世界を二度救う? その5

「だー! ヤバいぜこれ」


 ガレットとサズがそんな特殊な吟遊詩人と出会っている頃、この地下都市の調査に勤しむカルデア、リミカ、ジアンの三人は郊外と言う街外れにいた。


「そこら中に魔法や魔導の気配が一切合切ない。真面目に科学のみで繁栄してやがるぜ」

「もう、なんで地下都市まで来てこんな歩かなきゃいけないんですか。私休みたいー」

「ジアン。もう諦めた方が身のためですよ。黙ってカルデアさんについて行けばいいのですよ」

「リミカはこのおっさんの腰巾着か何かかよー」

「悪態をつくのならせめて、気力を出して言ってください。反応に困ります」

「お前ら。くっちゃべってる余裕があったらとっとと手伝え!」

「へーい」

「すみません。ほらジアン手伝いますよ」


 ジアンはだるっと返事をした後、これまただるっとカルデアの近くに行き、リミカと共にカルデアの手伝いをする。

 今回の調査は、あくまでも簡易的なもの。調査をメインに地下都市に来たわけではないので至極簡単な事しかできない。

 地表を覆っている灰色の固い物質は何か? 本当に電気が全体的に使われているのか。そして魔法や魔導の類は本当に一切合切使われてはいないのか? 

 その程度しかわからないだろう。

 しかし、それでも今の魔法や魔導で繁栄している人類史の常識を軽く塗り替えることだろう。そんな簡易的な発見ですら今の世にとってはそれほどに重要なのだ。


「ここら一体、調べれば調べるほどに科学のみで繁栄しているってことがわかる」

「なら、もうそれでいいじゃないですかー。私は早くショッピングモールに行って個人的なお買い物がしたいんです―」

「…ジアン。我慢することで時に、自分自身を磨くことができるのですよ」

「……リミカも行きたいんじゃん」

「そ、そんなことはっ。決して…」

「無いわけじゃないんでしょ」


 リミカがジアンの問いかけに困っているとカルデアが急に動きを止め絶句した。


「……マジ、かぁ」


 そのカルデアの様子にジアンとリミカもさすがに気になったようでカルデアの向く方へ目線をやってみる。

 すると二人もカルデアと同じように衝撃が隠せなかった。


「…おっさん。私こんなの、物語とかでしか見たことがないですよ」

「……これはさすがに。禁忌が過ぎる気がします」

「あぁ。二人の言う通りだよ。これは物語の中でのみ存在が許されて、魔法や魔導で繁栄している現在の人類史上には決して登場してはいけない代物だ」


 それは、科学で人類が繁栄したころに完成しかけた俗物。物語の中では頻繁に登場に様々な年代の人に夢と希望を与えた空想上の移動手段を実現する俗物。

 ワープ装置。


「コレはさすがに手が余り過ぎるぜ、おい。あいつらを一度呼んだ方がよさそうだな」


 カルデアはそう言って、手を額の横辺りに当て目を閉じる。


《聞こえるか。お前ら》


 唐突に聞こえてきたカルデアの声に一瞬驚くがすぐに対応する四人。


《ばっちりですよ。カルデアさん》

《こっちもオーケーだ》

《あ、ボクも聞こえました》

《え? もしかして意思疎通的な何か》

《…よし。聞こえているな。なら、今すぐ俺のいる場所へ来てくれ。場所は各自脳内へ送りつける》


 そう頭に語りかけた後、一方的に終了し、自分たちがいる場所を各自四人の脳内へ送る。


「…なるほど。行くか、サズ」

「はい!」


 ガレットとサズは脳内に場所のイメージのような地図を受け取るとすぐに走って向かう。


「え? いきなり黙り込んだと思ったら今度は走りだすのかい? 私もまざてくれよー」


 二人は急ぐあまりに後ろからミラが満面な笑みで追いかけてきていることはまったくもって気づいていなかった。

 そして、同時にバレットとスイも脳内へ地図が送られていた。


「……ねぇ、パパ」

「どうしたんです?」

「この地図の最終地点。到着ポイントなんだけど、今まさに私がパパを連れていこうとした場所」

「それは本当なのですか」

「うん。本当」


 スイはバレットの目を直視して決してぶれることはない。何一つ嘘をついていない真実を語る者の目だ。


「…なら、ガレットさんとサズを呼びに行く手間が省けましたね。きっとガレットさんたちも僕達のように脳内へ直接、地図を送られてその場所へと向かっているはずですから。急ぎましょう」

