【第八章 -Protect Eve-】



――数時間前に話は戻る。


 天界でのあの爆破の後、しっかりとカルメイラに腕を、身体を、捕まえられており

その瞳にオルバを見たような気がした。


だが飛んできた言葉は「これはお前がやったのか」

その言葉にブンブン首を振り

「違いますっ」と大きな声で反論していた。


下からは暴動のようなうめき声が止むことなく続いている。

ちょっと考えた後、カイは「ここに居たら煙がいずれ上がってきます! 逃げないと」

それを聞くとカルメイラはカイの体から手を離した。


「私は罪人だぞ、出れるわけがない、それにそんなことをすればお前が捕まるぞ」

カイはキュッと前を向き直り「あなたの力が必要なんです」と言って鍵穴がないか探しだした。

「お前、さっきもそれを言っていたな……」黒い煙が上がってくる。

「そうです! 私の大事な人の大事なものが無くなったんです。私だけが自由に動けるから、あなたに力を貸してほしくて」口元を裾で覆っても息苦しい。目も痛くなってきた。

だが、牢には鍵が付いていない。

「どうなってるの」と、アタフタと鉄格子を力づくで外そうとする。

「お前の力では無理だ、それにこの檻は鍵では開かない」

「それを早く言ってください!」と煙にむせながらしばらく格子を握り締めていたが

覚悟を決めたように左手を出し小指の金色のリングを見つめて少しの間瞑目した。


 あの日聞いたベルガの声が蘇る。

「いいかぁ? これを使う時は周りに頼れるものがいなくて困ったら躊躇なく使え

お前を守るものだ。責任は全部あたしが取ってやる

この鉄棒の起動コードは――」


「Protect Eve」

―イヴを守護しろ―


ベルガ、私はいつもあなたに守られている。





 カイがコードを口にすると金の細い指輪は形状を針金に変え

カイの手へと届いた。


カルメイラはしばらくビックリして見ていたものの「おい! 普通の武器ではここの格子などビクともしないぞ」と言ったが

カイの「離れてください」の言葉で奥へ下がった。


{私にはなんの力もないけれど……少しでもベルガの力が宿ってるなら!}


そしてその針金を大きく振りかぶった。

当然キーンという音とともに跳ね返されると思っていたカルメイラの目には

鉄格子が丸まま大きな音を立てて外れた様子が映っていた。


「なん……だ?」呆気に取られているカルメイラの手をカイが勢いよく掴んだ。


「行きましょう!」その時、ついに天井が崩れた。

カイは悲鳴を上げる間もなく瓦礫の下敷きになった。



 恐る恐る目を開けると自分の上にはカルメイラがいてすんでのところで瓦礫からは難を逃れていた。

「カルメイラッ!」するとそのまま抱き起こされ「口を塞いでおいた方がいい」とカルメイラの胸に顔を押さえたままカルメイラはそこから跳んだ。

{あ、この感覚、ベルガの時とは違う……}


 カルメイラは宇宙戦士になる前であったが自然に宇宙跳躍の技を取得していた。

この天界も跳躍は禁止されているが、緊急時でクロノスにより解除されているということにあわせ、カルメイラがそれを知らないということもあり跳んだ。

だが、十分に天界が機能していればこの時、カルメイラは焼き焦げていたことになる。

それほどのペナルティが課せられている。しかし、今回はそれを二人が知ることはなかった。


「すまないな、私はそれほど瞬間移動に慣れてないので遠くへは跳べないのだ」

天界を覆うバルーンから出てすぐの地点に着地していた。

ちょうど天界の裏手であろうか。火の手は見えるものの人気はない。

大きな隕石の陰に隠れて慣れぬ跳躍で消耗したカルメイラを休めるべく、そこで機を窺っていた。


「行く宛てはあるのか?」カルメイラが聞く。

「すぐにベルガに連絡をつけたいところですが、あなたも連れているので光合邸の方が早いかもしれません。でも仮にも脱獄しちゃったわけですから……ん? あれは……」

カイが話の途中で何かを見つけたようでカルメイラも重い身体をスライドさせて岩陰から覗く。


「なんだ? あの無駄に派手な悪趣味な馬車は」カルメイラの言うとおり

真っ黒なのに装飾の派手な宇宙馬車が天界の裏手にこっそりとつけられている。


「あっ!」カイの言葉に今度はなんだ、とカルメイラも視線の先を見ると

白い一匹の蛇が天界から出てきて馬車へと近付いた。


カイはすぐにそれが黒点だとわかったしカルメイラも黒点にはここへ送られたときに会っている。それがこの天界を仕切る天の宇宙戦士のペットだったはず、ということにもすぐに思いあたっていた。

