「嫁さんとSF」
うちの嫁さんは、日曜日は猫になる妖怪だ。
「えーーっ!? だだだ、旦那さんっ、知ってましたかっ!?」
「なにが?」
「物体はですね、光の速度を超えると、なんと永遠に生きられるそーですよ!」
「相対性理論とかの話?」
「フィクションですよね?」
他から影響を受けやすく、割と世間を知らない。
「本当だよ。原子核を限りなく光の速度に近づけると、崩壊せずに長持ちしたって実験なんかもどっかであったはず。要するに周りと違って、一秒辺りの時間を長く感じるようになるんだってさ」
「ほわぁあぁ……〝えすえふ〟って、すごいお話なんですねぇ……」
土曜日の午後。今週の嫁さんは『SF』にハマっていた。やっぱり俺が表紙と挿絵を担当した、そこまで本格的でないSF小説を、赤ら顔で読んでいた。
「おもしろい?」
「おもしろーい! わたしの異能力は四次元を超えるっ!
来たれ招雷・
先週はミステリー、今週はSF、をテーマにしたバトル小説。
どうも。コレが俺の嫁さんです。普段から猫のように気まぐれで、「わたくしは知的な奥様ですので」とか言って、秋の夜長にころころ読む本を変えている。
そも仕事の報酬として、どれも出版社から献本された物だ。嫁さんからすれば金のかからない、コスパの良い趣味だった。
「時に旦那さん」
「なんじゃらほい」
「とゆーことは、私も光の速度を超えれば、不老不死になれるわけですよね。えすえふ的に考えて」
「科学的に考えればそうなんじゃないか。っていうか、嫁さん」
「なんですか?」
「嫁さんが光の速度を超えたら、毎週日曜日に猫にならなくて済むかもよ?」
「…………え?」
「日曜に黒猫の姿になるのは、自分の意志でどうこうできるもんじゃないって言ってたろ。だから相対的に日曜が来なくなったら、嫁さんは猫の姿にならないのかなと思ってさ」
「……そ、それは、考えたことがありませんでしたね……しかしさすがに光の速度を超えるのは、美人で知的で優雅な私でも無理ですん」
「べつに光の速度でなくてもさ」
「ふぇ?」
「ずっと飛行機に乗って、乗り換えて、地球一周ぐるぐる回ってたら、時差の影響とか出て変身頻度とか落ちるのか」
「わ、わたくし……まだ海外に行ったことがありませんので……」
「他にもさぁ」
「やめてー! 旦那さんもうやめてー! なんかすごく怖くなってきたーっ!! 自分に自信が持てなくなっちゃうぅーっ!!」」
嫁さんは泣いて抱き付いてきた。
いい歳して、妖怪を泣かせてしまった。反省。
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