【第三章 -真実-】



 相変わらずカイは会議では蚊帳の外であり、立場を踏まえて脇で聞いていることが多い。カイは先日お祭りで買ってきたリボンを二つ、懐に隠していた。

会議は一時休憩を挟んだ。


「ベルガ、ちょっといいですか?」

「んー?」長い会議が明らかに苦手らしいベルガの顔はコメディのようにふて顔だ。

その顔を見てつい笑ってしまう。

「なんでそこで笑うんだ」ベルガが腕組みして顔を覗きこむ。


「これ、よかったら貰ってください。

ベルガから貰った御駄賃で買ったものだけど」そういってブルーのリボンを手渡す。

ベルガはきょとんとして、リボンを受け取ってしばらく手でもてあそんでいた。

ふいに優しい顔になる。


「どこにつけたらいい?」

「え、どこでも……」

「このリボンは送った奴がつけてやるんだよ、つけて?」


なんだかベルガの声がすごく耳に響く。こういうところは恐ろしく魔性の色気がある。

「じゃ、じゃあ……」


そういってベルガの左手首を掴み、

丁寧に小指にリボンを蝶々結びする。

ベルガの指はなんて長くて綺麗なんだろう。

指の先から音でも奏でてるかのように何かが伝わってくる気がする。

結び終えた時、カイの顔は耳まで真っ赤になっていた。

息をするのを忘れていた。


{なんだか、なんだか、これって運命の赤い糸みたい! 赤じゃないけど……}

ベルガはどう思うかな、そう思って顔を見上げると、ビックリするくらい優しい顔でカイを見つめていた。


恥ずかしくて咄嗟に顔を逸らしてしまう。ずっと私のこと見てたんだろうか。

ベルガは満足そうに小指を持ちあげて

「大事にするよ」と、小指のリボンに口づけた。



{きゃあああああああ! なんだったの、あのプレイボー……ガール(?)っぷり!! 

絶対慣れてる、遊ばれてる、面白がられてる!}

顔を真っ赤にして光合邸の回廊の隅で立っているのがやっとだった。




 ベルガはカイが走り去った後からずっと小指を見つめていた。

{ブルー……か、まぁいいけど}

苦笑して「ちょっといじめすぎたかな」と呟く。

「ま、いっか」そのまま部屋に戻る。





 会議の間、カイはベルガの後ろのソファで座って大人しく話を聞いていたが、

ふと気になることがあった。

一度気になりだすと委員長魂に火がついて発言せずにはいられない。


「あのぉ……」おずおずと挙手する。

「なんだい?」クロノスが笑顔で応じてくれる。


「私、消失した村の二ヶ所である少年に会っているのですが……

憶測ですが彼は今も生きています。村の子じゃなかったんです。」


宇宙戦士が皆カイの方を向いて興味深そうに聞いている。


以前“アメシャ”と紹介されたお色気バリバリのお姉さん風の宇宙戦士が、

そのフワフワとしたオレンジの髪をフサッとあげて「それは面白そうな話ね」と改めてこちらに向き直る。

最初から説明していった。


あの村で出会った褐色の肌の少年のこと。古物フェスティバルでは同じく褐色の肌の同行者がいたこと。本人の発言からしても明らかに地元民ではないこと。

それから……あれ?


