【第二十章 -夏目カイ-】


 戦場にはほとんど何も残らなかった。

残ったものは宇宙戦士とわずかな皇族だけであった。


B・レディは最後にベルガの傍を離れた。

なのでバルーンからも出る時間もなく爆発に巻き込まれた。

それでも生きていたのは爆発した直後に姉を探して跳んできたテナーが瞬時に張ったバリアに姉を引きこんだからである。


 テナーはこの日この時、特殊能力として優れた防御の力に目覚めた。

だが第一波をくらったB・レディが回復するまでには数百年かかった。



 光の宇宙戦士からは戦死者が出た。

プラが息絶えた時、光はそこにはいなかった。

誰にも看取られることなく、いや、実際には誰か隣にいたような跡があることから

誰かと最後を共にしたのかもしれない。プラはそうやって宇宙戦士人生を終わらせた。


光は思いっきり泣いた。


光はプラが自分より先に死ぬことを随分前から知っていた。


光合邸の七不思議のひとつ

何故戦闘要員でもあり姉の光合プラが光の宇宙戦士のトップではないのか

何故妹の光合光がトップなのか


プラは生まれながらにして早死にすると予言されて生まれてきた。

プラや光の母・クミもそうであったらしい。


皇族の間では光とプラの双子が生まれた際に光をトップにするとすぐに決まった。

プラは命ある間は光を守ること、そうやって育てられた。

二人はその事を知っていたがそれとは関係なく仲の良い姉妹に育った。

だから光は半身を失い、泣いて泣いて泣き明かした。


そして、

二代目イヴが死んだ。



二代目イヴの名前は夏目カイ。

地球の、二十年しか生きていない女の子だった。




 そのパートナーであるベル・ガートは身体のほとんどを失くし

しばらくの間光合邸で宇宙戦士の救済措置である「永久凍結」

として何万年と眠った。




 この宇宙戦士に甚大な被害を及ぼした事件は、反政府団体にも宇宙戦士や皇族にも長きに渡って伝えられ今に至る。


 ベルガが永久凍結から解かれたのはここからまた何億年と経った頃である。

すぅっと力が抜けるようにまぶたが開いた。

 その場にはベルガを見つめる知った顔がたくさん並んでいて面白かった。


「ベルガだ」

「ベルガが起きたぁ!」

「本当に起きたよぉ!!」


ベルガはわけがわからず置きあがろうとしたがうまく力が入らずその小さなスペースから出ると、自分が棺のようなものに納められていたのを見るやガックリ肩を落とした。

「もしかしてだいぶ寝てた??」


ポリポリ頭を掻くと皆笑ったり涙目になってりでうんうんと頷く。

「ちょっともー! 信じらんないわぁ! ベルガが居ない間あたしが魔の宇宙戦士のトップやらされたのよぉ!」とアメシャが食ってかかる。


苦笑したベルガは「悪い悪い」と今度は元気に起き上がった。

腕輪はすでに新しいものがつけられていた。ベルガは安心して立ち上がり

久々に歩く宇宙の地を踏みしめた。


「骨が鈍ってるなぁ」と他の宇宙戦士に連れられて光合邸の外へと出る。

「何も変わってないなぁ」と辺りを見回す。

光が傍に来て


「プラがね、死んだよ」と言うと

ベルガは「そうか」と小さく首肯した。




「B姉妹が来てないな」と宇宙戦士の顔を見渡すと

「そりゃー自分に大怪我くらわせてきた人の目覚めには付き添いたくないんじゃい?」

とアメシャが失笑すると

「そっか? そっかそっか」と思いだしたようにあくびをした。


 光の宇宙戦士が皆不安そうに顔を見合わせている。

「大丈夫だよ、あたしは元気元気」と手を振ると


