世界を二度救う? その3
サズは何も言えなかった。
サズにとっては、ガレットもバレットも同じく伝説。ついでに言えばカルデアも。そんなバレットが、そしてよく見ればカルデアまでもがガレットのそれに見惚れていた。上には上がいると聞くが、はたしてガレットの上には誰かがいるのだろうか?
「おーい。ちょっくらヤバいもん見えちまったんだけど」
全員がガレットのその勇姿に見惚れているとガレットは苦笑いをしながら戻ってきた。
「…ヤバいものですか?」
「なんだぁ。まさか魔族の大群がこっちに向かってきてるとか。しかもその魔族たちは半分ぐらいが中級とかか? 過去にそんなことはあったがまさか今回もない……よな?」
笑いながらジョークのつもりで言ったカルデアだったがガレットの顔色がどんどんと変わっていくのを見て、笑えなくなる。
「なぁ、カルデア。フラグって言葉知ってるか?」
「あ、あぁ。旧文明の人類が創りだした言葉だろ。確か、ある特定のその言葉を言ってしまうと未来に起きることが決まってしまうって言う、あれか」
「それだ。そしてカルデアは今、そのフラグを完全にたててしまった」
カルデアの右肩にガレットが手を乗せ、諦めたかのように言う。
「おい、まさか……」
「はっはっは! ご明察だ! ……すぐそこに来てた」
ガレットが親指で後ろをさすと、タイミングを合わせたかのように、ドドドッ、と地鳴りのような音が聞こえてきた。
「少し派手にやり過ぎてしまいましたかね。もう、ガレットさん」
「え!? 俺だけのせいなのか」
「強すぎるからいけないのですよ。まったく、ここからは僕がやりますから」
バレットは何故か笑いながらガレットに言う。
「おいおい、オレも交ぜろよ。まだ暴れたりねぇって」
「今はガレットさんがいいところを見せたのです。次に僕がいいところを魅せなくて何が勇者ですか」
バレットのその言葉を聞いたガレットは駄々をこねるのをやめ、文句を言うのをやめ、静かになり一言だけ言う。
「…今度は中級もいるからよ。…バレット・ルグドラム」
「えぇ、勿論ですとも。…ガレット・ローアン」
バレットが一人、その場にいる全員に背を向けるように前を出る。
「行って来い!」
「…ウィ」
ガレットに背を力いっぱい押されバレットは一人、魔族たちの群れに立ち向かう。
「ガレットさん! バレットさんは一人でその、大丈夫なんですか」
サズがガレットとカルデアに尋ねた。
すると二人は鼻で笑いそろって一言、言い放った。
「「アイツは、ゼッテー死なねぇよ」」
尋ねたサズ以外にもジアン、リミカもきょとんとしてわからない様子だった。
「バレットは下手したらオレ以上に強いぜ」
ガレットに続けてカルデアも言う。
「あぁ。この時代にガレットが居たからこそ英雄にはなれなかったが、生まれてくる時代が、もう少し後だったら間違いなくバレットは、英雄になってる奴だよ」
ガレットとカルデアにそんなに褒めちぎられているなんて知らないバレットは既に魔族の群れの前に着いていた。
「…ふぅ。この光景、結構トラウマなのですが」
手に持っていた剣を一振り。
「貴方達がこうやって、迫ってきているのです。…始末しなきゃいけないですね」
目の前にいた筒状の浮遊スライム一体に要塞岩と呼ばれる硬度が測定不能な硬さを誇る岩を纏ったゴーレムを三体、そして雪をある程度操れるスノーガールと呼ばれる中級魔族を一体。音もなく斬り消した。
そんなバレットは何故かニコッと笑っている。
「…さぁ、始めます」
バレットの剣は、もっともポピュラーな形状をしている。特に豪華に金を使っているわけでもない。ただの剣。
しかし、その剣は長年の戦時下をバレットと共に潜り抜けてきたのが解るように異様なまでに物静かで不気味なくらいに美しかった。
見た目はただの剣。
しかしその剣は、人類史上最も魔族を斬ってきた剣。今となっては様々な二つ名がつくが、よく言われる名称、それは、
