。初心者には厳しいんじゃなぁい」

 ぐぐぐ。そんなに低レベルに見えるんだろうか。

 たたずまいが悪いの? 装備が悪いの? でも装備だけは調えることができるもんね~、五千ゴールドもあるし!


 ……私は五千ゴールドが到底使い切ることのできないスゴイ大金だと、信じ込んでいたのだった。


「この薬草は?」

「デリシャスれあら草。薬草ってだいたいマズイじゃない。そこを美味しく加工したら結構売れるんじゃないかなーって発想から作ってみました。シルバーマーケットに出品したらこれが結構売れてね、この店買っちゃったのよね」

「欲しい! 私これ欲しいわ!」

 ノアが騒ぎ出した。確かにこの前の冒険では苦労してたもんねぇ……ほろり。

「ちなみに原料はホワイトフロッグ。エルフの森にしか生息してない白いカエルなのよー! ゲットするのどれだけ大変だったか分かんないわっ」

 得意満面にレアラが胸を張ったとき、ノアが青ざめてその薬草を押し戻した。

「ど、な、なに?」

「この子カエルだけなんですよ。カエル抜きのはないですか?」

「カエルがダメですって! そんなあなた、MPを回復させるアイテムのほとんどにはカエルが使われているのよ。魔女の鍋ってだいたい入ってるもんでしょ、ヤモリとかカエルとか」

「サラ、私、転職してくる」

「待てーー! 決断早すぎるのよっっ!」

 本気に見えるから怖い。


「この籠に入ってる薬草はなんですか?」

 シロウは淡々と薬草を健闘している。さすが薬草コレクター……出会ったときアイテムボックスにしこたま薬草詰め込んでただけはある。

「それはー、イマイチかなって思う草を適当につめてるから。効き目はあると思うよ。青いのが体力回復。赤が異常回復。緑色が不思議な感じ。紫のは分かんない。なんかあると思うけど……あ、買う?」

 シロウは籠の中から袋詰めされた薬草を採りだした。中には青、赤、緑、紫、各種の草が数本ずつつめられている。

「これレアラパックだからアイテム一つぶんなのよ! お役立ちでしょー、ちなみに100ゴールドよ! お安いでしょー。まさに良心的価格よね。あ、サラちゃんが買った瓶とセットで150ゴールドでいいわよ!」

 レアラはにこにこして言った。

 ちなみに一ゴールドもまかってない。


パーティの財布の中身

5410ゴールド

……マイナス150ゴールド


現在5260ゴールド

「今から買い物に行くの? うーんと、それなら今の時期ならセールをやってるわよ。フリギールギルドの店なら5パーセント安くなってるの。フリギールギルドの店は、看板にパイプの絵が掛かってるからすぐ分かるわよ。

 ガラハドール通りから西に行くと三つの道に分かれてるんだけど。北からマハドールギルド、魔法使いとか僧侶関係の武器防具アイテムを売ってるの。真ん中にフリギールギルド、戦士とか武闘家ならここね。そして南がシャンレールギルド。上級者向けのギルドだから、あなた達はまだ行かない方がいいかな。値段が高すぎて買えないと思うし。

 んじゃ、また来てね。薬草を買うならレアラの店ね! もう、断然サービスしちゃうから。値引きはしないけど、スタンプカードあげるわ。これ、50ゴールドでひとつスタンプ押すから。20スタンプ集めると、私の開発したスペシャル薬草あげちゃう! がんばってスタンプためてね!」

「うん、ありがとー。行ってくるね!」

と、手を振って扉を開けた。


 見送られて旅立つのっていいよな!

なんてちょっと思ったとき、カウンターの上にハチを忘れているのに気づいて戻ったのだった。


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