遠くて会話は聞こえないがその馬車から奇妙な長い爪の指が一本見えたと思ったら

一瞬ビリッと空間が揺れた。

カルメイラは注意深くそれを見ている。


カイは「静電気?」と口にした。

黒点はその静電気を浴び一瞬ビビッと身体を強張らせると次の瞬間には何事もなかったかのようにフラフラと宇宙を泳いでどこかへ行ってしまった。


「イヴ」カルメイラが声を出す。「……はい」カイが答える。


「これは中の者の暴動なんかじゃないんじゃないか」カイもその言葉に頷く。

「早く光合邸の皆に知らせないと……!」

と、その時。馬車に気を取られていたカイとカルメイラを襲うものがあった。


 最初の一発はカルメイラがカイを力いっぱい押して弾け飛んだ。

襲撃者は馬車のものではなく魔物のようだ、見たこともない恐ろしい形をしている。


「チッ! 地獄から抜け出した刑囚か!!」

カルメイラがカイを背にして素手で応戦するもカルメイラは宇宙戦士ではないので

帯刀しておらず、また先程まで自分も刑囚だったので何も武器を持っていない。

頼りの能力もカルメイラに至っては「それ」は戦闘能力ではない。

カイはどうにか自分の武器、ベルガから貰ったProtect Eveを渡そうとしたが

「近寄るなっ!」とカルメイラが魔物を遠ざけるように自ら離れて行った。

カルメイラが力でねじ伏せられようとしたその時、


ブサッ


後ろからProtect Eveが魔物の胸を貫いた。


カルメイラは自分の上に崩れてくる魔物を避けて横に転がった。

あがった息で前を見ると、カイの震える手にしっかり握られたProtect Eveから

血が滴り落ちていた。


カイは肩を震わせて微動だにしない。誰から見てもカイが何かを傷つけることが初めてなのだ、ということを明らかにしていた。


カルメイラは足を引きずりカイのところまで行き、ガクッと膝を折った放心状態のカイの目を自分の肩で隠し魔物の死体を見えないようにした。


「……イヴ、ここから移動しよう。まだこういうのが近くにいるかもしれない」

放心状態でまだ口もきけないカイの背中を軽く抱きとめそのままもう一度跳ぼうとした時

ビビビッと身体を何かが走った。痛みで前がくらむ。


カイは自分の肩に倒れこんでくるカルメイラを見てゆっくり、でも緊急的に意識が正気に戻った。

「カルメイラ!! カルメイラ!」

何があったんだろう。自分に、そしてカルメイラに。

自分の手を広げるとProtect Eveから逆流してきた魔物の血で真っ赤に染まっていた。

恐い

恐い

唇が震える

自分には先程の記憶がない。

でも、カルメイラが自分を呼んでくれた気がする。

なのに何故今、カルメイラは倒れている? わからない、手についている血はどんどん黒くなっていく。

誰か誰か 助けて……ベルガ!


バシッ


また大きな衝撃がカイに走った。


「つっ」少し痛みはしたものの自分は意識を保っている。


これは……静電気? カルメイラはこれで倒れた? 自分は平気なのに?

すると後方にあった馬車がガラガラと音を立てて近付いてくる音がした。


カイは咄嗟にカルメイラを岩陰に隠し自分ももう一つの隕石の陰に隠れた。

すると女性の声がした。

「おやぁ、何かおると思っておったがこんな下級の魔物かえ? 我の雷を使うこともなかったのぉ」

馬車からは顔が見えないがやはりあの長い爪が扇を大仰に振っていやらしい笑い方をする。


{この人がカルメイラを……! 静電気じゃなかった?! 雷って……}

カイが少し身体を乗り出して馬車を窺おうとした時、馬車の視線が急にこちらを向いた。

見つかる! と思った瞬間、隕石がゆるやかに動き出した。

「はて、今の気配は隕石であったか」と声を残し馬車は遠くへ行ってしまった。


カイがビックリしていると隕石がグルグル回って漂っている。

「隕石ちゃん、私のこと守ってくれたんですね? イザベルさんのところの隕石ちゃんでしょう?」

すると隕石はさらに嬉しそうに回りフヨフヨとカルメイラのところまで移動した。

カルメイラの傍にあった隕石も動きだし隕石同士でぶつかり合って

「カルメイラを乗せろ」と言っているようだった。

汗と返り血とすす汚れでボロボロになりながらも、カイは「ありがとう……」とゴツゴツした表面を撫で「行ってほしいところがあります」と言った。





 ベルガは大車輪も無くしカイも手元からいなくなり、急に色んなものを失った気持ちになっていた。

 光合邸では上の騒ぎが騒ぎなだけに宇宙戦士は光合邸から出ることが禁止され

皆、することもない退屈と任務途中放棄、上からの抑圧の三拍子で重たい空気になっていた。


ベルガが窓辺で紅茶を飲んでいるとイザベルがニッコリ笑って

「ベルガ、ちょっと手伝ってくださいな? ここの書物の量は中国書店には及ばないけれど結構な量なんですよ♪」と声をかけてきた。

「今、そんな気分じゃ……」と言いかけた時、イザベルが急にベルガの腕を引っ張って

クロノスに図書の整理に行くと告げてそのまま飛び出した。


呆気に取られてそのまま「おいおいおい」と引きずられていると

「しっ! 外の情報が入ったんです。カイさんのことですからついてきてください」

と小声で言った。

ベルガは表情を一変させ押し黙った。


 宇宙戦士は会議室に缶詰にされていたので会議室以外ではやっと出れたことになる。

光やプラのように皇族だったりすると出入り出来たりしていたようで

気付くと外の図書の部屋にはいつの間にか光の宇宙戦士全員が揃っていた。

「え……」

自分たちだけ出てたのかよ、と愚痴も言いたくなったがそれは後にすることにした。


光が「上の情報はあたしたちが大体掴んでる。クロノスやタクミ様にはばれないよう動いてるから話はイザベルとコロンから聞いてね! あたしとプラはすぐに会議室に戻るからこんなに外に出てたら不審に思われるしね♪」

