【第六章 -天の宇宙戦士-】



 今日も宇宙は広大で、未知数で、

そして宇宙戦士や民が暮らす大きな世界であった。

 夏目カイは高校一年に上がった春にこの宇宙へやってき、ベルガや他の宇宙戦士と

新しい世界を体感していた。


地球では、夏を本格的に迎えようとしている。



「じゃあ、私が地球に下りてる間も宇宙時間は動いてるんですね?」

質問者はこの物語の主人公・夏目カイ。十五歳の委員長気質な女の子。


「そうだね、地球は宇宙の中にある惑星の一つだし、宇宙が地球時間に合わせて止まってる、とはいかないからね」優しく笑うこの人は宇宙の皇族・クロノス。

皇族とは宇宙戦士の生みの親、初代宇宙戦士にして神に作られし最初の人

〈アダム〉に当たる「神子」

彼の者を親族または所縁とする一族で構成される。


今日は晴れて宇宙と地球とを行き来することになったカイに、クロノスが講習をつけている。

「ただ、地球は君を失えば時をも失う」

その言葉の重さに息を呑む。

「私が地球代表……?」カイが恐る恐る聞くと、クロノスは「そうだね」と微笑んだ。

「地球を代表する君が宇宙へ飛び出せば、地球はその時間から“お留守番”になる、

スタンバイモードと考えてもらっていいね。主人が出張している間、時間は待機し君の帰りを待つ、君が戻れば地球は何事もなかったかのように動き出すだろう、

いつものようにね? それを含め宇宙は全ての時間を監視している

ただこれらは、全て君がここへ来てからの時間の約束を見守った結果で、何故そうなってるのかモールでさえも解析できてないんだ。

“イヴ”の力に影響してるのかもね? 例えばだけど、君が“ベルガのイヴ”として在籍しているこの期間に、新しい“イヴ”が地球から見つかるとしよう、

そうなれば今度は地球がどう動くのか、僕はそれも楽しみなんだよ?

まぁそんな稀なこと、そうそうないんだろうけれど」


なんだか大変なことになってしまった、と今更ながらに自分の存在を再確認する。

地球の委員長になったと思えば少しは気が紛れるだろうか。


そんなカイにクロノスは

「大丈夫、宇宙戦士はそんなに歳を取らないから

安心して地球にも帰りなさい。

君が下りてる間に宇宙戦士が少しでも賢くなってれば

それはそれでいいんだけどねぇ?」と珍しく厭味におどける。

気を遣わせてしまったらしい、

自分が心配してたのはそこではないんだけれども、と思いつつも

「歳を取らないなんて、うらやましいです」と膨れっ面で言ってみた。


言った後に「皮肉だったかもしれない」とちょっと身構えた。

クロノスは全然気にした風もなく

「でもねぇ、中身がたとえ成長してても僕たちはそれが外見にともなわない。

これって威厳も何もあったもんじゃないよ?」とさらに笑っておどけた。


どうやら宇宙戦士やこの宇宙の人たちは「不老不死」に関しては「当然」に近い意識を持っていて誰もそれを人智的に嘆かない。

それを「悲しいことだ」と思うこと自体、寿命に限りのある地球人の発想らしいこともここへ来てこっそり学習した。


「まぁカイちゃんは二重の時間軸を生きるわけだけれども、

どっちにも遠慮することはない。地球での時間は間違いなく過ごしてもらわなきゃいけないんだし、生きたい時間を優先して生きなさい。

けど……こう言ってはなんだけどね、本当のところカイちゃんには、“宇宙へ来ることを拒む権利”もあるんだよ。僕たちはそれを恐れている。

初代イヴだった人は、ろくに会話も出来ないままここへは来なくなってしまったと聞いている」そう言って資料を畳んだ。


自分が優先して生きたい時間……ここへ来ることを拒む権利……

そして自分より前にいた、初代イヴ。

カイはメモしていた筆を止め、自分の行動が宇宙へ及ぼす影響とはなんなのか、

果たしてイヴの発生する存在理由はなんなのかを、グルグル脳内を散歩させながら考え込んでいた。

「それはさておき、今日はベルガは一緒じゃないのかい?」

「あ、はい。実は……」







 ベル・ガート、この物語のもう一人の主人公。

彼女は宇宙戦士であり、カイを宇宙へ連れて来た張本人である。



――地球。 南極

 白く美しく尖った氷山に金の髪が映る。冷気がその存在をも幻のように映し出すその身体は、白い燕尾のコートを腰から下げ、人間ではない存在だとアピールするばかりに少し宙に浮いている。


 群れから外れたのか一匹のペンギンが数メートル先にいる。ペンギンにはベルガが見えているのか、こちらを見たまま口を開けて制止している。


「なぁんで、ペンギンとこんなとこで見つめあわなきゃいかんのだ」

低く通るその声は広い南極の風にさらわれていった。




「えっ! ベルガ今一人で地球にいるの?」

「はい~なにか変なことしてないといいんですけど」

そうカイは参観日の母親目線で語る。

話している相手はアメシャとビルだ。

ベルガと同じ魔の宇宙戦士なので、よくベルガ邸に遊びに来る。

光と違い、来るときに扉を壊さないので、MQRはご機嫌でお菓子を持ってきてくれる。


「そっかー、ベルガって地球担当になったんだよね?」ビルの言葉にカイは頷く。

「“イヴ”の私が地球人だということもあって、先日正式にベルガが地球の管理担当になりました」ずずず、とジュースをストローで吸い上げる。

「それに関しては、ベルガは他の任務から外れられる、って喜んでくれたんですけど

ほら、地球は人間がいるから色々問題も多いじゃないですか、

今回もエクレア様に呼びだされてそのまま地球へ下りちゃったんです」

「そうなのぉ? 火星にも金星にも、どこにだって生命体はいるけどねぇ?」

それを聞きジュースを吹き出しかけた。

地球では火星人も宇宙人も発見出来てないのに、と冷や汗をかき、カイはそれらを聞かなかったことにした。




――それは数時間前。


「温暖化?」


ベルガは聞いたこともない単語にクエスチョンマークをつけて聞き返した。

話している相手はベルガの直属の上司であるエクレアだ。


「聞いたことはあるな?」エクレアはベルガの返事もそぞろに次の句を告げる。

「お前は地球担当になったんだ。きっちり地球温暖化についても長期的視野で観察しておけ」このエクレアの威圧は並みのものではない。

ベルガは今更聞き返せないでいる“温暖化”というワードに慌てつつ、この人の前ではそんな姿見せたくもない。どうせ地球のことだろう、と後でカイに聞く気満々で

憤然と「わかりました」とだけ素っ気なく言った。


しかし、光合邸でカイを捕まえて

「おい、“温暖化”ってなんだ?」と聞くと

「なんで急にそんなこと……えーっと、確か詳しいことはどこもまだ断言出来てないはずですけど簡単に言うとなんらかの要因で地球が熱くなってるんです……

地球の温度が上がってる、とかです。そのせいで海面上昇とか生態系のレベルまで脅かされてて逆に寒冷化っていって地球は冷えてるっていう説もあるけど……うーん、と」


カイがうまく説明できないところを見ると自分が思っている以上に複雑な話だとなんとなく理解しもっと詳しく聞こうとしたところでカイはクロノスの部屋に呼ばれて行ってしまった。

カイに地球に行くことだけは伝えれたものの、さて“温暖化”がよくわからないのに調べに行くも何もあったものではない。


 そこでベルガが向かった先は「図書館」であった。

 ここは通称「中国書店」

あらゆる万物の歴史を貯蔵してある宇宙の真ん中を軸とした巨大な図書館である。

ちなみに義理の妹・モールの場所をカイに示した時の地図もここが中心になっていた。


「あら? ベルガ?? こんなところで会うなんて珍しいですね」

ニッコリと笑って書籍を運んでいたのはイザベルだった。

「お前こそ、こんなとこでなにやってんだ?」

「もうすぐここの蔵書の棚卸らしくて、隕石ちゃんたちと少しずつお手伝いに」

と、持っていた一番上の本を、館内を漂っている小さい隕石に乗せる。


 イザベルとベルガは宇宙戦士の中でもちょっとした縁がある。

「幼なじみ」と言えば簡単だが、今いる宇宙戦士は皆、大抵は成長してから宇宙戦士になっているので幼いころの馴染み、というわけではない。

宇宙戦士になった大昔、若い頃の馴染みなのだ。


小さい頃から宇宙戦士である光やプラのような皇族と違い、大抵のものは力が安定してから宇宙戦士になる。このように成長し、力のバランスが安定してからの仲のことも

宇宙では「幼なじみ」と分別する。

地球で言うところの「同期」のようなものだ。


そしてイザベルの能力は隕石誘導である。

また、光を生成する光合光と同じように隕石の生成もイザベルが行っている。


「ねぇベルガ、カイさんと少しお話したんだけどとてもいいコね、

以前わたしの隕石ちゃんもカイさんに会ったんだけど

すごく気に入ってたみたいだわ♪」

イザベルは自分が生み出した隕石を子どものように愛し、

普段から傍にいくつも泳がせている。光はまったくそういうところには執着がないので

何かを創造する力でもそれは大分愛情が違うように思える。


カイに会った隕石というのはモールの家に行かせるときに乗せた隕石タクシーであろう。

「本も人も同じだね、大事にしてあげなきゃ」イザベルは昔と変わらずとても女の子らしく笑う。


「うるせーお前はロンを大事にしてろ」半ばあてつけの台詞であってもイザベルは気にしない。

笑いながら「で、ご用件は?」と聞いてくれる。


「どうせベルガのことだから図書の検索の仕方も知らないんでしょう」と

閲覧室のある奥へ誘導してくれた。

「温暖化……地球のことね」そう言い、イザベルは図書を蔵書から検索するあたり

自分は知識が浅いんだろうか、と若干不安になる。

「地球については少しは詳しい方だと思ってたんだが」

とボソボソこぼす。

「温暖化については隕石ちゃんも無関係とは言えないんですよ」

ただでさえゆらゆらと宇宙を漂っているのだ。近寄った惑星が少しずつ強く熱を発してるなら気付くものだ、という。


「そういうもんかねぇ」

「そういうもんです♪」

そうやってある程度知識をのみこんでから

ベルガは彼の地、南極でペンギンと対面していた――



 ペンギンはおどおどと怯えていて未だ口を開けたままベルガを凝視している。

次の瞬間、瞬間移動でペンギンを鷲掴みにしたものだから暴れる暴れる。


「おい! 暴れるなお前! ここは熱いのか? 熱いんだな?」


地球で最も寒い場所で矛盾だらけのことを叫ぶベルガ。

宇宙人は体温バランスがかなり適当なので汗もかかないが

寒いことも気にならないらしい……






「ベルガ! お帰りなさい」

パタパタと足音に嬉しさをこめて近寄ってくるカイ。


すっかり城の主の喜ぶポイントを掴んでやがるなぁ、と内心で一笑しつつも

「おう、ただいま」と声に元気がない。

「大変でした? 温暖化の調査……」


自分の星のことだからだろうか、カイが遠慮気味に聞く。

「いや、まぁあたしは定期的に観測するだけでいいみたいだし

事務仕事は今まで通りモールが処理してくれる。地球担当って言っても矢面に立つ場面があるだけの営業マンと変わらねぇよ」そう言いながら金髪の細い髪を揺らす。

前髪をつまみながら「風呂でも入るかな」と言った。

任務明けには大抵大浴場で疲れを取る。

ただでさえ地球人だったら耐えられないほどの寒さの場所へ行ったのだ。

普通だったらキューティクルがどうのこうの言ってられる場合ではない。

もちろんベルガは寒かったとも思っていなければキューティクルにダメージもいっていない。


「あ、じゃあ一緒に入ってもいいですか?」

カイの発言に「おまっ! また脱ぐ気か、こ、このハレンチ娘!」

と過去に浴場で鉢合わせた時のことを思いだし身構えた。

「……えっと、モールさんに聞いたらこの服のまま入っても大丈夫って聞いたんですけど」とポリポリ頬を掻きながら呟く。

一人で真っ赤になったベルガ


「……そうなの?」


勘違いして慌てた自分を後悔するには遅かったみたいだ。





湯煙が日本の温泉の比ではないくらいに煙たい。

「もちろん、一人の時はちゃんと脱いで洗ってますけどね」思いっきりベルガをフォローするかのように喋るカイ。

「もういい、あたしの恥だ。フォローせんでいい」以前のお風呂とは違い、今度はベルガがうなだれている。

「というか、このお風呂の湯煙はすごいですね! 灼熱みたい」

カイの言葉を聞いたベルガがポンッと手を叩いた。

「それだよ」

ベルガはある人物の顔を思い出していた。


「太陽の管轄者?」

カイがビックリして聞き返す。

「太陽には太陽出身の宇宙戦士が管轄者としてついている。」


{あいつに文句言いに行けばいいじゃないか!}

ハツラツとした顔でそう湯船の中でご機嫌になった。






 翌日。ベルガとカイは大きな大きな門の前で待たされていた。

ここは宇宙であって宇宙ではない。

「天界」である。


ベルガの下手くそな説明によるとこうである、

「宇宙は簡単に言うと三つの構成で出来ている」


上に天界

真ん中に宇宙

下に惑星


これは原則的な見方で地球を当てはめて考えるとわかりやすい。

大気圏の外は宇宙でそのもっと上は天国。そういった大雑把な考えでいいらしい。

実際には天界は宇宙の中にあって、必ずしも上にある、という見方は曖昧らしいが

ベルガによるとそれくらいの認識でいいらしい


ベルガいわく「上に飛んだら行ける」そういうスタンスらしいところがベルガ流だ。


「宇宙戦士も三つに分かれてるし物事の真理は“三”なんですね?」

と聞くと呆気なく「偶然だろ?」と返された。


「で! なんで私たちこの“天界”に来てるんですか? 太陽に行くんじゃないんですか?」カイが当然の質問を投げかける。

「まぁまぁ、見てればわかるから、っと、開いたぞ」そう言って鼻の先で門を示す。

天界の門は光合邸のそれよりも大きい。カイはベルガの背中越しに恐る恐る中を見やった。

中から人影が浮かんでくる。


「……あれ……?」


「あら、あたしに面会というから誰かと思えばベルガに夏目ちゃんじゃないのよ」

そう言って高い声で出迎えてくれたのはカイも見覚えがある。

赤い髪の宇宙戦士だ! 


燃えるような赤い髪は何処にいても目立っていて、宇宙戦士会議の時もいつも気になっていたが話したことはなかった。

赤い髪は綺麗に整えてアップにされていて服装はどことなく中国の民族衣装に近い。


「カイ、もう顔は知ってるかもしれんがこいつは“紅炎こうえん”」

頭を下げるカイにベルガは続けて言った。

「天の宇宙戦士だ」

「天の?! 天の宇宙戦士さんには初めて会いました!」

ちょっと感動して紅炎を見ていると「なんか照れるねぇ」とまんざらでもなさそうだ。

他の宇宙戦士と違い、言葉も砕けていて親しみやすいオーラがある。

「まぁ天の宇宙戦士はお前だけだしな」

ベルガのさらっと言った発言はさらにカイを仰天させた。

「えっ! えっ! 天の宇宙戦士は一人???」

「そう、こいつだけ」ベルガが頷き紅炎は「そういうことです~」と頭を掻いた。

「ちなみに、こいつが地球で言う“閻魔大王”だから、舌抜かれるなよ?」

と、ちょっと厭味に笑った。

カイは仰天発言の連続にノックアウト寸前になった。



「じゃあ天界って天国はないけど地獄はあるんですか?」道すがら色んな事を聞いてしまう。

「んーと、難しいなぁ、なんというか天界っていう世界であって別に天国も地獄も分かれてないというか」あたしも舌なんか抜かないし? とおどけて言う閻魔様。


黙っていたベルガだが「カイ、ここには監獄があるんだ」とだけ静かに言った。

その言葉にカイはハッと反応する。

そうだ、ブラックホール事件の時のオルバの姉・カルメイラは確か天界に投獄になっている。ここは宇宙の刑務所なのだ。

「地球人が死んだらやっぱりここへ来るんですか?」

話題を逸らそうと少し躍起になって質問する。

「そうだねぇ、夏目ちゃんとあたしたちとでは天国という概念が違うのかなぁ、

死んだらその後はないんだよ~宇宙に関わる重要人物だったら大抵ここに収容するけど

まず普通の人は来ないねぇ、ベルガが言うとおりここはただの監獄なのよぉ」

「そうなんですか……」宇宙に関わる人物。

前にベルガが話してくれたクミ様という人もここに居るということだろうか?

それは結局聞けずにいた。


「まぁ滅多なことでもない限りうちは死んだ者の門は開けないからね、

例え誰か会いたい人がいても会えるもんじゃないさ」と紅炎は手をひらひら振った。

死んだものには会えない。

それは地球も宇宙も同じなのだろう。


「で、あたし太陽出身なんだよねぇ」と自分を指さして紅炎は嬉しそうに言った。

「ああ! だからベルガは紅炎さんに会いに来たんですね!」


本題に入ったところでベルガは

「そうそう、紅炎。お前のとこの太陽さ、ちょっと熱いみたいなんだけど」

それを聞いていた紅炎とカイが固まる。


「は? なにが熱いって?」

「だから地球温暖化とかで地球が熱いみたいなんだよ、お前ちょっと調節してよ」

「あはははははははははは!!」

紅炎がお腹を抱えて笑いだした。カイもちょっと顔を隠して吹き出すのを我慢している。

「な、なにが可笑しい?!」慌てるベルガ。


熱いんだから夏の暑さのように太陽が原因ではないのか、熱いなら湯船でも調節するようにきっとこの紅炎ならやれるだろうそう当然のように思っていた。


「ベルガ、温暖化は地球人のせいであるという見方が強いんです、太陽だけのせいではないかと……」と、笑うのを我慢してるのか目に涙をためながらカイが言った。

「え! マジで? 太陽の暴走とかじゃないの?」


中国書店で読んだ文献は主に温暖化の呼び起こす未来予測が書いており、ベルガは起因の項目までは読んでおらず後でそのことを猛省することとなった。



 散々ベルガを笑った後、

「もちろん太陽も無関係じゃないけどさ、あたしがどうこうするのも違反でしょ?」ともっともな意見を述べ

「どうする? 折角来たんだし誰か縁のある刑囚にでも会ってく?」

と聞かれたがベルガは笑われたのが不愉快だったらしく

「刑囚に縁のある奴なんていないよ」と紅炎のジョークをぷりぷりと怒って切り捨てた。

「ふーん、ここに来る子は大抵誰かに会いたがって来るもんだけど

夏目ちゃん! 君の相方は実に面白いね!」とカイの頭を撫で撫でした。

「まぁベルガが勘違いしてあたしに会いに来たんだもんねぇ」

とぷぷぷ、と笑うとベルガにしごかれそうになっている。


紅炎がベルガの攻撃から逃げていると白い太いものがシュッとカイの横を抜けた。

カイはそれを視界に捉えると「きゃーーーーーーーっ」とここにきて一番の音量で叫んだ。

白い太いものはなんと白い蛇であった。

紅炎の首に巻きついていく。

「こら、黒点! 夏目ちゃんをビビらせるんじゃないよ?」と蛇を叱る。

「こいつ、あたしを攻撃しようとしてたろ」とベルガが黒点と呼ばれる白蛇をつついた。

すると黒点はシャーッと毒のある牙をベルガに向ける。


「相変わらず仲悪いねぇ」と苦笑する紅炎。

「ごめんねぇ夏目ちゃん、この子はあたしの家族なんよ」と白い蛇を紹介した。

「蛇はこの宇宙では嫌われ者だからさ、この子も一人だったんよ」と

蛇の頭をつつく。


 そういえば最初の宇宙戦士にして神に作られし最初の生命体〈アダム〉である「神子」。

彼の存在はアダムとして地球にも伝説がいくつもあり

アダムとイヴを罠にはめて禁断の果実を食べさせたのは蛇だったという。


この黒点は宇宙でも珍しい白い蛇で元は消滅した惑星に住んでいたところを紅炎に拾われて以来、家族なのだという。


「じゃあ、黒点ちゃんは純宇宙産じゃないところが私と同じですね」

と恐る恐る白い身体に手を触れる。不思議と黒点は嫌がらず、白く長い身体の表皮はとってもひんやりしていた。

「おや、夏目ちゃんのことは嫌いじゃないらしい」くっくっと紅炎が笑う。

「おい、何が可笑しい」またもやベルガが目を剥いている。

「はっはっは、ベルガとは喧嘩しないよぉ~どっちかが天界に一生居ることになるからねぇ」と暗に恐ろしいことを言った。

「カイ、帰るぞ」と、つっけんどんにベルガに伴われて天界から出てきてしまった。



「あの、紅炎さんは天の宇宙戦士おひとりなんだからトップなんですよね?」

「ああ……、でもそれが理由でトップを名乗ってるんじゃない」

カイの思考をやんわり受け止めていてベルガは言った。

「あいつは宇宙最強の“プロミネンス”という太陽の技を特殊能力として持っている。

いくらあたしが宇宙最強と言われる三本の剣を持っているといってもあいつとは戦いたくはないな」そう潔く言った。

「唯一の天の宇宙戦士・紅炎さん……」

{ベルガが戦いたくない相手がいるなんて}そう思いながらの帰路であった。




 その日カイは、いつものように地球で授業を受けベルガの迎えで宇宙へ登ってきた。


「なんか、前から思ってたんですけど、毎回私の送り迎え、ベルガにさせてて申し訳ないです。私一人でこっちに来る方法はないんでしょうか?」

カイが以前から気にしていたことを口にする。


ベルガはとくに考えもせず「一人ではこれねぇんじゃねぇの?」とアッサリ言い、

ボソッと「あたしの唯一の特権だしな」と呟いた。


二人でベルガの屋敷に戻ると屋敷の前で屋台車を引いた老齢の男性と、MQRが話をしていた。

「ああ! ご主人様、ちょうどよかったですわ!」

と手を振って招き入れる。


ベルガは屋台車の老人を見て

「久しぶりだな! しばらく見なかったが息災か」と老人に尋ねた。

すると顔に手ぬぐい、そして大きな帽子をかぶった老人は

「ふぉっふぉっ、ベルガ殿はお宝を手に入れたと宇宙の端でも耳にしましたぞ」

と言って顔をしわくちゃにして笑った。

すかさずMQRが「そのお宝は、えぇそれはもうご主人様は大切になされておいでですのよ♪」と老人に吹き込んだ。

カイはなんのことだかわからず、キョトンとしている。


そのカイを、曲がった腰を起し、老人が小さなその眼に映し出し

「これはいいものを見せて頂きました、ふぉっふぉ」と笑った。

「えっ、宝物って私のことですか?」と慌てて恥ずかしそうに手をぶんぶん振った。

ベルガ何か言ってください~と助け船を求めると、ベルガは屋台車の中に積んである樽を真剣に見つめている。


樽の中には無数の剣・刀・短筒・鞘・槍などの武器が投げ込まれている。

それを一歩下がって見ていたカイに気付き

「このじーさんは、宇宙で唯一の刀鍛冶だ。もちろん腕も宇宙一だな」と紹介し

中にある一本中世騎士が使うような剣を手に取った。


「これ、紅炎のじゃないか?」老人は目を細めた小さい眼で「さすがベルガ殿、よく見ておられますな」とふぉっふぉっと笑った。

「他にも宇宙戦士は誰か預けているのか?」とベルガが問うと

「天界から降りて、今から廻るところですので今のところはそれ一本ですぞ」

と口に蓄えた髭をつまんだ。

「では、あたしからも一本頼もう」


そう言って時空の狭間から大剣を一本呼び出す。

「ご主人様っ」MQRが少し驚いたように声を出した。

カイはその剣を見たことがあった。

以前、オルバに向けられた“大車輪”ベルガの相棒ともいえる大剣だ。

「メンテナンスにどれくらいかかる」

そう聞かれた老人は「そうですなぁ、五日ほどあれば。」と柔和な表情で答えた。

「ご主人様! 大車輪はご主人様の一番の剣ですわ、そうそう手放されては上も困るのでは?」

「なぁに、五日もあれば戻ってくる、その間の任務は他の二本でやれるだろう。

それにたまにはこいつもメンテしてやらないとな」と大車輪を老人に預けた。

「確かにお預かりしましたぞ、ベルガ殿」そう言って刀鍛冶の老人は屋台車を押し

宇宙に消えて行った。



「ベルガ、本当に大丈夫なんですか? 一番大切な剣なんですよね?」

カイも心配になって問うものの、「いざとなったら素手でも戦えるよ」と笑われた。




 その夜、ベルガがカイを自室に呼び、他の二本の剣を見せてくれた。

この二本は普段はめったに使わない、という前置きをおいてから。


一本の名は“ナミ・ソフト”


刃の柄が宝石を散りばめたようなティアラになっていて逆に刃の部分は途中で折れたように垂直になっている。カイにはこのようになっている剣が剣として使い物になるのかもわからない。

ただ、人間界の剣と宇宙の剣は違うと以前聞いていた。波動で時空を切るのだ。


「このナミ・ソフトはあたしにとってはおもちゃだ」そう言ったベルガの顔を慌てて見上げる。

ふっと懐かしいものを見るように「いわくつきの剣なんだよ、」と話し始めた。


「大昔、このナミ・ソフトは“願いをかなえる剣”というまるで幻のようなふざけた存在だったんだよ。だが、そんな能力を上が容認するわけもなく

ほどなくしてこの剣の能力は封じられた。だが、昔いた宇宙戦士との思い出もあって未だに手元に置いている。この剣はもうあたしの言葉に反応してくれはしないんだがな」

と寂しげに語る。


きっとこの剣とベルガの間には遥か昔の記憶があるのだろう。

そしてナミ・ソフトで叶えた夢もあったのだろう

そう、漠然と思った。


それからもう一本、これは長剣で刃の先が翻って尖っている。

「ミーク・ラーナ」そう呼ばれた剣は

「……あたしが破壊神の時に使っていた剣だ」

カイはその言葉を呑みこみ、マジマジと黒い満月のような石が入った月型の柄を見ている。


カイは、何故ベルガがこの二本を見せてくれたのかようやくわかってきた気がした。

――今、使える剣は“大車輪”しかない? ――


そうなんではないだろうか、という疑問が浮かんだがもしかしたら二本とも普通の剣として使えるのかもしれない。

ただ、なんとなくベルガはこの二本を使いたがっていない気がした。


「……ベル」呼びかけようとした時、ふいに手をベルガに掴まれた。

ドキッとして顔を上げると正面にベルガの美しい瞳の色が見えた。

ベルガの瞳の中には深い緑の中に沈む自分が見えた。


「あたしは自分の力を過信しない。この先、お前を守れなくなる場面が来るかもしれない。

そうなった時、何を犠牲にしてもお前は生き残れ」


綺麗に動く唇は残酷なことを言っているのかそれとも私の身を案じてのことなのか、

長い睫毛がこぼれるように瞬きをする。

「これは約束だ」言葉通りに動く唇から目が離せない。

ベルガが掴んでいたカイの左手をゆっくり持ち上げて目の前で強く握った。

心臓がドキドキと鼓動を打つ。

ベルガの視線はカイを捉えて離さない。

「わ、私、もう部屋に戻ります!」

しどろもどろ出てきた台詞は情けないくらい優等生な常套句で同じ屋敷に住んでいるのでもっとちぐはぐだ。


パタパタと、廊下をひた走る。

自分の部屋は何処だったろうか? 頭の中が真っ白になっていて顔はやたらと熱い。


……ベルガはなんでいつもああいうことするんだろう。

その答えはいつも考えないようにしていたしとてもおこがましいことに思えた。

蓋をしておきたいのに、いつもベルガはその蓋をこじ開けに来る。


イザベルの言葉がよみがえる。

「見つめることが最上級の愛情表現」

「触れ合うことは宇宙戦士にとってとても大胆なこと」


それを私にするということは私がいかにもそういう対象じゃないから出来ることなんではないだろうか、もしかしてからかわれている?

女同士だし、でもその常識はここでは通用しない。

でも

でも、自分はベルガに好かれるようなこと何もしてない……


気付いたら自室のベッドにうずくまっていた。

部屋の扉は開け放たれている。戻ってそのまま倒れこんだみたいだ。

ベルガが、私のことを「好き」だなんて

……そんなこと、あるわけないじゃない。




 刀鍛冶の老人に剣を預けている間も

ベルガは問題なく任務を遂行していた。

ただ、問題は起きてしまった。

別の方向から……













 それはじわりじわりと前触れもなく降ってかかった。

「ちょっと、ベルガ!」声をかけてきたのは紅炎だった。


「なんだ~」任務の帰りだったので少々、いや大いにダラけている。

「ベルガも刀鍛冶のおっちゃんに刀預けたって本当?」いつもながらに砕けた喋り方だ。

「ああ、一週間ほど前かな……?」自分で言ってハッとした。


「私は八日前に頼んだのにまだ帰ってこないんよぉー」と

ちょっと慌てたように身体をバタバタさせて緊急事態を伝えている。


「それは誰に聞いた?」

「何を」

「あたしが刀を預けたってことを知ってたやつ!」

でなければ紅炎が自分のところに真っ先に来るはずがない。

「光の宇宙戦士のコロンも預けてたらしくて、その時にベルガの大剣見たって言ってたから……そもそもが、コロンが預けた日から六日たってるのに帰ってこないー、って話から

私もだよぉってなって……」

「お前は忘れすぎだ」紅炎にでこぴんしながら自分も忘れてたことは棚上げした。

「刀鍛冶の親父が行方不明……最後におやじに会ったのはコロンでそれが六日前」

「ヤバいよ、ベルガァ……」

「ああ、やばいな」二人はそのまま光合邸へ帰還した。




 ベルガと紅炎と、そして光の宇宙戦士のコロンが被害を受けたその報告は

即座に光合邸にて議題となり、渦中の宇宙戦士三名には事件収拾までの自宅待機が命じられた。

 ベルガの屋敷と光合邸を自由に出入りしている光の話によると、刀鍛冶の捜索は光の宇宙戦士で任務にあたっているらしい。


「はからずも、唯一の天の宇宙戦士に魔の宇宙戦士トップ、それにうちの光の宇宙戦士からもうまい具合に被害が出たからね、被害が一番小さいうちで受け持つことにしたんだよ」

光が珍しく真面目に話している。


ソファでのけぞっていたベルガがくそっ、と面白くなさそうに不貞寝する体で反対側を向いているので、それに光が言い聞かせるように話している。

光は神妙な顔つきでその背中から答えを待たず立ち去った。



「……ベルガ?」

部屋は開いているが扉をノックして声をかける。返事はない。

カイも何も言うことなくソファのある傍に腰を折って座った。


しばらくして「ハァァァアアアアア」という大きなため息が聞こえた。

ベルガがのっそりと起き上がりソファに座りなおす。

ベルガが座る体制は足を組むか、おやじ座りするかで、今回は後者だ。

「ウジウジしててもしゃーないよなぁ」と腕を組む。

カイはニコッと笑い「ベルガにとってそれほど大切な剣なんですねぇ

きっと大車輪もベルガに探してほしいに決まってます!」

と喝を入れた。

「……そう思う?」妙に奥ゆかしい台詞が飛び出す。

横目でちらっと見たまま返事を待っているベルガにカイは苦笑しながら「多分」と答えた。

「だが、今回は自宅待機な上に武器が取られてる。どうしたもんかなぁ~」と空を仰いだ。

カイはしばらく考えて「でも今回は一人じゃないじゃないですか」

と意気込んだ。

ベルガはしばらく考え、「それもそうだな……」と考えてからカイを手招いた。







「あたしに面会だっていうからこんな時に誰かと思ったら夏目ちゃんじゃないのよぉ!」


大きな声で大きなリアクションの紅炎を「シー」と制してからカイは

「私は今回ベルガたちの手の先になるために来ました」と言うと、

紅炎は、ほぉ~と顔つきを変えて「あたしに出来ることならなんでもするわぁ!」

と小声で耳を寄越した


するとカイから出た言葉は意外なものであった。


「カルメイラに会わせてください」キュッと顔を引き締めそう言ったのだ。





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