153「The Day Mitterflation 4」
バイクから降りて少しのタイミングで、電話がかかってきた。リクからだ。
マナーは良くないけど、急ぎなので歩きながら応じる。
「もしもし」
『あっ、ユウさん。ニュース見ました? 大変なことになってるんですよ!』
「知ってるよ。ちょうど今対策に向かおうとしているところだ」
『マジですか! あんなの、何とかなるんですか?』
「何とかするしかない。してみせる」
決意を込めてそう言うと、少し間が開いて、思い詰めたような声が返ってきた。
『だったら、僕に何かできることはありませんか? 戦えなくても、何か調べたりとか……』
「いや。リク、君はいつも通り過ごしていてくれ」
『……そう、ですか』
リクは関わりたがりなところが強いので、言うとは思っていたけど。ここは宥めておく。
「相手は町を簡単に吹っ飛ばすような奴なんだ。下手に前線に関わる場所にいたら、危ないかもしれない。本当に死ぬかもしれないんだ。頼む」
『……わかりました。ちゃんと無事に帰ってきて下さいよ。また一緒に仕事やゲームしたいですから』
「ああ。またね」
『はい。また』
電話を切り、本部のエレベーターに乗って最上階へ急いだ。
***
ユウとの電話が切れた後、リクは何もできない自分にもどかしい思いを抱えながら、繰り返しテレビで流される惨劇の模様を、何となしに見つめていた。
ユウさんが来てから、一年半以上になる。これまで、結構な数の依頼を手伝ってきた。調べものであったり、夢想病の患者に会いに行ったりだ。
世界は思ったよりも、退屈なものではなかったらしい。夢想病の問題だけでなく、日々どこかで事件は起きていて。自分に直接関わりのないことだからと、自分の退屈の思うところばかりを見ていたら、変わり映えのしないことばかりをしていたら、それは退屈にもなるだろう。
すべては心の持ちようなんだと、ユウさんが言っていたこと。ずっと関わらせてもらって、少しはわかるような気がしていた。
「退屈な日常」というやつは、これまで自分の見えなかったところで、ユウさんのような色んな人が活躍して、辛うじて成り立っている。実はとても尊いものだったのではないかと。
そして、今日の世界同時多発テロを皮切りに、百年余り続いてきた平和の時代が、日常の日々が終わろうとしている。リクには、そんな予感がしてならなかった。
ユウさんのあんな切羽詰まった声は、初めて聞いた。
これからの世界は、どうなっちゃうんだろう。
気が滅入ってきたので、テレビを消して、窓から外を眺める。高い山々に囲まれた遠景と、変わり映えのしない空の色は、今後の行く末を何も教えてはくれそうになかった。
***
世界最悪のテロ事件の報を聞いたとき、シェリーは夢想病患者の支援活動でステイブルグラッドより北の地方都市にやって来ていた。
彼女は居ても立ってもいられなくなり、すぐに立ち上がった。
既に三都市が壊滅するほどの規模の爆発が起こっているが、地下にいたなどで運良く生き残った人間も少なからずいるようだ。
事件のことなら、ユウさんたちがきっと何とかしてくれるだろう。してくれると思う。
だったら。自分にできることは、被害者の助けになることだと。早速復興基金を立ち上げるため、ブログの文章を考え始めた。
以前夢想病の募金活動のためにあれこれと知恵を働かせたことが生きてくるかもしれない。夢想病と違って、被災者の助けはお金があれば確実にできるから。
一通りの準備が終わったら被災地に向かって、現地の様子を目に焼き付けておこう。そして何ができるのかまた考えよう。そんなことを思いながら。
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