そう言って光とプラは会議室に戻った。


「で、どうなってるんだ?」腕組みして卓上に足を組んで腰をかけ状況を聞く。

まずイザベルが言った。

「これはこっそりロンと会ってうちの隕石ちゃん伝いに聞いたんだけど」

と情報元は隕石であると話す。

「カイさんは無事よ」


その言葉を聞いて自分の顔がどんなに泣きそうになったんだろう。

コロンとイザベルがビックリして自分を見ているのに気付きハッと気を引き締める。

コロンが言葉を継いだ。

「どうやらイヴさんは私の屋敷に居るらしい」思いもよらぬ話にベルガは「なんでだ」と声が大きくなっていた。

コロンの屋敷は特別天界に近いわけでもない。自分の屋敷に帰ればいいではないか、

そう思ったのだ。と、怒鳴ったところで

「すまん、違った。あたしがコロンの屋敷に行って欲しいと頼んだんだった」

と我に返ったのでその言葉にイザベルもコロンも話の続きを待った。


「あたし、それから紅炎、そしてコロン。この三人の刀が行方不明になったよな?」

コロンは普段から無口だが宇宙戦士一の長身を生かして大きく頷いた。

イザベルも「そうだったわねぇ」

と忘れ去られそうになっていた刀鍛冶行方不明の件に触れた。

「それで外出禁止の出ていたあたしたちのパイプ役をカイに頼んだんだよ」



 つまりはこうだった。

天界に収容されているカルメイラの能力は変身能力だ。この能力を使って刀鍛冶に変身させ

「刀鍛冶は行方不明になっていない」と世に口外し犯人に不信感を与えあぶりだそうとしていたのだ。


単なる思い付きだったがカイが「絶対に大車輪は見つけ出す」と力が入っていたので

あまり期待はせずとりあえず天界でストップがかかるかなぁ~? 程度に送り出したのがそもそもだったのだ。


「もし、カルメイラを連れ出せたらその足でこの計画をコロンに話し、そこで一旦あたしに連絡を寄越すように話した。」

コロンがコクコクと頷いている。


イザベルがふと「紅炎は? 紅炎も刀を盗まれたでしょう? 協力を仰がなかったんですか?」と聞いた。

「あいつに真正面から言っても職務真っ当が第一の天界からの恐い監視の目があるだろう? 迷惑かけんのも嫌だったしまずカルメイラの受け渡しも許可でないと思ったしな、

話してない、というか紅炎には話さないでいいとカイには伝えてある」


納得したようにイザベルが「なるほどねぇ」と言ったが、続けて

「カイさん可哀想」とも言ったのでグッサリ心が折れた。


「で! カイは今どういう状況なんだ?」ベルガが軌道修正する。

「それがね、どうやら大変なことになってるようで……」

イザベルは隕石・そしてロン経由で聞いた事の次第を手短に話した。

「このことはさっきいたメンバーはもう知ってるわ」

光とプラのことである。

ベルガは頭を抱え込んでいる。

自分が適当な気持ちでやったことがこんな形で繋がるなんて……!

唇を強く噛む。


「カイさんはほとんど無傷らしいんだけどカルメイラが結構な傷を負ったらしいわ」

イザベルが心配の表情で伝えた。

ベルガはカイが無事なことに普段は祈る神もいないが感謝した。


「上には報告しないのか? この話が本当なら少なくともアマゾンとカルメイラの共謀説はなくなるしカルメイラも脱獄とカイ誘拐の線はなくなったわけだ、それにどう考えても後ろで糸を操ってるのはアマゾンだろう!」

コロンもイザベルも一旦考え込む風だったがすでに光の宇宙戦士で決まってることのようでこちらに向き直って申し訳なさそうに言った。


「いま、光合邸内では動けないわ。わたしたち宇宙戦士は皇族には逆らえないもの。

それにアマゾン様が残ってらっしゃる限りどうあってもクエ様の責任問題には持っていくでしょうね。逆にアマゾン様の疑いに関しては証拠がないもの。どうにか外から瓦解出来るような情報を集められれば……」

するどくベルガが「カイに何かやらせるのか」と聞いた。

「今のところそういう算段よ」イザベルがこれからの計画を話した。





「うっ……」カルメイラの意識が戻ったのは数時間前のことだった。

あれから隕石を介して光合邸内のイザベルとやり取りしている。中の状況と外の状況が照らし合った。

「カルメイラ!」傷は大きいらしく治療の知識がないカイでは傍に居ることしかできない。


 普通の屋敷であれば宇宙アンドロイドがいるのだがコロンは変わり者なのでアンドロイドを置いてなく、その変わりに誰かに光合邸に通報されることもなかった。

身を隠すにはちょうどよかったのだ。


だが、カイがあの後、咄嗟に「コロンの屋敷に向かってほしい」と言ったのは

ベルガの言葉があったからではなかった。

普通の状態ならばベルガの屋敷に帰っただろう。


敵はアマゾンだ、とあの「雷」というワードを聞いてすぐに見当がついた。

ならばすぐに思いついた戦力は水、特に氷を好んで操る、と紹介されていた

コロンだった。

雷は電気の塊で電流を通さないものの代表でカイが真っ先に思い当たったのが

水であった。「超純水」電流を通さない絶縁体、そう授業で習っていた。

水を操るコロンならなんとか力になってくれるのでは、と逃げ込んだ先であった。

「ベルガには今、使える大車輪も手元にないし私が戻って巻き込んでしまったら……」

と思っての考えだったのだがこれが不幸中の幸いで、コロンの屋敷に行きついたことで色んな事が有利に働いた。


「ここは……?」

「カルメイラ!! よかったです」


自分を守ろうとして傷ついてしまったカルメイラだ。カルメイラとはほとんど話したこともないのにこんなにも自分を守ってくれた。

一人で気を張っていた緊張感が和らぎ自然と涙がこみ上げてくる。

グッと我慢して「ごめんなさい」と言ったが

「お前には弟が迷惑をかけたそうだからな」とまだ辛そうな声で初めて笑った。

「いいえ、いいえ」精一杯首を横に振ると涙も飛んでカルメイラの頬に落ちた。

「地球人は泣き虫なのだな」と涙に触れてそう言った。





 三姫とアマゾンが謁見する部屋では紅炎が聴取に呼ばれていた。

「クエ様、本当に申し訳ありません! あたしの監督不行き届きなんです!