「うん」


 スイとバレットは二人仲良く走り、目的の場所へと向かった。


「おーい」

「来てやったぜ」


 最初にカルデア達のところへ着いたのはガレット達だった。

 息は切れしていないが汗を少しだけかいている。


「まったく、急に走りだしたと思ったら。なんだい、この場所は」


 そのミラの一言にガレットとサズは全身全霊を込めて振り返る。

 するとどうだろうか。二人は置いてきたとばかり思っていたミラが汗ひとつかいていない状態で後ろにいた。しかも、サズはまだしも少しつらそうな顔のガレットとは対極にミラは涼しげな顔でたっている。


「……なんで…いるんだよ」

「なんでって言われても。私はここにいるからいる!」

「…マジかよ、おい」


 サズは謎の衝撃のあまり声を発せなくなっていたがガレットが代わりに疑問をミラに聞いてくれたので声を出す必要もなかった。

 しかしそんなことはどうでもよく。今、一番状況が解らずにいるのはずっと、ここにいたカルデア、ジアン、リミカの三人であった。


「ところでガレット。そいつ誰だ」


 カルデアのその質問になんて答えてわからないガレット。

 考えている途中に目線でサズに助けを求めるも全力を持って目線をそらされたので、嘘も方便もいい所。ガレットは今、思いついたことを、ちらっとミラを見てカルデアに言った。


「こいつは、ミラカスファ・ローゼス。…俺たちの仲間になりたいんだとさ」

「ほへ?」

「ほう。そんで、そいつの職業はなんなんだ」

「……吟遊詩人だそうだ」


 とんとん拍子で進むガレットとカルデアの会話に自分の話題が上がっているのはわかるが一体、どうなっているのかがいまいちよく理解ができないミラ。

 そんな何とも言えないタイミングでガレットとスイが合流する。


「すみません。人ごみの中にいたものですから」


 バレットが来ればガレットが、丁度良いとバレットを手招きし近くまで呼びミラを紹介する。


「拾ってきた新しい仲間だ」


 ミラはこの時思った。目の前にいるおっさん三人は確実に只者ではないと。少なくとも自分の分かる範囲でのみだがオーラが違うとか雰囲気が違うとか。そんな曖昧なものではなく、立ち姿が違った。

 彼らと一緒にいる、若い三人はやはり経験不足からか油断と隙しかない立ち方。もう一人の刀を持った若い女性は最早何も感じ取れないので比べることすらもないのだが。

 とにかくだ。ミラはとんでもない人に声をかけてしまったと今更ながらに気付いた。

 むしろ、ガレットとサズに会った時にわからなかったことが不思議でならなかった。


「あ、どうも。ミラカスファ・ローゼンです。よろしくお願いいたします」

「…おい。さっきとは、えれー違いじゃねぇか。あん? もしかして俺とサズのことを馬鹿にしてんじゃ」

「いえいえ。何をおっしゃいますの、ガレット老」


 まるで花畑の中にいる美少女のようなその佇まい。さっきまでとは別人と疑いたくなるようなミラの態度と佇まいはガレットとサズにとんでもない不気味さを与えた。

 しかし、ミラにとってそれはただのネコの皮。保っていられたとしても一瞬だった。


「かぁー、私には無理だわ」

「おま、急にまた」

「あはは。すみません。なんかつい」


 ミラは笑ってごまかすが、その実、ガレット、カルデア、バレットの三人のオーラに怖気ついたのだった。


「なかなかどうして愉快なやつが仲間になったな。あ、俺はカルデア・ルイザムだ。よろしくな」

「僕は、バレット・ルグドラムです。よろしくお願いしますね」

「んで、俺はガレット・ローアンだ。名前まだ言ってなかったな。よろしく」

「えっと、ボクの名前はサズ・フレン」

「えー、自己紹介とかべつにさー」

「ジアン。ちゃんとしなさい」

「はーい。わーしは、ジアン・ラリティアでーす」

「私は、リミカ・神代・スグトゥーワと申します」

「私は、バレットパパの娘でスイ・鋳薔薇だよ」


 ミラは前者三人の自己紹介で驚愕し、後者四人の自己紹介など頭に入っていなかった。

 自分の感じたあのオーラは本物だったのだ。それもそうだ。なにせミラの目の前には生きる伝説が勢ぞろい。学校の教科者にもその偉大さが載っているほどだ。


「が、ガレット? バレット? カルデア? ほん、もの」


 震えながら恐る恐る指をさすミラ。

 その様子を見てサズ、リミカ、ジアンは苦笑いをする。


「まぁ、確かにそうなりますよね」

「やっぱすごいんだね。なんかまだ旅、初めて数時間だけど私にはこのおっさん達の偉大さが薄れている気がするんだけどね」

「一緒にいると何とやらですが。ジアンは早すぎですよ。本来はミラカスファさんの反応が正しいのですよ。…見た瞬間にわからなかったのはちょっとアレですが」

「流石の私でもわかったからね」


 対してガレット、バレット、カルデアの三人は困ったように笑っていた。


「また、この反応かよ。こいつら三人はそんな反応しなかったから逆にうれしいと言うか。…今さっきの出来事がなければ素直に喜べたんだろうな」

「一体、何があったんですか」

「確かに。それは気になる」


 ガレットはため息を一度つき、ミラとの出合った時のことを話した。

 そして、話終われば自然とその場にいたサズと話し手のガレット以外は笑いをこらえるのに必死になっていた。


「ちょっ、皆さん。お腹をっ、か、く、かっ、えて」

「おま、ひとのこ、いえ、ねぇ、だ」

「り、リミ、カ。わ、笑いたけ、ればど、どうどうと」

「な、なにを、そ、そ、な、も、もうげっ」

「まさかお前らのツボにそんなにハマるとはな。予想外にもほどがあるぜ」

「さすがに僕も」

「……私一体どう反応したら」


 それから数分の間、笑いがおさまるまでただ腹を抱える四人。


「ふー。やっとおさまった」

「案外長かったな」

「すまん。ついな。でも、おかげで最近のストレスが吹き飛んだわ」

「よし、なら。とっととそのさっきから目の前にドデカく構えてるその機械っぽいやつの説明をしてもらうか」

「そうですね。僕もそれは個人的にですがすごく気になります」


 笑いがおさまり、カルデアは目の前にあるワープ装置の説明を始める。

 その表情に一切のふざけなどなく真剣そのもの。


「これは、ワープ装置だ。わかりやすく言えば、魔導で言う瞬間移動を魔導力を使わずこの機械でできるって装置だ。今の人類史じゃなくて旧人類史。まぁ、旧文明の化学がピークに達した時に作られた代物だと理解したが実際には何時つくられたかはわからん。んでだ、魔導での瞬間移動はある程度の距離制限があるのに対し、こいつは距離なんか関係なく移動できる。移動先には多少の誤差を生んで、ついてしまうが距離が無制限ってことは少なくとも、現段階では魔導より上だ」


