【第十八章 -トライアングル-】



宇宙――光合邸ではトップの三人が呼び出され緊張した空気が流れていた。


「今回、こういうことが起きたわけですが……」タクミが頭を押さえて

事情を整理している。


ベルガは言った。

「つまりはこうだ、光・天・魔の宇宙戦士にそれぞれ花が贈られてきた。

あたしたちのところ、魔の宇宙戦士にはミスイのところに。送り主は光からだ」


紅炎も言った。

「あたしのところにも来たんよ、送り主はベルガよ」


光は言った。

「光の宇宙戦士にはコロンのところへ、送り主は紅炎、あなたの名前だった」

三人のトップはお互いに「むむー」と顔を見合わせる。


そしてタクミがまとめるように言った。

「そしてそれらの花が爆発したと……」三人のトップは頷いた。


「この中で当事者は紅炎だけだけれどまだ他の宇宙戦士には伏せてあるわ」とタクミが続けた。


当事者の紅炎は

「あたしはベルガから花が贈られてくるなんてそんな隕石が降りそうな面白いことあるなんて、と警戒してたすきに爆発してたんですよぉ。どうせビックリ箱だろうと思ってたから花を受け取ったアンドロイドもそれはもう驚いて」

とベルガの目が怒るのをニシシーと笑いながら送られてきた時のことを説明する。


「ミスイんとこには光の名前で届いたから真っ先に開けたんだろうな。あそこには宇宙アンドロイドいないし、爆発は小規模だったものの周りの薬瓶と混ざってミスイの小屋が飛んだ。ミスイは今光合邸の治療室に運ばれてる」

ベルガがはぁ、と溜息をついて惨状を伝えた。


「紅炎の名前でコロンのところに届いた花もやっぱりコロンはアンドロイド置いてないから自分で受け取ったらしいんだけど

爆発する瞬間にコロンの氷で防御できたみたい。ただしお城が一部損壊したらしいけど」と心配そうな光が仲間について話した。


「これは……」タクミが頭を抱えて重い口を開く。

「下手をすれば過去の三大宇宙戦士大戦の再来になるわ」と三人のトップを交互に見た。

「そんなことにはならねぇだろ! どう考えても宇宙戦士同士が送り合ったわけないし

誰かの策略だ!」

三大大戦を経験しているベルガがカッと激こうした。


 ここにいる三人のトップは皆大戦を経験していて過去に各々が指揮官となって宇宙戦士同士で殺し合いをしたことがある、とても古い記憶だ。


 あの頃は三姫の仲が悪く完全に宇宙は三極に分断していた。お互いを出し抜くことだけが指令として出ていた。

宇宙戦士とは互いを滅する道具にすぎなかったのだ、その過去が言い伝えられ今でも宇宙戦士は民に嫌われる。


タクミは「そうなんだけど」と繋げた。

「宇宙戦士の城の位置を知っている民なんて滅多にいないし明らかに敵対の意思を持って送りつけてあるわ……狙われたのが皆、各宇宙戦士の末席を名乗る者たちだし

負傷者がミスイだけで済んだのは不幸中の幸いだわ」


わざとなのか送り主は各宇宙戦士のトップ、という出来過ぎた演出でもあった。

ベルガは明らかに不機嫌な顔をしトップでもあり末席でもある唯一の天の宇宙戦士の紅炎は複雑な顔になった。

いつもは楽しげな光も何も言わない。


「情報は共有した方がいいわ。かと言って開け放って情報を開示すれば疑念が生まれる元ともなりかねない。きっと宇宙戦士全域にこの話が広がれば自然と各宇宙戦士同士でしか動かなくなるでしょう?」とトップに聞くと

一人だけの紅炎はともかく

ベルガは「うちは性質上そうなるな」と元からグループで動きがちなのは認める、と断言した。

光は「うちはどうかな?」と考えこんだ。


「三姫様は何と言っているんですか?」と紅炎が聞くとタクミはこれまた頭を抱えて

「……興味がないようで」とお手上げのポーズを取った。


「むしろいいことだよ、これで三姫様達が動き出したらそれこそ大戦の二の舞だもん」と光が当時を思い出して悲しそうな声で言った。

「モールの方は?」と宇宙を統括する義妹の調べはどうなっているかをタクミに問う。


「花の出所はもうわかっているの、どうもその花はそこでしか咲かない花らしくて、そこではその花は“毒を放つ花”として有名らしいわ、鮮やかなピンクの花で名前がないらしいから一応今回の事件の間 “熟桃じゅくとう”と呼称します」とタクミが通達した。


 ベルガはタクミのネーミングセンスに舌を出しつつ「で、原産はどこだって?」と聞いた。


タクミからその街の名を聞くとベルガは「はて、どこかで聞いたような?」と難しい顔になるとそこへクロノスがやって来て

「カイちゃんが巡遊した最初の街だよ、ベルガ」と呆れ顔で笑った。


「図らずもまたカイちゃんを巻きこんでる可能性があるね」とカイと一緒にこの街を巡遊したクロノスはベルガを試すように痛いところを突く。

「イヴなんだからそういうこともあるだろう」と面白くない顔をしたベルガを見て

「さぁ? イヴについてはほとんど前例がないもので?」と笑うと流石に和み過ぎたクロノスの登場にタクミが割って入る。


「で? クロノス、あなたはあの街に急行して“熟桃”を持ちかえってくれるはずではなかったかしら?」と仕事を改める。

「残念! それがシーズンじゃないとかで種しかもらえなかったんだよ」と小袋に入った種を皇族付きの宇宙アンドロイドへ手渡しながら言った。モールの元へ解析に出すのだろう。

とりあえずしばらくの間は

「送られてきたものや不審物は光合邸へ報告してから」

という宇宙戦士へのお達しが出ただけで事の詳細は開示しない方向で事件の捜査が始まった。



「情報開示しなきゃ宇宙戦士が各々動けないっつーに」とベルガがどかどかと帰宅すると

MQRがカイの部屋を掃除していた。


「ご主人様……このところカイ様は宇宙へおいでになりませんですわね」

と泣きそうな表情を主人に向ける。MQRにとってカイは唯一のお喋り仲間なのだ。

ベルガは原因に心当たりをつけながらも

「テスト期間とかじゃないか?」とつっけんどんに言うと机の上に飾ってある瓶に封じ込まれた大きな花を見た。


「強烈なピンクだな……」とマジマジと見ていると

「それは巡遊先で頂いたそうなんですよ♪ なんでも強い毒があるから開けれないようになっているんですって」とMQRがひょいと花を持ちあげて笑顔で答えた。


ベルガは一気に顔面蒼白になりちょっとフリーズしてから


「MQ……ちょっとこっち来い。それを離してゆっくりそこを離れろ……」

と固まった顔で言うのでMQRは「なんでしょう?」と言いつつ花を机に置いて

ベルガの方に歩み寄った。


「……さすがにいまこのタイミングでは爆発しない……か?」とMQRを背にして

光合邸に連絡を入れたのである。




「そうだった! 僕としたことが迂闊だったよ、カイちゃんがこの花を貰ってたんだったね」とクロノスがベルガ邸から回収されて

透明な正方形のガラスに封入されている熟桃を見て珍しく反省の色を見せている。


「それでカイちゃんは最近見かけないけどどうしてるの?」何気なく聞いたクロノスだが

ベルガの顔がみるみる沈んで行くのを確認して

「これは失礼」と苦笑した。



「喧嘩?」クロノスは凄く意外そうな顔をした。


「カイちゃんがすぐに折れそうなものだけどね」

とベルガ相手に喧嘩をしているカイを少し尊敬するように何故か笑っている。


 クロノスが笑っているのはいつも通りのことなのにベルガはクロノスに相談したことを早くも後悔していた。

男型のクロノスに話した方がいいと判断したのは中性のベルガらしくもありまたクロノスはタクミという恋人がいるからこその相談相手でもある。

クロノスとタクミとは永年の婚約者である。

ただし何光年もの星が行き交う間には他の女型と結婚していた時期や付き合っていたこと

かと思えばやっぱりタクミと結婚していた時期もある。


皇族や宇宙戦士たちほど長く永遠に生きていれば無理なく有り得る話である。

不老長寿、とは「何度でもやり直せるもの」そうだとベルガは思いもする。

「三年ねぇ……そろそろしびれを切らす頃だよねぇ」

とクロノスは言ったが

地球人の感覚もわからないではない、というより理解しようと心がけているベルガには

「いやいや、なげぇよ!」と突っ込みを入れずにはいれない。


「地球人の寿命知ってるだろ」とベルガが投げるように言葉を返す。

「ああ……」と計算するように考えこんだクロノスが

「謝れば?」と最上級の笑顔で切り返してきたのでベルガはうろたえた。


「今回はあたしは悪くない! 全面的に!!」と断言する。

「それでも謝るのが恋人に対しての誠意だと思わない?」

「だったらあっちがそう思ってもおかしくないだろ」

柔らかな声に対してのベルガの声がとげとげしい。


「寿命……ね、宇宙戦士もいつ誰がどうなってもおかしくない職業なんだからお互いが生きているうちは存分に仲良くした方がいいよ」その言葉を聞いてベルガは怒らせていた肩を落とした。


 クロノスにはかつてタクミ以外に結婚していた女型がいた。

その女型は自分の同僚の魔の宇宙戦士だった。大戦で死んだのだ。

無理難題を言うのはエクレアだったが

自分が実際に宇宙戦士を投入して指揮をしていた。

自分とは同期の宇宙戦士であった。今となってはベルガが一番の古参だ。


古い古い記憶をベルガは「懐かしいな」とポロリと口にすると

クロノスは優しい笑顔で「そうだね」と声に出した。



 モールの解析によって、熟桃が送られたのは同じ場所から同じ日に、と特定されはしたが

その他についてはほとんどわからずじまいであった。


なんせ証拠の花が爆発して消失しているに加え熟桃は本来毒を発生させる花なのに

毒をしかけてきたのではなくモノは爆発したのだ。


「ただの愉快犯かぁ」ベルガが頭を掻きながら資料を見るも

「ただの愉快犯レベルに宇宙戦士の城を特定されているのならそれは問題ですよ!」とタクミが指摘した。

「それにこの三勢力をわざと戦いに仕向けるように仕掛けてくる辺り、巧妙で卑怯ですよね、トライアングル……」と集められたトップの紅炎も資料をひらひらとめくっている。


光は「ミスイの容体はどう?」とベルガに問うた。

「そうだなぁ、医療アンドロイドもいるがミスイがその筆頭でもあるから

自分で直接指示して治療してるって聞いたぞ」

やべ、そういえばまだ見舞いに行ってないな……と小声でつけたしてタクミに睨まれる。

「ミスイはカイ殿が現れるまでそれはそれはベルガに傾倒していたのに当の本人がこれでは心底同情するわ」と言うと紅炎も光も大きく頷いた。


「は、話を元に戻すぞ! 今回宇宙戦士側で犯人をおびき出すんだろ!」

と形勢が不利になったベルガは先程まで議題に上がっていた案を再提案した。


「そうなの、光が考えてくれたんだけど犯人は宇宙戦士の居住地のポイントまで知りえている。ならばこちら側で大規模な催しを開けばそれもどこからか情報を仕入れてくるんじゃないかって。そうなれば宇宙戦士で一気に叩けるし犯人の尻尾くらい掴めるかもしれないからね」

