51「世界地図を描いてみよう」

「シル」の監視に多少辟易しつつも、俺は小走りしながらここ一カ月の足跡を振り返っていた。

 途中、コンビニみたいに24時間やってる店でノートと色鉛筆を購入し、ついでに昼ご飯用の食材も買って帰宅する。

 フライパンで炒め物をしながら、俺はこれまでに探索した場所と結果を頭の中で纏めつつあった。

 トレヴァークの世界地図は既に手に入れた。ラナソールの地図も出回っているものはとっくに入手している。

 さらに俺のゲーマー生活を総合すれば、ラナクリムの地図も出来上がるだろう。

 どんなことも完璧に記憶する『心の世界』の力は、こういうとき抜群のパフォーマンスを見せてくれる。

 そして今、俺の頭の中には三枚の世界地図がありありと浮かび上がっていた。

 なるほど。こんな感じの対応関係になっているわけか。

 あとはこれをどうするかだけど。

 俺とユイの間に情報伝達のロスはない。

 今浮かべているイメージをユイに送ってあげれば、彼女はそのままの形で受け取ることができる。

 しかし、レンクスに伝える際に同じ方法は使えない。

 ユイに全部説明させるのもちょっとかわいそうだしな。

 そこで、このノートと色鉛筆だ。

 俺が手書きで地図を仕上げてしまえば、レンクスでも猿でも一目でわかる。

 一応違う世界からでもちゃんとユイに物を送れるかどうか、ここで確かめておきたいしね。

 たぶん大丈夫だと思うけど、これがダメとなると非常にまずいんだよな。頼むぞ。

 よし。描こう。

 言っておくと、俺自身は特別絵心があるわけではない。

 だから芸術的な絵を描けと言われても困るけど、ただ写実的な絵ならば得意とするところだ。

 モチーフはいつでも心にあるからね。

 あの技を応用しよう。

 世界地図を完璧にイメージして、手順をプログラムして……。

 見えた。


《スティールウェイオーバー筆スラッシュ》


 自動化された鉛筆捌きで、シャシャシャーッと豪快かつ正確無比に色鉛筆を塗りたくっていく。

 はやいはやい。

 一枚当たり一分。計三分で、俺は完璧な地図を描き上げてしまった。


 対比しやすいように、主要な都市だけを抜き出して、極力対応する物は同じ位置に描き示している。

 うん。中々の出来だ。これを送ろう。


『ユイ。今大丈夫か』

『うん。大丈夫だよ』

『ちょっと送りたいものがあってさ。一カ月の成果だ』

『ゲーム漬けの成果、ね』

『あの……悪かった。そんな冷たい声で言わないでくれると嬉しいかな』

『はいはい。やっぱりあなたは私がいないとダメだね』

『そうだね……。よし。じゃあ送るよ』


 三枚の地図を描いたノートを『心の世界』にしまう。

 数秒後、ユイからオーケーの返事がきた。ほっとする。


『ちゃんと取り出せたよ。ありがとう』

『よかった。これで安心だね』

『じゃあ私はこいつを使ってレンクスと情報共有してくるね』

『ああ。任せた』


 心通信を切る。

 ふう。やっと一仕事終えたって感じだな。


「ふああ……」


 気が緩むと、あくびが出る。

 ずっと根詰めていたから、さすがに身体が限界を訴えているな。

 ちょっとだけ寝よう。おやすみ。

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