 カルデアのその言葉にその場にいた全員が驚愕する。

 完全完璧。そんな言葉が似合う魔導や魔法。その上を行くとカルデアは言った。

 旧時代の遺産が今、この一秒という時間が流れて進化を続ける現時代の魔導や魔法が進化の時が止まった科学に負ける。

 それが今を生きる魔導師の中で最高の地位を持つカルデアの口からきいてしまったのだ。認めざるを得ない。

 化学が魔導や魔法よりも格上だということを。


「おっさん。それ本気で言っているんだね」


 ジアンが一際険しい顔でカルデアに再確認の意味も込めて尋ねる。


「…あぁ。認めたくはないが遥かに上だ」

「そうですか。そうですか。そうですか」


 ジアンは無理矢理納得したように自分に言い聞かせる。

 魔導や魔法より化学が上だと。


「なら、仕方ないですね。…まったく。魔法や魔導が旧文明の化学より優れているなんて大きな嘘っぱちだったんですね。あーあ。なんか残念でなりませんよー」


 ジアンが無理矢理納得したのを隠すようにおどける。

 そんなジアンの様子を見て驚いていた他の全員も納得し言い聞かせる。


「カルデアさん」

「わーってるよ」


 バレットはカルデアの名を呼びただ見つめる。

 しかし、その瞳にはカルデアに訴えかける何かがあった。それを読み取り理解したカルデアはすぐに行動する。


「…なぁ、ジアン」

「な、なんですか!? この期に及んでセクハラですか? セクシャルハラスメントですか? ジジィの特権とか言っちゃうんですか?」


 言葉ではいつも通りのジアン。

 ただ、その場にいる全員には背を向けてまま。

 そんなジアンの肩に、そっと手を置くカルデア。その優しさはまるで本物の父親のように。母親にはない確かな力強さを感じさせてくれる温かく優しい手。


「今回のこのワープ措置で発見は今の文明の常識を変える代物だ。この時代に生きる誰しもが科学よりも魔法や魔導が優れていると思っている。ただ今回のことでわかったのがそんなのはただの偽り。多分だが、この事実を知っている奴が少なくともユーカライズ朝にいるはずだ。もし、この仕事を無傷で終えたら、そいつについて一緒に調べようぜ。な? 少しはジジィの余生の楽しみに付き合ってくれや? そして、そいつにいってやろうじゃねぇか。魔法や魔導の方が夢ある最高の奇跡だと」


 カルデアのその言葉に懐柔されたのか、ジアンが顔を向けないままカルデアに言う。


「…あったりまえじゃないですか。な、なにうぃあた、り、まえな事、言ってるんですか」


 ジアンがどんな状況で声を出しているのが解る。

 泣いている。それもひどく泣いている。


「あ、でもよ。今回だけはこのワープ装置使いたいんだけどいいか?」


 そのカルデアの言葉に誰しもが凍りつき、思う。

 それは今、言っちゃぁいけない。と。


「……べ、別に私の許可なんて必要ないでしょ? 老害が調子のらないでください」


 しかし、ジアンは怒ったりもせず、振り向きながら言った。

 その目には急いで拭き取ったのであろう涙が残り、目元が少し紅くなっている。


「…そうだな」


 カルデアは普段とは少し違った様子で言う。

 そんな時にカルデアはふと、あることを思いだした。

 それは二年程前のこと。カルデアがユーカライズ朝の中心地を歩いている時、ある噂を耳にした。

 旧文明を死ぬほど憎んでいる珍しい魔導師がいる。

 たまたま街を歩いている時に聞いた、他愛もない噂話。そもそも、この時代に生まれて旧文明にまったくもって触れるような環境にないこの治世に旧文明など憎むのか? カルデアはその噂を聞き、少し考えたがどうしても理解ができずにそのまま時が流れるように忘れていった。

 そしてそれからさらに一年と半年後。今度はユーカライズ王朝の皇、リズマレットやその他重鎮たちが騒いでいる時に噂を聞いた。

 四百年も続いた魔導の名門家が一年も前に滅んでいた。

 その名門家には一人娘もいてその才覚は同世代の誰よりも優れており、他を魅了する圧倒的なセンスがあったと。

 しかし、名門家の当代や御隠居やその妻たちの死体は見つかりはしたがその娘の死体のみが見つからなかった。いつしか、そんな状況を聞いた一般の人たちは娘が家を滅ぼしたのではないかと、言うまでになった。

 そして、娘の死体はとうとう見つかることなく足取りもつかめないまま。時が流れ、今この瞬間。カルデアは、あることに気付く。


「……なるほどな」


 その当時の娘の歳は確か十九か二十。綺麗よりも可愛い。マイペースで自身が名家の生まれだからといって決して気取らず奢らず、できた娘。ただ、少し口のきき方が雑であったという。