「それでタクミ様、大規模な催しって何するんです?」紅炎が聞くと

タクミはキッパリと言った。


「それもはもうもちろん! 舞踏会でしょう♪」


ベルガは辟易とした顔を全面に剥きだした。

「なぁんで皇族はパーティーや舞踏会があんなに好きなんだよ! これまでどんだけやってきてるんだよ!」と光合邸の長すぎる廊下をバンバン叩きながらブーツのこつこつ音まで不機嫌に歩いていると、後ろから光が

「女型なんてどこの世代も時代も惑星もそんなものだよベルガ♪」とタクミを擁護するように笑いながらフォローする。


「ベルガは今回も不参加??」と紅炎が聞く。


ベルガはこれまで舞踏会の類のお誘いは断って来ていた。

上司命令で時々顔を出したりカイが来てからは連れて行こうともしたが

カイが宇宙に来てからだけでもすでに舞踏会という催しが幾度行われたことか。


 反対の回廊からクロノスが出てくる。

紅炎は会釈して光はぶんぶん手を振る。

手を振り返しながらこっちを通り過ぎようとしたクロノスは

すれ違いざまにベルガに

「カイちゃんを呼び戻す絶好の機会だねぇ~♪」と小声でいかにも楽しそうに笑った。

真っ赤になったベルガがカッと振り向くもクロノスは他の護衛に固められて颯爽と歩いて行った。

「大きなパーティーに祈りの女の存在は不可欠だし~」というしたり顔のクロノスの顔が今にも見えそうだ。




 梅雨真っ盛りのカイの住む町でも雨はしきりに降っていた。

「日本は四季があって素晴らしいがこの梅雨の時期の湿気には身体が慣れないなぁ」とナインは何を触ってもベタベタするーと言って手を拭いている。

「宇宙アンドロイドでも身体ベタベタするんですか?」と投げかけた疑問にナインは

「湿度調整の問題?」と返してきた。

汗をかかないベルガたち宇宙戦士でもこれほどの湿度は、と舌を巻いていたことがあった。

「人間はもっと大変ですよぉ」と髪の毛のうねり具合を見せると

ナインは笑ってカイの髪の毛を綺麗にまとめてくれる。


「今度、街で花飾りを見繕って来よう。カイにピッタリの花がある」と宇宙で訪れた街と地球とで生活しているナインはもう少ししたら一旦宇宙に戻ることを告げた。


「なんでナインは向こうとこちらを行き来しているんですか?」

「うーん、元々宇宙で自分の存在を隠すために身を潜めていたのがあの街で住み心地もよかったしよそ者にも開いた土地だったから長く住んでいた。だけど他の惑星に降りて見たいと前から思っていたんだよ。それがたまたま地球だった。

まさかこんな季節があるとは思わなかったけど」と笑った。


ナインは生活費はバイトをして稼いでいる、

小さなアパートに一人暮らしをしていて不老長寿がばれないように転々としていたそうだ。

今はこのカイの住んでいる街に住んでいる。

勉強するために大学に忍びこんでいるなんちゃって聴講生だ。

「ナインほど美形ならどこにいても噂になるでしょう?」

「どこぞの国から来ました~で一件落着だよ、住宅に入居する時は骨が折れるけど」

と大きく笑った。

「それに……」と手がカイの長い髪に伸びてくる。


「カイの方が充分魅力的だよ」と頭を左右にぐわんぐわんと撫でられたので

カイの頭が豪快に揺れた。

「もう! からかいましたね!」と怒ると

「バレたか! 今日の昼食おごって♪」と二人の笑い声が重なる。




 光合邸で大規模な舞踏会が催されるという情報はすぐさま内部の者に広がった。

宇宙戦士にもこのパーティーの本当のところは被害に遭ったものと、トップしか知らされていない。


「だーかーらっ! 情報開示しなきゃ意味ないだろう」とベルガは自室で光合邸からの使いの宇宙アンドロイド相手に文句を言っている。


「タクミ様は宇宙戦士内で分裂されるのを危惧されております」と困ったアンドロイドはベルガのお付きのアンドロイドのMQRに助けを求める視線を送る。

見かねたMQRは同意するように「これほど魔・天・光が分け隔てなく関係を持っているということもこれまでの歴史上そうはなかったことですものねぇ」と添えた。


ベルガは「仲良しこよしなのはいいことだが、これでは戦力は半減以下だ」と案内の封筒を机へと投げた。

「皆さん順応性の高い方たちばかりですもの、きっと大丈夫ですわ」と

MQRがこの隙に使いのアンドロイドに目配せをして帰らせた。

「おいMQ……」

MQRがギクッとして振り返ると

自分のご主人は「舞踏会の準備は任せるぞ」とソファにゴロリと横になり背を向けた。


一応は一部にしか公開されていない任務である、参加しないわけにはいかない。

ベルガはMQRが部屋から下がる音を聞きながらカイはその頃にはこちらへ戻ってくるだろうか? と疑問に思った。

自分からこちらへ呼び戻すのはなんか嫌だ、そういう変な自尊心を抱えてベルガは自分の髪をぐしゃぐしゃとした。




 一方、地球のカイは自分の部屋でカレンダーと睨みあいをしていた。


「や・やばいかも……私、巡遊から戻って以来、宇宙に行ってない」

カレンダーの離れた日を目で追うと顔面から血の気が引いて行く。

「ベルガ怒ってないかな……」

この時期に変にこんな風に時間を置くつもりはなかった。

気付けば梅雨も明けようとしている。

「夏休みに戻れば……いいか」

とさらに戻る日程は遠ざかっていく。



 ベルガ邸には珍しく宇宙戦士以外で来客があった。宇宙を流浪しているという画家だ。

光合邸には賓客として迎えられているほどに才能が認められておりその画家はそれでも気に入ったものにしか筆を持たない。


 その画家が光合邸を颯爽と歩くベルガを見て

「是非アナタを描きたい!」と宮殿までやって来たのだ。


ベルガは「ああ、そう」と興味なさそうに応え

「あたしは絵に描かれるためにポーズをとるなんてことはしないが邪魔をしないんだというならば、しばらくの滞在は認めよう」

と光合邸から派遣されてきた客人を邪険にはしなかった。

「オオ! 感謝します」と画家は与えられた部屋にも戻らず庭や城の様子を見て回った。


「まさに珍客だな」と言うとMQRは聞こえていたのか小さく笑った。


「どうにもあの画家の方に描かれるということは物凄いステータスなんだと噂です。

ご主人様の肖像画だなんて楽しみですわ♪」と嬉しそうだ。

「MQも小さいキャンバスに描いてもらえ」

と投げやりに言うご主人はカイが宇宙へ来なくなってからめっきり元気が遠退いていた。


{カイ様はいつ戻られるのでしょうか……}

MQRはカップを拭いながら未だ帰らぬもう一人の主人を待ち望んでいた。


 梅雨は明けそうでなかなか開けない。

未だにジットリとする湿度の中、カイは大学から帰り真っ先にシャワーを浴びた。


「まだ夏を迎えてないのにこの湿度でまいってしまう」

と長い髪にシャワーから流水が頭を冷やすと気持ちがすっきりした。

まだ夏休みには遠いが明日の休日は宇宙へ登ろうか……と思っていると、バタバタと階段を駆け降りる音が聞こえたと思ったらいきなりお風呂の扉がバッターーーン! と開いた。


「やっ! えっ! ええええ!」

カイが悲鳴を上げると同時に褐色の肌の少年が裸のカイに抱きついた。

「ナツメカイー♪ 会いに来たぁ~」

「テナー???!」


カイは慌ててお風呂場にしゃがみ込むも流れ続けるシャワーでテナーもびしょびしょになった。



 パジャマを羽織ったカイがテナーの髪の毛をわしゃわしゃと乾かしている。

「まさか光合邸と部屋を繋ぐ魔法陣で勝手に降りてきちゃうなんて」


魔法陣はカイが自由に宇宙と地球とを行き来できるように作られたものであり

一応名目上はカイとベルガ専用のエレベーターである。

光合邸の奥に作られたその部屋にも鍵がかかっているはずなのだが……


「クロノスが開けてくれたー」テナーは恐らく“秘密に”と言われていたであろうことを

あっさり白状してしまいカイは疑問符で「なんでクロノス様?」と返した。


「これに一緒に行こう?」とテナーは封筒を出した。

招待状のような形状をしている。

「なんて書いてあるの?」


と宇宙語が読めないカイが聞くとこの数年で読み書きのできるようになったテナーは「舞踏会のお誘い」と封筒をビラビラさせて遊んでいる。


「舞踏会……今度はなんの目的の舞踏会なんだろう?」と聞くと

テナーはわからず笑顔で首を傾げた。


「いつですか?」と封筒を覗きこむように聞くとテナーは「二ヶ月後!」と答えた。

カレンダーを見るとどうやらテスト期間を抜けた後のようなので

「わかりました、一緒に行きましょうね」とテナーの頭を撫でるとテナーは安心したようにギュウウっとカイに抱きついた。


「ナツメカイ全然宇宙にいないから寂しい」とテナーが声にする。

カイは思わずテナーに抱きつき返した。


「誰かさんもこんなに素直ならどれだけいいことか」

と力を入れるとどちらかがギュウギュウする遊びだと思ったのか

テナーもさらに強く抱きしめてくる。


初めて会った時に比べるといつの間にかこんなにも幼くなったテナーをカイはぬいぐるみのように抱え込んだ。



 ナインが宇宙へ戻ると行って半月が経ちカイも久しぶりの宇宙へ登った。

舞踏会まではまだだいぶ先だったがベルガにそのことを話さなくてはならないと思い

光合邸からベルガ邸へと隕石タクシーで向かっていた。


 光合邸の魔法陣の部屋から出ると登ってくる様子が分かったのかタクミが待ち構えていた。

「カイ殿、しばらく忙しかったのね、祈りの女の仕事は少し休んでからでいいから

また地球でのお話聞かせてくださいな」と

身体の心配だけをしてミスイから預かっているという小瓶を渡してくれた。


 カイはとある間隔ごとにこの薬を服用している。

それが祈りの女でいるための唯一の手段でもある。

隕石タクシーから星が流れるのを見つめていると大きなバルーンが見えてきた、到着地だ。


 バルーンの敷地内に入り城までの道を歩いていると

森から知らない男型が出て来てどちらもがフリーズした。


お互いにお互いを「誰?!」という疑問を膨らませ動けずにいると

先に男型の方が「アナタはどちら様かな?」と問うてきたので一応の住人であるカイは慌てた。

入るバルーンを間違えたのであろうか? でも遠目に見えている城はベルガの城だ。

「な、夏目カイです、ここの住人です」と言うと

「住人か」


と納得した風の男型はカイが不審者ではないと知ると森の中に消えた。


カイは未だ「???」の状態で慌てて城の階段を目指した。



「カイ! 戻ってたのか」

走って階段を登るカイを見つけて廊下をたまたま歩いていたベルガが庭まで下りてくる。

「ベルガ! 今森に知らない男型の人が居ました!!」

「?! ……ああ~あっはははははは!」

「ええ??」

ベルガは頭を抱えて笑っている。

二人の再会は思いがけない珍客のおかげで和やかなものとなった。




「画家さんですかぁ~なんだぁ、不審者だと思って」

とカイが胸を撫で下ろしている。

MQRも笑いながらお菓子とお茶を用意してくれる。ベルガは窓辺からその画家がうろうろしている森を見下ろして

「あいつを置いておいてよかった。カイの必死な顔が見れた」とまだ面白そうにしている。

「カイ様は何か急用でもおありだったんですか?」と

いきなり帰って来たカイに理由があるように見えたMQRが尋ねるとカイは一瞬悩んだ。


テナーが勝手に魔法陣を使ったことは言わない方がいいだろう。

「えとー、そろそろ祈りの女の仕事が溜まってるかなぁ……と」と

とってつけた理由を上げるとベルガは「大学はいいのか」と聞いてきたので

二人は視線を合わせて無言になった。


「大学」というキーワードは今の二人には駄目なのだ。

何か素直に出来なくなってしまう呪文なのだ。


「今はテスト前で講義も減っているので大丈夫です」と下を向くと

ベルガは「そうか……じゃあ、MQ」とMQRに言葉を投げると

宇宙アンドロイドは「はい♪」と部屋から出て行った。

「?」


カイが二人のやり取りを見ていると戻って来たMQRは純白のドレスを手に足早に戻って来た。

「どうだ?」ベルガは自信満々にドレスを抱えて見せると


「今度大きな舞踏会がある、これはカイ、お前のドレスだよ」とカイに手を伸ばした。

言葉を失くしたカイがベルガの手に誘われて純白のドレスに近付く。


「カイ様は色が白いですのでよくお似合いになるでしょう♪」

とMQRが揃えの靴や装飾品も持ってきた。

カイが生地に触れるとその余りにも滑るような触り心地の良さにうっとりとした。

なにより地球人の女性にとっての白いドレスとはこの上ない意味を持つドレスである。


ベルガはそれを知ってこれを選んだのだろうか? ベルガの顔を見るとただただ満足気だ。


「いま着てみるか?」と聞かれぶんぶん首を横に降った。

白いドレスは安易に着れるものではない。カイが断るとベルガも「そうか、じゃあ当日のお楽しみだな」と嬉しそうにドレスをMQRに渡す。


カイがドキドキと高鳴る胸をおさえながら

「なんで白なんです?」と聞くと

「これまで淡い色が多かったとはいえカラードレスが多かったからな、黒は祈りの女のイメージには合わないし」とああだこうだと真剣に論評を始めた。

どうやらベルガは白いドレスが花嫁の着る色だとは知らないらしい。


確かにベルガが勉強した時代なら白無垢の方が一般的だったはずだ。最初のイヴお披露目の時に着物を着せられたようにベルガは日本人は大事な時には着物を着るのだと思っている。

カイはホッとしたのかがっかりしたか自分でもよくわからない感情になり複雑な顔色になった。

「どうした? 気分悪いか? 久々の宇宙酔いか?」と聞かれ

「ちょっと部屋で休みます」と部屋を出ると

残ったベルガとMQRは「気に入らなかったのかな?」とこちらも不安な声色になった。



「ナインは今頃自分の街に戻ってるよね、宇宙でも連絡が取れたらいいのに」

と地球での携帯を眺めてベッドに横になっていた。

地球ではナインとよく恋の話をした。最初こそベルガの恋人だと知ると仰天したナインだが

「恋なんてそんなものだよね。好きになろうって思って人と恋愛するわけじゃないし」と

自分の恋も話してくれた。


「好きな人がいて好きで好きでしょうがなくてそれでも離れるしかなくて

なのにやっぱり好きなんだ、馬鹿らしいけどそれが惚れた方の負けの心理」

とよく語ってくれた。


変な話、ベルガの方からカイに好きの気持ちは向いていたはずなのに悔しいかな、今は自分の方が好きなような気がする。

「惚れた者負け」とカイはベッドの上で寝返りを打った。

「ナイン……話したいよ」


好きな人に無垢な笑顔で純白のドレスを渡された時どうすればいい?

地球を勉強したベルガよりも現在の地球の日常に明るいナインにこのことを相談したい。

カイはまた小指を撫でながら梅雨のように鬱々とした気持ちを抱え込んでいた。




 カイは久々に宇宙に戻り、早速ベルガから各宇宙戦士へ送られた爆発花“熟桃”について話を聞かされ、また自分も貰った花について何か知らないかを尋ねられた。

だが特に思いあたる節もなくカイへの調査は空振りに終わった。


そんな時に、ベルガから「そういえば」とビルの話を聞いた。

「つい数週間前にカイのドレスの装飾品をあつらうのにビルをこちらに呼んだんだが

この前カイを巻きこんで探しに行ってた“美少年”を見つけたらしい。

一応そういうことはするな、とは言ってるんだが、どうにも見繕われた男型はビルのところにいた方が衣食住に困らない、と不平不満を言わないからやっかいだ。

あれじゃあ宇宙戦士が男型を奴隷として飼っていると言われても言い訳できないな。

今回回収した男型はなんでも女型のように美しい容姿だそうだ、これまでの男型と違って

ひどく抵抗しているらしく懐かないとビルが嘆いていたやっかいごとにならなければいいがな」

と持ちかけられた。


「数週間前」「女型のような」「抵抗」


カイはこのワードに氷のような寒気を覚え、ベルガに内緒でビルの屋敷へと向かった。


「ビル様が来られるまでこちらでお待ちください」


と細い男型がお人形のように揃えられた執事服を着て立っている様子をカイは直視できずに待った。

だが、ビルは一向に来る様子がない。


「お手洗いを借ります」と部屋を出るとこっそり屋敷の中を走り回った。


怪しそうな扉を開けて行く。

角の部屋から声がするのをカイは捉えた。

「いい加減そのきったない服脱ぎなさいよ! 私がこんなにもいい生地の服を作ってあげてるのよ?!」

カイはそぉっと扉を開いた。


目に飛び込んできたのは紫のローブを頑なに脱ごうとしないナインの抵抗する姿だった。

カイは悲鳴をあげそうになる衝動を抑え込んで一旦扉を閉めた。


「どうしよう! どうしようどうしよう!」


声にならない声で誰かに助けを求めようとするがナインはその存在を宇宙から隠している宇宙アンドロイドだ。ここで大ごとにしてナインの素性が露見するのは絶対によくない。


カイは隅の鍵の掛かっていない部屋に身を隠すとビルが出てくるのを待った。

ある程度すると男型が「客人が待っている」と催促に来るがビルに打たれていた。


 ビルは末席から二番手とは言え魔の宇宙戦士は軒並み他の宇宙戦士よりも戦闘性に置いて上を行っている。その上ビルは戦闘要員。

ブーメランを使った攻撃で敵の足元を狙う。

そんなビル相手にナインを逃がすなんてことが出来るのか?

考えるよりも身体が先に動いていた。


 ビルが渋々部屋を出ると代わりに男型が残った。

カイは隅の部屋から身体を出すと堂々と男型の前に立った。


一瞬動揺した男型は「客人が何故ここに?」という顔をしたので

「ビルから新しいおもちゃを取ってくるように言われました。中でしょう? 出してください」と笑顔で言うとイヴの余裕からにじみ出るオーラに気圧されて

男型が中にカイを通した。ただでさえ男型は女型を畏怖の対象として見るのである。


カイはあくまで余裕のある態度を見せてナインが檻から出されるのを見ていた。

ナインは檻から出される時も抵抗していたが

カイが「ナイン」と小さく声をかけるとハッと顔をあげた。

顔には傷が付いている、抵抗し続けたのだろう。ローブも所々破けている。


ナインはビックリした顔になったが後は何も言わず下を向いた。

「ではこの子は私がお部屋まで連れて行きます」

あわあわとする男型を尻目に早足で廊下を過ぎる。


そろそろ自分が戻らないと探されているだろう。カイは目一杯焦っていた。

とりあえずナインを逃がさなければ。




「カイちゃん何やってんの?」




カイの心臓が飛び跳ねた、そしてドクドクと嫌な動きをしている。


額からは汗がにじみ出る。後ろからはビルの声がかかってヒールの近付く音が聞こえる。

耳なりのように頭が痛い。もう駄目だ!

と目をつむった瞬間、隣にいた影が高速で消えた。


凄まじい早さで何かが起こったのはわかったが

とにかく気付いた時にはナインがビルを腕で抑え込んで床に倒していた。


ビルが「お前! 何者なの?!」と

苦しげにブーメランを具現化しようとすると今度はナインの足がビルの腕を思いっきり踏みつけた。倒れこんでいる二人だがどう見てもナインが優勢に立っている。


カイはポカンとしていたが

「ナイン! こっち!」

と城の出口を示すとビルがしばらく動けないように下腹部に一撃を加えると

カイに従って二人で城の外に出た。


「い、いま隕石タクシーを呼ぶから」

とカイが頭が混乱したように言うと

「このまま跳ぶよ」とナインの声がしたと思うともうバルーンの外へ跳びだしていた。


それは宇宙跳躍だった。


 カイはナインに抱き寄せられ、自分も淡い光で覆われているのを見て言葉もなく「ナインはやっぱり宇宙戦士なのだ」と思うと何故だが悲しくて涙が出てきた。


何度か跳躍して辿り着いたのはナインの住む街ではなくベルガ邸のあるバルーンであった。


ベルガのバルーンの位置も知ってるんだ、と思うともうカイは涙が止まらず

ただナインにしがみついて声を出して泣いていた。


ナインはきっと自分に嘘をついている、その事実がカイを泣かせていた。


 気がつくとカイの目の前にはベルガが居てベルガがあやれこれやとMQRや見かけない男型達に指示を出している。

でもカイの耳は蓋をしてしまったかのように声が遠い。ベルガが自分の名前を呼ぶその口の形をただ虚ろな目で見ていた。


それから数日しても、カイは目覚めなかった。


ベルガはすぐに芳美に事情を説明しに地球へ降り、カイは宇宙で養生することとなった。

後の話だが、カイはこの前期の試験を全部落とした。テストを受けれなかったのだ。

カイが目覚めることなく地球では夏休みを迎えようとしていた。




 ベルガはカイのファンシーが目印の部屋で寝ても覚めてもカイの傍を離れなかった。


あの日、ベルガのバルーンに侵入者の非常警報が鳴り響いた。

すぐにMQRが感知して

「誰か登録にないものとカイ様がバルーンの中に入りましたわ!」

と急行するベルガに告げた。


 ベルガがバルーンの端に到達した時にはすでに侵入者の影はなく涙にぬれたカイだけが横たわるように転がっていた。


その日は他の事件もあった。

ビルの屋敷から連れてきた男型が逃走したのだと。


ビルに詳しい話を聞きに行ったがビルは憮然として何も話さなかった。

だがモールの調べた記録によるとその日、その時間カイの訪問記録が残っていた。

ビルの屋敷にカイが行きそこで男型が脱走した。

これにカイが関係している可能性が大きい。


「じゃあなんでお前あの日泣いてたんだよ?」

とカイの頬をつまみながら独り言のようにつぶやく。

「なんで目覚めないんだよ?」

今度はカイの腕を取って祈るように顔に寄せた。


「どうしてあたしに内緒でビルの屋敷になんて行ったんだよ?」

どうして・なんでがベルガの唇から飛び出すばかりでカイは息をしていないように眠りこんでいる。




「どうもカイちゃんが起きないのは身体の中にあるProtect Eveのせいみたいなんだ」

「Protect Eveだって?!」


 ベルガは数時間前まで精密検査を終えたカイの報告を光合邸に聞きに行っていた。

Protect Eveは元はベルガの毛髪で出来たカイの戦闘武器だ。

カイの体内にあったイヴの証明は母・芳美から受け継いだものであったため不完全で

時の神とやり合った際に失ってしまった。Protect Eveはカイを生かすためにその形を失い体内に溶け込むことで消えたのだ。


「カイちゃんは時の神との時に心的トラウマに近い鼓動の動きを覚えている。

さらに精神分析をもっと進めるともっと以前にProtect Eveでこの鼓動をキャッチしている

つまり予想以上の心臓の動きを感知した時にProtect Eveがカイちゃんを守るために

冬眠モードになるようになってるみたいだ」


ここでカルメイラが通された。補助宇宙戦士だ。

「カイは私を天牢から逃がした際にこのProtect Eveを使って牢を突破した。

ただの宇宙戦士クラスでも開けれないそうだ、ずっとそのことが引っかかっていた。

あと、カイは一度だけこのProtect Eveで地獄の刑囚を倒したことがあった、本人は覚えていないはずだ。それが多分先程言っていた以前の異常な鼓動の動きだろう」


ベルガはその話を思い出しながら

カイの小指、それから首すじに唇を押しつけた。こうやって触れたのは数年ぶりだ。

「Protect Eve……お前がまだカイの中で生きているならカイを全力で守れ……それがお前の名前の理由、存在理由だ」



 ベルガはビルの城に強制捜査をいれた。

「話したくないって言ってるでしょう~!!」

と抵抗するビルを警備の男型に捕えさせて当日の記録を当たったがすでに抹消されていた。

「お前の方で直せそうか?」


答えたのはディスプレイ越しに電子声だけが覗く義妹のモールである。


「はい、ベルガお姉さま。十秒で復元可能です」

そう言うとその間にすでに事はなされていたようで

当日の防犯カメラの様子が様々なアングルで映し出された。

ビルが男型を力づくで手なずけようとしている後ろからカイが部屋を窺っている。


ビルが出て行くと見張りの男型に中を開けるように言い、中に入ると逃がすようなそぶりをしている。小さくて音声は入らなかったがこの時何事か声をかけている。

そして廊下でビルに追及され……

その男型はベルガの目の中で瞬時に動いた。ビルには目で追えていなかったほどの早さだ。


ビルを倒すとカイと二人で逃げ出したがここらへんからカイの様子がおかしい。


カイを連れて宇宙跳躍して姿を消すのを最後に記録は終了していた。

一呼吸置いてから、ベルガは

「宇宙戦士だな、一応この画像をもとに全域に手配を」

とモニターに映る紫のローブの女型をしっかりと見ていた。


相当に上からお灸をすえられたと見えるビルからの証言で

あの紫のローブの女型はカイ達が巡遊した先で捕えたということが分かった。

「またあの街か……熟桃と関係大ありって感じだね」

とクロノスが言うと

「舞踏会を目前にこんな風に事態が動くとは」と

タクミもビルの浅はか過ぎる行動に出る溜息もなくしていた。


 ビルには当分は任務の過重労働でペナルティーを追ってもらうよ、とクロノスが言うと

タクミは「アメシャには悪いわね」とバディであるアメシャのことを挙げたが

ほとんど見過ごしてきたアメシャにもあって然るべきペナルティーだ、とクロノスに言われて「わたくしたち全体にも非はあるわ」と頭を抱えた。




 カイが目覚めたのはそれから数日後だった。

地球の日付を知ると

「単位落としてしまいましたね、三回生で取っておくべき単位だったんですけど」

と来年の本格化する就職活動に支障が出ますね、と苦笑するカイにベルガが声を荒げた。

「お前はなんでそうなんだよ!」

ベルガは泣きそうな声になっていた。だがすぐに怒っているのだとわかった。


「また心配かけてごめんなさい……」と言い切る前に

ベルガは「違う!!」と一層怒った。


「お前はいつお嫁に来るんだよ!」


その言葉にカイは顔をあげた。ベルガは真剣に怒っているのに

出てきた言葉はなんていう可愛らしいプロポーズのような台詞。

カイは茫然とベルガを見た。


「あたしが老けないからっていつまでも待たせていいと思ってんだろ。

お前はよぼよぼになって地球の人生満足してからこっちに来たいって言うかもしれないけどあたしのことは二の次、三の次かよ!」

クソッとベルガは「こんな自分勝手なこと言うあたしがガキみたいだろっ」と吐き捨てた。


ベルガは立ったまま背中を向けてしまいそれでもカイの部屋からは出て行かない。

今度こそちゃんと話しあおうと思ってくれているのだ。


カイはベッドからゆっくり立ち上がろうとしたがよろけて倒れそうになった。

気付いたベルガがカイを支えてベッドに下ろす。


「もっとベルガに今の時代の大学のことをちゃんと説明すれば良かったです。

昔は何もかも話してたのに、最近では一緒に居るのが当たり前でそういう説明も勝手にわかってくれると思ってた」

カイは一言一言、反省するように伝えると

「大学へ行くということ=就職するという考えです。これが今の地球では普通なんです、

女の子でも大学からの方が断然就職に有利ですし絶対流行りだからとかじゃないんです」

ベルガの顔に両手を包み込むように回すと

「私には夢が二つ出来ました。ベルガのお嫁さんになる夢と就職する夢です」

ベルガはちゃんと聞いて頷いた。


「ベルガのお嫁さんになればこちらに住むことになります。そうすればもう一つの夢は叶いません。だから先に就職してお仕事をする方を優先にしてしまったんです

これは私の独断です」


ベルガは自分の頬に触れるカイの両手を自分の手で包み込み

「どこでお嫁にくる気だ? 還暦過ぎてからなのか?」

と聞くとカイは愛らしいものを見るような目で

「いつでもお嫁に行きますよ」と微笑んだ。


「矛盾している」ベルガがカイの手のひらに口づける。


「普通は女子高生とかすぐに好きな人のお嫁に行きたがるものなのにお前ときたらまるで自立しようとしやがる。いくら宇宙人のあたしでも“待つ”ことはすごくしんどいんだぞ

優先したい時間を一緒に生きなきゃ無意味だろ」


カイが可笑しそうに笑うとベルガがその可愛い唇を自分の唇で塞いだ。


カイは、ベルガが小さく言った

「好きになったものが負けるんだよ」

という負け台詞にどこまでも愛しさを覚えていつまでも唇を重ねていた。





「あれ? 意外と元気だね? お肌もツヤツヤだし」

クロノスが全部知ってるかのように満面の笑顔でお見舞いに来ると

カイは真っ赤になりベルガは無言で一発殴りに来た。


「イタタ、まぁまぁ仲直りできたんでしょう? こんな長期スパンで喧嘩する人たち見たことないよ」と大きく笑うと

「よかったねぇカイちゃん? それでそんな時に悪いんだけどビルの城であったこと、詳しく聞かせてもらってもいいかな?」と真面目な話に戻った。


カイはベルガを見て頷くと

最初に「実は大切なことを秘密にしてました! ごめんなさい!」と謝ってから


「あの子は私の地球での友達なんです」と告白したのでベルガもクロノスも驚きの表情になった。


「地球の……ってどういうこと?? もう一人のイヴが現れたってこと??」

クロノスが珍しく取り乱している。


「いいえ、彼女は名前はナインと言って宇宙人……というか破棄された宇宙アンドロイドだと言っていました。巡遊先で初めて会ったんですけど地球でも偶然会って

それから私にとって唯一無二の友達になりました」

「ナイン? それが名前だね? アンドロイドならNIN……とかかな」

とすぐに問い合わせるもそういうナンバーの登録番号は破棄されたものにもなかった。


「でも彼女はビルさんを倒して宇宙間を跳躍しました。宇宙アンドロイドはそんな能力ないですよね? だからきっと私には嘘をついてたんだと思います……」

と少し苦い顔になった。


そして「やっぱりナインは宇宙戦士なんでしょうか?」と聞いた。

クロノスは考えこんで

「だとしたら逃げる理由はなんだろうね? B姉妹たちの時のように後ろで操ってる何者かの存在でもあるのかもしれない」


三人は宙に浮いた映像画面から紫のローブの後ろ姿を見ている。

「カイ、そいつと撮った写真とかないのか? これは画像が粗いしほとんど顔が映っていない」と腕組みしたベルガが言うと

カイは携帯を取り出した。


「ナインはいつも写真を嫌って撮らせてくれないんですけど

一枚だけ横顔ですけど映り込んでる写真があります」

と携帯の画面を二人に見せた。


クロノスは驚いていた。


ベルガは「やっぱりな、あの速さにこの名前だ」と勘があたった、とクロノスの肩を叩いた。




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