処罰はどうかあたしだけに……!」


その様子を扇の後ろで嬉しそうに見ているアマゾンをチロリ、とクエが見ていた。

{そなたが仕組んだのは見え見えだ、あからさまにわらわの椅子を狙いおって……

しかし、こうも宇宙戦士を外に出せぬとあらば尻尾のつかみようもない……}


「紅炎よ、そなたの白蛇・黒点は誰ぞに操られていたのではないかな?」一応、上司として紅炎にも助け船を出してみる。

「はい、クエ様! あたしもそう思うんですけどあれから黒点もみつからなくて」

と、外に出れない宇宙戦士からの報告は話の堂々巡りになってしまう。


ふぅ。と三姫が疲れを見せたところに、クロノスが部屋への入室を名乗り出た。

「どうしました、クロノス」マリーが問う。

「はい、実は宇宙戦士魔のトップ・ベルガが光合邸を一時辞したい、と申し出ております」

マリーは無言で聞きクエは面白いことが始まったかのように興味ありげに聞き

エクレアは顔が引きつった。

「今は緊急避難体制をとっている、ということはあのアホはわかっているんだろうな」

エクレアが厳しい目つきでクロノスを見る。

アマゾンはそれは嬉しそうに「エクレア殿のところでも失態の煙が上がりそうじゃのぉ」と喜んで見せたが宇宙戦士を外に出さぬように我が出向いておるのに

よもや許可など出しようがないわ。何を考えての行動か? と勘繰りもした。

{まぁ、魔のトップの刀は手元から消え失せているはず。使い物にはなるまい}

と高笑いを続けた。


 アマゾンは一旦客室に通されそちらへ移動する隙に手下の者にベルガを監視するよう命令した。

「いくら許可が出なくともあの元破壊神じゃろう、なにをしでかすかわからんしのぉ」と

緩やかに事の動向を見据えていた。


 一方、宇宙戦士が集められている一室では魔の宇宙戦士・ミスイがベルガにお茶と共に小瓶を差し出していた。


「ベルガどうしましたの? さっきから顔色が悪いですわよ。これをお飲みなさい」

カイを攫われたと思ってるミスイはそれが原因なのだろうけど、とは顔に出さず薬液の小瓶からお茶に数滴薬を垂らした。

「悪いな」そう言ってベルガはお茶を口に含み黙って事の経緯を待っていた。

ちろり、とミスイが「外出の許可なんて出ないですわよ?」と言ったのをベルガは聞こえてない風に飲み干した。



 その頃カイは、隕石2つを従えてあのカルメイラと襲撃を受けた天界の裏の地点を漂っていた。

モールの服が出来てからは宇宙間でも苦なく動くことが出来るカイだが、宇宙跳躍を出来ないカイにとっては宇宙はただただ広い真っ暗な空間で、上も下もない宇宙空間では道標なしには進めない。周りから色んな事態を考えて最良の安全策を整えてもらっていたので

普段はバルーン伝いに生活している。


 しかし、隕石タクシーを呼んでる時間もおしいので今回の移動手段は専ら先程と同じように隕石に乗せてもらって動いている。

隕石タクシーに乗るよりも危なっかしいがタクシーはタクシーで目立つのでこれで良し! と本人も納得していたが、

「こんなとこベルガに知られたら怒られそう」と数時間会っていないベルガのことを優しげな表情で想った。


「ここからは……私一人で、なんとかしなくちゃ」


そして「隕石ちゃん、あなたに乗るのに免許なんて要らないですよね?」と

自転車以外乗ったことのないカイが念を押して自分で少し笑ってから

緊張で強張っている顔をパシッと叩き気合を入れて

「行きましょう。大車輪は必ずアマゾンさんの手中にあるはずです!」

と隕石に声をかけた。


 これまでに宇宙間を一人で移動したことなどほとんどなかったのに今日はやけに一人だな、とカイは長い一日を思い出し深く息を吐いて憂鬱を吹き飛ばした。

「それだけベルガに頼りっぱなしだったんだ」

そう言って左手小指を愛おしそうにさすった。


 コロン邸についてカルメイラがまだ気を失っていた心細い時、不安から目に溜まった涙を押し殺し血に濡れたProtect Eveを自分の服でゴシゴシ拭っていた。

あの時血を浴びて赤く染まったProtect Eveだが、指輪に戻るとまたベルガの美しい金の髪と同じ色に戻った時自分がどれほど安心した顔をしてたか。

カイはその時の自分の顔を見ていない。


「隕石ちゃん、刀鍛冶さんのおうちわかりますか?」黒点のあの様子からして操られていたのは明白で、なんとか黒点を確保したいと思ったカイだったが

すでに宇宙を浮遊していってから随分時間が経ってしまい何らかの足跡も見つけられなかった。

 隕石はフヨフヨと一回転すると今度は天界からだいぶ下に降りて宇宙を泳ぎだした。

しばらく乗っていると小さなバルーンの村が見えてきた。


「ありがとう」二つの隕石に丁寧にお礼を言い、村のバルーンの中にカイだけ入って行く。


 カイの認識から言うと宇宙の真ん中、中国書店からやや斜めに下った位置

と言った風で光合邸やベルガ邸ともに遥かに遠い、という距離ではなかった。

普段から宇宙戦士の武器をメンテナンスする身の上なのでこういう位置に住まいを構えているのかもしれない。


「よかった、すごい宇宙の果てとかだったらどうしようかと……」と村に入って行くと

村には見渡す限り一軒も家がなく一番村はずれにちょこんと工房があった。


「刀鍛冶のおじ様のための島なのね」と少し安心した。

非常時とはいえ、女型だということが明らかな服装を隠す暇がなく、

そのままの姿で来ていたので胸をなでおろした。

刀鍛冶の家はこじんまりと工房の横に寝る部屋があるだけでそれは小さいものだった。


「もしもベルガの大車輪がここにあるなら!! 大変失礼だけどごめんなさい!」

とキュッと目をつむり両手を合わせてから家探しを始めた。


「あ!!!!」

工房の隅からカイが手に取ったものは、いつかに刀鍛冶がベルガと話していた時に荷台に積んでいた中世の剣のような……

「これって紅炎さんの? だったはず」じゃあベルガの大車輪もあるかもしれない! と再び勢いよく掘り出しにかかったがどうにも見当たらない。

その無警戒なカイの背後からグッと手が飛び出した。


「むっ!」いきなり口を塞がれ工房から乱暴に連れ出された。


軽々とカイを持ちあげるその体格と骨のつき方は男型だった。

「やれやれ、初めてお目にかかる地球人のお姫様が泥棒の真似ごととは」と低い声で気味悪く笑う。

首元にはひんやりとした冷たいものがあてられた。小刀だ。

その刃渡りが反射して覆面をした男型の顔が映り込む。


「何をお探しですか? お姫様」と男型が後ろからカイを羽交い絞めにしてカイの両頬をギュッと片手でつぶした。カイは初めて自分と男型とではこんなにも力の差があることを今になって知った。口を歪めているその手をそして後ろから縛られている手を何一つ解放することが出来ない。


