【第十五章 -宇宙一-】



 カイが地球に帰ると意外なほど芳美は普段通りだった。


色々な話を聞かせてくれた。なかでも特に大演説になったのはカイが倒れていた間の話しだった。時の神とのやり取りだ。


芳美が直に見ていた話だけあって芳美の中で話は大いに膨れ上がり

ベルガは何処から見ても「男の中の男!」というスーパーヒーローぶりだった。

(その時、偶然とはいえ男型の姿だったことも大きい)

なので、高校を卒業したらベルガの元へ行く、と言っても逆に物凄い応援具合だったので

カイはちょっとどころではないほどに気が抜けた。


でも、本当は凄く嬉しかった。一番の理解者がこんなに近くにいて誰よりもベルガのことを知ってくれている。

「お父さんは当然大学を勧めるやろうからベルガをどっか遠い国の留学生ってことにして

カイちゃんも留学したことにして、学生結婚ってことにしたらいいやん~」と超ノリノリでどんどん話しているのを見ると少し不安になるが。

元々物凄いミーハーな母なので一安心した。


 とにもかくにもカイは残りの高校生活を思いっきり楽しむこと! と母と約束した。

「勉強はもちろんやりたいことは全部やればいいわぁ!」と自分が果たせなかった夢を娘に託した。きっとようやく託せるところまで母も落ち着いたのだ。

「ベルガが結婚の挨拶に来る時が楽しみやわぁ♪」と妄想は止まらない。


妹のマイが「なになにー♪」と話に入ってくると母はあっさり裏切り

「カイちゃんに彼氏が出来ましたー!」と大暴露したので慌てて父には黙っているように口止めした。

「でもね?」芳美がいきなり深刻な顔になってカイを引き留めた。

「色んな人を見なきゃだめよ! 絶対その人! って確証はないんだから」そして小声で付け加えた。


「この三年間は花嫁修業として学校でも宇宙でも、他の人のいいところをたくさん見つけること! それでベルガが一番いいって思えたら本物やね♪」と人生の先輩として言葉を贈った。

カイはマイの手前、コクコクと頷いてリビングを出て行ってしまったが芳美は満足そうに「カイちゃんは変わったねー」とマイに話しかけた。

マイは「そうそう! 髪とか伸ばしてるし、前だったら有り得なかった」

と二人で爆笑した。




{カイちゃん、その色も似合う女になりなさい}

そう思って芳美は、カイに預けた真っ赤な赤い髪留めを思い出していた。



 地球の季節はカレンダー的に冬に近付いたが、なかなか本格的には寒くならず

十二月に入ってもまだぎりぎりコートは要らなかった。


 カイは十六歳になり、新春を迎える頃には髪が胸のあたりまできていた。

芳美に「カイちゃん髪のびるの早っ」とビックリされたが

自分の意思で伸ばしたのは初めてなのでこんなものかな? と思っていた。

学校はすでに冬休みだ。


 カイはその少し溜まった休みで、あれ以来の宇宙へ行くことにした。

 事前にタクミと「しばらく宇宙に来れなくなる」とは話していたものの

本当にあの日ぶりの宇宙となった。


「!」

カイがいざ、となった時慌てた。


「……どうやって上にあがればいいんだろう?!」


改めてそういうことを決めていなかったことに気付いて真っ青になり

何か一人で宇宙へあがる手段はないかと荷物を漁っていると

「カイちゃん! お客さまよっ」と興奮した芳美が現れた。

「?」カイは取り敢えず荷物を置いて玄関まで降りて行った。

「えーー!」


カイが盛大に声を上げた相手は漆黒の長い髪に、褐色の肌をしたB・レディだった。

「B・レディ?! なんで?」

芳美が見えているのだから実体化しているのであろう、

服も地球人らしいものに変わっている。


「と! とりあえず入ってください!」と温かい部屋に上げた。


「あれから魔の宇宙戦士で交替でお前のことを様子見に来ていた」

「うそっ」

とあまりに日々を無防備でいたことを思いっきり慌てた。


「タクミ様から今度カイが上がってくる時に困らないように、ということだ」

それを聞くと安心して

「なら、地球にいる時は言ってくださいよぉ」と溜息をついて

「でも、今まさに困ってました」と荷物を見せてくったくなく笑った。

「知っている。窓から見ていた」

「じゃあ窓から入って来ていいのに~」とガックリすると

「カイは我が宇宙戦士になった時より思い切りよく笑うようになったな」と珍しく微笑んだのでドキッとした。

「髪も随分伸びたな」と同じ黒髪のB・レディはカイの髪に指を通して髪の先まで下ろした。

カイはちょっと照れながらも

「もう十六歳ですから……B・レディはどうですか? 宇宙戦士としてお仕事慣れましたか?」B・レディはうむ、と頷き

「お前たちの概念で考えると我はもうすぐ一歳か? 十六歳になると大人になるのか?」と意外と質問攻めだ。


B・レディは宇宙で生まれたばかりだった。カイは少し考えてから

「日本の法律だと女性は十六歳で結婚できるんです」と頬をかきながらそう告げた。

「テナーが悲しむな」と妙な返答に

「まだそんな予定はないですよ」と笑って返した。


ベルガとの約束が実るとしてもそれはあと二年半後だった。

「あの……ベルガは? ベルガは地球の管轄なのに

なんで他の魔の宇宙戦士が交替で私を見てくれてるんです?」

「ああ」

そう言ってベルガが不在な理由をざっくりとカイに聞かせた。





 芳美が階下で聞き耳を立てているといきなりドアが開き

「お母さん! お休みいっぱい向こうに居るから」とだけ言って

思い切りまたドアを閉めた。


「なんでそういうことを真っ先に言ってくれないんですかぁ」

と泣きごとを言いながら

ちょっとモールさんの服に着替えるんで後ろ向いててくださいね! とB・レディを窓の方に向きをひっくり返した。窓は内側の熱で曇っていたがB・レディが窓に触れると気持ち良かった。さわさわと触れているといずれその部分が部屋を反射して映した。

「ほう」B・レディが住んでいる場所は暗闇の洞窟で普段鏡も滅多に見ないので

反射するその窓に興味津々でみていると

映った部屋の様子の中に着替える上半身下着姿のカイが居た。


「……」


しばらく無言で見ていたが

カイから再度「もういいですよ~」と声がかかったので

何も言わずカーテンを閉めた。




 地球から宇宙へは例の直通の魔法陣のエレベーターで一気に駆け上った。

「で! なんでベルガはそんな怪我したんですか?!」

先程B・レディから聞いたベルガの来ない理由は

「怪我して休んでいる」という素直に驚くべき発言であった。


「よくは知らん。いきなり下級の魔物に後れをとって爪があたった部分から腐食していた。

ミスイの薬で進行は止まったが今は大事をとって休んでいる。」

カイは真っ青になった。


ベルガは普段、というより自分と居る時にそんな怪我をしたことがなかった。伊達に現在の「魔の宇宙戦士・トップ」を名乗っているわけではないのだ。

「B・レディもその場にいたんですか?」

「ああ、バディだからな」ふぅ、と息を吐き出し

「ベルガを救ってくれてありがとうございます!」と頭を下げた。

「何故、カイが礼を言う」

きょとん、とした顔で

「ベルガは私のパートナーですから」とニッコリと微笑んだ。

「私は“祈りの女”の前に、“ベルガのイヴ”なんです」とまだ宇宙戦士歴が浅いB・レディに説明するようにそう付け加えた。

「ベルガが居なくなれば我のイヴになればいいんではないか?」今度はB・レディがわからないようにそう聞いたがカイは可笑しそうに苦笑して

「私はベルガ以外のイヴにはなれないんですよ」とやはり笑った。

何故だろう? 何故カイは我のイヴにはなれないんだろう? そういう仕組みだからか……残念だ

素直にそう思った。


B・レディは宇宙については勉強中で宇宙戦士にあがった時からすでにカイが居たこともあり、ごく簡単にしかその仕組みや理由を教わっていなかった。






 ベルガの屋敷に着くとすぐにMQRに会ったので

換えの包帯を受け取ってベルガの開け放たれた部屋をノックした。

返事を待たず「入ります」と足を踏み入れるといかにも不服そうな顔をしたベルガがベッドに横になっていた。


ベルガが傷を負って横になってる姿など初めて見るカイは動揺した。慌ててベッドの横に行き何も言わずちょこんと座り思っていたよりも元気そうなことに全力で安心した。


ベルガは不機嫌な顔を寄せ「おかえり」と言うと

その声を聞いたカイはようやく落ち着いて

「なにがあったんですか」と泣きそうな声で言葉を放った。

「いや~ちょっとドジったかな」と苦笑するベルガ。


カイは両手をベルガの左手に重ねて「無事でよかったです」と声に力を入れて言った。

部屋の扉に背中を預けてことの顛末を見ていたB・レディだが二人の様子を見て出て行った。


「傷見せてください、包帯換えます」というと手を貸して背中の傷を目の当たりにした。

ミスイの薬で進行が止まったという腐食した傷はベルガの陶器のような白い肌の上で

怖いほど異質で緑色に色が変わっていた。


カイの顔色を悟ったベルガが

「無理して見ないでいいぞ」と苦笑したがカイはひるまず包帯を取り換えた。

「綺麗な肌」カイはそっとベルガの背中に触れ包帯を巻きなおした肩にゴチン、と額を乗せた。

ベルガはカイの伏せる顔を左手で覆うようにポンポンと叩くと

「心配掛けたな」と優しく言葉をかける、「怪我したって聞いてビックリしました」と

ようやくカイも本音を言えた。


 庭でカイを待っていたB・レディを見つけた。

「あの、私、宇宙戦士って怪我とかしないっていうか、すぐに完治するものだとばかり勘違いしてて」これまでベルガが傷を負っても痛くはなさそうだったし

そんなに大した傷も負ったことはなかった。

「だから、超人的な人たちだーって思ってた節がありました」B・レディは頷き

「そうだな、我は宇宙戦士にはなったばかりだから他のやつがどうかはしらんが

宇宙戦士になったとしてもこれまでと変わらないのだと言うのなら

例え宇宙戦士でも普通に怪我もするし傷を負えば特に治りが早い、といったわけでもないだろう」

改めて宇宙戦士であるB・レディから傷の治癒は普通に巡ってくる

と聞き、これまでの認識に間違いがあったことを反省した。


「例えばそれが地球人から見てなんでもないように見えるのは、もしくは宇宙戦士がなんでもないように感じさせるのは単に“人間に比べて長生きだから”だろう。カイも幼き頃に負った傷のことは覚えていないだろう?」

確かに戦士であるがゆえに傷などに疎いところもあるかもしれないが

B・レディの言った通り宇宙戦士が傷を負っても、それはこれから巡る幾億の時間が癒してくれる。


 人が怪我をしてそれを痛いことだと実感するのは

実際の痛みと、それからその治癒にかかる時間を思ってのことかもしれない。

カイは、ベルガの痛みを共有できる時間すらも自分にはごく限られた時間であることを痛感した。


「となれば……出来る事は簡単です!」そう言うとB・レディにお礼を言い

ベルガの部屋へと戻った。

「一緒にいれる時間を出来るだけ傷を回復する時間にする!」唱えるように自分に囁きかけた。



 ベルガは自室で思いっきり深いため息を吐いた。

そしてベッドにうずくまって念じた。

{うわあああ! カイにプロポーズ的なことをして実はそのことで嬉しくて、頭がそれいっぱいでうっかり背後の敵にも全然気付きませんでした~……とか! 言えねぇぇぇえ!!!}

と枕をバシバシしているとカイが戻ってきたので


シャキリ、と平常心にシフトした。


「カイ、あのな大丈夫だぞ、そんなに心配しなくても。いつかは治るから」

何の気なしに自分の失態を隠すために言ったのだが

カイは

「いいえ! 居れる間はずっと傍にいます!」と決意も新たに気合を入れていただけに

ベルガはまたもや自分のうっかりを反省した。


「折角久々の宇宙なのに悪いな」

「私はベルガに会いに来たんですよ? 場所云々は関係ありません」と清々しく言うので

もっと「怪我してなけりゃなぁ」と思わずにはいれなかった。


きっと二人でさらに楽しい時間を作れただろうに。

その時、ベルガの部屋の扉が豪快に開け放たれた。オレンジの髪を揺らし登場したのはアメシャだった。


「ちょっとー! これ見たぁ?」珍しくビルを連れていない。

「お前はそんなに堂々と勝手に入って来ていきなり何を言ってるんだ」とベッドからベルガが呆れかえってアメシャを見る。


アメシャはこちら側を振り返ったカイを見て仰天して

「カイちゃん! いつ戻ってたのぉ!!」と黄色い悲鳴で走り寄って来た。

アメシャからはいつも高そうな香水の香りがする。

顔をふにゃふにゃと引っ張られながら

「あらぁ! 色っぽくなったじゃないのぉ!」と

好き放題されて返答できないでいるカイを見てベルガが「で? なんだって??」と聞いた。


「ミスコンやるんですって!!」ベルガとカイはしばらくフリーズした。




 光合邸ではすでに宇宙にばらまくポスターの準備でてんやわんやしていた。

「いやぁ、最近は民の楽しみも減ってたからねぇ♪」と自分も嬉しそうに

“ミスコンのチラシ”をクロノスが持ち上げて読んでいる。


「クロノスってば、完全に他人事なのですね」と少々ご立腹なタクミは「私は審査員ですから出ませんよ」と釘を刺した。


苦笑したクロノスは

「宇宙の男型の民にはこれほど楽しみな催しはないよ♪」と何千年ぶりに開かれる“ミスコン”についてやはり嬉しそうに、そして宇宙の民の視点からも語った。

「公募は、宇宙戦士を前提とした推薦のみだけれどこういう機会でもなければ民は

滅多に目にかかれない宇宙戦士を見る事すら叶わないんだ、宇宙戦士は綺麗どころが揃っているのに非常に僕としてはそれは惜しいね」と言ったのでタクミは少し不機嫌になった。

それを確認したクロノスは

「おや? タクミも出る気になったのかな? 僕が推薦いたしましょうか?」とわざと他人行儀に言っていじめた。

「出るわけがないでしょう!」と最後には怒られたが、宇宙でも久々の大きな祭典であり

クロノスはふと

「前回の優勝者は誰だったっけかな?」とタクミに聞いた。

「あら、それなら……」と何千年も前に行われた祭典の覇者の映像を出して見せた。




「ええ! その“ミスコン”の前回の優勝者がベルガなんですか?!!」

カイが非常に大きな声で反応したものだから

ベルガは

「おい、なんであたしだとそんなに驚くことがあるんだよ」と突っ込まずにはいれなかった。

「いえ! 違います違います! ビックリしただけで」と慌てて取り繕ったが

それを可笑しそうに見ていたアメシャが映像を取り出した。


前回のミスコンで優勝した時のベルガのプロマイドだった。

一瞬言葉が詰まった。


「わぁ……」

カイが渡されたプロマイド映像には少し癖っ毛な髪を腰まで伸ばしたベルガが

ドレスを着て映っていた。


「お前、そんな恥ずかしいもん持ってくるなよ」とベッドの中で暴れたが怪我人だったので

あまり効果はなかった。


カイがずっと黙って見ているのでいい加減取り上げようとしたら

「すっごく綺麗ですベルガ!」と目をキラキラさせてカイがこちらを向いた。


「こんなに美しい人を初めて見ました!」と感動の台詞が数多降ってくる。

そこまで言われると回収しづらくなったベルガは

「それは古い写真だからなぁ……」と口元でゴニョゴニョ言いだして

その隙にアメシャが当時のことを話した。


「当時はまだ宇宙戦士に今のメンバー以外の子が居たりしたんだけど

ベルガは圧倒的な人気で優勝したのよ♪ わたしも出てたのに変な話よねぇ?」と

最後は要らぬ情報だ、とベルガはムスっとして見せた。


「ポスターは喋れないし、顔だけで民が一方的に決めつけるコンテストなわけだし

当時もベルガの宣伝文句には “破壊神から魔の宇宙戦士・トップに上り詰めた若きGoddess”なぁんて書かれちゃってねぇ?」とアメシャが思い出したようにコロコロ笑った。


「やめろぉ! 恥ずかしい!」とようやくベルガが音をあげたのでアメシャは

「まぁ今回のコンテストはうちのトップは怪我してるから他薦されても棄権しそうだし、

魔の宇宙戦士の権威のためにアメシャさんが一肌脱ぐわよぉ」と色っぽく言うので

カイが応援する形で嬉しそうにぶんぶんと首を縦に振った。

「うちからは今年はB姉妹も入るでしょうし一番数の上で有利なのは確かよねぇ♪」

と、暗に一人しかいない天の宇宙戦士の紅炎を思い出したようにアメシャはふふふ、と笑ってみせた。


「こういうのって魔・天・光の宇宙戦士ごとに競ってるんですか?」とカイが聞くと

うーん、と考えたアメシャは

「わたしたちはこだわってないけど上がね! うえ~」と指を上に向けて微笑した。


わかっていなさそうなカイにベルガが

「三姫がことあるごとに競うんだよ」と面倒くさそうに言って

「まぁ紅炎は人気ないから大丈夫だ」と突然悪い笑い方をしたのでカイは

「魔の宇宙戦士・トップ」としてのベルガの顔を初めて見た気がした。


やはり自分は気付いていなくても宇宙戦士同士で派閥があり知らぬうちに競っているのだろう。

それでなくとも戦士を率いるトップなのだ。


「悪い顔になってますよ!」と

ベルガの顔をつんつんすると

「ベルガは今回は出ないんですか?」と改めて聞いた。

「前回だって他薦でやむを得ず出たまでだし前回優勝したから見逃してくれるだろ、怪我人だしな」と上のエクレアがどう判断するかだな、と

また上司を呼び捨てで呼んで納得した。

「ベルガ出ないんですか、もったいない」とカイが言うとお菓子を持ったMQRが入って来て

「カイ様? ご主人様が髪をバッサリ切って他の宇宙戦士様のようなドレスを着なくなったのはこのわたくしめの記憶が正しければこのコンテストの優勝後でしたように思います、

外見で得をしてる、と思われるのがお嫌だったのでしょう」と簡単に言ってしまったので

ベルガは「MQ~」と声を這わせた。


アメシャは「そうだったっけ??」と初耳のような顔をした。


もう昔の記憶過ぎて覚えていないらしい。

「まぁ優勝はこのわたしが頂くつもりだからベルガもカイちゃんも安心して見ててよ!」と

アメシャは騒ぐだけ騒いで帰って行った。

「ミスコンかぁ」

カイは投票で行われるそのコンテストの日程を地球時間ではいつになるのかを考えていた。



 開票の日は宇宙全体が光合邸を中心にカーニバルになるので実は宇宙戦士は反政府団体の不穏分子の警戒に当たると言う意味で通常より内容の濃い業務内容だった。

もちろんロンのような男型の警備が増やされるが散らばった宇宙から開票結果を生で見ようと光合邸付近に集まる民の数は尋常ではなかった。


ベルガはその日の警備に備えガブガブとミスイの薬を飲んでいた。


 カイは限られたベルガのお見舞いの中でその日のその時間をミスイの屋敷で過ごしていた。

カイも薬師に任命されたミスイから薬をもらっているので長い間来れなかった分、新しく調合してもらっていた。


「すみません、お薬さぼってしまって」と頭を必死に下げると

「あなたの身体のことですわ、自分にお謝りなさい」といつものごとく冷たく返された。


意外だったのはミスイの屋敷、というか小屋は古くて天井の高い平屋だった。

古めかしい木の継ぎはぎで覆った天井にカントリー系の日本で言うかやぶき屋根のような藁でできた屋根を乗っけている。

けして広くはないが狭いということはなかった。


そこら中に試験管やビーカーのような瓶が置いてある。

{これは確かに“魔女”かも}

と最初の頃にベルガに言われたことを思い出していた。


こっそり辺りを見渡していたカイに突然ミスイの声がかかった。

「ベルガは今頃コンテストには出ないと言っているんではありません?」

「あ、その通りです」慌てて答えた。


「あの頃は私が宇宙戦士にあがった頃で、強さの象徴がイコールで美しさ、ベルガのようなものでしたわ」

自分の知らぬベルガを語るミスイは表情には出さなくとも声色で昔を愛しいと言っていた。

「ミスイさんは出場されるんですか?」

「私はエントリーされないでしょう」

「?」

「民が推薦したり応援するのは“強い宇宙戦士”です。私のような戦いもしない宇宙戦士は知名度もほとんどありませんわ」と自嘲するでも何でもなく言い放った。


「カイさん」

呼ばれて顔を上げると

「ベルガの傷は一、二年かかりますわ」カイはビックリして何も言えなかった。


「やっぱりあなたは驚くんですわよね」

そう言うと

「宇宙戦士にとって一、二年という数字はあっという間なのですわよ」

と言い切った。

「……でもあなたには? 違いますでしょう?」

カイは手に持った薬瓶を強く握りしめた。


「それがあなたとベルガの選んだ道ですわ」と、ただ淡々とそう言ったが

ふと、誰に話すでもなく


「宇宙戦士、いいえ、皇族にも……医療系に長けた戦士がいないのです」

カイは「でも、ミスイさんが……」と顔を上げると

「私は趣味で色々な薬草を調べているだけです。漢方ほどの力しかありません」

そして「宇宙戦士の怪我が長引くのはそのせいでもありますわ」とずっと思っていたであろうことをカイに言って聞かせた。

部屋には隙間風が入ってくる。小屋の中はそれでもポコポコと怪しげな音を立て

温かい空気を作っていた。まるで冬のようだ、カイはそう思った。

ミスイはカイの薬を調合し終えるとカイに手渡し

ついでにベルガの包帯に塗る薬草も渡した。


 帰るカイに

「一、二年と言っても完治に、という話です。どうせベルガは明日にも動きだしますわ」

と少し笑うように言った。

カイは丁寧にお辞儀をすると

「また来ます」と小屋のバルーンから隕石タクシーに乗った。



 隕石タクシーがゆっくり走っていると

「夏目ちゃーん」と声がかかった。

「! 紅炎さん」


紅炎は任務中らしく宇宙を飛びながら隕石タクシーの隣について

「ねぇねぇ、夏目ちゃんは投票権って持ってるの?」と聞いてきた。


「投票権? ミスコンですか??」紅炎はうんうん、と頷くと

「ベルガ今回は出ないんでしょう? だったらあたしに入れてぇ!」と手を合わせたので

「待ってください! 私にそんな権利があるなんて聞いてません」

と手を大きく横に降った。

「ええ! そうなのぉ?? でも多分もらえるはずだよぉ? だからさっ! もし投票権獲得したら清き一票お願いしまーっす~」とムフフッと笑ってタクシーから離れて行った。



 その足で一度光合邸に向かい祈りの間でしばし時間を過ごした。

自分が気を失っていた間ベルガに応えてくれたという祈りの間。

「ありがとう」


何度も声に出してお礼を述べた。


この部屋には未だにベルガの力が残っているのだと思うととても嬉しかった。

力を消耗しないように部屋を出ると

隣り合わせの大地の間の前でタクミが立っていた。

「ここに来ていると聞いてね」と微笑んだ。


「すみません! 呼んでくださったらよかったのに!」と急いで部屋を閉めて並んで歩いた。

「ミスコンの話は聞いていますか?」

「はい」

「ベルガはきっともう棄権するんでしょうね」

すでに皆にわかってるんだな、と苦笑していると

「あなたに投票権があることは誰かから聞いていますか?」

カイは紅炎からは聞かなかったことにして「いいえ」と返事をした。

「投票日の最終日に皇族は一票ずつ入れることになっています。

カイ殿も忘れずに投票しに来てくれたらわたくしも嬉しいです」と

実行委員的な立場にあるんであろうタクミは地球との時間のことも考えてそう言うと

奥へ下がって行った。



「そうかぁ……私にも投票権があるんだ」とさっきの紅炎の話をどうするかな?

と考えていると

タクシーが行き着いたベルガ邸のバルーンの中で意外な人影を見た。

「あれ? B・レディ??」屋敷には近付かずカイが帰るのを待っていたように

島の端に立っていた。


「我はすでに他薦されて出場が決まっている」唐突に言われたがミスコンのことだとすぐにわかったので頷いた。

B・レディは近頃で一番新しい宇宙戦士な上にこの容姿。

幸いにしてあのブラックホール事件の片棒を担いでいた事実は民には公開されていない。

しかも前回優勝者・ベルガのバディともあって注目度も高く、すでに上位入賞が囁かれている。


妹のテナーと言えばポスター制作の際に男型から女型になるのを嫌がったため出場資格をはく奪になっている、とさきほどタクミから聞いていた。


「頑張ってくださいね!」力強くそう言ったのはベルガ率いる魔の宇宙戦士のメンバーだからだろうかB・レディはうむ、と首肯すると

「カイは誰に入れるのだ」と返されてとまどった。

「こういうことは秘密です!」とあくまで公正な委員長精神でそう言ったのだが

内心慌てた。


B・レディは少し考え込むと

「大舞踏会での約束はカイに破られた」とクスリと自分を笑うように声に出した。


カイはその時まですっかり忘れていたダンスの相手の約束の件を思い出し

「す、すすす! すみません!!」と思いっきり謝ると

B・レディは少し困ったように


「あの日からしばらく我はカイが軟禁されていることを知らなかった」

と他の宇宙戦士と交流の無いB・レディは自分も悪いのだ、と言った風に

謝るカイを制止した。

「だが、今回ばかりは“ベルガのイヴ”としてではなく “祈りの女”として投票してくれ」

ベルガが出場しないということを知らないB・レディから出た真の言葉であった。




 すっかりあの日の大舞踏会の出来事はベルガとの再会の思い出にばかり浸っていたが

裏でこうやってB・レディとの約束を平気で忘れていた自分をカイは物凄く恥ずかしく思った。ベルガの屋敷に戻っても空元気しか出ず逆にベルガを心配させてしまいまた猛省した。


 翌日になると、本当にベルガは動きだした。本当に時間の感覚が違うのだ。

それも強さの秘密なのかもしれない。


「ベッドから出て動いてたらコンテスト出ろって言われますよ!」と

ベルガをベッドに戻そうと必死な委員長は「いいんだよいいんだよ~」と

押し切られてしまい

「今日までだろう? お前の休暇」

と明日には地球に帰るカイの時間を重視しての配慮だったと知った時ばかりは押し黙った。

「ベルガはやっぱり出ないんですか?」B・レディの言葉が思い出される。

“ベルガのイヴとしてではなく”……か。

それでもベルガが出るならばやはりカイはベルガに一票入れたかった。


「ああ~エクレアに使いを出してみたら “魔の宇宙戦士が優勝すること!”としか返事もなかったし数でも有利だから誰かなんとかするだろう」と傷のある肩を回しながら答えた

「もう~エクレア“様”!!」

と強調してから今度は逆にベルガに聞かれた。


「お前も投票権持ってるんだろ? 誰に入れるんだ?」とニヤニヤ聞かれたので

「そういうのは秘密です!」とやはり同じ答えを言った。

「敵は光の宇宙戦士だ! あそこはビジュアル的に癒し系が多いからな!

しかも好印象な奴が多い! 民は男型だから大多数の票が転がるぞ」と紅炎の天の宇宙戦士はまるで視野に入っていないようでどんどん紅炎が気の毒になってきた。






 そして宇宙は「ミス宇宙コンテスト」の投票開始日を迎えお祭り騒ぎになった。

カイは偶然にも皇族の投票する投票最終日がテスト前で早く帰れるということを確認してコンテストでまるで別世界のように浮足立っている、華々しい宇宙を見ることになった。

どこからこんなに宇宙の民が現れたのだろうと思うほどに

様々な村から宇宙戦士を一目見たさに男型の民が集結しており

光合邸の周りは近付けないほどの人であふれかえっていた。


それを光合邸のエレベーターで昇って来たカイは中から見ておりあまりの白熱具合に

「すごい……」と声を漏らした。


「反政府団体が居ると言ってもやっぱり宇宙戦士は宇宙のシンボルだし人気もあるしねぇ」

とクロノスがやって来て言う。

「今日来れたんだね。嬉しいよ」とクロノスもにっこりと微笑んだ。


そして両の手サイズのスクリーンをカイに渡した。中には出馬の面々のプロマイドが映像で載っておりカイは一枚ずつそれを見た。

出馬したのは八名。




魔の宇宙戦士からアメシャ ビル B・レディ

天の宇宙戦士から紅炎

光の宇宙戦士からは全員で光 プラ イザベル コロン


カイはそれを見て

「ベルガ……数の上で有利なはずが魔の宇宙戦士の棄権者が多すぎで、数の上で不利になってます」と、思わず噴き出した。


 最終日、クロノスが「カイちゃん、投票しておいで」と広場を指さした。

広場に出る前に頭の上から茶色いローブを被せられた。

広場は多くの民が見守っており念のため皇族がいつもかぶっている顔まで隠れるローブを被せられたのだ。広場には続々と皇族が投票している姿がモニターにも映っている。

カイは意を決して会場へと足を踏み出した。


すると会場はすでに熱気でものすごい轟音を鳴らしていた。この会場中を実は当の本人たち、宇宙戦士が警備しているとは民は考えてもいないのだ。

カイはあらかじめ宇宙語に変換しておいた投票用紙を回収機に入れると

どこから漏れたのかはたまた誰が言いだしたのか


「イヴ様だーーー」


という声で一斉に会場はいっぱいになった。


カイはまさかの事態に動きが取れず壇上の上で固まってしまった。

「なんで? なんで私がイヴだってわかったの?」頭は混乱でパンクしそうになる。

会場中から二代目イヴ、そして二代目祈りの女として

「二代目様ーー!」という歓声が大いに巻き起こる。


カイがもうわけもわからず立ち止っていると誰か同じローブを着た人影がステージの端から走って来てカイをふわっと持ち上げた、そのローブの人はカイの顔を一層隠すように

頭に深くかぶせると巻きあがる自分のフード部分は全く気にせず

綺麗なキラキラ光る錦糸のような髪を見せびらかして顔をのぞかせた。

「あ……」

安心して出た言葉はそれだけで

「お前が一番背が低いって情報が出回ってたんだ たくっ! 誰の仕業だよ」と

それでもやはりお祭りだからか楽しそうに笑ったのはベルガだった。


光合邸内では宇宙跳躍できないのでカイをかかえて反対側のステージまで走ると

他の警備も出てきて「イヴ様、大事ありませんか」と様々な男型の警護班が声をかけてきた。


ローブを深くかぶりながらもコクコク頷き

一層騒がしくなった騒ぎの中皇族の投票は続いた。



 投票が続く中、カイはステージ袖でそれを見ているとベルガの声が降って来た。

「カイ! もう帰ろう」と手を引っ張られたので

そのまま二人で盛大なコールの巻き起こる会場を走って出た。

どこまでも声が響いているので二人の会話は自然と大きかった。


「もう警備はいいんですか?」

「あたしの分はしゅーりょー」

思い出したように

「ベルガだって背低いじゃないですか」と声を大きく言うと

「なにをぉ~」と怒った声がしたがクスクスと笑い声に変わった。

光合邸を抜けるまでそして抜けてもしばらく盛大な音は止まない。


まるで時間に限りのあるシンデレラの如くパーティー会場から抜け出すように二人は走った。

「誰に投票したんだ?」カイの手を引っ張りながら聞いた。

「だから秘密ですってば!」

「もう投票したんだから時効だろ? それにもう開票されるころだ」


会場からは高らかに優勝者だ、とB・レディの名がタイミングよく聞こえてきた。


二人は顔を見合わせて笑った。

光合邸のバルーンを出たのですごい人だかりの中ベルガはカイを抱いて一気に跳んだ。


それでもまだまだ歓声は留まることを知らない。


カイは少し躊躇してからふとベルガの耳に小さく耳打ちした。

するとベルガはこれまでに見たことないほど大きく笑った。



「それは貴重な一票だったな!」と天の宇宙戦士に入れられた一票について

二人で宇宙を飛びながらどこまでも笑った。






                                 第三部 完

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