「屋敷で休む」とこの日の主役はタクミやクロノスに挨拶せずに宇宙を跳んで行ってしまった。


「まるで変わってないねぇ♪」とビルが茶化して言うと

アメシャは「どうかしらねぇ」と曖昧に返事をした。


紅炎はベルガの様子を見てクロノスとタクミの待つ部屋へと向かった。



「もしかしたらベルガの記憶から夏目ちゃんの記憶が抜け落ちてるかもしれません」

紅炎がそう二人に告げると

タクミは「そう……」とあの日から役目を終えたかのようにただの石の部屋と化した祈りの間に沁み込んだ血の色に目線を落とした。


「どうする?」クロノスがタクミに声をかける。

タクミは答えずにその場を懐かしそうに座っていた。


 ベルガが眠っている間にミスイも完治しそしてB・レディも怪我を回復させた。

ベルガはずーーっとずーーっとその身体を再生させながら眠っていたのだ。


 ベルガが屋敷に帰ると一人で何万年も城で待ち続けたMQRが泣き崩れた。

主人の帰りは途方もない時間だったのだ。

いつもの日常が蘇る。


「そういえばアメシャがトップになってたんだって?? 一応B・レディの方が席は上だろう」と胃の中に紅茶を流す。


「……ええ、あの。やはりアメシャ様の方が宇宙戦士としては長いですしね

きっとそういう采配だったのでしょう」とMQRはそわそわして主人の顔を見た。


本当はカイが死んだ後、しばらくの間B姉妹は使い物にならなくなった。

B・レディが怪我を追って動けなかったのもあるが精神的に姉妹はカイに寄り添っていたので、魂を持って行かれたかのようにどこにも顔を出さなくなった。


 任務は少しずつこなせるようになっていたが今日もベルガのところにくる気にはなれなかったようだ。


MQRは皇族から「ベルガが夏目カイという記憶を手放しているかもしれない」

と聞き及んでいた。だから何もカイについて話さない主人を窺うように見ていた。



……だが、MQRはその日の晩に、

カイのファンシーが目印の部屋で立ちすくんで声も出さず泣いている主人を見て

庭先まで走ってむせび泣いた。





 ベルガはカイの記憶を手放したりはしていなかった。


目覚めて最初にカイの顔が飛び出して来なかった時点でベルガは悟っていたのだ。

「夏目カイは死んだのだ」と。


クロノスたちが危惧する余裕も与えないほどに早くベルガは自分から光合邸にカイの話を聞きに来た。


「ベルガが戦闘中に、多分あの最後の爆発を放った直後にロンが部屋に入ると

カイちゃんは血だらけで倒れていたそうだよ」


当時の記録を宙に浮いたディスプレイに映し出す。

ベルガは食い入るように画面の中の自分のイヴを見た。


タクミは言うか言わぬべきか迷ってついに口に出した。

「……カイ殿は……自分の願い事をしたのかもしれないわ」と。

「わたくし、随分前にカイ殿に教えたのです。ここでは万人の幸せを願いなさい、って

決して自分の願いを願ってはいけませんよ、と。

でもそれは教訓的な意味ではなかったのかもしれない。わたくしは祈りの女ではないから知りえないことだけれども、本当にここでは自分の願いは祈ってはいけないのかもしれません。例えばそれが大切な人の命を救って欲しいというとんでもなく加護の大きい願い事だとしたらなおさら……」


クロノスも頷いて続ける。

「解析班の報告によるとベルガ、君は身体の欠片も残らないくらいデカイ爆発を起こしたんだそうだよ。だからミスイたち医療班が身体がここまで残ってるのが不思議でしょうがない、いつもそう言っていたんだ」


ベルガは自分の身体を抱きしめるようにあの時の話をした。


「カイが跳んできたんだ」

爆発した時えらく長い時間どこかでカイと話をしたのだ。


「イヴと言うものは本来、パートナーの半生を知り得て産まれてくるし

お互いでテレパシーのようなものも使えるようになるんだと。

カイは自分がまがいものだったから、芳美から受け継いだ弱い能力だったから

そのほとんどを使えずにずっとイヴをやってたんだよ、と

でもさっき祈りの間でベルガの腕輪が壊れた時に何故か自分の力も開花して

今こうやって話してるんだよ、そう嬉しそうに話すからあたしも嬉しかったんだ」


「それから、多分あたしはこのまま魂まで回帰するけれどベルガの傍にいるからね

泣いたら駄目ですよ、そうも言ってた」

クロノスとタクミはハッと顔を見合わせてその場に紅炎を呼んだ。



「ベルガ、夏目ちゃんの魂は天界には来てないんだよ」

紅炎はとんでもないことを言った。


 カイは祈りの女、そしてイヴとして間違いなく魂が天界に保護される対象であった。

「それが天界には夏目ちゃんの魂は届いてない……どこにあると思う?」

と問うと、ベルガは顔をあげて


「まさか、あたしの中に居るのか……?」と信じられないような顔をした。


「でも、それしか考えられないわ」

タクミはこう言う。

「もし、カイさんの力でベルガを救えたとしても魂はその代償に天界に引っ張られるはず。

いくらイヴだからって前例が……」とそこまで告げると


「でも初代イヴの魂も回収できてないんじゃなかったっけ?」

とクロノスがかぶせてくる。


「あの方は何の功績もなかったので対象に入らなかったんじゃ……」

意見が錯綜する。


ベルガは席を立ち上がり

「一番知ってそうなやつのところに話を聞きに行くのが一番早い」そう言うと

光合邸の最深部までズカズカと進んで行った。


 三姫の謁見の間に出るとエクレアが待ち構えていたかのように座っている。

他の二席にはマリーもクエも居ない。

「目覚めたようだな」

「……はい」


「今この時点を持って魔の宇宙戦士トップへの復職を言い渡す」

「待ってください」

「待たぬ」

「神子様と話をさせてください」

「駄目だ」

「叶わぬなら宇宙戦士を辞めます」

「そんなことが出来るとでも?」

「やってのけた奴がいるようですが?」


エクレアは口の減らぬ部下を睨むと

「それ相応のリスクはもう考えているんだな?」とこれらのやり取りがなかったかのように聞いた。頷くベルガを一瞥すると

「奥ですでに神子様がお待ちだ」と席から消えた。


 神子の寝所へ入ると意外な顔がそこにはあった。

「時の神!!!」


「ああ、ああ、君は相当な時間を眠っていたようだねぇ」とやはり懐中時計をチラチラと見ている。

神子は苛立つベルガを見て「まぁまぁ一応これでもわたしの神友達なのだよ」と

今日は男型の神子が告げると


「早速だが、カイはそなた、ベル・ガートの中にいる」

そうきっぱり言った。


「では!」と喰い気味に声を出すと手で静止された。

「カイをそなたから引き出すには宇宙戦士や皇族総動員の力と

さらには夏目カイの入れ物が必要になるが、すでに夏目カイの入れ物は朽ちている」

ベルガの目の前は真っ黒になった。


 神子はその様子を見ると

「だから今日はわたしの友を呼んだのだ」

と時の神を示した。


時の神は「まぁこれは事実だしな」と時計を見ながら口を開く。

「夏目カイは以前、時を捻じ曲げて二重の、地球と宇宙の両方の時間を生きていただろう?

あの時の時間が事実上夏目カイの人生に残って浮いている。僕からすると美しくなくて実に不愉快だね」

ベルガはわからないように聞き続けた。


「だから宇宙総意で夏目カイの魂をこの時間分に植え付けたいというのなら協力しないでもない」


ベルガは“協力”という言葉に喜びつつも意味がよくわからず

困惑の表情をした。


神子が楽しそうに微笑む。


「そなたのそんな顔は初めて見る」と言うと

「わたしの権限で来る良き日に夏目カイの魂を余った夏目カイの時間に植え付ける。

魂はそれだけの時間では人の形になるかするわからないがやってみるだけいいだろう」

と自分の小さな宇宙戦士に手を差し述べた。


ベルガは震える手でその差しだされた指を掴んだ。

「可愛い我が子、わたしのように悲しい思いはしなくていい」

そう呟いた。


この話はその日中に宇宙中の関係者に伝わった。





「どうやらその二重の時間だけでは人には戻れないかもしれないらしいわ」

「でもやるだけやりましょう! カイちゃんのためだもの!」

「宇宙に居た時間を使うから今度はちゃんと宇宙人として魂を受け継ぐらしいわよ!」

「じゃあベルガもさぞ喜ぶね♪」



 そして力のあるもの、カイに由縁のあるものも方々からその日集められた。


鍛冶屋の老人は

「儂なんかなんの足しになるものかのぉ」と髭を伸ばしている。


宙虫は

「某、カイさんには好かれていなかったはずですが……」と珍しくオドオドとしている。


そして片腕を隠した涼しい目の青年もここに来ていた。

カルメイラの横に居てベルガを見つけると会釈した。

オルバだ。


「よぉ、放浪の旅はどうだった」とからかうように言うと

オルバは「この度は……」と頭を下げた。

「待て待て! 今日は出来るだけカイの知り合いが多い方が助かるんだ

何も言いっこなしだ」とオルバの肩を叩いた。


 そしてその場にはナインもいた。

ナインは正真正銘の宇宙戦士である。


何を隠そう遥か昔、タクミとクロノスを奪い合っていた張本人だ。

そして魔の宇宙戦士でありベルガの今となっては唯一の同期同門の宇宙戦士である

戦友であった。


 そんなナインが姿を消したのは結婚していたクロノスに振られて

クロノスがタクミといきなり結婚した数ヵ月後の戦闘中だった。


目撃者がいなかったがベルガたちには「戦死した」と告げられていたが

実は用意周到にナインは失恋の痛手から脱走したのだ。


宇宙戦士が脱走したなど前代未聞だったのでこのことは秘匿事項とされていた。

ベルガも知らなかったことだ。


それに当時はナインと言う名前ではなかった。

長い名前だった中から「ナイン」という部分だけ取り出して使っていたのだ。


 ナインはあの戦闘が終わるとすぐに姿を現した。

カイが感じていた背中に穴のあくような視線はナインだった。


地球に住んでいたというのは本当だったが宇宙で偶然クロノスと共に旅をするカイに姿を見られクロノスと少しでも接点を持ちたいが故についつい地球まで後を追ってしまった。

すると自分でもわけのわからない具合にカイと意気投合してただ単に地球の友達として付き合うようになっていた。


「クロノスのためではなくカイのために宇宙戦士でありたいと思うようになった」

それが例えクロノスに言い訳するために作られた言葉だとしても

カイはこれを聞いたらきっと喜んだであろう、ベルガは自分が復帰すると

かつての戦友に思いっきり蹴りを入れた。

「いたっ! 何をするの!」

「普通に考えればお前がトップの座を預かっとくべきだろ!」と追及すると

「あ? バレた?? 責任が重いから嫌だって断った」と言うので

もう一発今度は殴っておいた。




 イヴの魂をこちらに引き戻す儀式は光合邸の内部で静かに執り行われた。

カイを少しでも知る者は力を貸すために女型・男型関係なく呼び戻され

また自ら出てくるものも多かった。


 大神殿の中には

神子を頂点に、三姫・そして宇宙戦士が弧を描いて座っている。


人数が揃っているのに神殿の中は怖いほど静かだ。

真ん中に複雑な術式が組まれて円が描かれている。


 ベルガはそこに座り大車輪を腕に持って気を落ちつけた。

他の宇宙戦士もその様子を見ると次々に目を閉じる。

 儀式が始まる。

 封鎖された神殿の中ではどんどん気が高まって中央のベルガへと各宇宙戦士から青い光が進んでいた。


ベルガの全身が青い気に包まれると三姫が祝詞をあげだし、神子は神通力でベルガの背後からベルガの体内へと手を入れた。

ベルガの体内ではドクンドクンと大きな反応がある。

ベルガは思った「カイの心臓の音だ」と。


次の瞬間にはこれまで温かったものが急に体内で冷たくなった。

可愛らしい女型の姿をしている神子は

「集中を途切れさすな! カイはまだ中にいる!」と声を大きくした。


祝詞は一層大きい声となりついにベルガの体内から光に包まれた丸い物質が現れた。

神子は「時の神、頼んだぞ」と言うと、懐中時計を律義に見ていた時の神は

「僕も神だからね」と言うと

その淡い光の球体にむけて時計の針を向けた。

「君は夏目カイであったものの中身だ。もう君は夏目カイではない。また、まだ何者でもない。

だから今、君が宇宙で二重に過ごしていた分の時間を返そう、

あの数ヶ月を二重の時間軸で過ごした君の時間は無駄ではなかった。

今この時のためにあったのだ」


そう言うと秒針はくるくると回り始め次第に急速に回転して、止まった。

球体の中の“なにか”はもぞもぞと動き始め次第に人の形になった。

時の神と神子は頷いてベルガに話しかけた。


「儀式は終わった、後はお前次第だ」と淡い球体をベルガに示した。

ベルガは浮かんでいる丸い発光体に向かってそっと手を伸ばした。


球体はちょうど赤ん坊を小さくしたサイズで

「……カイなのか?」とベルガは恐る恐る触れた。


「魂は呼び戻せた、そなたがその魂の持主を夏目カイと呼ぶのもいいだろう、

だがそれはもう地球人の夏目カイではない。親から生まれていない、新しく名をつけるのも良いだろう」

と神子はそれだけ言うと奥の神殿へと帰っていった。


 他の宇宙戦士も恐る恐るその球体に近付く。

中にはお腹の中にいる胎児のような形状をした小さい命が眠っている。


「この魂は激しく消耗しているため、他の魂のように一気に成長しない

あと数十年はこの胎児のままかもしれん。

もしかすると一生この形のままだ。それと、夏目カイの記憶を引き継ぐことは難しいだろう、この命はまだあの二重に生きていた頃に得た情報体としてでしか組織されていない」

そう時の神は忠告するとスタスタと部屋を出て行った。


 三姫もしばらくベルガと球体を見ていたが言葉をかけることなく退室した。

その中の一人、エクレアにベルガは「ありがとうございました!」と声をあげた。


ベルガからエクレアにこんなこと言ったことがない。


エクレアは意外な顔を向けると

「約束は守ってもらうぞ」とだけ言うと他の二姫を追って姿を消した。

ナインが不審そうに「約束って何したの?」と怖い顔をする。


ベルガは球体を抱え込むと

「救済の一つでもある“退役制度”を永久に蹴った。

この身が滅ぶまで宇宙戦士の第一線で活躍することを約束に

今回の儀式を開いてもらった」


と球体を愛おしそうに撫でるベルガの様子は

他の宇宙戦士から見れば狂ってしまったかのようにも見えた。


光はポロポロと泣きだした。

「この子はもうカイちゃんじゃないかもしれないんでしょう?

ベルガはそれでよかったの?」

顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくる。


ベルガは意外なほどに笑顔で

「これでいい」と笑った。



 あのカイを失った戦いは反政府団体によるものであった。

カイが巡遊した街こそが黒幕で、街全体が反政府団体の根城だったのだ。

街ぐるみで熟桃を育て、資源を蓄えて成長し、イヴを招致し。そして毒花を送った。

熟桃の爆発は完全にかく乱するためであり

居住地が割れていたのは村長が各地に点在する団体員に手をまわして情報をかき集めていた。これまでは各地に転々と存在した反政府団体はあの街に集結しており

あの日、舞踏会でベルガに一掃されたことによりそのほとんどが掻き消えていた。

しかしその遺志を継ぐ者は消えたわけではない。




 ベルガは球体を抱きかかえながらまだ魂だけの“それ”に名を与えた。


「夏目カイ、それがお前の名前だよ」


カイの魂は呼応するかのように少し光ったように見えた。目の錯覚だったかもしれない。


 この夏目カイは笑わない。泣かない、話せない、触れない、声も聞けない

そんな球体の中にいるカイを、ベルガは我が子のようにいつも抱きかかえ

話をして聞かせた。


「カイには結局話さなかったが、祈りの女があの街に招致されたのには裏があって

あの時、本当はイヴの誘拐予告が届いていた。

だからあたしはカイとは同行せずに秘密裏にずっと後をつけていたんだよ」

と可笑しそうに笑う。


「お前は勝手に裏の路地に入っていったりするからこっちは冷や冷やしたし、

クロノスは知っていたとはいえB姉妹に気付かれぬように動くのは骨が折れた」と苦笑する。

「だからお前がしばらく宇宙に来なかったときは少し安心した、地球は安全だから……

その地球ももう随分前になくなってしまったそうだ」

と宇宙を見下ろす。


もう地球のあった場所にはあの青い惑星はない。




「お前を家族に返してやれなかった」

ぎゅうっと球体を抱きしめる。


「今度は絶対に幸せにするから、純白のドレスも最高のものを用意するから……

だから早く生まれておいで」


 地球のあった場所を見つめる金髪の宇宙戦士は

隕石に座り込み

球体を大事に抱えて永遠に語り続けたらしい。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー