【第十一章 -図書-】



 季節は秋に移りかわる頃。


 夏目カイは地球の自分の部屋で合い服の制服に袖を通していた。

久々に着る長袖は気持ちよくアイロンがかかっており、気持ちもシャキっとした。


 ベルガには数日後に迎えに来てもらうことになっている。それまでにカイは、学校の文化祭の準備を進めていた。

夏にあった体育祭は、アマゾンの事件や様々なことで疲れていたこともあり

自分はあまり陣頭指揮を取れず、というより運動音痴なカイは特に戦力にもならず

また体育祭委員がいるのでほとんどを任せていた。


「文化祭は委員長の器が試されている!」とカイは改めてスカートの皺を正し学校へと向かった。


「というわけで我がクラスは文化祭の出し物として “迷路と占いの館”をすることになりました」カイの発言にパラパラと拍手があり

男子は「なんで二つもやるんだよぉ」と言いつつ、力仕事は任されたっという顔をしており

女子は誰がどんな占いをするかでキャアキャアと騒いでいる。


カイは少し優しい顔で教室を見ていた。

昔は、自分はこの中へは入れていなかった。外側からこの光景を見ていたのだ。


 宇宙に行ってからは様々なことを急速に体験して、地球・そして学校というモノが自分にとっての意義はどれほどか? を考えた時、ただ単に、大事にしたい。そう思っていた。

「ここが私の本来の場所」、そして「スタート位置」だと納得すると、やはり大切に育てたい、とも思うようになった。


その日から文化祭の準備は始まり、カイも遅くまで残って手伝いや買い出しに行く。

「夏目さぁん! 委員長がいないんじゃ何処に何がいったかわかんないよぉ買い出しはいいから教室に残ってて~」と普段は話さない大人っぽい女子が声をかけてくれる。

「ありがとう、それじゃあこれお願いできますか?」と買い出しリストを渡すと、お洒落集団は「りょうかーい♪」と言って出て行った。

多分、外でお茶でもしてくるんだろうなと苦笑したが、もう以前のように頑なに取り締まる気持ちも消えていた。彼女たちには彼女たちの時間の使い方や配分があるのだ。


文化祭とはこういう色んな気持ちが重なってそれでも作られていくものなんだな、と感じた。文化祭は秋の半ばに開催する。



地球では学業と文化祭の準備。

そして、ここ宇宙ではカイは「祈りのむすめ」として仕事を任されていた。


今までは「祈りの女」とはカイに箔をつけるがための名ばかりの役職であった感が強かったが、先の事件で、宇宙を司る神子かみしの帰還があり、本格的にカイは、イヴとしてではなく

「祈りの女」としてこの宇宙の担い手になるよう指導が行われていた。


 大神殿、三姫や神子が宇宙戦士や皇族の前に姿を現す公の場である。

これは光合邸の奥にあり直属の警備を除いて、宇宙戦士より地位が低いものは立ち入れない。

そのどこまでも広い大広間の横手の部屋で、タクミとカイは静かに腰をおろしていた。


「この部屋は以前の祈りの女、つまり私の妹が祈りをささげる部屋として使用していたのですよ」と懐かしそうに話す。そして「これからはあなたの持ち部屋になります」と手をかざした。カイの掌とタクミの掌が合わさると両の手は淡く青く光りやがて何事もなかったかのように静まった。


「これでカイ殿はこの部屋に自由に出入りできる鍵を体内に宿しました」

なんだか胸のあたりが温かい。タクミは続けた。

「私が大地の母として、長い間この鍵を預かっていたのですがこれからはカイ殿にお任せします」と、少し寂しそうに、それでも肩の荷が下りたように言った。


「私は何をすればいいのでしょう」

“祈りの女”とはなんなのか。カイはほとんどその実態を知らない。


するとタクミは「あなたの命を削る作業です」とカイの目をハッキリと見てそう言ったのだ。カイは{ああ、妹さんはそれで亡くなったのだな}と何も言わず聞いた。


することはひたすらこの祈りの間で祈り続けること、そして宇宙戦士の武運を祈り

宇宙の平和を望むこと。宇宙の均衡が保たれることを願うこと。

それだけだが、最後にタクミがそっと添えた。

「カイ殿だから言いますけれども、この部屋には大昔にベルガの特殊な刀の力を封じた過去があります」カイはハッと顔を上げた。


ベルガから聞いた事がある「願いをかなえる剣、ナミ・ソフト」その剣の力がすでに封印されたことも。

「あの刀の力は今はもうこの部屋に飲み込まれていますが老婆神としてお聞きなさい、

この部屋に居る時は“あなたの願い”は決して祈ってはなりません。万人への祈りを込めるのです、良いですね? これは一朝一夕に出来る事ではありません、最初は緊張せず何も考えないことから始めましょう?」コクリ、と首を縦に振った。