「オルバがその子のことを“褐色の肌の持ち主だったか”と聞いてきて……」

その瞬間、宇宙戦士が一斉に反応した。


中でも一番早く部屋を飛び出したのはベルガだった。

光合邸内では宇宙戦士は瞬間移動できない決まりになっている。

ベルガは会議室外の廊下を走り抜け、オルバが待機している部屋へ飛び込む。

しかしオルバの姿はない。「あいつ……!」

すると後ろから部屋に戻ってくるオルバ。

ベルガの顔を見て咄嗟に自分の置かれている状況を把握し部屋を飛び出した。

神殿内の廊下は既に緊急用のベルが鳴っている。

非常警戒だ。


カイは自分で言った後、恐ろしくて何が起こっているのかわからなかった。

光が傍にいて肩を抱き寄せてくれる。

宇宙戦士もカイを四方に守る体制で取り囲んで待機、ベルガや追手に回った宇宙戦士の続報を待つ形で立っている。



 オルバは庭園を抜け門へ向かっていた。

 宇宙戦士が瞬間移動できないこの敷地内ならばなんとか撒けるかもしれない。

走る速さも自信がある、以前ベルガの切っ先をかわしたあの身のこなしだ。

問題は門破りか。

宮殿内に響く警戒音がオルバを焦らせた。


追手はベルガを筆頭に魔の宇宙戦士ビル、

そして光の宇宙戦士からはプラ。この3人がオルバを追って宮殿内を駆け巡っていた。

オルバの影はどんどん近くなっていた。


オルバが正門前の大広場まで来た時、足元がかっさらわれるようにすくわれた。

目に見えない……これは、風だ! 足に絡んで肩から転倒した。

後ろではベルガたちも大広場に駆け込んできている。

その中の後手に回っている光の宇宙戦士・プラは風を操る。

そのままするどい風切りの刃でオルバに遠距離攻撃を仕掛けてくる。

オルバは鋭い風の刃を翻して走りぬけようとするが、ヒュッと大きな音がして

今度は魔の宇宙戦士・ビルのブーメランで足を強打され倒れこむ。

コツコツ

と、ベルガの足音が聞こえてくる。


オルバが首を上げると「次はないと言ったはずだが……?」

そう言ってベルガは大車輪を振り下ろした。





「容疑者確保」そう館内の放送が流れて宇宙戦士が警戒を解く中

カイは「容疑者って、お……オルバのことですか?」唇が震える。


先ほどのアメシャが寄ってきて「お手柄ね、カイちゃん」とウインクする。

「宇宙の民は滅多に村と村の間を行き来しないものなのよ、

なのにその少年はどちらの村にも存在した。その少年をオルバって子が知ってる、

と。あなたの護衛だったわね?」

返事が出来ないカイの代わりに光が頷く。


「普通の子に見えたんだけどね、油断してたよぉ。誰の差し金だろうね、単独犯じゃないだろうし」それを聞いたカイは思い出したように言った。

「オルバ……お姉さんがいるって……」

それを聞いたアメシャと光がビックリした顔を見合わせた。






 光合邸には地下牢が複数存在する。

その中の一室に牢で繋がれたオルバの姿があった。

オルバの利き腕はすでに身体から離れていた。


「首謀者の名前を吐け。どうやってここまで内部に入り込んだ」

ベルガの低い声が地下に響く。

「カイが目的か、それとも利用したのか」ベルガの一層険しくなる顔はほとんど光の差し込まない地下牢では見えないが、同行しているビルは普段と違うベルガに怯んでいた。

「ちょっとぉ、ベルガったら人変わってない?」隣のプラに小声で話しかける。

「知らん。怒っているのだろう」憮然と言い切られる。

「あんたはつくづく平常心よね~」と、質問した相手を間違えたと思った。



 会議室ではアメシャと光、そしてカイを取り囲んで騒ぎになっていた。


「それはおかしいわよぉ、姉がいるだなんて」

「何かおかしいんですか?」アメシャの問いにカイが首をひねる。


「そうだよ、カイちゃん、お姉さんってことは女型でしょう?」光も続く。

「女型は宇宙戦士か皇族しかいないわ」他の宇宙戦士も次々にそう言う。

カイはハッとした。


そうだ、地球の概念でしか考えてなかったけれど確かにそう聞いていた。

「姉がいる」そう聞いた時、「それは誰なのか」聞かなければならなかったのだ。


しかし、オルバは何故そんな疑われるような致命的なミスを自分に喋ったのだ?

「……あの花」

カイが会議室を出て、初めてオルバと出会ったパティオへ走る。

光とアメシャも慌ててついてくる。

「どうしたの、カイちゃん」光が心配そうにカイを覗きこんだその手には

小さな紫色の花を手にしていた。

「あ、交わしかわしぐさ

「交わし草? 花じゃないんですか?」カイが尋ねる。

「その花はねぇ、渡した相手と秘密を共有します、っていう約定の証で宇宙ではとってもポピュラーな花なのよぉ、名前は“交わす仕草”から草ってついてるんだけどね」

アメシャが「恋人なんかに渡す人も多いわよ♪」と付け足す。


「……秘密を共有します、そういう意味があったの」

カイが納得したように頷いた。




 地下牢ではベルガが残り、ビル、プラに代わりタクミとクロノスが加わっていた。

「もしかして、あなたとブラックホール事件もつながるのかしら?」

タクミが柔らかく聞く。

「何も喋らないね、彼」クロノスが困ったように片手と両足を鎖につながれているオルバを見やる。

「君が入れ替わったカイ殿の護衛はさっき宇宙探索隊から発見された、むごいことをするね。ベルガの屋敷に行くところを襲撃したんだろう?」


その時、階上から「アメシャ様! これ以上先は……」という声が聞こえ、しばらくした後、アメシャと光がカイを連れて降りてきた。

「カイ!!」ベルガが走り寄る。


暗闇で頼りになるのは廊下の隅に灯してある明りだけだが、

カイがここを、オルバを、すでに恐れていないのがわかった。

顔は真っ直ぐベルガを見ている。


「カイ?」不安になってカイの肩を掴む。

フッとその冷たい手にカイが触れ、「話をしてもいいですか」と聞いた。

答えるより先にタクミがカイを呼んだ。

「なにか知っているのね?」

「はい」

「……オルバ、この花を覚えていますね?」紫の交わし草だ。


「初めて会った時、あなたは光合邸に侵入して情報を仕入れていた。

そこに私とかち合ってしまった」オルバが顔をゆっくり上げる。

「でも、あなたの姿を見た私はとっさにこの花を差し出す、

“秘密を共有します”と。

でも私はこの花の意味を知らなかった。」

皆がカイの言葉に聞き入っている。


「光合邸内に内通者を探していたあなたは私を殺さず、そのまま逃げ、私の前に護衛として現れた。あなたにはお姉さんがいるって仰ってましたよね? 

何故私にそんなこと言ったのです? 疑われるだろうに。

仲間内の会話とあなたは気にしなかった。そして、たまたま私は宇宙のことには疎かったから聞き返さなかった。」

タクミが「偶然が重なったのですね」と寂しそうな顔をした。


「しかし、私は実際にはあなたの仲間ではなかった。

花の意味も知らなかったから。それなのに私にテナーのことを聞いてしまった。

テナーは宇宙に不慣れな私でも不明な点の多い子でした……」

オルバは黙って聞いている。


カイが堪りかねてこう言った。

「あなた! あなた、本当はわかってたんじゃないんですか? 

私が花の意味を知らないこと! わざと発覚するように仕掛けたんじゃないんですか?」最後の方は泣き声に変わっていた。

ベルガがカイの頭を寄せて抱きしめる。


「もう黙ってても意味ないんじゃないかな?」クロノスがオルバに問いかける。

オルバがやめていた呼吸をしはじめるように口を開く。

「ブラックホール事件の首謀者は私の姉だ……」そう枯らした声で吐露した。




 オルバの姉は生まれながらに女型だったという。

しかも、宇宙では当時から「宇宙戦士最上国家」

家族のいない自分たちであったが、村中から「宇宙戦士輩出の村になる」と喜ばれ、


光合邸入りするという前夜。その悲劇は起こった。

姉が村中の人をその能力で惨殺したのだ。姉は女型に生まれたことを呪っていた。

ただ一人、自分だけは殺されなかった。それは姉の愛なのだと思っていた。


姉の能力は主に変身能力だった。

姉は度々、自分になりかわり村に降りていた。

そうしていつか気付いた。


「姉はいつか私を殺して私になりかわろうと思っているのでは」と。

そうして、ある日、褐色の肌の姉妹を連れてきた。


「女型だ! 宇宙戦士だ! 姉を連れて行ってくれるのか?」と。

逆だった。



姉がそそのかして連れてきた宇宙戦士になる前の卵。

つまり姉と同じ境遇の姉妹だった。

卵でも不安定でも能力はある。

姉妹の姉の能力はブラックホールを操るという驚異的な力だった。

姉の指示で姉妹は方々の村を歩き、そして消して行った。

姉はまだ宇宙で生まれたばかりのその姉妹に

「宇宙戦士になったら姉妹は引き裂かれ、あげく殺される」と吹き込んでいた。

姉妹の姉は疑い深く信用していないようだったが、怖がる妹のために動いていたように思う。そうやって私たちは町や村を消して行った。

反政府団体の怒りが宇宙戦士へ向かうように。


そして私は彼女に見つかった。

その日、光合邸はとある重要案件で浮足立っていた。


カイ様が宇宙に来られたあの日だ。

宮殿内は“イヴ”が見つかったと大騒ぎ。その隙をついて光合邸に侵入できた。

“イヴ”なんて自分には関係ない、そう思っていた。

でも彼女と会った時、何も知らないその瞳は「私を救ってくれる」そう思えた。


だから近付いた、利用した。事件を発覚させるように仕向けた。


 オルバはほぼ全てを自供した。

宇宙戦士はオルバたちのねじろへ強襲をかけ、すでに首謀者である姉の「カルメイラ」を捕縛していた。以前、「首謀者はアマゾン様」と噂が流れたのも、このカルメイラが化けてわざと姿を目撃させていたらしい。