神聖剣・ゼオレジオン
現在存在する数多の剣の中で最も恐れられるも、神格化もされる程に人々の間に知れ渡っている剣。
「ほら、こっちですよ」
バレットは次々に魔族を蹴り消していく。
スライム、ゴーレム、ミニドラゴン、見た目はまるで人間のようなミラーヒューマンなど、ガレット見たく派手ではないが確実に迅速に斬っていく。
「少ない。弱い。…貴方達は本当に魔族ですか? 弱すぎです」
今、バレットの目の前には最初にいた魔族の数の半数以下にまで減少した。
バレットの斬り消した数は既に四百を軽く超えている。
しかし、バレットの体には返り血などは一切ついておらず、血がついているのは剣と地面のみ。
「…さぁ、ラストスパートです」
バレットは静かに剣を振り翳し始めた。
その頃、バレット以外の全員が集まっている場所ではガレットとカルデアがのんびりとサズ、ジアン、リミカの三人はそれぞれ違うことをしながら待っていた。
「バレットにしちゃ、おせーな」
「そりゃな。もう何年も魔族とやってねぇんだぜ? バレットは人を殺したくはないとの理由で戦争には加担しなかったしな。それを考えりゃ、後少し時間がかかっても何もおかしかねぇだろ? 違うか」
「そりゃそうだ。しかもそれに加えて、バレットとオレたちゃもう立派にジジィだしな」
「年齢的にはな。身体能力的にはテメェは立派にまだ若いままだよ」
「魔導力に関してはテメェも若いよな」
がはは、と豪快に笑うガレットとカルデア。
「バレットさん。本当に大丈夫なのかな」
「心配する気持ちは痛み入るほどに理解できますが、あの勇者バレット様です。大丈夫ですよ。きっと」
「んだよー。私なんてそもそも心配してないし」
「ジアンさんはもう少し、人に対しての配慮を身につけた方がよろしいかと」
「あっら、失礼しちゃうわね。あ、そうそう知っていましたこと、よく人が使う“方”って言い方、間違っているのよ」
ジアンはリミカに言われたことが癇に障ったのか仕返しとばかりにウザい奥様口調で言い返す。
「おい、お前ら。はしゃぎすぎるのも程々にな」
「そうだぞ。流石のバレットもそろそろ帰ってくるからよ」
ガレットとカルデアはジアンとリミカを苦笑いをしながら見つつ、注意を促した。
「…お、ほら、勇者様のご帰還だ」
ガレットが正面を向くとそこには笑顔のバレットが向かって歩いてくるのが見えた。
「遅くなりました。予想より魔族の数が多くて」
「充分に速い、速い」
「そうですかね? まぁ、魔族は消しましたし先に進みましょう」
「お前、休まなくていいのか」
「大丈夫ですよ。これぐらい。肩慣らしにもならなかったですし」
「そうか。じゃ、行きますかね」
サズ、ジアン、リミカはバレットの会話中の言葉を聞いて驚く。
あの地鳴りのような足音を響かせるには相当な数の魔族が居たはずなのに。少なくとも千はいたはず。
それを肩慣らしにもならないと言った。
一体、バレットは今までの人生でどれだけの魔族を斬ってきたのだろうか。
「おい、お前らも行くぞ」
カルデアが驚くあまり、その場にずっと立っていた三人に声をかける。
「よっしゃ、ようやくだ。ようやく前に進める」
「そうですね。まだ城壁を潜り抜けてこのエリアに来てから先に進めてはいませんでしたからね」
「あぁ、そうだったな」
「よし、行くぞ!」
ガレットが士気高々に声をあげ全員に気合いと緊張をしっかり持たせ、前へ歩き出した。
「なぁ。なぁ、なぁ」
「なんですかガレットさん。うるさいですよ」
「あぁ、まったくだ。ノイズを発生させるんじゃねぇよ、ガレット」
「だってよー。採掘場は遠いって皇、リズマレットから聞いてたから、まぁ、遠いなって思うけどよー」
「あぁ、村のことですか」
ガレット達はかれこれあれから四時間は歩いている。
途中、手を付けていない管理区外のこの草原エリアでは休憩場があるはずもなくただ歩き続けていた。
