【第七章 -四番目の姫-】



 カルメイラは天界の中でも特区にあたる、特別な房に収容されていた。

 高く積み上げられた空を行く階段は、まさに天国のそれを連想させる。

 ここは天国であり、牢獄でもあるのだ。


 カルメイラはその階段を登りきった一番見晴らしのいい高台の小さな牢獄に身を落としていた。

久しぶりに人の足音を聞いた。ここまで登ってくるものといえば見回りの者でもそうはいない。


コツコツ。

カツンカツン。


足音はしばらくしたところで止まり、最後の階段を上って来た時には、足音は一つになっていて、ひょっこりと顔を出したのは一人の小さな少女だった。


カルメイラはその背の低い少女を知っていた。

ここに送られる前の事件の後、ひっそり自分を訪ねてきた少女だった。

「……お前は、あの時の、イヴか」




――数分前。

「いい? 夏目ちゃん。カルメイラは自分の罪をしっかり認めているし

ここに来てすっかり皇族への憤然とした恐怖や畏怖心、それらが懐柔されて大人しくなっているのは確かだわ、でもね、ここでは犯罪者として扱われているの。

牢に近付く者も少ないしねぇ……カルメイラに近付こうとすることは皇族への反逆と言っても過言ではないし夏目ちゃんは特別な身分“イヴ”だから多少は目をつぶるけど

見回りの者も最後まで夏目ちゃんに付き添わすことは出来ない。それから危険を感じたらすぐに格子から離れること! 一応ここを管理するものとしては、これを約束してくれなきゃ駄目なんだからね!」――




 カイは最上段を上がる前に見回りのものにお礼を述べて、そこから先は一人で上がった。

天の牢には、壁にもたれてこちらを力なく窺っている瞳がすぐに確認出来た。


「カルメイラ、お願いがあって来ました」カイは真っ直ぐに瞳を見てそう言った。



 紅炎は天界の一番大きな建物、本館警備室から天牢の間を遠目に目視しながら

「無茶する子だねぇ~」と、困ってるのか面白がってるのか半々な声で呟いていた。

「あれ? そういえば黒点は何処へ行ったのやら……」

いつも自分の肩や腕に巻きついている相棒の白蛇が見当たらない。

その時。


天界中にボォーーー! という轟音とともに爆音が鳴り響いた。


紅炎はとっさに警備室のアナウンスを取り「何があったの?!」と天界に散らばらせてある見回り班に状況を報告させる。

「こちら大門、異常なし」

「こちら天牢下。夏目様の向かわれた最上階は今の爆発で状況が把握できません!

ただしここから下は硝煙が数多目視出来ます!」

「よしっ、お前はすぐ下の警備と合流して炎を鎮火! イヴのところにはあたしが出る!

他の班も手分けして収監しているやつらの見回りと最悪、保護。それから何が起こってるか最短で報告っっ!」

それだけ指示すると一気に紅炎は空間を跳んだ。ただし跳べるのはこの天界の館内だけで

天界内の瞬間移動は光合邸と同じく原則禁止されている。


「くそぅ、非常時くらい限定解除しろよ」そう言い吐き、館内を出ると急いで天牢まで走った。




「あなたの力が必要なんです」

そうカイが外での出来事を話しているといきなりすごい爆発音が聞こえた。

ビックリして身体を小さくした瞬間、牢から伸びた白く細い手に腕を掴まれ

牢の鉄格子に身体ごと引っ張られた。思い切り身体をぶつけた痛みとともに

「しまった……」と脳裏で先に紅炎に言われていたことを思い出していた。

カルメイラは……――ここでは犯罪者。

しかし温かい人肌にその考えは吹っ飛んだ。


カルメイラの腕は牢越しにカイの手首を掴みもう片手でカイを鉄格子ごと抱きしめている……?

わけがわからなかったがそれもすぐに意味がわかった。

さっきの爆発の余波で最上階の天牢まで強烈な爆風が飛んできた。

カルメイラに掴まれていなければ自分はこの小さな高台から落ちていただろう。

爆風がおさまると共に、下の方では暴動のような嫌なうめき声で溢れだした。

カイは慌てて頭を下げて離れようとしたが一瞬目があったカルメイラの瞳はかつて恋心を抱いてしまったカルメイラの弟・オルバの瞳と同じ色だった。


言葉を出せないでいると、カルメイラは口を開いた。

「これはお前がやったのか」






 紅炎が天牢へたどり着いた時には最上階の牢は鉄格子が破られ、天井も崩れ落ちていた。

自分の目を疑うしかなかった。


「な、なんで牢が破られている……? 夏目ちゃんは何処へ行った!!!」

そこへ緊急の通信が入る。

「紅炎様! 問題が発生しました!」

「今度はなに?!」

「地獄の門が今の騒ぎで開門したようです!!」


紅炎は何が起こっているのか頭を抱えながらいなくなったカルメイラとベルガのイヴについてよりも先に地獄の制圧を優先しなければ、と自分の職務を今一度問いただし

その場を走り去るしかなかった。


 光合邸にその知らせはすぐに届いた。

そしてそれは各宇宙戦士の屋敷や任務先にも伝えられた。


「全稼働領域内の宇宙戦士に緊急通達! 天界において爆発事故あり、さらに地獄の門が開いているという連絡あり。至急、稼働領域内の宇宙戦士は第一級任務優先のこと!

地獄から脱獄した刑囚は討伐を許可する。繰り返す、天界において……」


ベルガは数時間前に送り出した自分のイヴが出向いた場所がどこだったか、ということにしばらく思考が凍りついた。

MQRの「ご主人様!」と慌てた声で我に返り、すぐに天界まで跳んだ。



 天界の大門は閉じてはいるが非常時の門番として立っている男型は中の混乱を先に集まっている宇宙戦士に説明している。

「紅炎様が中で地獄の門から脱獄を謀っている刑囚相手に応戦中です! 天界内はあちこちで一斉に爆発があり今、皆で鎮火にあたっています」

ベルガはツカツカと門番に詰め寄り

「あたしのイヴが謁見に来ていたろう、無事なのか?!」と問いただす。

門番は心得ている、と言った風で

「いらっしゃっております、が……爆発の騒動の後、天牢に収容されていたカルメイラと共に行方がわからなくなっております。他の宇宙戦士の方は中にお急ぎください

他の刑囚は炎から逃がさねばなりません!」

ベルガに怯えず自身の仕事を全うしている、男型であっても守りたいものは同じなのだ。

後ろから手がポンと伸びてきてベルガの肩を叩いた。

同じく今回の刀鍛冶事件で自宅待機になっていたコロンだ。


宇宙戦士一背が高く、普段から極端に無口な彼女は光の宇宙戦士で

水、中でも氷を好んで操る。

「私が行こう」それだけ言い、先頭を切って中に突入した。




 地獄の門から脱獄を謀った刑囚の鎮圧、並びに爆発による天界炎上の炎は

駆けつけた宇宙戦士によって鎮火され、天界責任者の紅炎は体中をすすだらけにして光合邸にいた。

一部撤収で光合邸にはあらかたの宇宙戦士が帰還していた。

紅炎の周りには医療班の男型を引きつれたARIなどの専属宇宙アンドロイドが

同じく集まっている宇宙戦士の怪我の治療にあたっていた。


「一体天界で何があったのです」タクミが光合邸で聴取にあたりクロノスは天界の方で現場を指揮していた。

「それが……さっぱり」

元々サバサバした発言が多い紅炎だが本当にさっぱりわけがわからないのでこう言ったのだがこれがベルガの癇に障った。

「“さっぱり”ってなんだ! ちゃんと説明しろ!!」

ベルガの珍しくも正統性の高い怒りに他の宇宙戦士は目を丸くしつつ皆で紅炎の報告を聞いた後、警備室から寄せられた映像を見た。

「そもそも皆知ってると思うけどうちの地獄というのは、天界にある極悪刑囚を閉じ込める領域のことで門の開閉は天界の警備室となりの制御室に入らないと開けることはできない。

制御室に入れるのは……私だけ……です」

ベルガに大声を張られたのが堪えたのか紅炎は神妙にしている。


「で、紅炎は朝一度入ったきり制御室には入ってないのね?」

「はい~」

タクミの質問に首をうなだれて返答する。

「でも」と紅炎が顔を上げる。

「今日は変な日でしたねぇ、天界の、しかも牢への謁見を申し込む人は稀だから……」

「それはカイが怪しいって言ってんのか?」ベルガが怒りマーク剥き出しで反論する。

「別にそこまで言ってないじゃん、そう言えば黒点もこの騒動でいなくなっちゃって」

とグスングスンと萎れた。


「これで行方不明は刀鍛冶のおっちゃんにカイ、カルメイラ。ややこしくなってきたな」

と言うと紅炎が「黒点もだよぉ! 一緒に探してよぉ!」と騒いだ。

{カイ……どこにいる}ベルガはカイが宇宙と地球、交互に行き来して生きると決めた日のことを思い出していた。






「お前にも護身用に武器を持ってもらう」


真顔でコクリともせずベルガの言葉を目で確認するカイ。

「護身用……」自分に言い聞かせているようだ。


「そんな物騒なものじゃないよ」と、顔に影を落としたカイの頭にポンッと手を置き、

そのままカイの座っている前に膝を崩す。


そしてカイの左手を取った。以前、カイが地球に帰る騒動になった時カイが見つけ出しベルガがやった金の細い細い指輪。この指輪はベルガの髪が溶け出して形状を変えている。

その指輪を撫でるようにさする。そしてカイには聞こえないほど小さな声で何かを唱えた。


(今のは……宇宙語?)カイも覗き込んで見ている。


と、次の瞬間指輪は液状に溶けだし、宙にボワッと舞うとそのまま鉄のような黒く細い形を纏ってまた固まった。

大きさは先程までの質量と違い剣ほどの長さになっていて重さもあるようだ。

先が尖っていて本当に無作為に作られた大きな鉄釘のようだ。というより針金が棒になったような簡単なものだった。ベルガは宙に浮くそれを握りカイに渡した。

カイはそれを受け取るも、どんな顔をしていいのかわからないようにそれを握っていた。

ベルガはそんなカイの心情が読めていたのだがここ宇宙で丸腰ではいつ何が起こるかわからない。カイは“イヴ”であり自分たちと同じ宇宙戦士に匹敵する地位も持っている。

もしかすると、反政府団体に目をつけられることになるかもしれないし、すでにそのリストに入っている可能性も容易に考えることが出来た。


だから敢えて、優しい言葉ではなく

「いずれちゃんとしたものを作ってやる」とだけ言ったのだ。

あの時のカイの自分を見上げた顔が、頭から離れない。



「ありました! 映像出します」

クロノスは天界でことの後始末をしつつ、部下の男型に制御室での防犯カメラをチェックさせていた。

「うん、これだね」クロノスが映像を見てすぐに別の男型を呼び

「モールのところにこの映像を送っておいてくれ」といい、自分はまたすぐに未だすすの舞う地獄の荒れ地に下りて行った。





 光合邸では、負傷者を集め聴取を一通り取り終えたところにこの報せが入った。

光合邸の一室、タクミや宇宙戦士のいる部屋に回線が走る。

モールの声はいつもの電子音だ。

「タクミ様、たった今、クロノス様より当時の映像が入りました」


皆の前に大きなモニターが浮かび防犯カメラの様子が映し出される。

カメラの時刻は紅炎が朝、制御室に入ったところで、そのまま紅炎が部屋を辞する時に

腕に絡まっていた黒点がスルスルと腕から離れて行き制御室に残った様子であった。


紅炎は映像を怖いものを見る様子で窺っている。

そしてモニターの中の黒点はその身体をすべらせて制御室の奥へと進んで行った。

「……黒点! そんな……」


力もなくペタンと椅子に腰を落とす紅炎の目には明らかに自分の意思で紅炎の腕から離れ制御室に残った黒点の姿が映されていた。

「どうやら黒点が地獄の門を開けたようですね」タクミが映像を切りながらそう言うと

紅炎は「もしかしたらなにか訳があって閉じ込められちゃって……それで」

となんとか釈明しようとするも周りが同情的に見守る中で冷静になり、口を閉じた。


 そんな苦しい空気の中勢いよく男型の兵士が部屋に飛び込んできた。

「失礼いたします! たったいま門番、ロン・バードより報告! 皇族・アマゾン様っ……光合邸に帰還されたとのことです」

宇宙戦士が、そしてタクミが血相を変えて反応した。

「なんでこんな時に!!」


B姉妹だけが「?」と事情を呑みこめずにいた。





 宮殿最深部に、すでに三姫の姿があった。とある人物の到来を待っているのだ。

ゴゴゴゴゴっと大きな扉が声もかけられず開かれる。


「久しぶりですねぇ」

「何しに来られた、そなたの出番はないぞ」

「お前は追放処分のはずだ、アマゾン」


光の姫・マリー

天の姫・クエ

魔の姫・エクレア


それぞれが思い思いに久しい顔を向けたアマゾンに声をかける。


「これはこれは、三姫ともなると相当お暇のようじゃなぁ、クエ殿? そなたの管轄内で不祥事が起きたのはご存知なのかえ?」そうクツクツと小気味よく笑うのは

かの昔に大罪を犯し、皇族より追放処分にあって光合邸を抜け出し現在は行方知れずになっていたアマゾンだ。


床までウェーブした髪は末広がりに足元に散っており、漆黒と紫が混じったその髪は足元を吸いこんでいくように艶めかしい。


「行方をくらませていたやつが今更しゃしゃり出てきて何を言っている。すぐに牢に入りたいようだな」エクレアが最上級に不機嫌そうにその言葉を向けると

またもやアマゾンは嬉しそうに笑った。

「地獄の門かえ? すぐには入れなさそうじゃったがのう?」と長い長い爪を顔に当てぬよう上手く指を折って見せる。

「コヤツは何を抜かしているのだ。不愉快だ、すぐに牢へ繋げ」

クエが傍に控えていた男型に指示するも男型の兵士は天界での騒動を知っていたので

すぐには動かなかった。

「それが……」兵士が事情の報告を自分がしていいのかうろたえていると

そこにまたもや、無遠慮に扉が開かれた。

「突然のご無礼お許しください。三姫、至急お伝えしたいことがあります」と、すすに汚れたままのクロノスが息荒く入ってきた。

「何事だ」エクレアが事情を聴く。


クロノスは目の端に一旦アマゾンを確認し「天界で爆発があり暴動がおこりました」

そう三姫に告げた。

「なんと」天の姫・クエは扇で覆っている口元をポカンとさせ聞いている。


クロノスが二の句を告げようとした時

「クロノス、もっと正確に伝えんといけないのではないか?」とアマゾンが不作法にニヤリと口を曲げた。そちらを目にしていた顔を戻し

「さらには地獄の門も一時開門するという事故がありました」と述べた。


三姫もさすがにすぐには言葉が出てこない。

それをいいこととし、アマゾンが言い放った。


「我は此度の不祥事を聞き、駆けつけたのじゃ。まさに天の姫の監督不行き届き、クエ殿の慢心・無関心、それゆえじゃないかえ? 我が此度帰還せしはクエ殿の罷免を要請するためじゃ」その場にいた皆が固唾をのんだ。





「クロノス様、先程は助かりました。本当に申し訳ありません!」

三姫の傍にいた兵士が身分のない自分からことの経緯を伝える羽目にならなくて済んだことに感謝しつつクロノスと速足で宮殿を駆けていた。

「構うことないよ、君がいてくれて助かった」さすがにいつものクロノススマイルは衰えているが今はそれどころではない。

「僕はこのまま宇宙戦士のところへ向かうよ。君は城の守備を一層堅くするよう各警備に伝えて。それからさっきのことは外に漏らさぬように」

クロノスの言葉に兵士は深く頷き回廊の端で別れた。


「まさか、いの一番にアマゾン様が来られるとはね」と溜息をついた。

「今日はなんて日だよ」と、宇宙戦士の集まる会議室へ急いだ。




 クロノスからことの一部始終を聞いた宇宙戦士は口々にアマゾンの話題でせわしくなった。


「それにしても、クロノス。あなたまだ天界に居たのでは」と医療班から治療を受けるクロノスを労わってタクミが小さく声をかける。


「たまたまね、天界の様子を外から見てるやたら黒い気配の馬車に気付いてね

装飾が派手だったからもしや、と思っただけだよ」とこちらは柔らかく笑った。

「まずいところをまずいお人に見られた、ということですわね」タクミも溜息交じりに言葉にした。


ここでようやく話が掴めていないB姉妹のうちテナーがベルガを引っ張って

「アマゾンって誰なの?」と聞いた。テナーは相変わらず可愛らしい男の子の形を取っている。


「アマゾンってのはな、昔上位の地位に居た皇族だ。光の姫・マリーの双子の妹なんだよ」

ほぇぇ、とした顔で聞くテナーとついでと言った風に聞いている姉のB・レディ

カイがいたら一緒に説明してやれたのにな、そんな風に思ったからだろうか

いつもよりB姉妹に優しく説明してるベルガがいた。

「だが、アマゾンはかつて大罪を起し追放処分になっている」


ここでB・レディが

「ではアマゾンとやらは姉たちの失態を餌に元の地位に戻ろうとしているのか」と質問した。

「“姉たち”か……、違うな、“姉と二姫”が正しい。アマゾンはマリーの双子の妹ということになっているがアダムこと神子が作りし最初の生命体であるクエ・エクレアの二姫とは血縁じゃあない実際に三姫を姉妹だと認識する宇宙人もいないが一応一緒に誕生してるからな、あの三姫は三つ子だとも説明は出来ないでもない。だが、実際には三姫は個々の他人で

マリーとアマゾンだけが双子なんだ。あたしが過去に聞いた話だとマリーから分離した個体がアマゾンらしい」

「なんだそれは、めちゃくちゃだな」と憮然とB・レディが言ってのけた。


「あたしも人に説明してると今まではそれが当然でおかしいな~程度にしか思わなくなってたが確かにややこしい話だな」とベルガが頭を掻いた。

「まぁつまるところ、三姫マリーの双子であるのに、自分には最上級の地位は回ってこなかった。だから昔から二姫のクエとエクレアを目の敵にしてたところがある」

この話を聞いていたのか隣からアメシャがグイッとベルガの腕を掴み

「あんた、よくタクミ様もクロノスもいるとこで三姫を呼び捨てにするわね!

ちょっとは自分の地位も気にしてよねぇ!」

と魔の宇宙戦士のよしみで注意してくれたが

「そんなことはどうでもいい」とキッパリ切り捨てた。

どこにいても「上司は呼び捨てにする」それがポリシーらしい。


ふとB・レディが再度確認するように聞いてきた。

「それでそのアマゾンとやらは一体何をしでかして皇族を追放されたんだ」

ベルガの影響のせいかB・レディまでしっかり呼び捨てにしてしまっている。





 その昔、遥か昔、彼女は大罪を犯した。

 自分の能力を使って大量の宇宙人を殺戮せしめたのだ。

彼女の能力は雷であった。


しかし、真空である宇宙空間では彼女の能力を持ってしてもさほど大きな雷は発生されることが出来ず、彼女は目覚めたときから力を持て余していた。


 遥か昔には宇宙戦士はおらず皇族が主な戦力であった。

そんな中であってもプライドの高い彼女の能力は性質上、どうあっても自分の能力を十二分に発揮できなかったのだ。

自分は皇族であり三姫の双子の姉妹である。

それ相応の地位にあってもおかしくはない。しかしただの上位の皇族では満足できなかった。自分が三姫でありたかった。


「あの御方」の側に近付きたかった。


彼女の溜め込んだものは次第に肥大して行き最終的には

真空ではない村や、光合邸のような島を守るバルーンの張る中での能力発動を許してしまった。


バルーンが張っているということ、すなわち中に大量に生命体がいたのだ。


彼女は自分の能力の大きさに震えた。歓喜の瞬間だった。

しかし誰もその能力を褒めることなく彼女はすぐに皇族を追放された。

捕縛されるところを逃れ、そのまま流浪の身となった。

それが彼女、アマゾンである。



 反政府団体が不平を掲げるのには格差もあるが、この事実も、少なからず未だ皇族や宇宙戦士が民から嫌われる一因でもあるのだ。

「そのアマゾン様がこんな時期に帰ってくるなんて」タクミが三姫の心境を慮って沈痛な面持ちになる。


「というより、こんなチャンスないと思ってふんぞり返って帰って来たんだろう」

とベルガが機嫌悪そうに言った。

「失礼は承知だが、僕もそう思うね」

クロノスはあの場に居て三姫、特にクエへの追及を聞いていたので特にそう思えた。

「恐らくアマゾン様の要求はクエ様の罷免、そしてその空席への自分の推挙だろう」

それを聞いた紅炎が真っ青になった。

「クエ様……」手を組んで頭につける。宇宙で祈る神と言えば三姫か、最初の生命体・アダムである神子であるが神子は遠き時代よりその存在をかき消しておりすでにおらず、

今はその下の三姫もが地位を脅かされている。


 クエは天の姫、紅炎の直属の上司にあたる。しかも天の宇宙戦士は紅炎一人、

これまでにクエとも並々ならぬ交流があったのだろう、そう宇宙戦士が次々と紅炎を慰めた。ベルガも紅炎を気にしつつも本当はカイのことで頭がいっぱいだった。


「どうして一人で行かせた……!」


大車輪がなくても自分さえカイの近くに居ることが出来ればどんなに楽だったろう

そればかり後悔していた。


ふと、クロノスが言った。

「カイちゃんだけどね、カルメイラに攫われてるのだとしたら……万が一にもカルメイラとアマゾン様が繋がってないとは言い切れないね。」そう、ブラックホール事件の際、カルメイラはアマゾンに変身していたということを誰もが失念していた。


それを聞いたベルガは強く拳を握りしめた。


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