オルバとカルメイラの身柄は天の宇宙戦士が領土とする宇宙とはまた別の世界・天界へ委ねることになり、ひっ立てられる姿のカルメイラをタクミが止めた。


「何故、光合邸を直接襲撃させなかったの? あなたが宇宙戦士を恨んでいる理由ならもう調査書を読んで知っているわ、ご両親、反政府団体だったのね」

腰まで伸びた髪を煩わしそうにしながら、それでも不敵に答えた。

「オルバがいつも光合邸を見ていた。行きたそうにしていた。それに出入りするようになってしまった」タクミがふぅ、と溜息をつき

「あなたとオルバは話し合いをする必要がありそうね、言葉にしないと伝わらないこともあるのよ? あなたご両親のこともオルバに話していないわね」

無言になるカルメイラ。

「カルメイラ? あなた、宇宙戦士になっていたらきっともっと幸せになれたと思うわ。オルバもね、残念です」そう言ってその場を後にした。





 光合邸ではカルメイラに操られていた宇宙戦士の卵である姉妹を、新しく宇宙戦士に迎え入れるか迎え入れないかでしばらくの間、審議に入っていた。

「だからってなんでそいつらがうちにいるんだよぉおおお!」

「だ・だってテナーが私の傍になら居てくれるって言うので……」

アタフタとベルガのご機嫌をとるカイの腕にはテナーがギュウッとひっついている。

「そいつらブラックホール事件の犯人じゃねぇか! 危ないから近寄るな!」そう言ってカイを引っぺがす。

「それにお前! いつまで男の恰好してんだ! あたしと同じ両性だろう?!」


そう、テナーは宇宙で三人目の報告例となる両性、つまり男型と女型の両方とれる宇宙戦士なのだ。褐色の手足をバタバタさせてカイにすり寄る。

「僕はナツメカイ大好き♪ 恩人♪」

そう言って抱きついている。


ワナワナするベルガに、テナーの姉である褐色の肌に艶やかな黒い長い髪、

そしてベルガとは対極の絶世の美女であるブラック・レディと名乗る彼女が呆れた風に言う。

「我々は客人だぞ。静かにしていろ」以前に聞いたことのある艶のある低音の声。

ベルガとブラック・レディは仲良くなるのに時間がかかりそう、そう思いながら机を投げそうになっているベルガを止めに走るカイだった。






 宇宙にも夜がある。日が暮れるような感覚で城がある惑星の中は朝もくるし暗い夜も来る。

ファンシーが目印の自室の窓際で座り込んでいるカイ。

ノックで扉が開く。


「ベルガ……どうしたんです?」

「……いや、その……お前、天界に送られる前のオルバに会いに行ったんだって?」

ちょっと拗ねたように聞こえるその声は甘えてるのがわかる。

「はい、どうしても言いたいことがあって……」

「言いたいこと? それって……」と聞こうとしてベルガは不機嫌になった。

「ありがとう、って」それを聞いたベルガの顔がぱっと明るくなり

「初恋の人になってくれたから」そこまで聞いてうなだれた。

「やっぱ、お前……その」もごもごするベルガが可笑しくなってきた。

「はい、好きでした」外に向かって笑いながら白状する。

そして懐から、前に光と買ってきたピンクのリボンを出す。


「それ、渡さなかったのか?」

「……渡したんですけど、受け取れないって……失恋です!」

思い切りのいい笑顔でベルガの方を振り向くと座ってるカイを頭からベルガが包んで抱きしめた。

「慰めてやる、泣いてもいいぞ」笑って返すつもりがポロポロッと瞳が水分で満タンになる。

抱きしめられてるベルガの服をキュウッと掴む力が強くなる。

声に出して泣いたのはいつぶりだったんだろうか、ベルガはずっと傍にいてくれた。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー