※10話 日曜の朝は、ホットケーキを二切れ食べる。


「君も食べる? ホットケーキ」

 初めて、一人の男性に正体を明かした翌朝。

「俺、日曜の朝は、ホットケーキとコーヒーって決めてるんだ。あんまり腹に詰め込みたくないからさ」

 彼は淡々と言った。

「あ……そうか。今は猫だから言葉通じないのか」

 目前で起きた怪奇より、いつもの流れが崩れることを厭う。ちょっと面倒くさい男の人だった。

「っていうか、俺の言葉はわかるのかな。……まぁどっちでもいいけど。食うなら一回鳴いて」

 雨の空を思わせる灰色の眼差し。向かって、私はひとつ「にゃあ」と鳴いた。


 私の旦那さんは、絵を描くことを生業にしている。

 萌えも燃えもいける人だけど、自分の絵を宣伝する方向性が足りてない。旦那さんには、営業力が決定的に不足しているのだ。

 付き合い始めた頃のブログを覗けば、最終更新日が一年以上も前だった。内容も、仕事の報告とか古いイラストを並べてるだけ。ツイッターを始めとしたソーシャル関係も、最終発言日が半年も前。しかもその内容が、


 「今日は疲れたので寝ます。おやすみなさい」


 だった。いわゆる職人気質で、技術はあるのに営業方面は空っきし。顧客がなにを求めているか、さっぱり分かってない人だ。

 私が「もっとどうでもいいこと呟いて! そういうのが見てて面白かったりするから!」と主張したら、一応は「わかったよ」と言うのだけど、


 「今日は良い天気だ。良い絵が描けるよう頑張ろう」


 これである。というわけで、私は旦那さんから、ツイッターのアカウントを強奪し、彼に化けて今日もせっせと呟くのだ。


「嫁さん超愛してるわー。この人がいないと生きてけないYO!」

「トイレ掃除は面倒くさいけど、嫁さんにやれって言われたらやる系男子」

「玄関に飾った今週の生け花の写真。美しい。嫁さんのセンス、マジ大和撫子」


 私は、旦那さんに言われた通り宣伝している。

 お嫁さんを大事にする男の人は、人気がでるのだ。間違いない。

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