心の底から「怖い」そう思った。


Protect Eveも出せない。ここには一人で来たので誰も助けてくれない。

恐怖心からポタポタ涙が溢れ出てくる。

男型はにたりと笑い「少し眠っていてもらいますよ」とカイの腹部を殴ろうとした。

と、

ヒュッと風が駈ける音がしたと思った瞬間、男型が横に吹っ飛んだ。


カイは縛られていた手が解放されてそのまま倒れ込んだが、横に倒れる前に

体全体で自分を抱きとめてくれる者の顔を見た。


その顔を見て今度はもう涙が限界水位を超えて溢れだした。

声になって届いただろうか

「ベ……ガ」


カイを抱えて傍にあった壁にゆっくり下ろしたのは怒れる金髪の女型だった。


怒れる金髪の女型、そう、ベルガは、何も言わずカイの無事だけを確認してすぐに敵と対峙した。

「お前、何したかわかってんだろうな……」

いつもよりも低い声が息を止めているように静かに言葉を放った。


吹っ飛んだ覆面の男型がヨロリと立ち上がったところで怒りが沸点に到達したベルガが

「誰の誰に何したかわかってんだろうなぁぁぁ!」


と敵の前にフッと跳んだかと思えば次にはもう力加減なしで蹴り飛ばしていた。

工房の奥の壁を突き破り覆面の男は弾き飛ばされる。

弾き飛び終わる前にベルガが男型の上に跳躍して一発の拳で腹に拳を振るい

派手に地面に叩きつけられた男型は沈黙した。


「……ベルガ」蚊のなくような声でベルガを呼ぶと敵の上で覆面を剥がせ見下ろしていたベルガがヒュッと跳んできた。

汚れた顔をゴシゴシと乱暴に手で拭われそれでも顔の泣いた跡をゆっくり確認するように

頭を撫で撫でされた。


「ごめんな、すぐ来てやれなくて」


それを聞いたらもうカイは緊張がはち切れたかのように

ベルガの腕の中でわんわん泣いた。


ベルガの身体はさっきの無骨な男型とは違い自分と同じ、柔らかくて骨も細くて

いつも一緒にいるとわからなかったがいい香りがした。

ベルガは黙って髪を撫でていたがしばらくして失っていた自分の何かを奪い返すように

両腕でカイを抱きしめた。





 先のひと騒動に気持ちが収まるまで二人で崩れた刀鍛冶の家の瓦礫を背に、隣同士で座っているといきなり自分を取り戻したカイが

ハッと立ち

「こんなことしてる場合じゃなかった!」と文字の如く立ち直った。


ベルガは「おいおい、立ち直り早いな。んで“こんなこと”とはなんだ」と

肩を落としたが

カイの様子に安心した風で、改めてカイに向き直りほっぺをギュニュ~と盛大に伸ばした。

「はにふるんでふかー」抵抗するカイだったがさきほど同じように男型に触られた頬が

ベルガにされるのでは気持ち悪さがないことに気付いていた。


コツンと拳で頭を小突かれ「無茶しすぎ」真剣な顔で、でも呆れた風にそう言われて

カイは胸が締め付けられた。

傷ついたんではなくキュッと息がしにくくなった。


これはなんだろうか? 罪悪感……? でも前にも感じたことがあるような胸の締め付け。


ベルガは黙りこむカイが反省したのだな、と勝手に解釈してから

「イザベルとロンに一計を案じてもらった」そう言うと

「大車輪と刀鍛冶のおやじを探すか」

とカイの横に立ちあがり工房から一本のあるものを取りだしてきた。

「それは……」

「そっ! 紅炎の剣、あいつの剣だけここに忘れられてやんの~

“手元不如意”だし少し借りる」

「ベルガ “手元不如意”の意味間違ってますから、日本の故事成語ネタ好きだなぁ、つっこむ方の身になってくださいよぉ」とベルガを見るとしばらく沈黙した二人だったがお互い吹き出した。

「もう~高等日本ギャグ禁止ですーーっ私がつっこまなければ誰もわからないと思ってるんでしょうーー! なんとなくニュアンスだけで使うのも禁止ーーっ!」

カイにいつもの笑顔が戻ってベルガは久しぶりに心から笑った。


(※手元不如意=てもとふにょい。家計が苦しく金がないこと)





「どうやってアマゾンさんの根城を探すんです? それにどうして私の居場所が分かったんですか?」

「イザベルに手伝って貰って隕石に聞いた。あとは直感、宇宙を跳びまくってその隕石を探した」と少し鼻高々に言った。

「だが、今度は簡単だ。さっきの男型はまずアマゾンの手先だろうからな

これを使う」と懐から小さな小瓶を出した。

透明な液体にやんわりと黄色い色が浮いている小瓶だ。

「これなんです?」にんまりとカイに怖い表情を向けたベルガは

「自白剤♪」と言い放ち、男型を起しに行った。



 その頃、光合邸。

「クシュン。嫌だわ、風邪かしら、お薬調合しなくっちゃ」

ミスイの荷物の小瓶セレクションからは黄色い液体の小瓶が消えうせていた。







 自白剤の力により男型から聞きだしたアマゾンの潜伏先は、二人が目を疑った場所であった。


「光合邸……っ?!」


「いや、でも確かに身を隠すには最適かもしれないな。光合邸の内部はそれこそ無数の部屋や回廊で繋がってるし元皇族のアマゾンならばそこから出て行くということはプライドも許さない、逃亡したと見せかけて、実は内部に潜伏していた、なんて有り得そうだ……」

「ベルガ! 黒点ちゃんが怪しい行動を取った後アマゾンさんとおぼしき影と会っていた時に私はあの時は静電気だと思ったけど、もし脳波に直接電流か何か信号を送って操っていたんだとしたら……本当にそんなことがあったんだとしたら

光合邸内部の皇族の方の一部は、知らないうちにアマゾンさんを匿うよう

なんらかの洗脳を受けていたのかもしれません!」


カイの言葉を聞いたベルガも頷き、「ただし、光合邸のどこに潜んでいたのか」

までも調べる必要がある、という話になったが

ここでベルガが言った。


「今あたしは光合邸には無暗に入れないんだよな」とちらりとカイを見て

「先に大車輪を回収しに行ってから光合邸に入る!」と言い捨てた。


「回収って心当たりあるんですか?!」カイが驚いたように言うと、

ベルガが得意気に「この宇宙で隠れんぼするには、ちと特別ルールを排除しなきゃならないんだ」と指先を立てた。


 数回、宇宙をはねながらベルガが言った。


「皇族なんてものは教えられた情報で常に頭は回っている。自分で見に行かないからな

まぁ世間知らずって感じだ。なのに権限も実行力もある。だからこそ、実力があればしなくていいことをする。前回のブラックホール事件を考えてみろ。

カルメイラは潜伏するために何か特別なことをしたか? してないだろう、

ただし皇族という地位にある故に情報でしかものをしらないやつらは “宇宙には最強の管理者がいる”と教えられて知っている。お前も会いに行ったモールだ、宇宙をただ一人で監視し続けている。ただ実際には宇宙全てを監視しているものの宇宙の全ての行動を管理しているのであって何から何まで把握してるわけじゃない。

モールの仕事は後手に回ることも多い。現にブラックホール事件はオルバ・カルメイラという犯人が挙がるまでは潜伏先はわからなかった。

だが、アマゾンほど世間知らずなら“モールに出来ないことはない”そう思ってて当然だ。」

カイも宇宙の常識には不慣れだが、宇宙にいても外のことに詳しくない人がいることを知った。


ベルガが続ける。

「モールの探索網を掻い潜るのは至難の業だとアマゾンは考えたはずだ。

ならどうやって掻い潜ってきたのか、答えは簡単。モールごと壊してしまえばいい。

ただし壊れればすぐバレる。壊れないように操る。モールの場合外部からのハッキングだったんだろう。モールが必ず怪しんで調べに来る瞬間を狙って逆に己の電流でアクセスしたんだ。モールは一瞬クラッシュした後アマゾンに関する秘匿部分だけ記憶から完全にデリートする。そしてアマゾンがすることには全く反応・検知・関知しないように一切をシャットアウトさせるように操作されていた。」


「だとしたら……?」ベルガに掴まりながら話を聞いていたカイが

幾度かの宇宙跳躍で足をつけたのはかつて宇宙に来たばかりの頃に、一度足を運んだ場所であった。


 小さな丸い小屋から幾つものアンテナが生えている小規模な島。

モールの小屋である。

「ここには滅多に誰も来ないんだって話は聞いたんだろう?」と、ベルガがカイを離しながら「中に入るぞ」と指で合図した。




 光合邸では未だに宇宙戦士は身動きとれず中でも荒っぽい気性の多い魔の宇宙戦士は不満の声をあげていた。


「もう~! いつまでこんなところで缶詰なのよぉ」美しいオレンジの髪を掻き上げながら

ソファに座ったアメシャが退屈~と暇を持て余している。


「アメシャ、次アメシャの番だよー」と声をかけているのはアメシャと一緒に行動することの多いアメジストの髪の色のビルだ。退屈しのぎにカードゲームやらボードゲームを出してきてはアメシャに相手をさせている。

「あ~パスパス、わたしの負けでいいわぁ」と椅子にもたれて勝負を投げだした。

チェッとビルがゲームを片付け離れたところでお茶を飲んでいるミスイを見て矛先を変えたが言葉を発する前にミスイに無言で手のみで「結構」と制止されしょぼんとした。


そんな様子をやはり退屈そうに見ていたアメシャがふと

「うちのトップは何処行ったのかしらぁ?」とぼやくと

ミスイが「ベルガならまたイザベルと図書室へ向かってからまだ戻ってませんわ」とだけ興味なさそうに言った。

そして先程ベルガに差し出していたティーカップの淵をちろりと見て「ハーブより止血剤の方が良かったですわね」とボソリと言った。



 光合邸最深部の三姫の謁見間ではアマゾンが再度、三姫に要求を突き付けていた。

「そろそろご回答願えるとよいのじゃがのぉ、クエ殿?」相変わらず厭味たっぷりの口調に

「わらわに何を言ってほしいのだ、そなたは」とこちらも毒々しい言葉で返す。


「アマゾン、わたくしたちはクエの罷免なぞしませんよ? それよりもあなたが過去の罪を償いに出てきたとそう姉上は思ってもよいのですか?」マリーが慈愛に満ちた声で言うもののアマゾンはそれを一笑に付し

「姉上はクエ殿のご怠慢が見えないと申すのか? このアマゾンにはこれまでの行動が手に取るように見えますわ。此度の騒動とて、責任問題では済まされませぬぞ」

とやや厳しい口調で被せた。


三姫との対話も堂々巡りになりエクレアがピリピリと我慢の限界を感じていると

クロノスが謁見を名乗りで、一時休戦となり火種はふすふすと噴火前の火山のように静まった。



 クロノスが部屋へ入ると同時に「今回の件では宇宙戦士の同道のお許しを頂きたい」と

頭を下げ、後ろから入室してきたのはベルガであった。

エクレアがピクリと反応し、「よい、入れ」と許可し「何か言いたいことがあるなら言え」と言った。


するとベルガは淡々と今回の事件の経緯を話し始めた。

「以上、騒動の発端の原因は全てそこにおられるアマゾン様の企みであります。」

 クロノスは黙って聞いており三姫も何も言わず、アマゾンだけが汚らわしいものを見る目つきでベルガを薄めた眼で見ていた。


そして大仰に扇をひらめかせ「エクレア殿? この不作法な宇宙戦士の処分は我が決めてもいいのかえ?」と不敵に笑った。

エクレアはベルガに向かって「証拠は揃えてきたのか?」と続きを促すと無視されたアマゾンが逆上し「我を愚弄するでないわ!」と、四肢から電流をピリピリと発生させると

三姫の前には各々、何処から現れたか側近の者が武器を携帯して前に飛び出し

逆にこちらからはクロノスが自分の剣を下げてアマゾンの前へ飛び出した。


クロノスから切りかかったのではないがアマゾンの前には以前、ベルガにつくように命じていた手下の者が姿を現し、クロノスの刃と剣が交わってお互いに命があるまで静止した。

一触即発の空気にベルガは黙ってその状態を見ていたがしばらくしてゆっくり口を開いた。


「私の仕事はここまでだ。この扉を開けるのは大した苦労ではなかったぞ」と、


誰も警備が居なくなったその大扉に向かって声をかけ、ベルガはそのまま腹を押さえてうずくまった。


そこに入って来たのは

「夏目殿?!」思わず声を出したのはマリーで

カイはうずくまったベルガに走り寄って側の壁に背中を倒すように手を貸した。


すると、後ろから

「証拠ならちゃんと揃えてきましたよ」とゆらゆら揺れる金の髪を風で切るようにもう一人のベルガが入って来た。


その姿を見てエクレアが上等だ、という顔をして「ではお前が企んだ芝居の成果を並べてみろ」と言ったので一瞬ニッと笑ったベルガは

瞬間移動ではないただの足が速い、というレベルでは追いつかない速さで

気付いた時にはアマゾンの手下の者の刃をなぎ倒していた。


手元にある大剣、それは間違いなく大車輪であった。


配下の者は倒れアマゾンが恐ろしい形相でベルガを睨んだ。


「元破壊神……そなたの形をしていたのは影武者か」

ベルガは悪びれもなく「いい素材がいいところで拾えたもんでな!」と

もう一人のベルガを指し示すと、ベルガであったものはその能力を解き

カルメイラへとその姿形を戻した。


クロノスが「そうか! カルメイラの変身能力」と自分と戦闘を交代したベルガに

合点がいった顔をした。

「ロンと光の宇宙戦士に協力してもらいあたしはいち早く光合邸をカルメイラと交互で入れ替わった。あいつは怪我してたのであたしの振りをしてただけだが

宇宙戦士がこの部屋を開けることは困難だから一芝居打ってもらった。

アマゾンがこの光合邸に長年潜伏していたことは、今、光の宇宙戦士に動いてもらって

根城を特定中だ。それに証拠はこのあたしの剣で申し分ないだろう?」と

アマゾンによく見せるように言った。


顔を歪めたアマゾンにベルガが

「カイ! この剣はどこにあった?」と大きな声で話を振った。


カルメイラの側にいたカイがそれに応えるように部屋全体に聞こえるように

「モールさんの小屋から刀鍛冶のおじ様・黒点ちゃん・そしてベルガの剣、全て出てきました!」

モールはベルガの予測通りアマゾンから何らかの影響を受けていた。

自分の部屋にそれらがあることそしてアマゾンの介入があったことなど

全てを忘却しており、モールの部屋には無造作に大車輪も投げいれられていて

大方、アマゾンにとってそこは「ゴミ箱」そのもののようであった。


 エクレアは少し満足気に顔に笑みを浮かべ

「この緊急時に許可なしで光合邸を抜け出たことへの言い訳を述べさせてやろう」

とベルガに言うと

ベルガはしれっと「あたしはちゃぁあんと許可申請出しましたからね」と言うと

エクレアも「確かにそういうことは聞いていたな」と頷き「ではいま許可した」と声を張り上げた。

ベルガはふんっとにやり顔でカイもその一言にほっとした。


そして右手にある大きな大剣。行方不明になっていた大車輪を今一度、

アマゾンへ向けた。


一気に顔が蒼くなるアマゾン。「しれ者めっ! 誰ぞ、成敗するのじゃ」

エクレアはそれを無視し誰もがその「元皇族に武器を向ける臣下」の図を見守った。


「本当にしつけのなってない輩どもじゃ……」

と、アマゾンが壇上から立ち上がり長い爪でその自身の髪を払った。

「天の姫の座は我が一番相応しいのじゃ!」

それを聞くとクエがニッコリ笑って「そなた、つい本音を漏らしておるぞ」と厭味に見下した。

「忌々しい天の姫め、我が力づくでその座から引きずり降ろしてくれる!」

と、手を天高く上げ最大級の規模の雷を落とそうとした。

その手が振り下ろされる直前、

過去のアマゾンの起こした大虐殺を知っている三姫は目の色を変えベルガも「これは防ぎきれるか?!」と同時にアマゾンめがけて刃を振り下ろした。


しかしアマゾンの方がすんでのところで早く、しかも狙いは当初からの通り

クエ一人目がけて。

雷の下ろされたクエの傍にすごい勢いで誰かが覆いかぶさった。


 部屋中に帯電している電気のチリチリという音が残る中、

クエはかばわれた身体を起しその人物を見て珍しく目を丸くした。


「そなた、ベルガのイヴか?」

アマゾンの雷からクエを守ったのはカイだった。


カイは雷をその手に持ったProtect Eveで抑え込んでいた。

「なぜじゃ! 我の雷、この空間ならば真空以上の力が出せるはず

それを耐えらるはずがない!」

カイは雷を抑え込んだProtect Eveを撫で、そして前に出して見せた。


「これは鉄の釘のように見えますが宇宙戦士ベルガの純粋な毛髪から出来ています!

地球人の髪の毛もそうですが、髪の毛は絶縁体。電気を通しません!

もちろん雷ほどの高電圧を受けると導体に変わるはずですが、宇宙人の毛髪はこれらに耐性があるようです」

自分の体が思った以上に動いた事におどろき動悸を激しくしながらカイがキッパリと言い切り、それと同じくらい雷を浴びたショックでペタンと腰を下ろしていた。


ほとんどこじつけもいいところの結果論だったが

カイはProtect Eveを恐る恐る触り、すでに電流が放電していることも確認した。


ベルガは少し離れた所から胸を撫でおろし

自分のイヴはなんて危なっかしいんだ、と目を三角にしながらも

やはりほっと一息ついてそのままアマゾンを警戒した。


立ちあがったクロノスが「ここは光合邸の最深部の三姫謁見の部屋、あなたが過去に起こした事件を機に細部に絶縁体の超純水がためられているのはご存知なかったようですね」

戦線終了の駄目押しをした。




 カイは天界の脱獄の折、カルメイラと共にアマゾンの雷を浴びていたが

Protect Eveを手に持っていたため一人無事であった。

そこでコロンとイザベル、そしてベルガと密に相談しロンを巻き込んでの光合邸への侵入。

そして光合邸を辞したい、という宣言と同時にベルガとすり替わったカルメイラに

謁見の間への道開きを頼んでいた。



 ベルガはエクレアの方へ向き直り「命令を」とだけ言った。

エクレアは「大車輪も戻って来たことだしな、手加減なしでいいだろう」と

即断した。

とはいいつつ、元ではあっても皇族であるアマゾンを重んじてベルガは攻撃をしなかった。

「攻撃しろ」と命令されたわけでもなかったからだ。


“手加減なし”にきつく身体を縛りアマゾンに投げかけた。


「あたしが宇宙戦士に登ったころ会ったあなたは

まさに“じゃは寸にして人を呑む”ような眼をしていた。

だが、今は蛇足だらけのように見える」

と言ってカルメイラに向き直り手を貸し起こしあげた。


「カイが世話になった」とだけ小さく述べた。

捕えられていくアマゾンは

「さっきあの元破壊神が言った言葉はどういう意味なのじゃ」と、口惜しそうに吐き捨てるとカイが傍に寄ってきて

「私の国の言葉で、あなたを尊敬していた、という意味ですよ」

と深くお辞儀をしてカルメイラに肩を貸すベルガに付き従って退去した。

ついでに反対側のベルガに無言で高等日本語ネタを使った罰として

背中にパンチをくらわせていた。





「えぇぇええ! アマゾン様の事件が終わった?!」

宇宙戦士が缶詰にされた会議室では何も聞かされていない魔の宇宙戦士の

アメシャとビル、そして天の宇宙戦士の紅炎が顛末を聞き、ビックリしている。

B姉妹はカイの心配をして駆け寄っており、

ミスイは話を聞きながら普段通りお茶をすすっている。

偽ベルガが手に取っていたカップに付着していたカルメイラの血は何も言わずミスイが拭き取っていた。


一番負傷しているのはカルメイラでベルガが肩を貸している。

カイもカルメイラから離れず付き従っておりクロノスとタクミ様が

上との話しの収拾をつけたところでカルメイラを引き渡した。

「カルメイラは私が脱獄させたんです!」カイはカルメイラの処罰が重くならないよう

クロノスとタクミに詳しい事情を話している。


「あのままあそこに居たらカルメイラは死んでいました」カイの後ろからそう声がかかり振り向くと紅炎が真面目な顔つきでそう告げた。

「あたしの判断が甘かった。カルメイラにも夏目ちゃんにも謝る」と神妙な声で頭を下げる。

すると、ベルガが「悪いな、お前に話さず事を企てたのは元はと言えばあたしなんだよ、

責めはあたしが負おう」とキッパリ言ったので

その姿を見ていたクロノスとタクミは顔を見合わせ可笑しそうに笑いだした。


「きっとお咎めなんて誰にもないと思うわ」

「僕もそう思うね♪ ただし僕かタクミにはせめて相談すること!」とやんわり注意された。


アメシャとビルだけが「なんなのなんなのぉ~???」と話の仲間外れにあっていた。



光も「ねぇねぇ、どんな風だったのー」と、ベルガにくっついて話を聞きたがるので

この話は同じ皇族としての恥部になるのよ! とタクミからお叱りを受けている。

シスコンのプラは光の応援についており一緒にタクミやクロノスを困らせ、

紅炎は自分の剣をベルガが持って帰ったものの黒点をモールのところに放置してきたのでベルガに抗議している。

影ではコロンが面白そうに聞いており、少し離れたところでミスイも話をなんとなく聞き流している。

B姉妹はイザベルからもっと最初の方から詳しく事の顛末を教えてもらっており

アメシャとビルはやはり仲間外れにされたことを怒っている。


その様子を一通り見ていたカイは、宇宙戦士全員が揃うと、こんなにも賑やかだったんだな、と思って腰かけていたソファで静かに目を閉じると一気に意識を手放した。


すぐにカイの異変に気付いたベルガが近寄り様子を窺うと、

スースーという小さな寝息が聞こえてきてほっと安堵の息を漏らした。


光や紅炎、イザベルにアメシャ・ビル、テナーも寄って来て

「今回は大立ち回りだったから……よく頑張ったね」と皆が整った調子の吐息で眠るカイを小声で労い、早々にベルガがカイをおぶって光合邸の宇宙戦士が集まる会議室から退出した。



 背で眠る小さな体を起さないようベルガは出来るだけ跳躍をせず惑星が色を放つ宇宙空間を2人でゆっくり歩いた。


屋敷で出迎えたMQRには「自分でやるからいい」と下がらせファンシーが目印のカイの部屋のベッドに消耗しているカイを寝かせた。


 陽が上り下りするベルガの屋敷ではすでに朝を迎えようとしている。

カーテンの下りた静かな部屋でスヤスヤと眠るカイをしばらく見ていたベルガは、カイのおでこに自分のおでこをコツンとあてた。カイが生きて呼吸をする音が唇から小気味よく聞こえてくる。

ベルガは無意識にカイの唇に親指で触れており、そうしたことに驚いている自分に気付き、顔を赤らめ慌てて手を離した。しばらく一人で赤面してバタバタ狼狽していたが

カイは何も知らず夢の中なので流石に苦笑した。


「……よくお休み」そう囁くと自分の部屋へ戻っていった。






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