しかし、草原エリアにも人は住んでいる。
かつて、ユーカライズが世界統一を成したときに、人々が皆、賛同したわけではない。反発した人々もいた。その人々はユーカライズ朝が、ユーカライズに反する民は民に非ず、としてこの草原エリアに最低限の食料と水のみを与え、追放した。そして、草原エリアに追放された人が集まってできた集落のようなものが、村、と呼ばれるようになった。
これについて、ユーカライズ朝は完全に黙認しており村人たちはのびのびと暮らしている。
「さすがになさすぎないか?」
「まぁ、十年も前に見たきりですからね。それに、魔族がここまで来ていたんです。滅びていたって何の不思議もないでしょ」
「オレはバレットやカルデアみたいに頭よくねぇからよ。よくはわからないが、村は魔族によって崩壊され、村人は皆殺しか人質かにされたってことか?」
「そのガレットさんの推測ですと、ここまで上級かそれ以上の魔族が攻め込んできているってことになりますよ。知能はあっても中級は精々、我々人類の六歳にも満たない知能しか持ち合わせていないから人質なんて捕ろうと思いませんからね」
「だな。やって精々、村全焼だろ」
ガレット、バレット、カルデアが村についての憶測を話し合っているのに対して、前へ率先して歩いているジアン、リミカ、サズの三人は和気藹々と多少のピクニック気分を織り交ぜながら話し合っていた。
「なんか、ずっと草ばっかり」
「草原エリアって名称がつくぐらいですから」
「しかし、このエリアは手付かずと聞いていたのですが。…長い草などを見ない限りでは手入れはされていた様子ですね」
「なんか魔族も出てこないし、冒険感ぜーろー」
「平和が一番ですよ、ジアンさん」
「そうですね。魔族など下劣な下等生物を視認する回数は、できるだけ少なくしたいです」
「え? もしかして巫女って、魔族苦手?」
「苦手ではありません。ただ、吐き気を用うすだけです。それも我慢できる程度ですから何の支障にもなりませんから」
「なーんだ」
そんな時だった。
完全に油断をし切ったジアンが地面から出ていた謎の輪っかに足を捕られ大胆に前のめりになりながら転ぶ。
「…っー」
急にジアンが転んだので全員が一度に警戒態勢に入るが、周りに魔族らしき姿かたちはなく、警戒を解けばジアンの心配をする。
「大丈夫ですか? 魔族はいなかったようですが」
「おいおい。魔導師が何やってんだ」
「だ、大丈夫ですか? ジアンさん」
「日頃の行いの積み重ねです。反省しなさい」
「ほら、立てっか」
ガレットがジアンに手を差し出せば、その手をつかみ立ち上がるジアン。
「あ、ごめんなさい。大丈夫ですよ」
「そうか。でもよ、一体何があった? ただコケただけとかマジで勘弁だぜ」
「いや、それが」
立ち上がったジアンがゆっくりと視線を自分の足元へ向けると全員がそれにつられて視線をジアンの足元に移す。
するとそこには取っ手のような長方形の輪っかが草原に合う様に明るめの緑色にペイントされ注意深く見て歩かなければ気付かないほどにカモフラージュされてあった。
さらによく見れば、その取っ手を中央にして、薄い線のようなものが地面に見えた。
「なぁ、これってよ」
カルデアがバレットと視線を合わせながら訊ねた。
「えぇ、コレは間違いなくです。旧文明の文献に見たアレですね」
「え? なんか解ったのか?」
「多分ですけど、この下で村が繁栄している可能性があります。旧文明の文献によればそれは確か“地下都市”です」
「ちか、としぃ?」
バレットの言葉を聞いてもいまだに理解ができていないガレットにバレットは地下都市について説明をする。
「えっと、ですね。地下都市とは、旧文明の文献の説明ですと何らかの理由で地上に住めなくなった人類が最後の逃げ場所として住み始めたのが始まりとされています。その後は科学で繁栄し、地上ともほぼ変わりはしない便利な生活が送れたそうです。しかしそれは飽く迄も空想上のみで、実現はしなかったそうです。ま、実現していたら私たちが繁栄していなかったことでしょうからね」
「はー」
「要するにだ。土掘って、そこで暮らしてるってことだ」
「なるほど!」
最終的にガレットはバレットの丁寧な説明よりもカルデアの大雑把で短い説明で理解した。他の三人はある程度知っていたので、バレットの説明で理解ができていた。
「僕にはその説明で理解できる方が凄いと思うのですが」
「まぁ、何あれだ。今、ジアンがこけた場所にある、この取っ手を持って開けばだ」
「あ、ちょっ、ガレットさん! 気が早すぎですよ」
かなり分厚い重厚な作りになっている鉄の蓋を開けば、奥底には明かりが点々とあった。
「お、マジか。明かりが見えんぞ」
「じゃ、降りて確かめてきてください」
「…は?」
しゃがみこみ地下をじっくりと見ていたガレットの背中をバレットが容赦なく蹴り落とす。
「あー。結構深そうですね」
「そうだな。アイツ、死ななきゃいいな」
「こんなことで死んでいたら、ガレットさんの命なんてかなり昔になくなっていますよ」
「それもそうだな。んじゃ、心配とかする方が損だな。こりゃ」
ガレットの心配などせずに、ガレットがどれぐらいで底に着くかで深さを調べるバレット。
「バレットさん」
そこへサズがバレットに尋ねてきた。
「どうかしましたか?」
「どれぐらいの深さがありそうですか?」
この三人の流れにもう慣れてしまったのか、若い三人は動揺などせずに淡々としていた。特にサズはバレットに深さを聞く余裕すら見受けられる。
「そうですね。音の反響や底へ着くまでの時間。まぁ、今はまだついてはいませんが。そしてこの風の流れる音ですね。それらから考えると一キロ程度は余裕でありますかね」
バレットがそう言い終わった直後に小さな音で、ドッ、と穴の底からしてきた。
「っー。アイツ。落下中に姿勢変えていなきゃ顔面崩壊すんぞ。コレ」
背中をさすりながら立ち上がるガレット。
通常の人間であるのならばここで死んでいる。どんなに鍛えていても死んでいる。
「さってと。上から見えていた明かりはこのランプか」
ランタンのようなランプが幾つもガレットの前に広がる道の天井にぶら下がっている。そのおかげで地下にいるにもかかわらず視界は確保できた。
「んじゃ。ここに突っ立てても仕方ねぇし。進むか」
そう言ってガレットは背中をさすりながら明かりがともされている道を進んでいく。
途中、分かれ道が等間隔で見つかるが、ガレットはとりあえず前進。
「お、なんじゃここ」
ずっと歩いていると、ガレットの目の前が急に開けた。
様々な人々が跋扈し賑わいを見せている。
天井には地下のはずなのに太陽が顔をのぞかせ、見たこともないような銀色の巨大な箱が所狭しとたてられていた。
「あれって確か、バレットが言ってた。……あ、なんだっけ」
思い出せそうでもいだせない。そんなガレットの前に一人の女性が現れる。
「…ガッレトさん。なんでここに」
「ふあ? …あ、お前!」
ガレットがそんな運命的な出会いを果たしていることなど知らずに地上で待っている五人は痺れを切らしていた。
「カルデアさん。もう魔導で移動しちゃいましょう」
「んだな。ゼッテー、戻ってこない自信があるわ」
「奇遇ですね、僕もです」
「んじゃま。俺はバレット連れてくから、ジアン、残りは頼んだ」
「は!? 何言ってるんですか? 頭、大丈夫ですか? なんで私よりも遥か高みにいるカルデアさんがバレットさん一人で、私がサズとリミカの二人を連れて行くんですか? そこはカルデアさんの魔導で私を含めた全員を移動させるのがセオリーでしょ」
そんなジアンの長々とした文句を耳の穴をほじりながら聞いていたカルデア。
「んじゃ、先に行ってるぞー」
いつの間にか、魔導陣も準備ができておりカルデアはバレットの身を連れてその場から魔導陣をくぐり消えた。
「…あー、マジでー」
「ジアンさん。ボク、魔導とか大丈夫ですよ。獣人ですから」
サズがすかさずジアンに様子を窺うように言う。
「そうしてほしいのは山々なんだけど、多分。あのカルデアが言ってる移動先はここから見えるすぐ下のことじゃないと思う。だから確実に私の力が必要になるの」
そのジアンの呆れた感情の入ったジアンの言葉にリミカが何かを察する。
「それって、まさか」
「えぇ、そのまさかよ。移動先はこの下にあるはずであろう地下都市よ」
ジアンはその呆れと今度は諦めが入った言葉を嘆くように、はいた。
「ほら、わかったなら私たちも移動しちゃうから」
そう言ってジアンは自身を中心に地面に魔導陣を描きだす。
余裕を持って大人五人が入れる程度の広さの魔導陣。
「ジアン。私達は本当に地下都市に」
「そうよ。疑っているならアンタだけここに残ればいいわ」
リミカの先行きに対する不安を真剣な目で答えるジアン。
「あ、ボクはもちろん行きますよ。だって、何が待ち受けているのか、わくわくですから」
サズのその裏表のない言葉がその場の緊張感を一気に和らげる。
「…はぁ。天然にはなかなかどうして勝てないわね」
「ふふ。お陰様で心置きなく行けそうです」
「は、はぁ? うん?」
サズは自分に対して向けられている感謝の心がなぜ、自分に向けられているのかが理解できずに首をかしげる。
「んじゃ、いっくわよー」
地面に描き出されていた魔導陣が三人を飲み込む様にして上がってくる。
そうして十秒も経たないうちにその場から三人はいなくなった。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおい、おいっ! なんでお前がここにいるんだよ」
「それはこっちのセリフだよ」
一方、ガレットは目の前に現れた女性と話していた。
身なりはカジュアルな、気軽な服装。何故か腰にピンクのパーカーを巻いており、そのパーカーには『死滅』とポップにキュートに書かれている。下はショートパンツに上は無地のシャツ。
髪型は黒色の髪を綺麗にまとめたポニーテール。
そして、両腰には刀と思しき物を一つずつ装備している。
「しかし、アレだ。どうしてこうしてここにいる」
「だーかーらー。それはこっちのセリフだって」
ガレットは確実に焦っていた。
そんな時、ガレットの背後にバレットとカルデアが現れる。
「……あっちゃー」
ガレットは二人が現れたことに気付けばすぐに手で顔を覆い首を横に振る。
「…あ、パパ―!」
「え? なんでここに」
「…ガレット、お前」
「いや、俺は知らんぞ。こればっかりはマジで知らん。俺だってビビってんだ」
カルデアは、ガレットが仕掛けたドッキリか何かだと思いガレットを疑ったが、ガレットの言葉の様子と表情を見ればガレットが仕掛けようとしたドッキリではないことがすぐに解った。
「パッパ! パッパ! パパー! えへへ」
「ちょっ、一回落ち着いてください」
バレットに抱き着き、すりすりと頬擦りをする女性。
バレットの言葉など耳には入っていなかった。
そこへタイミングよく遅れてきた三人が現れる。
「はー、私もう魔導使いたくな」
「ん? どうかし」
「遅れました。ごめ……んなさ、い!?」
三人はバレットとバレットに抱き着いている女性を見て硬直する。
そして三人は同時に思う、何だこの状況、と。
「見られちゃったな、バレット」
「お前の人生。短かったな」
悲しみを惜しむ様にバレットの肩に手を乗せるガレットとカルデア。
「確かにいろんな意味では終わりましたが。真の意味では終わっていませんから! とにかく剥がしてください! 彼女を」
バレットの必死の訴えに二人は無言で答える。
おっさんに抱き着いている女性をおっさん二人が引き離すという、なかなかどうしてシュールな光景だった。
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