132「破壊者、気付く」
惑星シャマーダ。
破壊者は、無人の荒野を歩く。
実に久しぶりの小休止を過ごしていた。
エルンティアを去って以来、破壊者は、ほぼ休むことなく活動を続けていた。
彼にとって存在を許しがたい星々。気に食わない星々。その手一つで、消し続けてきた。
彼の圧倒的な力をもってすれば、それは容易いことだった。
だが――一つ一つの星を消すのは容易でも、宇宙は一個人に比べれば、あまりにも広い。
世界の破壊者とは、果てしなく終わりの見えない道であり、あり方だ。
それでも彼は、破壊者だった。動き出してから、常に破壊者であり続けた。
運命に打ち勝つために。
嫌いなユウになど、ほとんどかまけている時間はなかった。
「そろそろ頃合いか」
しかしそうは言っても、たまには様子を見てやらねばならない。
放っておけば、自分にも他人にも甘いところばかりのあいつは、簡単に堕落してしまうからだ。ただでさえ、究極のポテンシャルを持ち腐れにして、あの女と仲良し自分ごっこをやっている。
「あいつ、少しは成長したんだろうな」
破壊者――ウィルは、嫌々ながらユウのいる世界を調べた。
想定よりも成長が遅れているならば、またきつく灸をかましてやる必要がある。
あいつに構うなど、本当にしたくもないことだ。無知と無力に苛ついて仕方がない。いっそ壊れるなら壊れてしまえばいい。心からそう思う。
そして。
「なんだ……これは……?」
二つに重なる世界を、見つけてしまったとき。
ウィルの表情から、余裕の仮面がみるみる剥がれ落ちていった。
「おいおい……。冗談じゃないぞ」
もはやユウのことなど、頭から吹き飛んだ。
既に意識は世界へ集中していた。つぶさに観察してとる。
「星脈に、穴が開いている……。許容性無限大、だと……!? 馬鹿な……」
彼は、頭を抱えた。元々血の気の少ない顔は、既に蒼白だった。
「こんな世界、野放しにしてみろよ……」
積み上げてきたあらゆる奇跡も。細く繋いだ糸も。
すべては、一巻の終わりだ。
ウィルは狼狽えた。あのウィルが、本気で狼狽えていた。
『事態』の大きさを、その正確な恐ろしさを、ほとんど唯一知っているからこそ、最強級の能力者をもってして、驚愕に身を揺るがし、戦慄せざるを得なかったのである。
「なぜだ。こんなことは"今まで"なかった。初めてだ」
トレヴァークは、いたって普通の――許容性もさほどない、害のない、取るに足らない世界だったはずだ。
なのに。あれは……なんだ?
何が起きた。"今回"に限って。イレギュラーが多過ぎる。
自らの能力【干渉】を総動員して、懸命に情報を探る。あらゆる世界の理に強引にアクセスして、情報を引き出そうと試みる。
世界は、ラナソールといった。
次々と情報が開示されていく。能力の行使に対しては、かつてなく強い抵抗を受けたが、たとえラナソールであっても、ウィルの【干渉】の前には後塵を拝したのだった。
結果として得られたものは、下らない世界の真実と、その現状だった。
それはそれとして結構な事実だが……今、求めているものはそれではない。
ただ事ではない。何かがいる。背後に絵を描いた奴がいる。そいつを。
【干渉】だけでは、もはや埒が明かなかった。
舌打ちして、記憶を辿る。
深く。深く。「あいつ」の記憶がヒントになりはしないかと。
そして、辿り着く。脳裏に浮上する。ある可能性。
気付いてみれば、もはやそうとしか考えられなかった。
「あいつ」が手を打っていたように、「奴」も。
証拠はないが、辻褄は合う。
「――そうか。そういうことか……」
次の瞬間、彼は沸き上がる怒り任せに、その場で大地を踏み抜いた。
一帯の地面が、跡形もなくめくれ上がり――そして砕け散った。
星が揺れる。震え慄く。
遥か遠くまで地鳴りは続き。遅れて津波が生じ、溶岩が各地で吹き出した。
八つ当たりで悲鳴を上げる世界など、無論彼は眼中になく。
「奴め。厄介な置き土産を。やってくれたな……!」
漆黒の瞳に、昏い憎悪の感情を燃やしていた。
【干渉】を駆使して、目的地までの適切なルートを計算する。エーナの【星占い】ほど、的確かつ最短ではないことがもどかしい。
彼は再び、舌打ちした。
遠い。絶望的な遠さだ。数カ月はかかる。
だが――間に合わせるしかない。
「すべてお前の思い通りになど、いくと思うなよ。この僕が――消し去ってくれる!」
ウィルは、いつになく激情を剥き出しにして――躊躇いもなく、自らの手で心臓を一突きした。
問題の地、ラナソールへ。
『事態』が生じるまで、いくらばかりの猶予が残されているか。彼にも――誰にも、わからなかった。
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