 それに何故、忘れていたのだろうかと今更に思う。

 その名家の名はラリティア家。


「…なんですか? 早くワープ装置起動させないんですか? 何、さっきから私のこと見つめちゃってるんですか? なんですかその根目回すようなきたねぇ目は」


 そんな強がりを言っているジアンの頭にぽんと、手を置くカルデア。


「は?」

「頑張ってんだな」


 そのカルデアの声はジアンにしか聞こえない小さな声。


「……今更ですか」


 そう言いつつもジアンの表情は緩みにゆるんで笑みがこぼれていた。


「あの二人ってできてるんですか?」


 そんな二人を見てミラは尋ねた。


「確かに。私も気になる」


 スイもミラの質問に同意意見の様で尋ねる。


「うーん? どうだろうな。でも少なくとも、今のあいつ等にはそんなつまらん感情はないと思うぞ」

「そうですね。言うなら、師弟愛と言ったところですかね」


 そう言ったガレットとバレットは何かを悟ったようにカルデアとジアンを見ていた。


「…テメェら何見てんだ」


 全員の視線にやっと気づいたカルデアが照れくさそうに言う。


「まるでドラマみたいな師弟愛」

「花も恥じらう師弟愛」


 ミラとスイがニタニタと笑いながらからかうように言う。

 そんなことを言われては、恥ずかしくてたまらないのだろう。ジアンとカルデアは顔を紅くしてしまう。


「てか、もう師弟愛は見たからさ。そろそろ起動しないのか、それ」

「そうですね。綺麗な師弟愛を見ていたいのも山々なのですが、僕達には時間がありませんからね。少し、急ぎ目で」


 ガレットとバレットが誰も言えなかったことを代弁する。


「…あぁ、そ、そうだな」


 言われたカルデアは少し焦りながら言う。

 そして、ワープ装置の土台についてあった起動スイッチを押す。

 すると、ワープ装置がドゴゴゴッと、とてつもない騒音を響かせながら動き始めた。


「これが旧文明の遺産」

「まさかこの目で見れる日が来るとは。感激です」


 サズとリミカは感無量になる。

 この時代に科学類を目にするのは極めて希な事であり平穏無事に生活を送っていれば一生目にすることもない。

 ただの教科書に載っているだけの存在。

 物語の中のファンタジーと同じだ。


「サズとリミカは初めて見ましたか。確か、スイは僕とたまに出かけた冒険ごっこの時に何回か見ているはずですよね。こんなにでかくはないですけど」

「あぁ、確かに。パパとの冒険ごっこの時に見たことある。えっと、テレビジョンとかだっけ」

「え? そこな和風美女もなにか特別なの」


 スイがさらっと、とてつもないことを言うのでミラがつい大袈裟に反応してしまう。


「あぁ、お前はまだ知らなかったよな。そこのお前の言う和風美女はそこのバレットの娘的ポジションにいる。昔、一緒に暮らしてたんだよ」

「なるほどですね。それは確かに普通に生きられないわけだ」


 ガレットの説明に、うんうん、と一人納得するミラ。

 しかし、ミラはスイの自己紹介の時にはっきり聞いているはずだった。スイがバレットをパパと呼んでいるところを。

 天然なのか、ただのあの衝撃で本当に聞こえていなかったのか。ガレットはあえてそこには触れないようにした。


「なんだろう。私、物凄く失礼なことを言われた気がするんだけど」

「おっしゃ。いい感じだな。テメェら、ごちゃごちゃ話してないでそろそろ覚悟決めとけよ。一応、座標は採掘場にしてはあるが、どこに飛ばされるかわからねぇ。もしかしたら全員バラバラの場所に飛ばされるかもしれねぇ。だから覚悟はしとけ。それか二人一組で手をつないでこのゲートに入った方がいいかもな」


 目の前のワープ装置は、さっきまでは向こう側の壁のようなものが見えていたのに、起動させてからは薄紫のような膜が張られた。

 ゲート型のワープ装置はそれだけでとてつもない不気味さを感じさせる。


「その方がいいかもですね」

「じゃ、私、パパとー」

「はいはい。わかりましたから」

「お、バレットがとられたか。んじゃ、俺はどうすっかなー」

「なに言ってんの? わ・た・し、がいるだろー? おう、おう」

「それじゃ、ボクは誰と」

「私でよければ」

「じゃ、残りもんの二人で組むか」

「おっさんと手をつないで加齢臭がうつったら。…私もう生きていけないかも」


 まるで親子にしか見えないスイとバレットペア。

 最強と謎のミラとガレットペア。

 若さが売りの少数部族同士のリミカとサズペア。

 天才魔導師のジアンとカルデアペア。

 それぞれが覚悟を決め、手を取り合う。その手を決して離さないように。


「よっしゃ、入るぞ!」


 カルデアの一声で全員が一歩前へ踏み出す。

 そしてそのままゲートの中へと入って行く。

 どこへつながっているかはわかってはいるが必ずしも全ペアが同じ場所へ行けるわけではない。

 そう、例えば全ペアが同じ場所に着く可能性だって大いにある。その逆に全ペアがばらばらな位置へ飛ばされることだって大いにある。

 ただ、不幸中の幸いかワープ装置はランダムに飛ばさない。

 座標に誤差を生み出すだけ。

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