mission13-5 サンド三号組の聞き込み



 何かあった時に連絡を取り合えるよう、サンドシリーズを持っている人物を中心にメンバーを分けることになった。


 サンド二号を持つアイラはルカ、ユナと共に。サンド三号を持つリュウはターニャ、ミハエルと共に。サンド五号を持つクレイジーはグレン、ドーハ、ウラノスと共に。そしてサンド一号を持つシアンはノワールと共に。


 シアンとノワールは集合場所である東の教会で待機することになり、その他のメンバーはルツの街の各地に散ることになった。


「それにしても、僕たちはここの担当でいいんでしょうか……」


 ミハエルが心配そうに呟く。


 リュウ、ターニャ、ミハエルの三人は街の東側で情報取集を行うことになっていた。他のメンバーに比べて集合場所の近くにあたり、少し申し訳ない気持ちになったのである。


「別に気にしなくていいんじゃない? シアンがリュウの方向感覚をあてにしてなかったみたいだし」


「……悪かったな」


「それにこの辺りはミハエル、君の知識が役立ちそうだしね」


 ターニャが周囲を見渡しながら言った。


 どうやらこの区域はミトス神教会の施設や遺跡が集まっている場所のようだ。集合場所の教会の隣には博物館があり、その向かいには巨大な石碑が立っていて、街の人々が集まって祈りを捧げているのが見える。他にも、創世神話を始めとしてミトス文教院が発行する書物を売っているワゴン、エリィの一族の瞳の色を模したパワーストーンを売る露天商など、巡礼地として賑わっている様子が窺える。


「おや、あなたがたは旅のお人ですかな?」


 教会の前に立っていた神官が声をかけてきた。ミトス神教会の正装を身につけた人の良さそうな男だ。


 ターニャはさっとリュウ、ミハエルと視線を交わすと、愛想よく神官に応対する。


「そうです。ある人を探して北の地から来たのですが、なかなか見つからなくて」


「人探しですか。私で良ければ協力しましょう。この街はスヴェルト大陸一栄えている街です。旅のお人には少し広く感じるかもしれないですから」


 神官の申し出にターニャはにっこりと微笑むと、声を潜めて耳打ちする。


「では直球に聞きますが……ソニア・グラシールをこの辺りで見かけませんでした?」


 その名を聞いて、神官ははっと息を飲んだ。


「探しびととは、かの国ヴァルトロの常闇とこやみの将軍様のことでしたか……!」


「知っているんですか?」


「ええ、もちろん。彼はこの街の救世主ですから」


 曰く、一ヶ月ほど前に彼が任務でこの地を訪れた時、ルツの街の人々を困らせていた民族解放軍の一団を一瞬のうちに壊滅させた。ゆえにこの街では救世主として慕われているようだ。


(ひょっとして、ここでも『屍者ししゃの王国』を?)


 ぞっと鳥肌が立つ。


 躊躇いなく人の命を奪い続けるあの男に、そしてその彼を褒め称える呑気な町人に。


「……それで、その彼のことを最近見かけたりしませんでした?」


 口を閉ざしたターニャの代わりにミハエルが尋ねた。神官はミハエルの外見に何か言いたげに口をぱくぱくさせるも、リュウの睨みが効いたのか先に問いに答えた。


「いえ、私は見ていません。が、つい先日この街にいらっしゃったという話は聞きました」


「今はどこに?」


 神官は「さぁ」と首を傾げる。どうやら詳しいことは知らなさそうだ。


「ただ、ヴァルトロの方ならおそらく中央市場には立ち寄られるかと思いますよ。あそこにはヴァルトロ軍御用達の砂上二輪の整備工場がありますから」


「砂上二輪? それってもしかして、砂の上を走れる乗り物なんですか」


「ええ、その通りです。従来はラクダに乗っての移動が基本でしたが、破壊の眷属が現れるようになってからは砂漠に出るのを嫌がるようになってしまいまして。代わりにということで、ヴァルトロ四神将のアラン=スペリウス様が開発してくださったのです」


 特殊な技術で作られているため台数は限られており、整備工場が全てを管理している。買い取りはできず基本的にはレンタルのみで、ヴァルトロ兵に優先的に貸し出される仕組みになっているのだという。


 ミハエルは神官に礼を言って、ターニャ・リュウとともに一旦その場から離れることにした。


「アランは本当なんでもありな奴なんだなぁ。性格は気難しいって聞いたことあるけど」


「まぁ分からんでもない。ルカたちに聞いた話だが、奴らは飛空二輪とかいう空飛ぶバイクも持っていたくらいだ。砂の上や雪の上を走るくらいは朝飯前なんだろう」


「そもそも飛空艇を作っちゃう時点でだいぶぶっ飛んでるもんね」


「どうします? その整備工場まで行ってみますか」


「いや、あっちはルカたちが向かってるからあたしらが行ってもね。それより」


 ターニャはにっと笑って博物館の方を指差した。


「さっきからずっと気になってるでしょ、ミハエル」


「っ……!」


 少年の顔は見透かされていた恥ずかしさで真っ赤に染まった。創世期の遺跡が数多く残ると言われるスヴェルト大陸の、貴重な資料が展示されているであろう博物館。確かに時間があれば見てみたいと思っていたのだ。


「む。俺はあまり難しいのは苦手だぞ」


「別に君には何も期待してないよー。ただまずは敵地の情報を探るのも大事だからね? そこから分かることもあるかもしれないし」


 ターニャはミハエルに向けてパチリとウインクすると、スタスタと博物館の中へと入っていく。それを追う形でリュウとミハエルも続くのであった。



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