タクミは

「まずは雑念を捨て、この部屋に長い時間いれるように毎日少しずつ慣れて行きましょう」

と、大神殿、反対隣にある自分の「大地の間」へと帰って行った。




「おかえり」

ベルガの屋敷へ帰ると庭で待っていたのだろうか、ベルガが豪華な花の柱に身体を預けて立っていた。

「ただいま帰りました」庭の方へと廻って上がる。


ベルガは何を言うわけでもなく花を無言で撫でている。

カイはしばしその絵になりすぎる出で立ちに見惚れていた。

「初仕事はどうだった?」ふいにベルガから言葉が飛んできた。

そうか、これが聞きたかったのか、と得心して

「私にはまだ難しそうです」と後ろ頭に手をあてて苦笑した。

「無理なら、タクミにそう言えよ」

小さいながらもしっかり聞こえたベルガの本音。

何か言おうとしたが「もう! タクミ様! 様をつけてくださいっ」とベルガを残して

先に屋敷の中へと入った。


背を向けるカイの顔はこっそりと紅潮していて先程小さく聞こえた声が自分への優しさだとひたむきに向けられていることを自覚した。


 翌日、カイはファンシーが目印の自室で文化祭用の作り花を作っていた。

その様子を興味深げにみたベルガが自分も作ると言ってさっきからカイのベッドの上で格闘していた。すると、MQRが二人に声をかけた。

「いま、公務の途中で光様が来られましてこれをカイ様に、とそのまま任務に戻られました」そう言って渡したのは宇宙語でなにやら書かれた紙である。

ベルガがそれを手に取り

「古物フェスティバルがまた別の村でやるみたいだな」と内容を読んでくれた。

以前に光とオルバとで行った事があった、フリーマーケットのようなものだ。

「わぁ! 行きたいです」と嬉しそうに言うとベルガは自分が作った紙の花をカイの頭に差し「そうだな、今回は息抜きにあたしも行こう」と、カイに添えられた花を見て「上出来」と言った。


 古物フェスティバルに向かうと珍しい顔に出くわした。

光の宇宙戦士・コロン・アート

アマゾンの事件のときには屋敷に身を寄せることになった水の中でも氷を好んで扱う宇宙戦士コロンである。

人一倍、口数が少なく、かと言えば人見知りと言うわけではなく逆に人が好きな分、影から観察していつも突然笑い出す、簡単にいえば変わった宇宙戦士だ。

宇宙戦士一の高い身長が目印で青い紅をさしたスッキリとしたクールな美人で、短い髪は先端部分だけがメデューサのようにところどころ反り返っている。


ベルガが「珍しいな!」と声をかけるとコクコク頷く。

どうやら古物フェスティバルが好きなようで開催されるたびに見に来ているらしい。


「コロンさん、アマゾン様の件の時はお屋敷をお借りしてすみませんでした」カイが改まってそう言うとコロンは珍しく「うん、コロンでいいよ」と大きな身長を利用して小さなカイを見下ろしながらちゃんと返事をした。


「そういう時は“屋敷を貸してくれてありがとう”でいいんじゃないかな♪」という声に皆が振り向くと光が任務明けで跳んで来たらしくいつの間にか一向に混ざっていた。

「光さん!」

「うーん! 光のことも呼び捨てでいいって言ってるのに~」と既に定着してしまっている自分の呼称に落胆しつつ

「カイちゃん、宇宙に来てから立て続けにおっきな事件起きてさぁこうやって一緒に遊べる機会がようやくやって来て嬉しい!!」と、カイにギュゥウ! と抱きついた。

そして、「本当に大変だったねぇ、でも正式なイヴ就任おめでとう♪」と頭をなでなでされる。こんな美少女に頭をなでられる自分がおかしくなってしまって

それでも嬉しくて「ありがとうございます」と笑顔で応えると光はちょっぴりその笑顔に見惚れて

「カイちゃん! いつの間にそんな可愛い笑顔が作れるように??!」とまた可愛いい~!! と抱き締めた。

「さては私の知らぬ間に誰かの毒牙にかかったののねえぇぇ! やーん! まだ少女の顔でいてー」とあることないこと叫んでいるとボカッと容赦ないげんこつが上から降って来た。

「お前、そんな騒いでたらここは女型だと隠してる意味ないじゃねぇか」とベルガからお叱りが飛んでくる。

「だぁいじょうぶだよぉ! こんなに賑わってるんだから」と口をブーブー言わせながら頭を押さえる恰好をした。

コロンはその様子を何気に面白そうに見ている。引っ込み思案の笑い上戸なのだ。


「あの、コロン? 手帳とかノートが売ってるお店ってもう何処かにありました?」カイがコロンの名を恐る恐る呼ぶとコロンはコクリと頷いて指をさして「こっちだった」と歩き始める。カイはそれに従った。

途中でメイク道具を広げている店を通った。女型が少ない宇宙では嗜好品として男型にも使われるのだろうか? 肌が真っ白なコロンはいつも青いルージュを引いている。宇宙戦士は普通の地球人では難しい色合いでもなんなく絵にしてしまう。

アメシャも黄色のルージュだった。自分も光合邸でメイクをしてもらった時淡いピンクのリップグロスをひいてもらったので気恥しくも、女の子はリップ一つで見違える、ということを体感していた。

お化粧自体に少し興味を持ったが校則でメイクは禁止なのですぐに忘れた。


 背の高いコロンの後についていて発見したことがあった。

「……ベルガって宇宙戦士では背が小さい方なんだ」


今までずっと一緒に居たのに意外と気付かない点であった。

なによりカイにとっては自分より背の高い人は皆同じに見える。

それでもベルガは他の宇宙戦士と並ぶとその迫力で何の違和感もなかったが

魔の宇宙戦士ではテナーより少し高いくらいで後は他の皆の方が高かった。今いるメンバーだとやはり光の方が小さいが。

「全員並ぶと、一番近いのはイザベルさんかな?」そんなことを考えていると本や装飾の素晴らしい手帳が並ぶお店の前でコロンが止まった。


「あ、わぁ! ありがとうございます」膝を折って商品の手帳を眺めている。

もちろん毎日つけている日記帳の新しいものを探しに来たのだ。カイにも多くはないがコツコツと「祈りの女」として出されるお給料的なものがありしっかりとその金貨を貯蓄していた。宇宙でのお金は金貨と言っても鉱石や宝石で出来ていた。見た目は物々交換のようなもので石で象られた硬貨か、磨かれた宝石をそのままお会計に出す。

光と後ろからやってきたベルガがカイのお財布を見て「結構貯まったなぁ」と笑った。


「もー恥ずかしいから見ないでください!」とお財布の中身を隠すと、光も見たがってベルガの背中に乗って覗いてきた。困ってるカイを面白そうに見ている宇宙戦士が三人。


 ベルガはそうそう、と珍しく宇宙の理について教えてくれた。

「なんとなく気付いてるかもしれないけど宇宙は全惑星の最先端技術を持ってる。

色んな惑星で発展した全てのことを大体技術では備えてるんだ。こういう金貨もそうだし、隕石タクシーも、屋敷だってそうだな。そういうのを模倣して宇宙で使いやすいようアレンジしてやり繰りしてる」

どちらかというと宇宙の方が文明は遅れているように見えるが本当はどのような技術も持っているという点で、宇宙は最適な文化まで後退しているのかもしれないな、とカイは納得した。


「ねぇベルガァ~あれ買ってー♪」

「自分で買えぇええ!」


さっきからベルガと光が続けている漫才風景に背の高いコロンが影で吹き出している。

手帳を買い求めた一行は陶器などが多く飾られている屋台に入り中を覗いていた。

ふとカイの目に古くて厚い本が飛び込んできた。


「これ……」手にとって中を見ようとすると

「お客人、それは買ってからのお楽しみだよ」と中は見せてくれなかった。

「ケチケチしやがって、別にいいじゃねぇか」とベルガが店の者に持っていた金貨をさり気なく出して渡した。

「あ、自分で出せますよ」と自分の持ち分から返そうとしたがベルガは受け取らなかった。


カイはその分厚い古びた装飾がすすをかぶっている本を帰るまで開かなかった。


 

 ベルガの屋敷に帰り、自室でその本を開くと、中には見たこともない字の羅列で何かが延々書かれており、それは最後のページまで埋まっていた。

「小説?」だが見た目にも手書きだった。

これまでの宇宙滞在で得た知識で考えると

「これ……宇宙文字じゃない、もっと象形文字に近い感じ」と背表紙を確認すると

何も書かれていない題字の下あたりにやはり簡単な形の文字が入っていた。場所的には巻数などが書かれているところであろうか?


 カイは翌日、隕石タクシーに乗り中国書店まで来ていた。

宇宙アンドロイドの司書に惑星言語の翻訳機を貸してもらいそれを宇宙語へと変換した。

どうやら小さな辺境の惑星の言語らしい。ただ宇宙語から日本語へは変換できなかったので

翻訳されたその本一冊分のデータを持ち。なんとなく、なんとなくベルガ邸ではなくそのまま遠出してB姉妹のいる森へ向かった。


「ナツメカイ~!!」

目ざとく森に入って来たカイを見つけて可愛らしい男型の姿をしたテナーが飛びついてきた。

「こんにちは、テナー」腕にくっついているテナーは既に弟のような感覚であり最初会った頃の印象など吹っ飛んでいて思い出しても笑ってしまう。

すると森の奥の洞窟を住処としているB・レディがどこからか葉摘みを終え、奥から出てきて「どうした?」と中に招きいれた。


 洞窟の中はほとんど手がつけられていない状態で以前にも来たことはあったが

やはり薄暗く、宇宙戦士の暮らしとは思えないほどの佇まいだったが、これを望んだのも、またB姉妹だった。

「この本、さっき中国書店で翻訳してもらったんですが宇宙語にしか翻訳できなくて……

なんて書いてあるかわかります?」


テナーは「通訳する!」と息荒く本を手に取ったがしばらく向き合ってからしょんぼりと肩を落としてカイに本を返した。


B・レディは本を見るまでもなくテナーにお茶を入れカイの方を向いて何でもない風にこう言った。

「我らは生まれたばかりでまだちゃんとした教育を受けていない」

カイはついついそのことを忘れていて咄嗟に謝ろうとしたが

B・レディがそれを制止し

「とはいえ、今光合邸できちんと学習しているところだ」と少し笑ったような気がした。

すると本を手に取りタイトルの無い表題を見てからカイに

「ここに一つ文字があるだろう」と聞いた。

先日カイが象形文字のようだ、と思った一文字だったので頷く。

「これは“前編”とか“最初の一冊”という意味だと思う」


テナーはすごおおいい!!! と感動した瞳で姉を見つめカイもなんだかお姉さんらしいB・レディが誇らしく見えた。


「“前編”……? 続きがあるということですね」と、パラパラと中のページをめくって素知らぬ文字に思いを馳せた。B・レディが淹れてくれたお茶を飲みながらひんやりと湿度の高い洞窟の中で身体を温めていると、ふとB・レディが不思議なことを言った。


「カイは、今度の光合邸で行われる会には来るのか?」定例会議の事かな? と思い

「えっと、祈りの女として参加すると思います」と少し気恥ずかしさを隠しきれずに答えた。自分はまだあの「祈りの女」の部屋に長時間いる事もままならぬのに……そう思ったから名前負けしていると思ったのだ。


「では、お前さえよかったら……我の相手をしてもらおう」と言ってカイのお茶を満たした。カイはなんの相手だろうか? と思いながら「私でお相手になるのなら」とハテナマークを語尾に付けながら笑顔した。



 ベルガの屋敷に帰るとベルガがいそいそとカイの帰りを待っていた。

「おまっ! こんな時間までどこ行ってたんだよ!」とツカツカと隕石タクシーをさっさと帰して詰め寄る。

「隕石タクシーなんか使わなくても連れてってやるのに」と少しむくれている。


カイは遅くなったことを謝罪してベルガが嫌っているB・レディの森へ行ったことはやんわり避けて

「これ! ベルガに買って貰った本! 翻訳したくて中国書店へ行っていました」と主な概要だけ伝えた。

「ああ、それな」とタイトルの無い本を見据えてから納得したのかしてないのかな様子で

それより……と言った様子で「ちょっとこっち来い」と待ちかねたように少し照れた様子で手招きした。


 カイがベルガの部屋に入るとブワッと目の前に色が一斉に広がった。

「わ……」


カイが見たものは部屋一面に広がったドレスの山だった。


「すごい……!」

どれも素晴らしい装飾やデザインでソファなどに造作もなく掛けられており

地面にはこれまた色とりどりの靴が並んでいる。

「素敵です!」と大歓声をあげると、ベルガもそうだろうそうだろう、と至極満足の顔で頷いた。

「で、ベルガはどれを着て行くんですか?」の弾んだ一言でズザザザザとベルガが倒れ込んだ。ムクリと起き上がり

「お前のだぁぁあ!」と叫ばれて

へっ?! と声が裏返った。

「わ、私のですか?!」慌てて混乱した顔が真っ赤になるも

「でもなんでドレス?」と真っ当な質問を投げかけるとベルガがコホン、と一呼吸置いてから

「今度光合邸でダンスパーティーがある、まぁあたしはいつも適当にサボるんだがカイは行ったことなかったろう? 連れてってやる!」と顔をポリポリと掻きながら偉そうにそう言ったので一瞬ダンスパーティーという名前に怯みつつも、ベルガがエスコートしてくれると約束してくれたような台詞だったので安心して胸が温かくなった。

そして次の瞬間には今日B・レディが言った「次の会には来るのか?」の意味が=ダンスパーティーの相手のお誘いだった事に綺麗に、綺麗過ぎるほどに繋がって

顔が真っ青になった。


本で真っ青な顔を隠しながら「ベルガ……」と声を出す。

まだ一人で照れているベルガがカイの様子に全然気付かずにそっぽ向いたまま

「おうっ好きなドレスを選べ! 気に入るのがなかったら仕立て屋を呼んでやる」と嬉しさが隠せてない具合で言うと返ってきた言葉はとんでもないものだった。

「ごめんなさいいーーーーー!!」


ベルガの目が点になって口が空いたまま呆気にとられてる間に一気に今日B・レディの森へ行ってた事、ダンスパーティーとは知らずに相手役を承諾してしまった事などを怒涛の勢いで白状した。

だんだんベルガの機嫌が悪くなるのを肌で察しながら一通りの吐露を終えるとベルガがつまらなそうに「別にそれは構わん」とつっけんどんに言ってドレスを一着取った。

「あたしは“ドレスを選べ”と言っただけだしな」と突き放すように言ったので

カイも自分の勘違い具合に真っ赤になって

「そ、そうでした! すみません!」とギクシャクしながら部屋の隅に行き

一着ずつドレスを見て廻る振りをして、すごく深く後悔した。


{私ったら一人で勘違いして……恥ずかしい}


 ドレスの試着はMQRが手伝ってくれたが意外にも誰よりも熱心にドレスを選んでくれたのはなんだかんだ言ってベルガだった。


「お前はいつもモールが作った茜色の上着を羽織ってるからもっと可愛らしい色にしよう! お披露目の席での着物が深緑だったからな……カイは色も白いし大丈夫だろう、おい!  イエローのドレスを持ってこい」

「足が出る長さにドレスを切ってくれ」

「ヒールは7センチだ、歩けるか?」

「このパールは実に地球らしくてカイにピッタリだな、アクセントにつけるといい」

「髪は短いからな、サイドだけあげてやれ。そうだ、そのパールだ」


あれよこれよと自分を人形として当日用に着用するドレスや装飾品がセットアップされていった。


{ベルガは以前、自分の正装の時は全然感心なさそうだったのに……}

と、MQRが必死の体でベルガのブーツを選んでいたのを思い出して可笑しくなった。


「あの……」少し後ろめたさを残してベルガに声をかけると表情を察したのか

いつものようにニヤリと笑い

「まぁ! カイは化粧映えする顔だからな! 大丈夫だよ」と笑いながら他の準備に走って行った。

「……化粧映え? 貧相な顔ってことかな……」と何気に頬を膨らませると

手元にスッとMQRが手鏡を差し出して見せた。


「そんなことございませんわ♪ ご主人様はそれはもうダンスパーティーが決まってからドレス集めに奔走されてました♪ 楽しみにされてたのですから! 照れ隠しですわ♪ きっと皆様にご自分のイヴ様を見せびらかしたいのですわ」と微笑ましくも、二人の会話を聞いていなかったMQRがこっそりと付け加えた。


{ああ……やっぱり少なくとも一緒に行くことを楽しみにしてくれてたのだな}と小さくMQRに頷いた。


そんな折に届いた報せだった。

光合邸から一通の書面が寄越された。

その内容にベルガもカイも戸惑った。



〈祈りの女である夏目カイ殿に、光合邸への移住を命ずる〉



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