一話 王都事変 その二十九 そして旅は始まる
「いつまでそうしているんだ?」
「もう少し待って。もう少しだけ、この景色を眺めていたいの」
「未練がましいなぁ。それでも騎士か?」
「騎士かどうかは関係ないわ。もうしばらくは戻ってこないと思うと去り難くなるのは人間として当然じゃない?」
「でも、いずれ戻ってくるんだろう?」
「えぇ、力をつけたら、いずれヘレルボーを倒すためにね」
「それまで、この国ではあんたは罪人か」
「誇りある罪人よ」
「一味違うってわけか」
「ええ、正しき罪人よ」
「複雑だね」
「単純な話よ。正義は私にあって、ヘレルボーが悪」
「なるほど。分かりやすい。なぁ、そろそろ行かないか? あんたは一応罪人なんだから、ここらで敵に見つかると面倒だよ」
「でも、そうなったら、またあなたが助けてくれるんでしょう?」
「言っただろ? あの時は『たまたま』だって」
「そう、『たまたま』助けたのが私だったのよね。そういえば、まだ言ってなかったわね、助けてくれてありがとう」
「感謝も大事だけど、お金も大事なんだよ? ちゃんと報酬払ってくれよな」
「そのためにあなたに付いて行くんじゃない」
「なんだ、ちゃんと返す気があるのか」
「騎士たる者、借りばかり作ってばかりいられないわ」
「立派だな」
「それが騎士道よ。じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「やっとだな」
「そんなに長くなかったでしょう?」
「僕にとっては長かった」
「最初は何処を目指すの?」
「とりあえず、すぐ近くの町かな」
カランは歩き出した。その後ろをリィンが付いてゆく。リィンは遠のく故国を振り返らなかった。それはさっき十分胸に刻みつけた。
二人は新天地を目指して歩く。
そして旅は始まる。
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